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■コラム「取材ノートから」

「上下水道情報」に好評連載中の常設コーナー「取材NOTEから」は、当社の編集部記者が交代で、日ごろの取材活動の中で見聞きし感じたことなどを、思いのままに書き綴る約500文字のコラムです。最近のバックナンバーをまとめてご紹介いたします。



上下水道行政一元化とウォーターPPP  上下水道情報 第2009号(令和6年4月9日発行)
◇今号は国の水道行政移管と本紙タイトルのリニューアルに合わせ、「上下水道行政一元化」と「ウォーターPPP」をテーマに水道事業体へのアンケートを企画、その結果を掲載した。国交省への移管で期待することとして、最も回答が多かったのが「予算」。補助制度の拡充や補助率のアップ、補助要件の緩和などを求める声が目立った。一方で、懸念事項として予算の確保を不安視する事業体も。事務手続きの増加や変更を心配する意見も寄せられた。予算に続く僅差の次点が「災害対応」で、地方整備局との連携による応急給水体制の充実・確保や、災害復旧にかかる手厚い補助などを期待する声が見られた。上下水道行政一元化とは離れるが、水利権などの関係で河川行政との連携に期待を寄せる事業体が一定数あったことも注目される。ウォーターPPPに関しては、「当面は検討しない」との回答が6割以上にのぼった。下水道と違い、交付金の要件化というトリガーがない分、この結果は想定内だろうか。むしろ「検討中」が6事業体、「今後検討する」が70事業体という数は意外に多い気もした。しばらくは関係者の耳目を集めそうな「上下水道行政一元化」と「ウォーターPPP」。本紙としても、この2つの動きは引き続き丹念に追っかけていければと考えている。(O)



震災対応と復旧事業に思うこと  下水道情報 第2008号(令和6年3月12日発行)
◇能登半島の被災地では今もなお、国や県内外の自治体の職員、関連団体・企業等の多くの関係者らとともに、終わりの見えない復旧活動が続けられている。ところで、災害対策基本法では、避難指示や被災後の応急措置、被災者支援といった災害対応の第一次的責任主体は被災市町村というのが大原則。しかし、今回のような大規模で激甚な災害では、より広域的で緻密な連携、つまり市町村境を越えた県のマネジメント、県境を越えた国のマネジメントは不可欠となる。東日本大震災の経験も踏まえ、災対法も一部改正はされたが、県や国も発災当初から当事者の一員として、より迅速かつ主体的に緊急事態に即応し、先導できる枠組みが必要だろう。また、自治体が目先の機能回復だけに執心しても、この先再び同規模の地震に見舞われれば、同規模の被害を受けるに過ぎない。どうせ人手とお金と時間を費やすなら、この災いを逆手に取って、大胆な改良復旧により50年後、100年後を見据えた、強靭で持続可能な先進的まちづくりに乗り出す好機にしてもらいたい。一刻も早くその再興プランを描いて実行に動くにも、国や県の積極的関与は欠かせない。災害は減らないし、必ず繰り返す。原形復旧を基本とする災害復旧事業のあり方も根幹から見直すべき時代を迎えている。(Y)



能登半島地震を受けて  下水道情報 第2007号(令和6年2月13日発行)
◇元日の夕方、石川県能登半島を中心とした最大震度7の地震が発生。石川県のほか隣県の新潟県や富山県なども被害を受けた。当日は地元の新潟県に帰省し、昼頃から上越地区にあるGALA湯沢スキー場で友人とスノーボードを楽しんでいた。新潟県内では震度5を観測し、スキー場でも大きな揺れを感じた。雪崩の危険があったのでただちにコースを降り、レストランや休憩スペースなどがある施設に避難。アナウンスで流れる地震速報から石川県能登半島で大きな地震が起きたことを知った。石川県には数回旅行しているので思い入れがある。初めては北陸新幹線が開通したころだが、中学生の時に金沢駅の鼓門や金沢21世紀美術館などを観光した。開発が進む都会的な建物と昔ながらの面影が残る建物が共存する景観に、感動した記憶がある。これまで金沢市内の観光が多かったので視野を広げたいと思い、昨年の11月には今回の地震でも被害が大きかった北部の七尾市に宿をとった。道中、「千里浜なぎさドライブウェイ」という約8km 続く砂浜を車で走った体験や、宿で食べたのどぐろなど、石川県の魅力を堪能できた。当面は復旧作業が続く被災地だが、いずれ復興にあたっては観光で応援することも必要になってくる。(K)



「ウォーターPPP」の動きが活発に  下水道情報 第2006号(令和6年1月9日発行)
◇下水道界で官民、業種を問わず、関係者から一様に強い関心が寄せられている「ウォーターPPP」。「従来の官民連携は、自治体によって取り組みに温度差があったが、ウォーターPPPは、汚水管の改築に対する国費支援の要件となったこともあり、一気に進むのではないか。特に人材や事業運営に関する経験・ノウハウが不足している中小都市に広がっていく」と予想するのはあるコンサルタント関係者。今後、急増する自治体の導入検討業務をサポートする関係団体やコンサルタント等の体制整備が必要と説く。別の関係者からは、「事業運営の民間頼みが進み、自治体の人材育成や技術継承がますます困難になるのも心配」との指摘も。また、下水道といっても、処理場と管きょでは状況がだいぶ異なる。包括委託の実施箇所数を見ると、処理場は約600ヵ所に対し、管路は約60ヵ所に過ぎない。処理場は性能発注が珍しくなくなったが、建設も維持管理もほとんど仕様発注で行われているのが現状。管きょの性能規定をどうするかは大きな課題だ。今後、こうした課題解決に向けた動きと、一方では目標値として掲げられた「令和13年度までに100件」に向けた事業計画の具体化も進むと見られる。今年は「ウォーターPPP」に関する動きから目が離せない一年になりそうだ。(M)



「民間事業者との共創プロジェクト」  下水道情報 第2005号(令和5年12月12日発行)
◇建設業では「働き方改革の推進」や「生産性向上の推進」、「担い手の育成・確保」が差し迫った課題になっている。日本下水道事業団(JS)は、こうした課題に対する取り組みと「JS工事の魅力向上」への施策をパッケージ化し、「民間事業者との共創プロジェクト」として公表した。重要なパートナーである民間事業者と課題や取り組みを共有し、見える化するツールとして位置付けている。同プロジェクトでは、今年度にすでに実施している「入札時における概略工程表の開示、工期の明確化」や「原則すべての工事への遠隔臨場および工事情報共有システムの適用」などのほか、今年度中に着手予定の新たな取り組みも掲げた。機械・電気設備工事では、対面実施だった工場検査・既済検査にWEB会議を活用する。現場代理人などは勤務先から参加でき、検査書類は電子データの活用が可能になる。また発注予定工事の公表を年4回から7回に増やし、例年4月末に公表していた分は前年度の3月に前倒しする。近年、不調・不落の多発が問題になっている土木・建築工事の発注予定では、全体工事費に応じてBランクを2つに、Cランクを3つに細分化。さらに施工難易度などを示した「発注区分表」を追加し、入札参加機会の拡大や受注意欲の促進をめざす。JSは民間事業者と連携して業界の課題に取り組むため、今後も意見交換を継続し、プロジェクトの内容を追加・更新していく考えだ。(T)



紙媒体の凋落に歯止め、「下水道情報plus」の役割  下水道情報 第2004号(令和5年11月14日発行)
◇創業のころ、ある政令市の担当者に名刺を差し出すと、「公共投資ジャーナル社、知らないな、朝日ジャーナルの間違いじゃないのか」と、ひどい嫌味を言われたことがあった。誰もが知る「朝日ジャーナル」は1992年6月、廃刊になる。それから30年の歳月を経て、2023年6月に「週刊朝日」の休刊が報じられる。朝日ジャーナルは34年と短命だったが、週刊朝日は100年以上発行し、一時期は週刊誌の代名詞にもなっていた。近年の傾向として、新聞や雑誌など紙媒体の凋落傾向に歯止めがかからない。新聞や雑誌を読む人の姿もあまり見かけなくなった。その原因はデジタル社会の到来にあると思われる。そうした事業環境の変化を踏まえて、何年も前からデジタル媒体の導入を検討してきた。紙媒体とデジタル媒体を併用し、双方の強みを活かしながら顧客満足度を高めるのが狙い。デジタル媒体「下水道情報plus」には、紙媒体「下水道情報」を側面から補完する機能を持たせている。ニュースを素早く配信するだけでなく、過去の注目記事や連載企画の再掲、企業の新技術動向など、情報量を大幅に増やした。紙媒体の良さを残しながら、急ぐニュースはタイムリーに届ける仕組みに変えた。官公庁は紙媒体に固執する傾向が窺えるが、民間企業はデジタル媒体を受け入れ、フル活用し始めている。(S)



今こそ、学との連携を  下水道情報 第2003号(令和5年10月10日発行)
◇下水道機構が今年度より開始した官学連携をテーマとした新たな取り組み、「地域の水環境 官学交流・共創会議〈アトリエMizukara〉」。初会合が9月上旬に山形県鶴岡市で開かれた。フランス語で作業場や仕事場の意味がある「アトリエ」、“水から”と“自ら”を引っ掛けた「Mizukara」といった名称がユニークだ。官学連携と言っても、共同研究などのマッチングを前提としたものではなく、あくまで自治体と研究者をつなぐ“橋渡し”が目的。官学ともに連携の必要性は認識しているものの、互いにアプローチのハードルが高く、なかなか思うように進まない現状があった。とりわけ双方が顔を合わせる機会や場が限られている地方でその傾向が顕著なようで、今回の取り組みはそうした地方ごとに官学交流の場を提供するねらいもある。ウォーターPPPをきっかけに官民連携の機運が高まっているが、事業スキームに対する客観的な評価や、事業者選定、モニタリングなど、さまざまな場面で学の力が不可欠になる。もちろんウォーターPPPに限らず、新たな施策や技術の導入を検討するうえで学に頼る場面も多いだろう。最近は官と民の連携ばかりクローズアップされているが、ウォーターPPPが求められる今だからこそ、官も民もあらためて学との連携に目を向けるべきではないだろうか。(O)



自治体とともに歩もう  下水道情報 第2002号(令和5年9月19日発行)
◇8月下旬に国交省が明らかにした来年度予算概算要求。来春からの水道行政の受入を控える同省は、下水道部と厚労省水道課との連名で、水道事業の予算資料も併せて公表するとともに、下水道予算(行政経費)の中で、上下一体の取り組みを支援する補助金制度や、上下水道科研費の創設を掲げるなど、水道移管1年目の具体的施策の大枠が見えてきた。水道整備・管理行政を一元的に担当し、既存の知見や組織力を活用することで、水道事業の経営基盤強化、老朽化・耐震化対応、災害時の早急な復旧支援といった課題克服のため、さらなるパフォーマンス向上を図る、というのが、政府が当初に挙げた国交省移管の狙い。その実現への第一歩を踏み出すにあたり、一通りの準備は整った。ただ、言うまでもなく、国レベルの機構改革や施策の充実が、事業を動かす地方自治体にただちに実質的なメリットをもたらすわけではない。自治体側も今回の行政移管の背景や意義を十分理解し、慣れ親しんだ縦割りの仕事に横串を通し、上下水を一体的に捉える意識や体制を整えることで、ようやく実効性のある事業が現場に生まれ始める。そんな自治体の意欲や行動を掻き立て、新しい道をともに歩んでいくには、ウォーターPPPと同様、アメもムチも程良く駆使した巧みな誘導策が必要かもしれない。(Y)



汚泥肥料の新規施策、来年度予算概算要求で  下水道情報 第2001号(令和5年9月5日発行)
◇農林水産省と国土交通省は8月8日、「下水汚泥資源の肥料利用シンポジウム」を開催した。同シンポジウムには多くの関係者が参加。農業と下水道が一体となって下水汚泥の肥料化を進める機運が高まっている。国交省では「大規模案件形成支援事業」も実施している。採択された自治体への取材を進めると、農政部局やJAなどの農業関係者との連携策について検討を進めるところが多い。今年度中に今後の方針を決定したいという自治体もある。一方で、共通した課題は事業の収支。費用対効果が見込まれるか懸念しているようだ。この課題への対応については、同省が8月24日に公表した令和6年度予算概算要求が追い風となりそうだ。汚泥の肥料利用にあたって必要な検討や調査、機器導入などの費用を定額で補助する「汚泥再生利用推進事業」、個別補助金として肥料化施設の整備を集中的に支援する「下水汚泥肥料化推進事業」の創設を要望。B-DASHプロジェクトではリン回収技術が実証テーマに設定された。農業関係者側のメリットを示し、販路の確保につなげることも重要だが、事業の収支をプラスにするには、まずは下水道管理者側のメリットにも目を向ける必要がある。来年度予算概算要求で要望したメニューはその側面からも注目したい。(K)



「下水道情報」2000号到達と新たな展開  下水道情報 第2000号(令和5年8月22日発行)
◇本紙「下水道情報」は、本号で節目となる2000号となりました。これもひとえに読者の皆さまのご愛読と温かいご支援のおかげであり、深く感謝の意を表します。昭和51年5月の創刊以来、独自取材・調査を重視し、下水道事業を中心とする自治体や業界の動向をお伝えしてまいりました。今後も読者の皆さまのお役に立てるよう全力を尽くしてまいります。そしてこの7月には新たな一歩を踏み出しました。読者へのさらなるサービス向上をめざし、Webメディア「下水道情報plus」を立ち上げました。「下水道情報plus」では、速報性の高いニュースを随時掲載するだけでなく、上下水道事業に関わる自治体や企業の最新の報道資料を集めたリンク集、団体・企業の動向を深掘りする特集記事、紙媒体の「下水道情報」のPDFや電子ブックなど、多岐にわたるコンテンツを提供いたします。今後は、紙媒体の「下水道情報」とWebメディアの「下水道情報plus」を両輪とし、紙媒体の一覧性、視認性、保管性、Webメディアの速報性、検索の容易さ、多様なデバイスでの閲覧など、それぞれの特徴を最大限に生かした展開をめざします。昨今の水行政・水ビジネスの潮流を捉え、多様化するビジネススタイルにも対応する、新たな「下水道情報」にご期待ください。(M)



課題解決のひとつとしての「ウォーターPPP」  下水道情報 第1998号(令和5年7月25日発行)
◇政府が「PPP/PFI推進アクションプラン」(6月決定)で打ち出した「ウォーターPPP」。プラン期間中の10年(R4~13)で、水道・下水道それぞれ100件、工業用水道25件の事業化という「ターゲット」を掲げた。ウォーターPPPとは、コンセッション事業と、同事業に段階的に移行するための「管理・更新一体マネジメント方式」と定める。原則10年の長期契約、性能発注、維持管理と更新の一体マネジメント、プロフィットシェアの4点が要件で、他事業とのバンドリングも可能。国はすでに案件候補のモデル都市支援に乗り出し、9月には「ウォーターPPP分科会」を設置して、自治体らと課題整理や意見交換を図る。PPP/PFIについて政府は、「新しい資本主義」の中核となる「新たな官民連携」の柱と位置付ける。「上下水道で200件」という意欲的な数値目標も、上下水道事業のあり方を大きく変革するためには必要であろう。だが、その実施においては、事業主体である自治体の課題や状況にしっかりと立脚したかたちを望みたい。方法論ありきではなく、事業の特性に応じた弾力的な運用、さらにはモニタリングや自治体の技術力の空洞化への配慮も求められる。今はウォーターPPPというコンセプトが出たばかりで、業界全体が手探りの状態。もちろん、議論や検討はこれからだが、ニーズから逆算した案件形成、課題解決の手法のひとつとしてウォーターPPPが選択されることを期待したい。(T)



人口減少と民間企業の水需要  下水道情報 第1997号(令和5年7月11日発行)
◇6月15日、持続可能な社会のための日本下水道産業連合会(FJISS)の定時社員総会が都内で開催され、水資源機構の熊谷和哉理事・経営企画本部長が、「日本の人口構造と上下水道事業」をテーマに講演を行った。講演では水道事業を中心に人口減少の影響や、広域化を含めた今後の見通しなどを説明していたが、多くの水道事業体の経営を圧迫している要因として、民間企業の水道需要の減少を挙げていたことが印象的だった。熊谷氏が示したデータによると、個人などの生活系の使用水量は1985年と現在(2020年)を比べるとほぼ横ばい。一方、民間企業など事業系の使用水量は55%程度に減少している。施設内の水循環や雨水利用が進んだことが要因ではないかという。「民間企業に供給する水量は非常に大きく、この水量が減ったことが、水道事業の根幹を揺るがしている」と強調していた。これまで多くの大都市では、事業系から安定した料金を徴収することで、生活系の料金上昇を押さえ込んで補填していたという。今後は人口減少の進行に伴い、事業系と生活系の双方でさらに需要が減少することも想定される。サービスのレベルを維持するため、広域化などの政策や、水道料金の適正化に向けた住民への丁寧な説明の必要性も説いていた。(N)



ウォーターPPP、下水道100件という目標を見て  下水道情報 第1996号(令和5年6月27日発行)
◇官民連携の新たな施策として打ち出された「ウォーターPPP」。従前のコンセッションと、管理と更新を一体的に行う新方式「管理・更新一体マネジメント方式」を総称したもので、令和13年度までの目標として下水道で100件の具体化が掲げられた。コンセッションに特化した従来の目標と比べると、文字どおり桁違いの件数増となり、面食らった関係者も少なくないだろう。ただ、同じく官民連携の一手法である包括委託が、処理場で約550ヵ所、管路で約50契約と一定数普及している実績を考えれば決して実現不可能な数字とも言えないし、これらをウォーターPPPの案件候補に数えることもできなくはない。確かにコンセッションに準ずる新方式は、事業期間10年や、縮減コストを官民が共有する仕組みの導入など、従来型の包括委託にはほとんど見られない要件も課された。一方、コンセッションに比べると、条例制定が不要など、事業化までの手続きが大きく簡素化され、導入のハードルは低くなりそうだ。そもそも今回、9年度以降の汚水管改築の国費支援に関して、ウォーターPPPの導入を決定済みであることを要件化する方針も示された。逆に言えば、導入を決めれば国費支援を継続して受けられるわけで、要件化を“好機”と捉え、早急に導入の準備を進めるべきだろう。これを考えると目標100件は少ないくらいかもしれない。(O)



環境再生のシンボル、紫川とその周辺  下水道情報 第1995号(令和5年6月13日発行)
◇北九州市を訪ねる機会があった。新型コロナが5月に「5類感染症」となったため、空港はどこも混雑し、コロナ前の状況に戻っている。九州地域は地理的条件からか、韓国人観光客が特に多い。宿泊した小倉駅近くのホテルも、日本人並みに韓国人の利用者が多かった。北九州市の観光スポットというと、小倉城や松本清張記念館、門司港のレトロな建築物などを思い浮かべる。意外だったのは、紫川に沿った遊歩道や橋梁が観光客の人気を集めていた。夕暮れ時は地元の人だけでなく、海外からの観光客も散歩やジョギングを楽しんでいた。周知のように、昔の紫川は「黒い川」「死の川」と呼ばれて、水質汚濁の代名詞になっていた。工場からの悪質廃水だけでなく、河川淵に違法居住者が住みついて、生活排水や糞尿を垂れ流していた。そうした酷い状況を変えるために、市と市民、地元企業などが力を合わせて環境の再生に取り組んだ。その結果、今の紫川は環境再生を果たした市のシンボルにもなっている。北九州市の下水道普及率は99.9%と、大阪市、横浜市に次いで大都市では全国第3位にランクされる。浸水被害に悩まされた紫川周辺は、100年に一度の豪雨にも対応できる河川区域に改修された。そこでの経験から蓄積されたノウハウや技術が、カンボジアなどの海外の水支援に活かされている。(S)



続・ほどほどの水処理  下水道情報 第1994号(令和5年5月30日発行)
◇8年以上も前だが、本欄で「ほどほどの水処理」と題し、瀬戸内海の貧栄養化による養殖ノリの色落ち対策のため、福山市が下水処理場の放流水質を意図的に引き下げる「脱力運転」を始めた事例を紹介したことがある。「脱力運転」とは筆者の適当な造語だが、今や「栄養塩類の能動的運転管理」という立派な名付けのもとで検討が進み、各地で「豊かな海」を取り戻すための実装に移されつつある。下水道は従来、公共用水域の水質環境基準の達成維持を大目標に、とにかく水をピカピカにして放流することに躍起になってきた感があるが、ここにきて、自然界が必要とする栄養分を還元・補給するという新たな役割も浮かび上がってきた。ところで、多くの処理場の運転実績データをみると、窒素・リンに限らず、BODやSSなど各水質項目の基準値をはるかに下回る処理水質が確保されていることに驚く。現場の頑張りは十分感じ取れる一方で、多大なエネルギーを消費してここまで徹底的に浄化する必要があるのかという疑問も湧く。基準値は常時厳守すべき上限値ではなく、あくまで目安値として、一時的な多少の上ブレも容認する緩やかで弾力的な法令の運用体系が用意されれば、コスト面に限らず省エネ化・脱炭素化という面でも、絶大なプラス効果が得られるのでは。(Y)



北海道ボールパークの今後に注目  下水道情報 第1993号(令和5年5月16日発行)
◇今春、プロ野球・北海道日本ハムファイターズの新球場を含む北海道ボールパークが北広島市に開業した。単なる球場ではなく「ボールパーク」という聞き慣れない言葉が気になり、調べてみると、野球観戦だけでなく買い物、食事、レジャーを楽しむことができ、人々の交流や健康増進につながる空間の創出をめざすという思いが込められているようだ。核となるのは球場だが、人口減少、少子高齢化、趣味の多様化などで野球人口が減少する中、たくさんの人に足を運んでもらうため、敢えて「野球を見なくても楽しめる空間をめざした」というのも興味深い。球場は小学生以下の子ども供は試合がある日でも入場無料とし、バリアフリー化のため、エレベータやエスカレータを多数設置した。話題のレストランや明るく清潔なトイレなども好評だ。子どもや高齢者、女性も来場しやすい設計、工夫が随所になされている。ボールパークには今後、商業施設、レジャー施設、宿泊施設などさまざまな施設が整備される。開発は数期に分けて行われるため、段階的に新たな要素が加わっていく。野球を核にし、ファンや地域住民などを巻き込んで、地域社会の活性化や社会貢献をめざす取り組み。官民連携の事例でもある。これからどう展開していくのか、注目したい。(M)



JSの“本気度”示した「DX推進基本計画」   下水道情報 第1992号(令和5年5月2日発行)
◇「更なるDX推進のため、阻害要因となっている古い企業文化(固定観念)の克服や、DXを他人事ではなく自分事としてとらえるなど職員の意識改革が必要」――。日本下水道事業団(JS)がこのほど策定・公表した「DX推進基本計画」の一文である。DX推進を加速させるため、5年間の具体的な施策を示したこの計画。冒頭、計画策定の背景や目的を述べる中では語気を強め、「デジタル変革は『待ったなし』」というJSの危機感と、DX推進への強い意志がうかがえる。計画では、DXを進めた10年後の構想を描いた上で、その実現のために5年間で実施する個別施策を列挙。「全建設プロセスにおける手続きの電子化・クラウド共有」「施設台帳システム(仮称:新AMDB)を活用した処理場・ポンプ場の施設データ管理」「360度カメラ画像・点群データの活用」といった現場サイドの施策に加え、「承認フローの電子化」「基幹システムのクラウド化や統合」など、バックオフィスの業務効率化にも力を入れる。DXインフラの再整備や調達ルールの策定、DX研修の実施など、人材育成・組織体制の強化策も打ち出したほか、システムの導入・更新といったDXに関する投資については、投資の特徴に応じた「評価」を行うことを明言。「デジタルを最大限に使いこなせる組織へ生まれ変わることが必要不可欠」と述べるなど、JSの“本気度”が見える。(T)



さらに広がるか、処理場での太陽光発電  下水道情報 第1991号(令和5年4月18日発行)
◇各自治体の令和5年度予算を確認すると、脱炭素化の一環で太陽光発電の導入を掲げる自治体が目立った。主な都市では横浜市、川崎市、香川県高松市、福岡市などが5年度以降の導入を予定する。さらに、神奈川県三浦市のコンセッション事業で運営権者が浄化センターの屋上へ導入を提案しているほか、宮崎市も再生可能エネルギーの活用に関するサウンディング調査を行うなど、今後も脱炭素や電気代高騰への対応のため導入拡大が予想される。事業の特徴として、処理場の上部あるいは未利用地を活用する点や、自治体側に初期投資が不要で、環境省の「地域脱炭素移行・再エネ推進交付金」も活用可能なPPA方式(Power Purchase Agreement〈電力販売契約〉)を利用する点などがある。今後の技術開発も期待される。例えば東京都では森ヶ崎水再生センターで、結晶構造を用いた次世代太陽電池「ペロブスカイト太陽電池」の共同研究を積水化学工業と行っている。同電池は、シリコン系太陽電池に比べ、薄くて軽く柔軟性を持つため設置可能な場所が増えるほか、主原料のヨウ素を日本で確保できる点が強みだという。「脱炭素に向けてできることはすべて行う」と考える自治体も少なくなく、太陽光発電の今後の広がりを注視したい。(N)



減量化より肥料化を優先へ  下水道情報 第1990号(令和5年4月4日発行)
◇大きな政策転換と言ってよいだろう。国土交通省が3月17日付に発出した通知で、今後の汚泥処理の基本的な考え方を示した。肥料利用を最優先とし、焼却や燃料化は肥料利用が難しい場合に限るとした内容だ。焼却や燃料化を安易に選択せず、まずは肥料化を検討すべし。こうした国からの強いメッセージがうかがえる。これまで特に人口の多い都市部の処理場では汚泥の減量化を目的に焼却処理を採用するケースが主流だった。近年は汚泥の有効利用や複数の汚泥処分先の確保といった観点から、焼却炉の更新に合わせて燃料化炉を導入するケースも出てきていた。一方、肥料価格の高騰を背景に、昨年の秋頃より急激に下水汚泥の肥料利用の機運が高まってきた。供給側の国交省と需要側の農水省が連携して推進策を検討し、政府が2030年までに下水汚泥資源の肥料利用量を倍増するなど意欲的な目標を掲げた。今回の通知はこうした背景を受けたもので、汚泥肥料利用の促進に対する国交省の本気度の高さが見て取れる。業界に与えるインパクトも甚大だろう。現状、焼却や燃料化に軸を置いているプラントメーカーは多い。需要面の問題など参入のハードルが高い肥料利用だが、今後も及び腰のままだと他社に後れを取るかもしれないことは肝に銘じたほうが良さそうだ。(O)



ITの発達が情報提供サービスの変革を促す  下水道情報 第1989号(令和5年3月21日発行)
◇ITの発達が、水マスコミの情報提供サービスのあり方に変革を促している。それは恩恵とも言えるもので、ひと昔前には考えられなかった情報サービスが、やり方次第で実現できるようになった。身近な例を挙げると、上下水道の事業主体(地方公共団体等)がリリースするニュースを、リアルタイムで入手できる。都道府県、市町村、各種団体、民間企業等の、全国津々浦々の配信ニュースを瞬時に集められるようになった。その数は膨大だが、上下水道関係者が興味を示すと思われる案件に絞ってみると意外に少なく、1日あたり数件から10数件になる。紙媒体より早く、毎日チェックできる便利なツールとして、それを本年4月下旬から下水道情報の読者サービス(無料)に加える計画だ。このほかにも、全国の上下水道の事業主体が公表する入札公告や入札結果の情報を、独自に開発した専用ソフトを使って収集できるようになり、「KTJ-NET入札情報サービス」として配信(有料)している。紙媒体では難しかった情報提供をデジタル媒体は可能にしてくれる。速報性だけでなく、分量の多い連載記事や動画の配信、必須データの随時刷新など、デジタル媒体のポテンシャルは極めて高い。紙媒体とデジタル媒体について、双方の特徴を生かした取扱いやすみ分けを真面目に検討してみる時期にきている。(S)



どんな計画が出揃うか  下水道情報 第1988号(令和5年3月7日発行)
◇平成30年1月に汚水整備関係4省が連名で全都道府県に策定を要請した「広域化・共同化計画」。一部はもう策定・公表まで終えているが、今年度末の期限を前に、多くの県では仕上げに追われる大詰めの段階だ。筆者は4年前に当欄を借りて、認識や立場が異なる市町村の仕切り役として県が力を発揮し、関係自治体が意欲的に取り組める現実的計画に仕上げてほしい、との希望を綴ったのだが、長い5年間、強い指導力と主体性をもって対応した県担当者には、市町村からのデータの収集整理がメインである「都道府県構想」策定とは段違いの大変さがあったかと察する。公表済みの計画をざっと眺めると、やはり内容の濃淡、温度差があるが、個々の統廃合事業をかなり具体的に掘り下げた計画も多いし、事業運営の広域補完組織の設立という独自策を打ち出した秋田県の例もあるなど、県ごとの発想力や取り組み意欲、市町村との関係性も覗き見えて興味深い。今回は「汚水処理の」という大前提があるので、いずれの計画もその枠内に収まっているのは仕方ないが、もっと自由に領域を拡げて、異事業(水道、廃棄物、再エネ、地域の農林漁業など)も絡めた共同処理や相互融通、統合的オペレーションなどを企図する計画があっても面白い。たぶんそこにこそ最適解が存在するからだ。(Y)



5類移行後の「新たな指標」となるか   下水道情報 第1987号(令和5年2月21日発行)
◇5月8日、新型コロナウイルスの感染法上の位置付けが季節性インフルエンザと同じ「5類」に移行し、これに伴い感染者数の「全数把握」は廃止される。その後は全国約5000ヵ所の医療機関からの報告にもとづく「定点把握」の結果が週に1回公表されるが、急速な感染拡大の兆候などをどこまでつかめるのか、懸念は残る。こうした状況の中、今月13日の衆議院予算委員会で山本有二議員が質問に立ち、5類移行後の感染状況を把握する新たな指標として「下水サーベイランス」の活用を要望した。自民党下水道・浄化槽特別対策委員会の委員長も務める山本氏は、下水サーベイランスの実証に取り組む自治体の事例やその有効性を紹介した上で、「たとえば札幌市は来年度予算で5600万円を計上している。単独事業ではなく、1/2というような補助事業をやってあげたらどうか」と質した。またEUでは「指令」として、2025年までにすべてのメンバー国に下水サーベイランスの導入を求めていることにも言及。「薬剤耐性菌、さらにはサリンや炭疽菌といった生物化学兵器の検出にも応用でき、欧米は『防衛』の感覚で実施している」と述べた。下水サーベイランスに関しては、内閣官房の実証事業の結果が今年度末にまとまる。実証データを関係者間で共有・分析し、社会実装に向けた本格的な検討が進められることを期待したい。(T)



再開発事業とそば屋の閉店  下水道情報 第1986号(令和5年2月7日発行)
◇会社が西新橋に移転して以来、約15年間通っていた立ち食いそば屋が、地域再開発事業のため、このほど閉店した。だし汁が好みで、昼食でよく利用していた。年季入りの店内の雰囲気や、会計を客任せにするような独特なオペレーションも個人経営店ならではという感じで、昼食時にはサラリーマンが列をなす人気の店だった。再開発事業が行われる虎ノ門駅隣接地には、昭和の雰囲気を残す飲食店がいくつかあったが、いずれも移転か店じまいになり、代わりに高さ約180m、延べ面積約12万㎡を誇るオフィスビルが新設される。これにより、地域の耐震性や防災性が向上し、細分化された土地の集約化によって土地の高度利用が実現するという。自分としては、気軽に利用できる、安くておいしいランチを提供してくれる店が多いほうがはるかにありがたかったのだが。さて、虎ノ門に限らず、都内各地で再開発事業が盛んに行われている。東京が世界の都市間競争に勝ち、世界中から人・モノ・金を引きつけるために必要とされる。その重要性は理解できるが、歴史や情緒のある街が消え、高層ビルに瀟洒なオフィスやホテル、有名店が並ぶような街ばかりになってしまっては、世界の大都市との差別化ができず、東京の魅力向上につながらないのではないかと感じる。(M)



合流改善と水環境  下水道情報 第1985号(令和5年1月24日発行)
◇令和5年度末に一旦の区切りを迎える合流改善対策。昨年末、国交省が立ち上げた検討委員会では、20年間におよぶ事業の成果や課題を評価するとともに、6年度以降の対策のあり方をどう考えていくかが焦点になる。5年度末までには合流式下水道を採用する全ての都市で対策の完了が見込まれている一方、東京、大阪、名古屋などの大都市を中心に、雨が降った後に臭気やスカムなどの苦情が寄せられる河川も依然としてあるという。20年が経ち、合流改善に求められるニーズも多様化している。例えば東京の日本橋川では首都高速の地下化に伴い河川沿いの大規模開発が計画されているが、こうした水辺空間では景観や賑わいの創出といった観点から、さらなる水質改善が必要になるケースもあるだろう。今後の合流改善は、これまでのように全国一律ではなく、地域や場所ごとに個別の目標を設定し、対策を継続・強化していく考え方が基本になりそうだ。国交省では今回の合流改善の節目を1つの契機に、水環境のあり方を大きく捉えた議論につなげるねらいもある。まちづくりの一環で水質の向上が必要な河川もあれば、ノリ養殖など栄養塩類の不足を背景にあえて水質を落とすことが求められる海域もある。ここでもやはり「地域性」や「多様性」がキーワードになると思われる。(O)



捨てずに利用することこそ真の価値  下水道情報 第1983号(令和4年12月13日発行)
◇下水汚泥の肥料利用促進の機運が高まっている。価格が高騰し肥料確保が困難となる背景があり、実際に肥料利用が話題に上ることも増えている。しかし、これまでの経験から、肥料価格が下がった後のトーンダウンを心配する声もある。先日あるセミナーで関係者が「汚泥の肥料利用はお金の価値だけの話ではない」と言っていたが、似た話は再生水の取材をした時にも聞いた。再生水利用を促進する目的は、水不足の解消やコスト削減だけでない。水を捨てず有効利用する観点も無視できないという。再生水利用が進む米国カリフォルニア州では、汚濁物質の削減や環境の向上などの側面がその目的や意義として認識されている。今後、肥料価格が下がっても汚泥の肥料利用を続けるには、資源を捨てずに再利用するという価値こそが最大の原動力となるのではないか。コストがかかるとの批判も多い太陽光発電が日本で続く理由の1つは、原発事故等により発電コストとは異なる価値を人々が太陽光発電に認めるからだと思う。汚泥肥料利用を単なる流行で終わらせないために、価格や量だけでなくこれらの価値こそ利用推進の動機として広め、社会の合意形成をはかるべきだ。江戸時代以前から、し尿の肥料利用を行ってきた日本でも受け入れる素地はあると考える。(N)



減らしにくい水利権も渇水の一因  下水道情報 第1982号(令和4年11月29日発行)
◇アメリカの巨大な人造湖として知られるミード湖の水量が減って、過去最低の水位になっている。ミード湖はフーバーダムの建設に合わせて後背地に造られた。カリフォルニア州、ネバダ州、アリゾナ州などの水道水、農業用水、水力発電に利用されている。米国の西部地域は、過去1200年の歴史を辿っても、今年が最も乾燥していると言われ、「メガ干ばつ」と呼ばれている。大干ばつの影響が人造湖の水位低下に表れているのは間違いない。また、温暖化によりコロラド川の水源となるロッキー山脈の積雪量が減少しているのも原因のようだ。これに加えて、水位の低下は温暖化とは関係のない人為的な要因もある。100年前に決められた水利権の配分が、水位低下に拍車をかけていると指摘されている。コロラド川の上流部と下流部に分けて水利権の配分が、1922年にコロラド協定として定められている。カリフォルニア州やアリゾナ州、ネバダ州、ユタ州はコロラド川の下流部に位置し、それぞれの州の年間配分水量が決められた。人造湖の水位の低下は15年前から顕著になり、水位が低下すれば許可水量を減らす取り決めも交わされた。しかし、水道水の確保や農業への影響、電力供給等を考慮すると、どこの州も水量を減らすのは難しく、難色を示す。水位低下に歯止めの掛からない状況が続く。(S)



MBECが担ういくつもの役割  下水道情報 第1981号(令和4年11月15日発行)
◇東京都町田市の真新しいごみ処理施設、町田市バイオエネルギーセンター(MBEC)を見学した。ここは普通の焼却施設とは一味違い、運ばれた可燃ごみから生ごみなどを機械選別してメタン発酵・ガス化発電も行う、全国でもまだ珍しい焼却+バイオガス化併設タイプで、都市ごみ向けでは国内最大規模。業界関係者は「町田の成否が今後の飛躍のカギを握る」と口を揃え、ハイブリッド型の「試金石」の稼動状況に強い関心を寄せている。ところで、町田市の日常のごみ出しは基本的に「燃やせるごみ」「燃やせないごみ」の2分別。指定収集袋は有料だが、市民の負担はかなり軽い。だがその手軽さは、最新鋭プラント内の一角で日々、不燃ごみの手選別に黙々と従事する、多くの作業員が支えていると知る市民は少ない。また、他所の焼却施設と同様、電池・ボンベ等が原因の火災も頻発し、対応に苦慮している。同市は近年、環境・脱炭素方面にとりわけ意欲的で、年初には「ゼロカーボンシティまちだ」を宣言し、その具体的施策を展開する上での中核拠点にMBECを位置付けている。崇高な理念・目標を掲げ、立派なハードも整えた。次はこれらを存分に活かし、実践者である市民の環境意識やマナー・モラルに磨きをかける段階へ。ここからが本番、行政力の真価が問われる。(Y)



発注者の要望に応える取り組みを  下水道情報 第1980号(令和4年11月1日発行)
◇本紙では例年、全国の地方公共団体に対し、管路更生工法の施工実績や今後の予定等とともに、課題や業界に対する期待、要望等を調査している。管路更生工法は下水道技術の中では比較的後発で、まだ成熟していないせいか、多くの発注者から改善に向けた要望が寄せられる。以前から多い要望の一つが「基準や規格等の統一化」だ。具体的には、中大口径管を対象とした製管工法の「構造計算手法、積算方法等の技術基準の統一および物価資料各誌における更生材料単価等の掲載を」という要望だ。また、工法数が多く、現場に最適な工法選定や経済比較が難しいため、「メーカーや工法間で規格の統一を」という要望もある。他方、人材に関しても、発注者側に管路更生に詳しい者がおらず、情報やノウハウが乏しいため、適切な設計・工事業務が難しいという声、あるいは地域によっては、管路更生を扱うことができる技術者や企業が少ないため、今後の事業量増加に向けて事業者を増やす取り組みを期待したい、という要望も。さらに近年、取付管更生に対する補助適用や、Zパイプの老朽化対策技術の開発といった本管以外の対策への支援要望も少しずつ増加している。今後もますます需要増が見込まれる管路更生工法。こうした発注者の要望に応える取り組みが期待される。(M)



「学」の“芽”を育てる機構の助成事業  下水道情報 第1979号(令和4年10月18日発行)
◇「産学官連携」という言葉がある。新技術の研究開発や新事業の創出を図るうえで、民間企業の「産」、大学や研究機関の「学」、国や地方公共団体の「官」の3者がタッグを組むことを指す言葉だが、今号で特集した下水道機構はこれを体現した組織と言える。職員は国と地方公共団体の「官」と民間企業の「産」の双方で構成。学識経験者を中心とした各種委員会により「学」からのアプローチも機能している。一方で、共同研究などを一緒に取り組む「産」や「官」に比べると、「学」との連携はまだ十分でないとの認識もあるようだ。そこで下水道機構では、大学などの先駆的な研究を対象に、1件あたり年間最大200万円を助成する「下水道新技術研究助成事業」を創設した。技術開発においては、目先の利益ではなく、長い目で可能性を秘めた“芽”を育てる視点も欠かせない。こうした研究を「基礎研究」と呼ぶが、近年はこの分野に公的な支援が行き届いていないとの声もある。研究者にとって渡りに舟の助成事業になるのではないか。学との連携は、下水道機構だけでなく、下水道界全体のテーマでもある。学のネットワーク構築や産官とのマッチング促進の必要性を指摘する関係者も少なくない。今回の助成事業が、これらの課題を解決する契機となるかも注目したい。(O)



AIとハサミは使いよう  下水道情報 第1978号(令和4年10月4日発行)
◇3連休を直撃した台風15号。ニュースでは、静岡県内の甚大な被害の模様が報道された。SNS上ではその状況を上空から撮影したと思しき写真が投稿され、拡散された。しかしこの写真、実はAIで自動生成されたフェイク画像だった。細部を拡大してよくよく確認すれば不自然さに気がつくが、パッと見ではまず真偽がわからない。この画像生成サービスは、適当なワードを並べるだけで条件にあった画像を生み出すその手軽さから、ネット上で話題を呼んでいる。その高い精度に驚く反面、AIによる弊害は無視できないレベルにまでなっている。SNSでの世論誘導が活発な昨今、ある国では、AIが生成した人の顔写真で架空の人物のアカウントを大量に作り、世論形成に利用した。ごく最近では、特定の絵柄を学習し、新たなイラストを生成できるサービスが日本で始まったが、イラストレーターたちの利益を損なうものとして批判を浴び、休止に追い込まれた。下水道界ではAIによる水処理の効率化がテーマに挙げられている。画像生成やディープフェイクとは異なるものだが、今後問題が生じないとは言い切れない。AIの規約整備がままならず技術だけが急速に進歩していく。何がフェイク画像か、何がAIか、見分けがつかなくなる日もそう遠くない。(R)



文化の違い  下水道情報 第1977号(令和4年9月20日発行)
◇水道行政の大部分の業務を国土交通省に、水質基準の策定などの一部の業務を環境省に移管する方針が固まった。来年の通常国会で各省の設置法改正などの関連法案を提出し、令和6年度の移管をめざすという。移管後の体制は今後の検討事項の1つだが、当然、国交省では上下水道行政を同一部署で見ることも視野に入っていると思われる。そんな中、下水道、水道の各関係者から耳にするのが両事業の「文化の違い」についてだ。下水道はその事業の性格から公費で負担する部分が大きく、従って事業主体である自治体に対し国のガバナンスがある程度行き届いている。一方、水道は公益事業であるがゆえ独立採算が原則で、公費に頼る部分が少ないため、自治体の自主性が強い。もちろん自治体ごとに色が異なるため一概に言えないが、両事業には概ねこんなイメージを抱く。どちらの文化にも良し悪しはあるだろうが、仮に国の上下水道行政が一元化された場合は、この文化の違いやギャップをどう捉えるべきか、あるいは、いかに埋めていくかが大きな課題になりそうだ。逆に言えば、この課題を乗り越えなければ、本当の意味での上下水道統合のシナジーは生まれないかもしれない。1年や2年ではなく、10年やそれ以上のスパンで考えるべき長期的なテーマにもなりうる。(O)



下水道を表す新しい言葉の必要性  下水道情報 第1976号(令和4年9月6日発行)
◇下水道展’22東京に合わせて国交省が開催した「市民科学発表会」を取材した。学生やNPOなども参加し、下水道という分野を社会に広げ、市民の力を下水道界に取り込むことをめざす発表会だった。市民が参画する例として、フィールドワークによるデータ収集や、マンホール維持管理に市民の力を借りる「シビックテック」まで、広報だけではない多くの例が出ていたが、この取材を通じて下水道を表す新たな言葉の必要性について考えた。近年の下水道は、公衆衛生のための汚水や雨水の排除だけではなく、資源・エネルギーの有効利用や下水サーベイランスなど多様な役割を担うようになっている。しかし、「下水道」という言葉だけではこれらの様々な役割を表現し切れていないとも思える。好事例として頭に浮かんだのが健康分野における「デトックス」という言葉だ。英語の「解毒(detoxification)」に由来するこの言葉の普及が、発汗などの行為に対し、毒素や老廃物などの要らないものを捨て去るのではなく、体全体をより良いものに変えていくといったイメージを浸透させた。言葉1つが変わるだけで人々への伝わり方は大きく変わる。「下水道」という言葉をなくすのではなく、「下水道」を表す別の言葉を生み出すことで、役割の多様化といった下水道の新たな広がりを一般社会に伝えていく必要があると考えた。(N)



怪しくも有意義な座談会を終えて  下水道情報 第1975号(令和4年8月23日発行)
◇小社刊行の専門誌『環境施設』向けに、大手ごみ焼却プラントメーカ6社のベテランエンジニアを招いて座談会を開いた。企業代表選手ではなく技術者個人としての本音を引き出す狙いから、誌上では出席各氏の名前も所属企業名も秘匿するという条件で実現した「覆面座談会」企画である。脱炭素、民営化、自動化、WtC、廃プラなどのホットなテーマを網羅的に提起し、率直な議論をお願いしたところ、刺激的な卓見が活発に飛び交い、期待以上に有意義で充実したものとなった。ごみ焼却施設の整備は、10社足らずの主力メーカが、大部分をDBないしDBOで請け負う、きわめて特異な事業形態。狭く閉じた業界だけに、逆にその内部は風通しが良く、座談会出席者も互いに顔見知りだ。他社の技術の長所短所や開発動向、普及状況を熟知し、自社の情報もコンプラ範囲内で提供を惜しまない。会社はライバル関係でも、個人レベルでは同志意識を持ち、和気藹々の中で歯に衣着せず物を言い、助言し合える良好な関係にある。下水道界とはかなり様相が異なるが、一定の節度を持った、各社キーマン同士の情報交流の垣根の低さは、馴れ合いではなく、企業間の切磋琢磨、業界全体の活性化を後押ししていると感じる。もちろん、座談会終了後は当然の如く、「続き」と称して全員で新橋駅前の居酒屋へ。(Y)



大手企業の主力は脱炭素対策へ向かう  下水道情報 第1973号(令和4年7月26日発行)
◇地球温暖化を防ぐために脱炭素対策が喫緊の課題になった。温暖化は雨の少ない地域の干ばつ、雨の多い地域では水蒸気量が増えて豪雨災害をもたらす。CO2やN2Oが原因として、先進国はこぞって脱炭素対策に取り組む。GX(グリーントランスフォーメーション)がキーワードになり、化石燃料に依存する社会・経済・産業構造をクリーンエネルギーへと変換することがグローバルなテーマになった。それを実現するため、政府は今後10年間に150兆円もの投資が必要と試算する。膨大な資金を集めるために、岸田首相はGX経済移行債(仮称)を20兆円発行し、民間投資を促す呼び水にする考え。具体例は「水素・アンモニア」「洋上風力発電」「CO2の回収、貯留」「カーボンリサイクル」「蓄電池」「電気自動車」等々。これらの技術や基準を真っ先につくったところが勝ち組になるため、すでに国際的な先陣争いが始まっている。そうした事態は上下水道業界へも影響を与え始めている。脱炭素市場の急拡大を見越して、成長戦略の柱をそちらに振り向け、上下水道のような一定の仕事量は見込めても市場拡大の期待できない分野から一歩退く動きが顕在化してきた。日本を代表する大手企業の活躍できる場は、普及が進み成熟期を迎えた上下水道事業にはなくなってきていることも一因になっている。(O)



どうなる水道行政の移管  下水道情報 第1972号(令和4年7月12日発行)
◇厚生労働省が所管する水道行政を他省庁へ移管する案が持ち上がっている。すでに関係する府省庁による検討が始まっているようだ。感染症対策の強化を目的に内閣官房に新たに設置する「内閣感染症危機管理庁(仮称)」や、感染症対応や危機管理に関係する課室を統合するなどの厚労省の組織再編に引っ付いた話で、これらが現政権の主要な政策の1つであることを考えると、早ければ参議院選挙後にも何らかの結論が出てくる可能性もある。移管先の候補としては国土交通省と環境省が想定される。気が早いが、仮に国交省に移管されるとなると、上下水道行政の一元化という動きもにわかに現実味を帯びてくる。サービスに重きを置いた公益事業である水道と、公共事業の側面も強い下水道という根本的な性格の違いはあるものの、行政の効率化という視点から、事業主体である自治体では上下水道事業を同じ部局で一体的に運営しているところも多い。政令市でも川崎、静岡、浜松、名古屋、京都、堺、北九州、熊本の各市が上下水道局(部)を採用している。案件ベースでも上下水道を一括した包括委託などが徐々に出ており、その最たる例が宮城県の上工下水一体型のコンセッションだろう。業界や技術もほぼ重複しており、一緒になる違和感はあまりない。(O)



技術者育成は自治体の共通課題  下水道情報 第1971号(令和4年6月28日発行)
◇都内市町村の下水道担当課長を複数取材する機会があった。各氏が異口同音に、課題として挙げていたのが人材、特に技術者の育成であった。これらの市は大都市と比べると技術者が少なく、職員は3~4年で他事業の部署に異動する。総じて下水道の経験年数が浅い担当者が、ストックマネジメント、地震対策、浸水対策など様々な事業について、短期間で理解するよう求められ、どうしても負担が重くなる。「下水道の新設がほぼ終わり、維持管理がメインになってからは特に、現場を経験できる職員が少なくなっている。こうした中、管路更生工法など新技術を採用しているが、現場条件に最適な工法の選定などに苦慮する場面もある」。「技術者が技術に対する理解を深める機会を設けたいが、日々の業務に追われ、コロナの影響もあってできないでいる」と嘆いていた。対策として、内部研修や日本下水道協会、日本下水道事業団等外部機関の研修への参加を行っているが、それらに加え、他都市と情報交換ができる場の設置、新技術や新工法等の現場見学会の開催(業界団体による施工展や実際の工事現場の見学など)、現場見学とオンライン見学の併用、などへの期待が高いことがわかった。下水道関係者が連携して、支援する仕組みが必要だと感じた。(M)



電動キックボードの規制緩和  下水道情報 第1970号(令和4年6月14日発行)
◇4月19日の衆議院本会議で改正道路交通法が可決し、2024年5月までに電動キックボードの規制が緩和されることになった。新たに「特定小型原動機付き自転車」に分類されることとなり、免許不要、最高速度が20km/h以下、ヘルメット着用は「推奨」にとどまるなど一定の基準が設けられた。「環境負荷が低く、ちょっとした移動手段に最適」と注目を集める電動キックボード。東京都内では、かなりの頻度で利用者を見かけるようになった。しかしこの規制緩和には懸念を示す声も多い。制動性能や旋回性能は自転車以上バイク未満だ。そして自転車やバイクと違って立ち乗りのため、重心が高く、制動時や旋回時にはどうしても安定しない。急ブレーキをかければ、前に身体が投げ出される可能性もあるだろう。タイヤも小口径のため段差に弱く路面状況に左右されやすい。安全講習などを事前に受けるなどの対策を行えば、防げる事故は増えるだろうが、この規制緩和が上手くいくだろうかと疑念を抱かざるを得ない。同じく免許が不要な自転車でさえ、ながらスマホやイヤホン走行による死亡事故が社会問題となり、規制強化の道をたどってきたのだから、電動キックボードも結局は同じ轍を踏むことになるのではないだろうか。(R)



JS設備ランキングのあり方  下水道情報 第1969号(令和4年5月31日発行)
◇本号では、JSの令和3年度機械・電気設備ランキングを掲載した。詳細は巻頭記事を参照されたいが、留意事項を伴う内容になったことを記しておきたい。まず、対象工事に複数の工種(土木、建築、機械、電気など)が含まれる案件がいくつかあった。DBまたはDB+(O)方式が採用されたこれらの案件は、入札公告に示された「工事内容」の区分に基づき、機械設備工事とみなしたが、本来であれば工種別に集計したいところだ。次に、JVによる受注が7件と例年に比べ多かった。JV案件に関しては、構成企業別の受注額を調査したものの、2件は判明しなかった。このためランキングの集計対象からは除外しており、今回の順位は一部暫定的であると言わざるを得ない。JSは近年、DB+(O)やPPP/PFI事業の案件形成に力を入れている。こうした事業は複数工種が含まれ、共同企業体が受注するケースも多い。一方、JV比率の開示にあたっては、守秘義務等に基づく各企業の方針があり、調査をした場合に必ずしも回答を得られるとは限らない。今後、PPP/PFI事業等の案件が増え、さらに今回のようにJV比率の不明箇所が出てくるとなると、従来のかたちでのランキングが難しくなる可能性がある。事業形態が多様化する中、ランキングのあり方を見直す時期に来ているのかもしれない。(T)



ドカンのありし風景  下水道情報 第1968号(令和4年5月17日発行)
◇京都の小金井公園の敷地内に「江戸東京たてもの園」という野外博物館がある。昭和を感じさせるレトロな建造物が並ぶ一画に、ドカンが置かれた空き地がふいに現れる。ドカンと言えば「ドラえもん」などの漫画で空き地や公園に置いてあるイメージだが、今では実際にその光景を目にすることは滅多にない。栗原秀人氏による随筆集『くりさんぽ ~水をめぐる~』によると、こうしたドカンはいずれ埋設される鉄筋コンクリート管が仮置きされていたものらしい。つまり空き地のドカンは下水道の整備の時代を象徴するような光景であり、これが下水道の普及が進むにつれ次第に消えていったわけだ。ドカンの消失は下水道関係者や住民にとっては喜ばしいことだが、ドカンを遊具として見ていた子どもたちは一抹の寂しさを感じたかどうか。最近しばしば住民への理解促進のために下水道の「見える化」が言われ、様々な広報活動が進められている。じかに住民と接する下水道施設としてマンホールふたに注目が集まることが多いが、実はかつてはドカンも貴重な下水道と住民の接点の1つだったと言えないか。前述の『くりさんぽ』によると、埼玉県日高市の「どかん公園」をはじめ、今もドカンが遊具として置かれている公園が各地にあるそうで、ドカンのありし風景を今にとどめている。(O)



下水道DX、先行する水道DX以外へも急拡大  下水道情報 第1967号(令和4年5月3日発行)
◇下水道DXの推進がテーマになっている。広域化・共同化や官民連携を進める上で情報のデジタル化や共有できる仕組みづくりは欠かせない。下水道DXは下水管路を中心に、施設台帳の電子化や共通PFの構築から始めている。先行する水道DXは2016年から3ヵ年で厚労省、経産省、NEDOが、水道事業体やベンダー(メーカー)に声をかけて実証実験を続けた。その成果をもとに共通仕様をつくり、一方でシステムの推進母体(水道事業活用システム標準仕様研究会)と審査委員会(水道技術センター)を決め、本格普及へ乗り出している。水道DXの目的はいくつかあるが、浄水場等の集中監視システムの広域連携もその一つ。中央監視システムの更新時に、ベンダーロックを解除してシステム間のデータ連携を可能にする。共通仕様への切替えは研究会がサポートし、標準仕様を変更するには審査会の了承を得る。具体例を挙げると、広島県企業局は9つの浄水場等の中央監視システムを連携させて広範囲に監視できる仕組みを目指している。いずれは下水処理場にも広げ、共通ルールの策定(令5年度予定)に合わせて相互連携を検討する。下水道DXは管路から始まったが、次の段階では先行する水道DXが参考になる。DXの推進は上下水道以外でも、電気、ガス、医療など他分野へも急拡大している。(S)



ごみからつくるエタノール  下水道情報 第1966号(令和4年4月19日発行)
◇生ごみや紙ごみ、廃プラ、草木などのいわゆる「可燃ごみ」は焼却施設で燃やして処理することが現代の定石。この焼却余熱で発電を行う施設も多いが、電気への変換効率はせいぜい2割ほどで、残りの8割のエネルギーは大量のCO2とともに大気中に放散される。そこで、近年の省エネ・創エネ、GHG抑制という時流の中で注目されているのが、廃棄物からダイレクトに化学原料物質(水素、アンモニア、メタノール、エタノール等)を生成するWtC(Waste to Chemical)プロセス。その急先鋒と言えるプロジェクトが、積水化学などの主導で着々と進展している。可燃ごみを無分別でガス化炉に投入し、ガスを精製後、特殊な微生物の反応でエタノールを生産するもので、積水が米国ベンチャーと共同で2017年に技術を確立。早くも先日、岩手に実証プラント(20t/d)が完成し、3年後の2025年の実用化を目標に今後検証を重ねていくという。こうした実に迅速な手際に、企業側の強い自信と意気込みが窺える。エタノールはプラスチックをはじめとする石油化学製品の出発物質であり、次世代航空燃料(SAF)への変換も容易だ。理想的な資源ループを構築できる「燃やさないごみ処理」。この革新技術が近い将来、目算どおり世に浸透すれば、下水汚泥処理の有用な選択肢の1つにも加わるかもしれない。(Y)



「需給ひっ迫警報」で感じたこと  下水道情報 第1965号(令和4年4月5日発行)
◇3月21日に「需給ひっ迫警報」が発令された。需給ひっ迫警報とは、東京電力および東北電力管内で電力供給予備率が3%未満になると予測される場合に経済産業省が発する緊急の節電要請。東日本大震災後の2011年7月から運用されていたが、実際に発令されたのは初めてという。直接の原因は3月16日の福島県沖の地震の影響で、東北、東京エリアで複数の火力発電所が停止し、22日には気温低下と悪天候が重なって電力需給が極めて厳しい状況になった。背景には、電力自由化に伴い、コスト削減の観点から古い火力を閉鎖する動きが相次いでいることや、管轄エリアを跨いで電気を送る送電線網の整備が遅れていること、原発再稼働の判断先送りの影響を指摘する声もあった。ただ、いくつかの要因が重なったとはいえ、案外簡単に東京エリアで大規模停電が起こりうることを知り、愕然とした。「脱炭素」「カーボンニュートラル」の流れが加速しているが、太陽光、風力などの発電量は天候次第であり、電気の安定供給の面で不安は拭えない。今回の事態を受けて、経団連の会長から「安全性が担保され、地元住民の理解が得られた原子力発電所については、速やかに再稼働させる必要がある」との発言があったが、これも至極当然のことだと感じた。(M)



連日の報道 気が滅入る中で  下水道情報 第1964号(令和4年3月22日発行)
◇ロシアによる侵攻が続いているウクライナ。ゼレンスキー大統領は3月8日、マリウポリで1人の子供が脱水症状で亡くなったことを明らかにした。これは過去数十年間では初めてで、おそらくナチスの侵攻以来ではないかとのことだ。当局によれば、このマリウポリにはいまだ約35万人の市民が取り残され、水道の他、電気やガスが寸断されているという。人間の体の大半は水で出来ている。水さえあれば数週間~1ヵ月程度生きられるものが、水なしでは、4~5日程度で死に至るといわれている。水道の寸断という点では、地震の多い日本でも起こりうる事象だ。同16日の夜中、福島県沖を震源とするM7.3の地震があった。東日本大震災を経験したものならば、気味の悪い縦揺れから始まるあの感覚に思い当たる節があっただろう。厚労省の調査によると、あの東日本大震災による影響で断水した水道は257万戸にも及んだとのデータがある。各マスコミが連日、戦争などの暗いニュースを報道し続ける中、それに影響され心を痛め、気を病む人々も多い。こうした点もあの震災の時と重なるものがあると感じる。そうした時は、一旦距離を置いて冷静になることも必要だ。気休めといってはなんだが、私は備蓄用飲料水など、災害への備えは万全か、今一度確認してみたいと思う。(R)



下水サーベイランスの活用  下水道情報 第1963号(令和4年3月8日発行)
◇東北大学らの研究グループは、仙台市内での下水調査結果をもとに向こう1週間の新型コロナウイルスの新規感染陽性者数を予測し、「下水ウイルス情報発信サイト」で公開する検証実験を行っている。2月21~27日の1週間は3079人と予測し、実際の値は2639人。その前週の予測値と実際の値は3030人・3170人、前々週は2891人・2997人であり、予測モデルの精度が一定の水準にあることが数字にあらわれている。国内では下水中のポリオウイルスの検出・監視を2013年度から実施しているが、オミクロン株が猖獗を極め、PCR検査試薬の不足といった問題も顕在化するなかでは、新型コロナを対象とした「下水サーベイランス」の実用化も求められるだろう。下水サーベイランスをめぐっては、国が「推進計画」を打ち立てているほか、民間企業での事業化の動きも見られ、1月には塩野義製薬と島津製作所が早期の社会実装を目的とした合弁会社を設立した。新型コロナはいまだ第6波の只中にあるが、これを凌いでもまた次の波が来ることは想像に難くない。さらに今後、新たな感染症のパンデミックが起きる可能性も十分にある。その時に備えるためにも、下水を用いたウイルスの調査・検出方法や技術基準などを確立し、調査結果を効果的に活用する仕組みを整備していく必要があるのではないだろうか。(T)



大阪市が水道コンセッションを断念  下水道情報 第1962号(令和4年2月22日発行)
◇大規模なコンセッション案件として注目されていた大阪市の水道管更新事業だが、応募者からの辞退を受け、事業内容を大幅に縮小する形で方向転換する。事業方式も、従来型PFI手法の活用を基本に検討する方針とし、事実上コンセッションは断念した格好だ。この事業は早期の配水管の耐震化を目的に、延長1800km以上、事業費最大3750億円の更新事業を16年間かけて行う計画だった。2つのグループが資格審査に応募・合格したものの、競争的対話の実施後にいずれのグループからも辞退届が提出される事態となった。応募者のヒアリングなどを踏まえた市の分析結果によると、事業量と事業期間については一定の理解が得られたものの、事業費が3750億円以下という点で折り合いがつかなかったという。施工条件に不確実性がある中で、コスト増のリスクがあり、その増加分を民間が負担しなければならないなどがその理由。そのため市は、事業期間を8年程度に短縮、事業対象も絞り込み、事業量を延長約40km、事業費250~300億円程度に縮小することで、民間が懸念するコスト増のリスクを可能な限り低減したいという。官民連携事業につきまとう官と民のリスク分担という課題が、応募者の辞退による事業方針の転換という分かりやすい形で表面化した事案と言えるのではないか。(O)



5Gの拡大へ、下水道光ファイバーの課題を調査研究  下水道情報 第1961号(令和4年2月8日発行)
◇総務省は5G(第5世代移動通信システム)の拡大をめざして、民間からの提案を集め具体化できそうな案について、5G活用モデルの実証事業を進めている。現在進行形だが、すでに全国各地で多様な実証結果が報告されている。5Gはこれまでの4Gに比べて通信速度が20倍、遅延速度は10分の1になる。このため高速・大容量の通信が可能になり、自動車の無人走行や遠隔医療をはじめ、IoTの本格活用を加速させると言われる。しかし、通信速度を速くすればするほど、障害物の影響を受けやすく、迂回が困難になる。5Gを拡大するには10km圏内に親局を設け、可能なら1km圏内に子局を設置して、局間を光ファイバーでつなぐことによって完璧な仕組みになる。いずれにしても5Gを拡大するには、膨大な数の基地局と大量の光ファイバー網の構築など、インフラ整備が必須になる。大きな問題は、5G用の光ファイバーの整備について、架空(電柱)の使用を道路管理者が認めないというのだ。都市の景観や防災・安全面からCCボックス等による地下埋設を求めている。光ファイバーを新たに地下へ埋設するには膨大な費用が掛かる。そこで総務省は、既設の下水道管を活用できないか、「下水道を利用した光ファイバー敷設の課題等に関する調査研究」を公募し、日本総合研究所が1月21日に請け負った。(S)



脱炭素化は足元から  下水道情報 第1960号(令和4年1月25日発行)
◇国の掲げた旗印「2050年カーボンニュートラル」に向け、下水道に限らず各省の施策にも、脱炭素化、省エネ・創エネ化を謳った開発実証や社会実装事業が目立つようになり、財政当局の対応も非常に寛容だ。外交上の約束事項でもあり、政府挙げて意気込む姿勢はもちろん大切。ただ個人的には、自治体や国民の共通認識を十分醸成しないまま走り出している感もあって、やや物足りなく思う。下水道に関しては、水処理・汚泥処理過程での革新的なGHG削減策に目が行きがちだが、それらとは別に、利用者(国民)が脱炭素化への明確な参画意識のもとで節水に励み、ごみや油など余計なものも流さないよう心掛ければ、そのぶん流送や処理に要するエネルギー消費は確実かつ容易に削減できる。自治体にとっては有収水量が減るのは辛いところだが、住民への周知・啓発というソフト施策こそ、自治体主導で活躍してもらいたい。ハード整備の面では、従来の不明水対策や合流改善を促進・強化することでも、同様の効果が間接的に得られるだろう。水道や電気、ごみ処理なども理屈は同じで、供給量・排出量の積極的リデュースが事業全体のGHG削減に与える好影響は意外に大きいはず。国は目新しさだけに偏らず、地域社会が担う地道な取り組みを奮い立たせる市民科学的アプローチにも今後期待したい。(Y)



取付管の対策、基準づくりや技術開発の活発化を  下水道情報 第1958号(令和3年12月14日発行)
◇「膨大な取付管の改築をいかに進めるか」。最近取材したいくつかの大都市は、老朽化対策の課題として真っ先に取付管を挙げており、この問題がどんどん大きくなっている状況が伺える。下水道管に起因する道路陥没の主な原因は、取付管または取付管と本管等との接続部の破損や不具合とされる。道路陥没件数を減らそうとするなら、取付管の対策が有効だ。しかし、取付管が原因の道路陥没は、自動車が穴に落ちるような大きな陥没は少なく、道路にくぼみができたり、小さな穴が空いたりという小規模のものがほとんど。従って、予算の制約がある中、整備効果の高い本管が優先されやすい。また、取付管は、現場の状況から開削での施工が困難な箇所も多い。管路更生工法への期待も大きいが、施工品質やスピードなどの技術的な課題もあり、まだ実績は少ない。2017年版のガイドラインでも、「取付管は、曲線部が多く、更生工法を適用する場合はしわが発生しやすく、耐荷性能、耐久性能、水理性能の低下が懸念される」として適用対象外となっている。今後、確実に全国規模でニーズが高まる取付管の老朽化対策をいかに効率的に進めるか。官民連携による基準づくりや技術開発の活発化が期待される。(M)



何をどこまで任せるべきか  下水道情報 第1957号(令和3年11月30日発行)
◇AIはくらしの中でかなり身近なものとなってきた。下水道管路が今後次々に耐用年数を超過することが予想され、持続的なサービスを維持する上で問題となっている。従来の調査・点検では、その劣化スピードに追い付かないのではとの懸念があるのは周知の事実だろう。これらインフラの老朽化問題に、様々なスタートアップ企業が有効な方策を打ち出している。衛星やドローンなど、データを取得するハードウェアに違いはあれど、そのデータをAI解析し、業務の高速化を図る点ではほとんどが同じ手法を取る。もっと身近で言えば、某ネットショップにもあるおすすめ商品の項目。AIレコメンドと呼ばれ、閲覧履歴などビッグデータを独自のアルゴリズムによりAI解析し、興味のありそうな商品を提案する機能だ。便利と思う反面、これを疑問視する意見もある。おすすめ商品を選ぶことが、真に自由な選択と言えるか、むしろアルゴリズムに支配されているのではないかと。また、AIが逆に人々の選択の幅を狭めているのではないかと。作業効率の向上などに資する利用に概ね異論はない。しかし、人々の趣向に関わる面では、AIが必ずしも有利に働くとは限らない。AIに何を任せ、何を任せないのか。おすすめ商品を選ぶのも良いが、ビッグデータに現れぬ逸品との偶然の出会いも大切にしていきたい。(R)



JS技術開発年次報告書  下水道情報 第1956号(令和3年11月16日発行)
◇日本下水道事業団(JS)はこのほど、令和2年度の『技術開発年次報告書』を発刊した。この報告書は各年度の研究成果などを集大成したもので、関係機関に配布しているほか、ホームページで公表している(平成28年度版以降は全文を掲載)。令和2年度版の一端を紹介すると、JS自らが財源を確保してテーマを設定する「基礎・固有調査研究」は計11テーマを実施。「コア技術」では地域の実情に応じた汚泥利活用(肥料化)など3テーマ、「標準化技術」では脱水汚泥の低含水率化など5テーマ、「先導技術」では省エネ・低コスト型次世代水処理技術など3テーマの研究を進めた。一方、受託調査研究では、B-DASHプロジェクトに係る委託研究など国土交通省からの6件と、水処理施設の能力増強方策に係る調査業務など地方公共団体からの4件を手掛けた。民間企業等との共同研究は計35件を実施し、うち13件が令和2年度中に完了している。報告書には、研究発表や論文掲載といった対外活動の概要、技術評価の推移や表彰履歴、知的財産権、新技術導入制度での選定技術なども収録している。この1冊を読めばJSの技術開発に関する活動内容が把握でき、今後の方向性も垣間見えてくる。各研究については担当者名も明記されており、それを見ていくのもひとつの「楽しみ方」かもしれない。(T)



多様な課題の解決へ、機構の「化学反応」に期待  下水道情報 第1955号(令和3年11月2日発行)
◇今号は日本下水道新技術機構の特集を企画した。共同研究や審査証明などの事業を通じて新技術の開発や普及に取り組む同機構。組織としての最大の特徴であり強みは、職員が官(国、自治体)と産(民間企業)の双方で構成されている点だろう。ニーズやシーズといった言葉があるが、技術を使う側とつくる側の双方の視点は技術開発において不可欠な要素だ。さらに、委員会等を通じて学の専門家の知識や経験を取り入れる体制が整っている点も大きい。まさに基本理念である「産学官の技術の橋渡し」を実践している。扱う研究テーマも幅広い。今回紹介したBCPや管路包括、省エネ診断のほか、キーワードだけ挙げても、ストックマネジメント、雨天時浸入水、耐水化、エネルギー自立化、新型コロナウイルスなどの下水疫学、マイクロプラスチック、グリーンインフラなど、実に多彩だ。さらに、審査証明事業を通じて新技術の性能等を客観的に評価する役割も担っている。複数のものが組み合わさることで、予想しなかった効果が生じることを「化学反応」と呼ぶ。人口減少や気候変動、脱炭素、DX、官民連携、広域化・共同化など、下水道事業が抱える課題が多様かつ複雑になる中、多様な人材を抱え、多様なテーマや業務を扱う下水道機構だからこそ起こせる「化学反応」を期待したい。(O)



和歌山市の水管橋が崩落  下水道情報 第1954号(令和3年10月19日発行)
◇和歌山市の水管橋が崩落し、紀の川以北の約6万世帯、人口で約13万8000人に影響を与える大規模断水が起こった。別の橋に仮設管を設置する復旧工事が行われ、断水は解消されたものの、市内およそ4割の住民が1週間近くも水を使えない状態に。断水地区に住む親族から話を聞くと、食事やお風呂はもちろん、トイレもままならない不便さが生々しく伝わってきたが、印象に残ったのが今回の事態を「災害」と言っていたことだ。災害と聞くと地震や台風などの自然災害を頭に浮かべるが、今回のように突然ライフラインが使えなくなる状況も、当事者からすれば「災害」と呼びたくなる気持ちはよく分かる。水管橋崩落の原因究明は続いている。橋のアーチから水道管を吊っている「つり材」が何らかの理由で腐食して破断したことが原因ではないかとも言われている。下水道施設でも水管橋が存在するため、国交省は点検等を要請する事務連絡を出した。下水道管が河川を横断する場合は伏せ越し工法によって地中を通すケースが多いが、それでも全国には約800ヵ所の水管橋があるという。水道の水管橋とは延長や経過年数の傾向が異なるため単純比較はできないものの、同様の構造物として異状がないかの緊急チェックは必要だろう。最悪の事態に備えてバックアップ機能の確保はどうすべきかなど、教訓もありそうだ。(O)



平和の軸線の先に  下水道情報 第1953号(令和3年10月5日発行)
◇文化的生活に不可欠でありながら、立地に際しては地元に忌避されがちな下水処理場やごみ処理場。NIMBYからPIMBYへ、近年は防災や再エネ供給、環境教育など機能面からのアプローチも盛んだが、古来の常套的な手法として、周辺景観との調和、地域固有の伝統文化の反映といった、意匠上の工夫が存分に凝らされた施設も多い。先月視察した、実に秀逸かつ稀有なごみ焼却施設の例を紹介したい。広島平和記念公園の原爆ドーム、死没者慰霊碑、平和記念資料館を結ぶ直線の南側延長上を、吉島通りと呼ばれる市道が三角州の突端近くまで真っすぐ伸びる。この道の終着点で行く手を遮るように建つのが広島市環境局・中工場だ。目を引くのは、工場棟の2階中央を北から南に吹き抜ける約140mの貫通通路。誰でも自由に入れるその内部は、稼動中の設備や配管類をガラス越しに見ながら処理工程を学べる幻想的なアトリウムで、出口まで抜け切ると眼前には瀬戸内海が広がる。設備設計と建築設計を見事に整合させたこの名建築の設計者は谷口吉生氏。平和記念公園の全体設計から資料館等の建築デザインまで手掛けた丹下健三氏の門下生である。師弟ともに、爆心地から海へと下る一本の軸線を「精霊の回帰の道」と見立て、平和と鎮魂の祈りを意匠にそっと忍ばせた焼却施設、一見の価値がある。(Y)



ハーバード大学の内部留保は4兆円以上  下水道情報 第1952号(令和3年9月21日発行)
◇早稲田大学の総長、田中愛治氏の講演を聞く機会があった。アメリカの大学に10年以上留学していた田中総長によると、名門ハーバード大学の内部留保(積立資金)は日本円で4兆円以上に達しているという。インターネットで確認してみると、確かに2020年6月現在の資金残高は419億ドル(約4兆4000億円)と記されていた。また、同大学の年間収入は約6000億円に達し、このうちの約2000億円は寄付金収入となっている。日本のすべての大学の寄付金を集めても年間500~600億円と言われ、ハーバード大1校に遠く及ばない。内部留保が多いのはグローバルに活躍する人材を数多く輩出してきた歴史がその背景にあると思われる。寄付金だけでなく、大学が関わる知的財産権(特許等)や積立金の一部をリスクの少ない分野に積極的に投資している実態もあるようだ。田中総長は大学の経営や運営に関しては日本の大学との差を感じないが、印象に残ったのは教授の選考に対して一切の妥協がないこと。世界で最も優れた頭脳を教授として迎えることにエネルギーと時間を費やし、労を惜しまない姿勢が伺えたと語る。大学の価値は突き詰めれば、教授陣のレベルの高さで決まるといっても過言ではない。優れた教授が優れた人材を育て、それが将来の大学の繁栄をもたらす要因になっている。(S)



外国人労働者の問題、本質的な議論を  下水道情報 第1947号(令和3年7月13日発行)
◇先日、米国務省から「外国人労働者の搾取」などと批判された日本の外国人技能実習制度。同制度は、主に開発途上国の労働者を一定期間日本で受け入れ、技術や知識を学んでもらい、本国の発展に生かしてもらうことを目的としている。しかし、実際は日本の労働力不足を補う、単純労働の受け皿として利用されていることや、低賃金、長時間労働等様々な問題が取りざたされ、批判の対象になっている。厚生労働省によると、令和2年10月末現在の外国人労働者数は172万4000人、このうち在留資格が「技能実習」の者は40万2000人で前年より5%近く増加した。産業別では、「建設業」「卸売業・小売業」「医療・福祉」などで外国人労働者が増加した。様々な問題が指摘されながらも制度が存続し、技能実習生も増加しているのは、安価な労働力を確保したい産業界と、本国より高収入が期待でき日本で働きたい外国人の双方に需要があり、移民政策というデリケートな問題を先送りしつつ当面の労働力不足に対処できる利便性があるからだろうが、理念と現実が大きく乖離した制度を温存し、その場しのぎの対応をこの先ずっと続けていくわけにもいかないだろう。労働力不足と外国人労働者について、本質的な議論が避けて通れない時期に来ている。(M)



衛星を活用した漏水検知システム  下水道情報 第1946号(令和3年6月29日発行)
◇愛知県豊田市は、衛星画像の解析による水道管の漏水調査の成果を発表した。使用されたのはイスラエルのソフトウェア技術ベンチャー、Utilis社が開発した「漏水検知システム」。衛星から地上に電磁波を照射して、その反射特性をAIで補正・解析することで、漏水可能性がある区域を半径100mの範囲で特定する。これにより、事前に漏水調査範囲を絞り込めるようになり、現地の音聴調査を効率化できるというものだ。実際に45ヵ国の350以上のプロジェクトで採用され既に成果を上げているという。同市では、調査に時間を要する山村地域などを選定して解析を行い、漏水可能性区域が556区域検出された。そのうち実際に漏水を発見したのは154区域の259ヵ所。従来の調査法では約5年かかるものをわずか7ヵ月ほどで完了できたという。結果的に大幅に作業効率を高めた同技術、衛星を使って漏水を検知するなど、一般人には到底思いつかない方法だ。部屋いっぱいの大きさだったパソコンが、手のひらサイズにまで小型化する今の時代。技術革新は私たちの予期しない方法・速さで不可能を可能にしてきた。AI技術などが一般にもオープンなものとなり、その開発スピードも以前より早まった。これら先進的技術の進化がこれまで解決不可能とされた問題の突破口を切り開くに違いない。(R)



ある企業の社史編纂  下水道情報 第1945号(令和3年6月15日発行)
◇都市土木を主たる事業として創業したのち業容を拡げ、今では下水道分野でも確固たる地位を築く、ある企業の社史編纂に携わっている。社史編纂では、関係者の座談会やインタビュー、資料集めなど、地道な作業を長期にわたり重ねていくことになる。当然のことながら、古い時代ほど情報は残っておらず、空白地帯で右往左往することも。そんな時に頼りになるのは、何より当事者だ。中には並外れた記憶力を持った方もいて、驚かされる。20年前、30年前の出来事の日付や場所、関わった人、さらにはその人の出身地や学歴、家族構成まで……。ただただ脱帽するばかりだが、裏を返せば、真摯に仕事や仕事仲間に向き合ったからこそ、今もなお鮮明に覚えているのだろう。その企業は、類まれな先見の明と抜群の行動力を持つ経営者が強力にけん引し、発展を遂げた。ワンマン経営と映る側面もあるが、社史編纂を進めていく中では、経営者の思想や人柄に魅かれた社員や取引先が公私にわたり信頼関係を築き上げ、ある種の「ファミリー」を形成することで事業拡大につなげていった様子が垣間見える。企業への帰属意識が希薄になる今、一方ではそうした家族的経営手法は否定される向きがある。だが、その企業の歴史を追体験していくと、人と人とが互いに深い関心と敬意を持ちながら、仕事に取り組んでいたことがうかがえる。「古き良き」と言ってしまうにはもったいない、何か大きな魅力を感じるのである。(T)



考えるヒントに  下水道情報 第1944号(令和3年6月1日発行)
◇本紙で連載中の「コンセプト下水道」を書籍化し、このほど刊行した。著者は国土交通省時代に「BISTRO下水道」や「水の天使」、「市民科学」など様々な企画を立ち上げたことで知られる加藤裕之・東京大学下水道システムイノベーション研究室特任准教授。著者が政策立案などの場面で大切にしてきたコンセプトを自ら語った第1章と、様々な分野から“熱い”ゲストを招いて語り合う第2章で構成している。第1章では「BISTRO下水道」や「アート下水道」などの独創的なプロジェクトに加え、災害対応や雨水管理、官民連携、広域連携などの普遍的なテーマも取り上げており、今の下水道事業を俯瞰的に捉える上でも役に立つ。第2章では、日本水環境学会COVID-19タスクフォースの代表を務める大村達夫東北大学名誉教授が新型コロナ対策で注目されている下水疫学調査をいち早く紹介した回や、水ジャーナリストの橋本淳司氏が流域治水の考え方にも通じるコンセプト「流域生活」を披露した回など、タイムリーな話題も豊富だ。著者も「この本は私自身の考えるヒント」と語っているが、思考を整理したり、新たな発想を考える上で気づかされることは多いはず。なお、今号に掲載した発刊インタビューでは、本書に込めた思いや見どころを著者自らが詳しく語っている。(O)



SPC株の流動化を促す無議決権株式  下水道情報 第1943号(令和3年5月18日発行)
◇宮城県の上工下水一体官民連携運営事業の優先交渉権者はメタウォーターグループ(10社)に決まった。運営権者(SPC)の出資比率も同時に公表され、代表企業のメタウォーター34.5%、準代表のヴェオリア・ジェネッツ34.0%。これを議決権株式と完全無議決権株式に分けた比率では、議決権株式はメタ50.5%、ヴェオリア18.5%なのに対し、完全無議決権株式は反対にメタ18.5%、ヴェオリア50.0%となっている。一般的に、事業に直接携わるための出資のほか、リターンや出口戦略を目的とする出資もある。メタは代表企業としてSPCの経営を担う議決権株式の過半数を保有し、ヴェオリアは配当とともに、株の売却も容易な無議決権株式を多く取得している。日本ではSPC株の売却例は殆どないが、海外では日常的に行われている。そうした背景から、SPC株の売却を前向きに捉えようとの意見がある。その理由はPFIやコンセッションを契機にインフラの投資市場を創出し、安定的に利益を生む事業に育てれば、そうした市場に投資家を呼び込める。それは地域経済の活性化につながり、株主の交代によってSPCのガバナンスが向上し、公共サービスの質を高める効果さえ期待できるとの主張だ。無議決権株式がSPC株の流動化を促し、官民連携事業は新しい局面を迎えることになるかもしれない。(S)



ALPS処理水の行方  下水道情報 第1942号(令和3年5月4日発行)
◇国は4月13日、福島第一原発内で増え続ける汚染処理水を、2年後には希釈して海洋放出する方針を決定した。この処理水にはALPS(多核種除去装置)で除去できない放射性物質トリチウムが残るが、「国内外の原発はもっと高濃度でトリチウム水を放出している」と国は主張し、地元や国際社会の理解を求めている。だが、汚染水は事故炉の燃料デブリと接触して生じたものであり、健全炉の排液には原理的に含まれない放射性核種も多く混じるため、ALPSでトリチウム以外の62核種を基準値以下まで減らせたとしても、トリチウム濃度だけで両者のリスクを比較評価することは大間違いだ。国の方針発表から10日後、地元紙だけが報じたが、あるベンチャー企業が福島県庁で記者発表を行った。ALPS処理水を想定した、ガスハイドレート法によるトリチウム分離技術の実証試験の経過報告である。平成26~27年度の経産省プロジェクトでも最も可能性が認められており、さらに踏み込んだ今回の試験報告では、この技術を適用すれば希釈せずにトリチウム濃度を基準値以下にでき、現状で貯蔵タンク1000基分の処理水を10基分以下に濃縮・減容可能という。まだ2年の猶予がある。こんな有用技術の萌芽を黙殺せず、飛び付いて全力で育てることこそ、国が今示すべき姿勢ではないだろうか。(Y)



都の新たな経営計画に見るTGSの役割  下水道情報 第1941号(令和3年4月20日発行)
◇東京都がこのほど策定した「経営計画2021」。主要施策である再構築や浸水対策などの推進に加え、AIを含むデジタル技術の活用や水再生センターへの包括委託の導入が打ち出された。下水道施設の運営手法については、事業の安定性、経済性の確保、技術力・技術開発力の維持向上の視点から検討。豪雨に脆弱な地域特性を有し、人口や都市機能が高度に集積していることや、近年の豪雨の激甚化・頻発化により運転管理の困難度が増している状況を踏まえ、運転管理の困難度が相対的に小さい水再生センターの水処理施設の運営に包括委託を導入することを決定。委託先は、区部は運転管理ノウハウの移転が可能な東京都下水道サービス(TGS)、多摩地域は当初から民間委託していることから民間事業者とした。これにより、TGSは管路から水処理施設、汚泥処理施設まで、下水道施設全般の運転管理を担うことになり、ますます存在感が大きくなる。今後は局とTGSが連携し、人材確保・育成、技術継承の強化を図るとともに、維持管理情報を活かしたマネジメントサイクルをいかに円滑に回すかが課題となる。また、TGSには、培ったノウハウや技術力を活かした他都市の支援や課題解決に役割を果たすことも期待される。(M)



普及伸び悩むFCV  下水道情報 第1940号(令和3年4月6日発行)
◇経済産業省の策定した「水素・燃料電池戦略ロードマップ」では、令和7年までに燃料電池車(FCV)の普及台数を20万台とする目標が掲げられている。韓国の調査会社が調べた世界のFCV販売台数は、昨年の1~9月にかけて6664台だった。最も販売台数が多かったのは韓国の現代「ネクソ」、その次をトヨタ「ミライ」とホンダ「クラリティ」が追いかける展開だ。日本自動車販売協会連合会の公開するFCVの国内販売台数は、同期間で300台程度だった。FCVの普及が進まない要因の一つとして、水素自体の製造・輸送コストが高いことが挙げられる。ある電機メーカーでは、近畿の工場内で燃料電池フォークリフトを利用しているが、水素は関東からわざわざ取り寄せるというから、供給拠点が不足している問題もありそうだ。下水道分野では、現在、数社が消化ガスから水素を精製する技術の普及に取り組んでいる。しかもこうして取り出されるのは環境に優しい水素で、主流の化石燃料由来のものと異なる。また、処理場は各地に点在する。利用地に近ければ、供給拠点として新たな発展も望める。昨年12月にはミライがフルモデルチェンジし、外見・中身共に一新された。自動車業界を始め話題をさらっているが、その拠点となりうる処理場にも世間一般の関心が向かう良い機会ではないだろうか。(R)



官民連携事業で存在感を増すJS  下水道情報 第1935号(令和3年1月26日発行)
◇今月8日、日本下水道事業団(JS)はホームページに「PPP/PFI事業に関する情報」のコーナーを開設し、JSが発注する「琵琶湖流域下水道高島浄化センターコンポスト化事業」について掲載した。同事業にはDBO方式(設計・建設、20年間の管理・運営を一体発注)が採用され、1月中に実施方針等が同コーナーで公表される予定だ。JSがDBO事業の発注主体になるのは今回が初。ホームページのコーナー開設は、今後も同様の案件が出ることを示唆し、JSがPPP/PFI事業への関わりを強めていく方針が見て取れる。さらに今月13日にJSは、昨年12月に宮城県上工下水一体官民連携運営事業に対する「関心表明」を行ったことを明らかにした。表明の中では、県や優先交渉権者から協力・支援の要望があった場合に、真摯に検討する用意があることを示している。JSの森岡泰裕理事長は11月の就任会見で官民連携事業について、「『プレイヤー』としてではなく、『審判』を行う立場に徹し、企画立案や事業者の選定、事業開始後の履行監視などを支援していく」と話した。今後さらなる増加が見込まれる官民連携事業だが、その中で公的・中立的な第三者機関としてJSに期待される役割は大きい。森岡理事長が示したスタンスは維持しながら、官民連携事業におけるJSの存在感は増していくだろう。(T)



国土強靭化5か年対策  下水道情報 第1933号(令和2年12月15日発行)
◇新たな経済対策が閣議決定された。取り組む施策の柱は①新型コロナウイルス感染症の拡大防止策、②ポストコロナに向けた経済構造の転換・好循環の実現、③防災・減災、国土強靭化の推進など安全・安心の確保、の大きく3つだが、特に注目すべきは③だろう。今年度が最終年度の「防災・減災、国土強靭化のための3か年緊急対策」に続く対策として、令和3~7年度の5ヵ年を期間とした「防災・減災、国土強靭化のための5か年加速化対策(仮称)」が明確に位置づけられたからだ。事業規模は「15兆円程度を目指す」としており、「目指す」という表現が確定事項でないことは留意が必要だが、現行の3か年緊急対策の事業規模(概ね7兆円)と比べても、そのスケールは大きくなることが予想される。また、初年度は今年度の第3次補正予算で措置することも明記された。下水道事業については、浸水対策や地震対策、老朽化対策などの施策が対象になると見られる。振り返れば現行対策は、平成30年度に行われた重要インフラの緊急点検の結果に基づき取りまとめられた。対策が必要と判定された箇所のうち、名前のとおり緊急性の高いものを抽出しただけに過ぎず、3年間ですべての対策が完了するわけではない。対策が新たに必要になった箇所もあるはずで、弾力的な対応も求められるだろう。(O)



コンセッションのメリットに注目  下水道情報 第1932号(令和2年12月1日発行)
◇浜松市の下水道コンセッションはすこぶる順調に推移しているようだ。事業が始まってから3年目を迎えて、過去2ヵ年の決算書が公表されている。初年度(2018)、2年度(2019)とも売上高は約18憶7000万円で、営業利益を約3億円確保している。注目したいのは、事業主体が民間企業(SPC)に変わったことによって、利益から法人事業税が支払われている。初年度、2年度とも約1億円を納付しているが、直営で管理していたら発生しない税収であり、コンセッション事業に移行したことの隠れたメリットになっている。改築更新では散気装置の更新が計画されていたが、消費電力を極力抑えるために、省エネ効果の高い機種を選定している。そして、電気設備の改築工事では野里電気工業という下水道事業ではなじみの薄い会社に発注している。これはSPCが技術力を評価して、実績がなくても十分な技能を有すると判断して請け負わせたもので、従来の実績第一主義の業者選定とは明らかに異なる。管理コストの縮減につながり、もし不具合が発生したらSPCが責任をもって対応するといった姿勢が伺える。浜松市のコンセッションは、民間側が管理費を抑えるために管理人員を大幅に減らす提案を掲げて、受注に漕ぎつけた。創意工夫によって、従来の殻を破る新しい管理手法を生み出してきている。(S)



ICTが実現した完全自動運転  下水道情報 第1931号(令和2年11月17日発行)
◇施設の設計施工や点検・維持管理、処理場・ポンプ場の運転操作・監視制御など、下水道事業の随所でICT活用の機運が高まっている。もちろんこうした動きは、温度差こそあれ各インフラで盛んだが、中でもごみ焼却施設は先陣を切る分野の1つだ。DBOでの発注が主流の中大規模施設の新設・更新では、高度な技術力のアピールは総合評価で高得点を稼ぎ、運営業務の面でも、人員の削減や運転の安定化、熱回収発電の高効率化は、長期(通常20年)にわたり運営事業者の直接的メリットとなるので、各メーカーが開発・導入競争に躍起になるのも当然だろう。端的な例としては、新潟市の焼却施設で昨年実現した国内初の完全自動運転。ごみの熱量は素材ごとの差異が大きく、不均質なごみの炉内投入で燃焼が不安定化すると、容易に機器の支障、発電量の低下、有害ガスの発生などを招くため、熟練運転員の繊細な介入操作は不可欠とされてきたが、ビッグデータ分析やAI画像解析を駆使して現在も自動運転を継続中だ。また、この施設の担当メーカーは首都圏の本社に、国内外多数の自社管理施設を集中監視・制御する拠点基地を設けて安定操業を支援している。こんな先駆的事例を垣間見ると、下水道でのICT導入の取り組みには、今後の十分な伸びしろと可能性を感じ取れる。(Y)



下水道事業の経営状況  下水道情報 第1930号(令和2年11月3日発行)
◇総務省が公表した「令和元年度地方公営企業決算概要」によると、下水道事業の「事業数」は3617で最多(水道1856、病院623)、「決算規模」も約5.4兆円で最大(病院約4.6兆円、水道約4兆円)となっている。「職員数」は約2.7万人で前年度比0.6%減、平成27年度比1.7%減、「料金収入」は1兆5367億円で前年度比1.1%減、平成27年度比0.3%増、「建設投資額」は1兆6220億円で「老朽化のための改修工事の増等により」対前年度比3.6%増、平成27年度比4.2%増と、職員数の減少傾向、建設投資額の増加傾向が続いている。一方、下水道事業の「経営状況(総収支)」は2806億円の黒字で、前年度比3.4%増、平成27年度比23%増だが、下水道は「他会計繰入金」が約1.7兆円(病院約7000億円、水道約1900億円)と他事業と比べて大きいことも忘れてはならない。さらに、「経費回収率」は93.0%で前年度比4%減。平成29年度は102.1%だったが、それ以降は汚水処理費用の増加が使用料収入を上回ったため減少している。こうした下水道事業の経営課題に対し、公営企業会計の適用拡大や広域化・共同化、民間活用など様々な取り組みが進められている。引き続き着実な実施による改善が求められている。(M)



デザインマンホールがゲーム内に登場  第1929号(令和2年10月20日発行)
◇コロナウイルスによる緊急事態宣言を機に、人々の間で「おうち時間」を楽しもうという機運が高まった。その中で注目を集めたのは家庭用ゲーム機の存在。特に宣言前の3月初旬に販売を開始した任天堂の「switch(スイッチ)」は、期間中には注文が殺到し、取扱店では抽選による販売のみとなるほどの人気ぶりだった。そんなスイッチの専用ソフトの1つとして「あつまれ どうぶつの森」(通称:あつ森)がある。端的に内容を述べると、自分の家を建て、島を開拓しながら住民である動物たちと楽しく過ごすスローライフなゲームだ。そんなあつ森だが、ゲーム内のアイテムの1つとしてマンホールが登場する。今作からは、色はベーシックな黒だけでなく茶色もラインナップ。山や海辺などのイラストを加えたデザインマンホールまで選べる。一説には某市の実在するマンホールを参考にしたという噂だ。自ら舗装した道の上にこれを敷けば、さらにゲーム内での街づくりに現実味が増すことだろう。どうぶつの森シリーズは発売から19年を迎える。作品毎に時代や世相を反映した家具やアイテムをゲーム内で登場させ、プレイヤーを驚かせてきた。デザインマンホールがゲーム内で登場したことは、ご当地マンホールやマンホール愛好家の概念が広く一般に浸透してきた証左ではないだろうか。(R)



居住地と水害リスク  第1928号(令和2年10月6日発行)
◇総務省の平成30年住宅・土地統計調査によると、住宅総数に対する持ち家の割合(持ち家住宅率)は61.2%。「夢のマイホーム」という価値観は薄れつつあるように感じるが、持ち家住宅率の推移は過去40年ほぼ横ばいだ。「所有」から「シェア」の時代へシフトしているとはいえ、家を持つことは依然としてある種の憧れ、目標となり得ているのに変わりはないだろう。だが一方では、本号掲載の「グローバル・ウォーター・ナビ」で吉村和就氏が指摘したように、国土面積の1割に過ぎない「洪水氾濫区域」に日本の人口の半数が住み、資産の75%が集中しているという問題がある。近年は「コンパクトシティ」といった集約型の都市構造を行政が指向し居住を誘導したこともあり、同区域内の人口は増加傾向を見せている。水害の激甚化を受けて国交省は今年8月、宅地建物取引業法施行規則を改正し、不動産取引時の重要事項説明で水害ハザードマップを用いた説明を義務付けた。取引を行う人は、水害リスクを十分考慮することが求められる。居住・移転の自由は憲法で定められているため、行政が災害危険区域に指定し建築制限を行うといった措置を講じるには慎重な判断が必要だ。だが、ハードでは対応しきれない水害が頻発するなかでは、安易な開発行為の抑制やリスクの高い地域からの移転の促進などを、進めていかざるを得ない状況にある。(T)



補助金制度への回帰  下水道情報 第1927号(令和2年9月22日発行)
◇各種汚水処理施設の整備に対する国の財政支援が、補助金制度から交付金制度に移行して久しい。現在、下水道は社会資本整備総合交付金と防災・安全交付金、浄化槽は循環型社会形成推進交付金、集落排水は農山漁村地域整備交付金の各内数で主に事業が推進されている。だが近年、少し風向きが変わってきた。下水道では昨年度、防安交付金事業の一部を切り出して浸水対策に係る個別補助事業を立ち上げており、今年度は3つの補助事業に計244億円を配分。浄化槽では平成29年度、通常事業より助成率を上乗せした補助制度をエネルギー対策特別会計で新設、環境性能の高い浄化槽の普及を後押ししている。これら先行2省の動きを横目に、農水省もじっとしてはいない。今年3月に開かれた自民党の下水道・浄化槽対策特別委員会の席上、農業集落排水の陣営は更新需要の高まりをアピールするとともに、所要予算を確実に確保するため、農山漁村交付金とは別に集排単独の補助制度創設を要望したというから、今後の動向が期待される。「紐付き」と揶揄されがちな補助金制度だが、事業主体(市町村)の取り組みを国全体がめざす方向に導く上で、特定目的の事業に紐付きで投下する国費の効能は大きいし、国の積極的なコミットは当然のこととして歓迎したい。(Y)



PPP/PFIの数値目標  下水道情報 第1926号(令和2年9月8日発行)
◇内閣府が今年7月に改定した「PPP/PFI推進アクションプラン」。下水道は引き続きコンセッション事業の重点分野の1つに位置づけられ、6件の実施方針策定という数値目標も変わらないが、目標期間が令和3年度末までと2年間延長された。アクションプランには実施方針の策定が完了している下水道の案件として3件という数字も記されている。具体的な箇所名は記述していないが、この3件は浜松市(事業開始済み)、高知県須崎市(同)、宮城県(優先交渉権者の選定手続き中)との認識で間違っていないだろう。いずれにせよ目標の達成には残る3件の案件形成が求められることになる。一方、同じく重点分野に位置づけられている水道を見てみると、目標期間は令和3年度末と下水道と同様だが、数値目標については「今後の経営のあり方の検討」が「少なくとも30件行われるよう促す」という書きぶりとなり、この中にはコンセッションだけでなく、「広域化や多様な民活手法の活用」も含めることが明記されている。多様なPPP/PFI手法が存在する中、これまで他分野も含めコンセッションに特化した目標になっていたことには少なからず疑問を感じていたので、今回の水道分野の改定は政府のPPP/PFIに対する意識の変化の表れだろうかと、前向きに捉えた。(O)



李登輝氏と遠山啓氏の邂逅  下水道情報 第1925号(令和2年8月25日発行)
◇7月30日、台湾の李登輝氏の逝去が報じられた。台湾初の直接選挙で選ばれた総統だった。李氏は国民党議員だったが、「台湾民主化の父」と呼ばれ、その政治信条は現在の民進党、蔡英文総統にも引き継がれている。李氏の訃報を聞いたとき、旧建設省の第3代下水道部長、遠山啓氏(故人)を思い浮かべた。遠山氏は日本統治時代の台湾に育ち、台北帝国大学に入学した年に終戦となり、日本へ強制送還された。その後、九州大学に編入して卒業、旧建設省に入り、下水道部長になる。その後も日本下水道事業団の理事長を務めるなど、下水道行政の要職を歴任した。また一方、台湾への愛着からなのか、後年はボランティアとして台湾下水道事業を個人で支援していた。ゴルフ好きとしても知られ、1日だけゴルフをやらせてもらうのが台湾支援の唯一の条件だったという。台湾を訪れていたある日、遠山さんの宿泊しているホテルに突然、李登輝総統(当時)が訪ねてきて、感謝の意を表した。そして、次の台湾訪問からはゴルフ場への送迎に、パトカー先導の総統車が使われたと聞く。今では考えられない、古き時代の出来事なのだが、親日家で知られる李登輝氏と台湾への想いが人一倍強かった遠山氏との邂逅は、語り継ぎたい逸話として記憶に留めている。(S)



下水中の新型コロナウイルス分析に対する期待と課題  下水道情報 第1923号(令和2年7月28日発行)
◇下水中の新型コロナウイルスを抽出・分析し、感染状況の把握や感染拡大の兆候を察知するための調査・研究が行われている。これが実現すれば、下水道に対する注目度は一気に高まり、その重要性やポテンシャルが認識されるだろう。ただ、「まだ、課題は多い」と指摘する下水道関係者もいる。各地の自治体が下水試料を研究機関に提供し、いくつかの試料からウイルスの検出に成功したという報道もあるが、あくまで検出できたにすぎず、今後多様な物質を含む下水からウイルスを高精度で検出し、定量的に分析する手法を開発するのは容易なことではないだろう。その上、第2波の予測に活用するなら残された時間は数か月しかなく、ハードルは上がる。また、下水中からウイルスが検出されることが、「下水道は危険」という誤解を招かないよう十分配慮しなければならない。下水道における感染リスクについて、多くの自治体は「WHO(世界保健機関)によると『感染者の糞便から感染するリスクは低く、下水道を介して感染したという知見はない』」といった表現で説明しているが、国民に真に安心してもらうためには、科学的な根拠に基づいて安全性を証明したい。ただ、その手法も具体的には示されておらず、今後の課題となっている。(M)



増えるオンライン○○  下水道情報 第1922号(令和2年7月14日発行)
◇新型コロナウイルスの感染拡大を受けた緊急事態宣言が解除されてから、およそ1ヵ月が過ぎた。新しい生活様式と称してソーシャルディスタンスの確保やマスク着用の徹底等、感染拡大を防止しながらも、流行前の日常に戻していこうという試みが各地で行われている。また、今回の事態を踏まえ、私たちは直接顔を合わせなくとも意外と問題が無い事象が多々あることに気づかされた。オンライン授業、オンライン飲み会等々、記者の観点から言えばオンライン取材なんてものもある。しかし直接会ってみないと感覚がつかめない人もいるので、これは判断が分かれる。中でも興味深いのは、テレワークを余儀なくされたことで、ほとんどの人が経験したであろう「オンライン会議」。例えばオンライン上ではどこが下座か上座かわからないと困っている人がいるのだという。さらには「役員と社員でカメラのウィンドウ枠の大きさが同じなのはどうなのか」など、オンラインに場所を移したことで、新たなマナー問題が起きているのだそうだ。私たちはこれまでも業務の効率化・コストカットのために、変化を繰り返してきたが、コロナ禍を機に、それがさらに加速したように感じられる。可能な限り接触を減らした結果、実は必要が無かった既成概念がまだまだ私たちの中に眠っているのかもしれない。(R)



従来の手法にとらわれない取り組みを  下水道情報 第1916号(令和2年4月21日発行)
◇3月14日の記者会見で安倍首相は、東京オリンピック・パラリンピックを「予定どおり開催したい」と述べた。その時点で新型コロナの感染者数は700人台(クルーズ船除く)だったが、約1ヵ月後の本稿時点では10倍以上の8000人超(同)。首相表明がいかに見通しの甘いものだったか、言うまでもない。ハーバード大の研究チームは、新型コロナのパンデミックを抑えるためには、外出規制などを2022年まで断続的に続ける必要性を指摘している。ワクチン開発などによりその期間は短縮される可能性はあるが、新型コロナの影響が数年単位で続くことは想像に難くないだろう。国内では建設業界への影響も深刻化している。西松建設、清水建設、大林組、戸田建設は緊急事態宣言が出された7都府県の現場を対象に、5月6日まで閉所または施工中断を前提に発注者と協議を進める。こうした中、国土交通省はi-Constructionの推進に向け、建設現場の生産性向上に関する技術開発の公募を今月14日に開始し、新型コロナ対策に関連した非接触、省人化、省力化等の技術開発を優先して採択する方針を打ち出した。人の力に頼る部分の多い建設現場だが、新型コロナの影響の長期化が予想される中では、従来の手法にとらわれない取り組みを進めていく必要がある。(T)



コロナ騒動とテレビ会議  下水道情報 第1915号(令和2年4月7日発行)
◇新型コロナ感染拡大により国民生活や経済活動への影響が深刻化している。そんな中、時差通勤や在宅勤務が多くの職場で推奨され、図らずとも働き方改革が進むという現象が起きている。テレビ会議やウェブ会議も然りだ。これは濃厚接触の回避や会場までの移動のリスクを考えると必然と言えるだろう。実際、今回の騒動をきっかけに初めてテレビ会議を活用した自治体もあると聞く。このテレビ会議、最初は抵抗を持つ人もいるかもしれないが、使ってみれば、通常の対面式会議と何ら遜色ないことが分かる。昨年、取材を通じてテレビ会議システムを経験する機会に恵まれた。かねてからテレビ会議システムの導入に積極的な日本下水道事業団(JS)のはからいで、JSと連携相手(福島県下水道公社)の双方から同時に話を聞けるようにセットしてもらった。確かに最初はこちらの質問が相手に伝わるか心配で変に力んで大きな声を出したりしていたが、次第に感覚が掴め、ストレスを感じることもなくなった。テレビ会議は参加者のスケジュール調整が容易なので、開催の頻度を増やすことができ、円滑な意思疎通を進める上でも効果的だ。コロナ騒動如何にかかわらず、導入するメリットはあると思う。JSも内部の会議だけでなく、外部の打ち合わせなども含め、テレビ会議の活用を広げていくという。(O)



2003年の香港SARSウイルス集団感染  下水道情報 第1914号(令和2年3月24日発行)
◇2003年に、香港の大規模高層住宅「アモイ・ガーデン」で、SARS-CoVの集団感染が発生した。その原因は各階を縦につなぐ排水立管とそれに接続する排水管を通じてウイルスが拡散したもので、この高層住宅では329人が感染し、多くの方が亡くなっている。調べてみると、高層住宅の各フロアに8世帯が居住し、住居には各階を垂直に走る排水立管が8本備えられ、その立管にトイレや台所、浴槽等の汚水を、排水管を通じて流し込む構造になっていた。それぞれの排水管には、臭気や飛沫、害虫の侵入を防ぐ排水トラップ(U字)が設けられ、常時、水を溜めておく仕組みだった。だが、集団感染が発生した時は、一部のU字型トラップに水がなく、干上がった状態になっていた。このため、排水管等に付着したウイルスを含む飛沫が、浴室の換気扇に吸い込まれて、建物内を浮遊したという。感染者のいたフロアの下の階より、上の階の方に多く飛散していたようだ。また、8本の排水立管のうちの2本から集中的に拡散していた。今年の新型コロナウイルスでも、高層住宅に住む人の感染者が出ている。香港政府はSARSの教訓から、速やかに居住者を退避させ、隔離して、感染の拡大を防いでいる。香港SARSでは排泄物中のウイルスが発見されて、感染スピードが速かったため、危険と指摘する専門家もいた。(S)



上がるハードル  下水道情報 第1913号(令和2年3月10日発行)
◇東日本の広範囲に被害を出した昨年10月の台風19号。不幸中の幸い、東京都心やゼロメートル地帯は河川決壊・溢水等による大きな浸水被害を免れた。首都圏外郭放水路、渡良瀬遊水地、八ッ場ダムを含む利根川上流ダム群、環七地下調節池などが果たした洪水調節機能を多くのメディアが報じ、にわかに多くの関心を集めた。これら大規模な防災インフラは、整備に莫大な費用と長い期間を要し、完成後も日常的に存在価値を実感しづらいため、費用効果の点で理解が得られにくい側面がある。被害が出れば行政の不備が指摘されがちだが、多少の大雨でも平穏に日々を過ごせるのは、これら隠れたインフラの働きと、その整備を手がけた先人の功績であることを心に留めておきたい。近年、従来の常識を超えたスケールの豪雨・台風が頻発するが、その多くは明らかに地球温暖化に起因する異変のため、この先もさらに強度・頻度を増していくことは容易に想像がつく。河川事業による各種治水対策も、下水道事業による内水対策も、今後さらなる強化促進が求められるが、かつて「100年に一度」のはずだった記録的豪雨も、時間とともに50年に一度、10年に一度…と発生確率が高まり、ハードルは上がる一方。当分の間、ゴールの見えない取り組みが強いられることにそうだ。(Y)



管路の管理や老朽化対策の取材  下水道情報 第1912号(令和2年2月25日発行)
◇最近、管路の管理や老朽化対策をテーマに、いくつかの中核市を相次いで取材した。いずれも事業着手から50年以上が経過し、標準耐用年数を超えて老朽化した管きょが多数存在するほか、昭和40年代以降に急ピッチで整備した管きょがこれから一斉に老朽化する見通しのため、その対策を今後の主要事業と位置づけ、ストックマネジメント計画を策定して計画的に調査や改築等を進めていくとしていた。この分野の取材対象は、数年前までは、早くから事業に取り組み、ストックの情報や管理履歴等が揃っている大都市や一部の自治体に限られていた。しかしここ数年、下水道法改正や国の様々な働きかけもあり、こうした情報をきちんと整理し、将来について明確なビジョンをもって取り組もうとする自治体が増えてきていると感じる。さて、管路の管理や老朽化対策は、処理場等と比べると地域密着的な傾向が強く、管理手法(例:直営か委託か)、改築手法(例:開削工法か更生工法か)、発注の仕方や不調対策、その他さまざまな判断が地域経済への影響や地元企業の意向等を強く忖度してなされることも珍しくない。時に下水道事業特有の泥臭い面も垣間見ることができて面白い。本紙でもそういう部分を伝えていければ、と考えている。(M)



幅広い視点で総合的な浸水対策を  下水道情報 第1911号(令和2年2月11日発行)
◇昨年10月の台風19号による記録的な大雨の影響では、15都県140市区町村で内水氾濫による浸水被害が発生した(国交省調べ、昨年11月末時点)。近年、従来の下水道施設計画を超える降雨が全国で多発し、都市化の進展による雨水流出量の増加、人口の集中や地下空間利用の高度化などもあいまって、浸水リスクは急激に高まっている。こうした状況を背景に、浸水対策は「下水道政策研究委員会」(政策研)の制度小委員会でも大きな検討テーマのひとつとされ、雨水管理に関する中長期的な計画の制度上の位置づけが論点となっている。昨年改定された日本下水道協会発刊の「下水道施設計画・設計指針と解説」(設計指針)では、雨水管理に関して「照査降雨」の考え方が示された。計画を上回る降雨に対しては、下水道以外の施設も含めた既存ストックの能力を評価・活用した上で、一定程度の浸水や管きょ内の圧力状態を許容し、減災の取り組みを進めることが基本とされている。雨水排除施設の整備は効果発現に時間とコストがかかる一方、気候変動の状況を鑑みると、浸水対策への取り組みは加速させなければならない。他事業とや民間事業者との連携、自助・共助の促進といったソフト対策の充実など、幅広い視点での総合的な浸水対策を実施しながら、被害を最小化させる施策が求められている。(T)



下水道業界とドローン  下水道情報 第1910号(令和2年1月28日発行)
◇インプレス総合研究所によると2018年度のドローンビジネスの市場規模は931億円と推測されている。前年比で約85%増。ドローンに対する市場の期待度は高いと言える。ドローン情報基盤システム(DIPS)によって飛行情報を共有化させるなど、国交省でも活用に向けてインフラ整備を本格化させている。下水道業界も例外ではない。安全性と効率性を高めるため、管路内点検や施設調査にドローンを活用する動きが、今活発となっている。自立制御システム研究所とタッグを組み管路調査専用機を開発したNJS、国内で初めて管路内点検でドローンを実証した日水コン、市場最大手DJIの日本正規代理店、スカイシーカーと資本業務提携を結んだメタウォーター、そして昨年10月に新潟市浄化センターで日水コンと共同でドローンによる日常点検の実証を行った月島機械。平成29年度末時点で処理場の機械・電気設備の82%が耐用年数15年を超えている。管渠に至っては10年後に総延長の13%が老朽管となる。老朽化問題に早急に手を打つには点検効率の高いドローンは大きなカギとなるだろう。ドローンによって処理場点検を行うと、今まで気が付かなかった異常も見つかるそうだ。近い将来、「調査・点検にはドローンを使うのが当たり前」の時代がやってくるのかもしれない。(R)



事業全体を俯瞰する目と“業種間連携”  下水道情報 第1908号(令和元年12月17日発行)
◇新法人「下水道事業の持続性を確保するための関係企業連合会(仮称)」の発起人会が先ごろ開かれ、来年3月の法人化に向け準備が最終段階を迎えている。会員企業100~200社を目標に、数とボリュームの力で骨太な政策提言を図っていきたいという。組織の特徴の1つが、コンサル、土建、プラントメーカー、維持管理、資機材などの業種を問わず下水道事業に携わる民間企業の結集を求めている点だ。これは、建設の時代から管理運営の時代に移行し、下水道に求められる役割の多様化や、PPP/PFIをはじめとした発注形態の変化などの背景から、従前の“分業制”の性格が薄まり、業種間の垣根が低くなっていることとも無縁ではないだろう。これからは自分たちが得意な領域だけを見ていてはダメで、事業全体を俯瞰するような幅広い視点を持つことが求められる。また、自分たちが得意でない領域を補うためには“業種間連携”も必須になってくる。既に共同企業体や提携など様々な形で連携がとられているが、今後はパートナー選びやそのための情報収集が一層重要になるのではないか。あくまで新法人の目的は、下水道業界が一致団結し、その声を多方面に届けることだが、業種を超えた場に身を置くことで一企業として得るものも必ず何かあるはずだ。(O)



金門島の汚水処理  下水道情報 第1907号(令和元年12月3日発行)
◇引退している国交省のOBから「金門島の汚水処理が面白い、一緒に行こう」と誘われて同行したのが、前号の海外レポート。小豆島くらいの広さしかない島に、汚水処理場6ヵ所、小型汚水処理施設27ヵ所を設置するという、見方によっては過剰な投資と思える事業が展開されていた。小豆島は集排施設と合併浄化槽で対応している。そんな疑問を台湾の下水道関係者にぶつけてみると、昔は約10万人の軍人が常駐していた。最近は2000人くらいに減っているが、島の定住人口は年々増加し、12万7700人になっている。観光人口も増え続け、今年1~8月に中国人約25万人、台湾人約23万人が訪れ、その他を合わせると観光客は延べ75万5300人に達している。大小の島に6つの人口密集地があり、それぞれに3000~6000m3/dの汚水処理場を建設し、100戸またはそれ以下の集落には小型一体化汚水処理施設を個々に配置する計画。数十年前まで、金門島の細かな様子は台湾人でも知ることのできない、厚いベールに包まれた軍事機密だった。河川がないため水不足に悩まされ、今も水源は当時の駐屯軍人が造った雨水を貯める人工湖と中国本土からの供水に頼っている。住民は家に雨水を集める樋を備え、井戸水も常時使用する。放流先がなく、下水処理水は雑排水を受け入れる排水溝に流されていた。(S)



「卒FIT」への1つの選択肢に  下水道情報 第1906号(令和元年11月19日発行)
◇一定規模以上のごみ焼却施設では通常、焼却熱でつくった高温高圧の蒸気でタービンを回して発電し、生み出した電気は場内利用を十分賄った上で売電されている。それでも、投入したごみの熱量を100%とすると、電気への変換効率は20%程度が関の山。残りはタービン排熱(約60%)や排ガス等への放熱(約20%)で大気放出されるのが一般的なエネルギー収支である。タービン排熱は40~60℃と低温のため用途が少ないが、この排熱による温水を隣接する都市ガス工場に供給することで、総体的なエネルギー効率を60%以上に引き上げた最新鋭の焼却施設が今春、広島県内で運転を始めた。このガス工場は以前、化石燃料を焚いて超低温の液化天然ガスを気化させていたが、一部を焼却施設の余熱で代替できるようになり、双方にメリットの大きい連携体制を築けている。我が国全体の最終エネルギー消費の半分は熱利用の形態だという。産業部門を中心に潜在的な「熱需要」は思いのほか膨大だ。近年はFITの後押しもあり、消化ガス発電に取り組む下水処理場もにわかに増えてきたが、少し目先を変えて、消化ガスやタービン排熱、汚泥焼却炉の排熱などを熱源とする外部熱供給(熱電併給)事業は成り立たないものか。立地条件と供給インフラさえ整えば、十分可能かと思える。(Y)



「管路更生大学」通じた人材確保の着実な取り組み  下水道情報 第1905号(令和元年11月5日発行)
◇日本大学生産工学部土木工学科と(一社)日本管路更生工法品質確保協会、東京都下水道サービス㈱は、本年度も連携して「管路更生大学」を実施する。森田弘昭教授の「水環境浄化システム」の講義の中で、基礎的な下水道の講義に続き、「管路の維持管理」「下水道管路の調査点検」「管路更生工法」「管路更生のデモ施工」「試験」の5講義を「管路更生大学」と称して実施する(10月下旬から11月上旬に予定)。管路更生大学は平成29年度にスタートし、今回が3年目となる。講義の中で、特に管路更生のデモ施工の見学は「実際の機械や材料を見ることができ、わかりやすい」と学生からも評判という。下水道管路メンテナンスの分野は人手不足が深刻な状況にあり、将来を担う若い人材の確保も大きな課題となっている。こうした中、管路更生大学は、学生は土木業界で必要となるインフラメンテナンスに関し、専門的で生きた知識・経験を学ぶことができ、業界にとっては次世代の土木技術者に管路メンテナンスの重要性や魅力を知ってもらう絶好の機会となる。実際に卒業生の中から下水道分野に就職した者もいるという。人材確保は産官学が連携し、多角的、継続的な取り組みが必要となる。管路更生大学のような地に足のついた取り組みが拡がっていくことを期待したい。(M)



広域化・共同化、実現のカギ  下水道情報 第1904号(令和元年10月22日発行)
◇人口減少や施設の老朽化、執行体制の脆弱化など、下水道事業を取り巻く環境が厳しくなる中、国交省が“下水道経営を救う”施策と位置づける「広域化・共同化」。本紙の調べでは、すべての都道府県が昨年度末までに検討体制を構築し、26府県がブロック割を確定、30都県が計画策定に関する支援業務を発注していることがわかっている(本号巻頭記事を参照)。国交省は都道府県に対し、令和4年度までに広域化・共同化計画を策定するよう求めており、今年3月には総務、農林水産、環境の各省と連携し、「広域化・共同化計画策定マニュアル(案)」を作成した。広域化・共同化は、行政界をまたいだ施策だ。様々な調整が必要になるほか、市町村間で実現をめざす温度差が出てくる可能性も高いだろう。このため、課題・要望の丁寧な汲み上げや意識の醸成、俯瞰的な視点での事業スキームの作成など、都道府県が担う役割は大きい。かつて都道府県を取材で訪ねると、管轄している市町村の事業についてかなり細かいところまで把握している人がいた。地方分権の流れの中では都道府県と市町村との関係にも変化があり、そうした人は少なくなった。だが、広域化・共同化を実現させるためには、中心となる存在が必要だ。今あらためて、都道府県のリーダーシップが求められているように思う。(T)



台風15号で大規模停電  下水道情報 第1903号(令和元年10月8日発行)
◇自然災害が毎年のように大きな被害をもたらしている。今年も9月上旬、台風15号が関東地方に大規模な広域停電を引き起こした。停電の復旧に異例の時間を要する事態となった千葉県では、約50ヵ所の下水処理場・ポンプ場(マンホールポンプは除く)で停電が発生。多くの施設では自家発電設備が稼働して事なきを得たが、マンホールポンプなどを中心に自家発を未設置の施設では、可搬式発電設備や電源車を手配する対応がとられ、中には手配に時間を要して下水道の使用自粛を要請した事例もあった。こうした事態を受け国交省は9月27日付で事務連絡を出し、自家発の整備・点検や下水道BCPに基づく対応など、ハード・ソフト両面から停電対策を徹底するよう要請した。停電時の対応をどうすべきか。この問題は昨年9月の北海道胆振東部地震でも顕在化しており、国は対策に力を入れている。ハード面では「3か年緊急対策」で自家発の設置・増強をメニューの1つに位置付けて推進、ソフト面では年内の改訂をめざす下水道BCP策定マニュアルの中に同地震の教訓を盛り込む。マニュアルに関しては急遽、今回の停電の事案も考慮しながら取りまとめることとした。大規模停電は地震、台風など災害の種類を問わず発生しうるものであり、電力に依存する下水道施設にとって非常用電源の確保は今後も大きな課題になりそうだ。(O)



“目から鱗の施策” 小口径管をφ400mmに統一  下水道情報 第1902号(令和元年9月24日発行)
◇日本では小口径管としてφ250、φ300、φ350mm等、いくつもの管径が使われている。流入水量に応じて管径を決めるのが経済的との考えからきている。そうした手法に疑問を投げかける人はいなかったように思う。今年の横浜下水道展で台湾の下水道関係者と話した時、台湾では小口径管の管径を一律φ400mmに統一する方向だという。日本より土質が悪く、玉石や礫が多く出土するため、施工しやすいという理由が背景にある。日本でも稀なケースとして、本来φ350mm管を布設すればいいのに、小口径では施工できないという理由からφ800mmで施工し、φ350mm管を布設したという話を聞いたことがある。下水道事業は建設から管理の時代を迎えている。そうした時代では、小口径管の管径をφ400mmに統一といった施策は、維持管理面から別の価値を生み出す。余裕のある管径は管内調査や補修がしやすい。それは維持管理業務の効率化や費用の低減につながる。また、一律の管径は更新・更生などの技術開発でも、的を絞りやすい。このほかにも、漏水の多くは取付け管の部分に集中している。管径の異なる管と同一の管を取付けることを比べれば、取付け部の強度や耐久性に差が生じる。小口径管を一律の管径にする試みは〝目から鱗の施策“と思えた。(S)



地中深くから汲み出すエネルギー  下水道情報 第1901号(令和元年9月10日発行)
◇福島県・奥会津地方の山中にある東北電力㈱柳津西山地熱発電所を取材で訪れた。地熱発電の仕組みは至ってシンプル。地下深くに眠るマグマが周囲の地下水を熱し、200~300℃の蒸気・熱水のプール(地熱貯留層)を形成する。ここから蒸気を井戸で汲み出し、蒸気タービンを回して発電。使い終えた蒸気は復水器で水に凝縮し、別の井戸で再び地中に戻すというものだ。国内では現在、火山帯が集まる九州と東北を中心に、37の発電所が24.8億kWhの電力を生み出している(H29末時点)。天候等に左右されない安定した大規模電源であり、理論上、無尽蔵の深部地殻エネルギーを半永久的に活用できる。ところが、この柳津西山で今直面している課題が、地下から得られる蒸気量の減少による発電量の低下。稼動当初は定格出力(65MW)に近い発電が行えていたが、現在は22~24MWでの運転を余儀なくされている。蒸気量減少の要因として、井戸で地下に還元した水が地熱貯留層まで届いていないためと想定し、同社では新たな還元地点を探るプロジェクトを進めており、その成果に期待を寄せている。世界屈指の「火山大国」において、不利な立地を逆手に取り、地熱という純国産資源を存分に使える発電技術だけに、その確立・ブラッシュアップでもぜひ世界をリードしたい。(Y)



マネジメントサイクルの確立に向けた技術検討  下水道情報 第1900号(令和元年8月27日発行)
◇国交省は新下水道ビジョン加速戦略に「マネジメントサイクルの確立」を掲げ、データベース化した維持管理情報の活用による修繕、改築の効率化を推進している。吉澤正宏下水道事業課事業マネジメント推進室長は「施設情報や維持管理情報等のデータの徹底活用がより良いマネジメントサイクルを回すのに必要不可欠であり、民間活用を促進し、民間企業のより良い創意工夫を引き出すのにも不可欠」と指摘する。周知のとおり、下水道施設の老朽化は深刻で、管路については布設後50年を超えるものが平成29年度の約1.7万㎞から20年後には約15万㎞に増加。下水道施設の維持管理・更新費は2018年度0.8兆円から20年後に1.3兆円(1.6倍)に増加する見通しだ。こうした中、国交省は7月下旬、「下水道管路施設における維持管理情報等を起点としたマネジメントサイクルの確立に向けた技術検討会」を立ち上げた。「維持管理情報等の活用方法」「データベースの機能や運用方法」「点検・調査技術」「より効率的な点検・調査方法の構築」等を検討し、年度末をめどに「ガイドライン(管路編)」をまとめる。ストックマネジメントの実践に向け、これまでの「情報の収集・整理」から「いかに情報を活用するか」に軸足が移ろうとしている。活発な議論を期待したい。(M)



インフラの補修に市民の力  下水道情報 第1898号(令和元年7月30日発行)
◇宅配ピザ屋が道路を舗装する-。「Paving for Pizza」(ピザのための舗装)というキャンペーンを、宅配ピザチェーン「ドミノ・ピザ」がアメリカで展開している。荒れた道路では、ピザを「安全に」届けることができない。そこで同社はWebサイトで要請を受け付け、自治体と連携して道路のくぼみやひび割れの舗装を行っている。舗装を終えた道路には同社のロゴマークと「OH YES WE DID」というメッセージが記され、社会貢献を兼ねた斬新な広告キャンペーンとして話題だ。企業名を刻印してしまうのはなんとも大胆で、真似をするのは相当にハードルが高そうだが、インフラの老朽化対策への取り組みとして興味深い。日本では、公共施設の損傷や不具合を無料通信アプリの「LINE」で通報できるサービスを複数の自治体が導入しており、先月には福岡市が開始した。「道路」「河川」「公園・緑地」「市立霊園」から項目を選び、日時や位置情報、写真などを送信、担当課が対応事例をホームページで公表する仕組みになっている。下水道事業でも、たとえばマンホールふたなどであれば、こうした仕組みを採り入れられる可能性があるかもしれない。インフラの老朽化が急速に進む一方で「カネ」と「ヒト」が不足する中、企業や市民の力を借りる工夫は今後より必要になってくるだろう。(T)



MMTと下水道  下水道情報 第1897号(令和元年7月16日発行)
◇MMT(Modern Monetary Theory、現代貨幣理論)が話題になっている。自国通貨の借金で財政破綻することはないため、財政赤字ではなくインフレ状況を財政支出の制約として、国が必要な事業に予算を投じることができるという主張だ。さらに、政府の負債が増えるほど国民の資産は増えるという。消費増税の根拠を覆す理論として、俄かに注目を集めている感がある。この理論、専門家の間でも意見が割れており、事の正否は容易に判断しかねるが、仮に正しいとした場合、下水道事業に当てはめて考えるとどんな意味を持ってくるだろうか。一昨年の財政審の建議に端を発し、下水道の改築更新への国庫補助の継続が懸念される事態となった。その後、多くの自治体等から反撥の声があがったこともあり最悪の事態は回避したが、依然として国庫補助継続の懸念は払拭されていない。財政審の言い分はいろいろとあるだろうが、それらは日本の財政が危機的状況にあるという前提に立っている。公共事業の予算が限られる中、下水道事業は他の公共事業と違って使用料を徴収することができるため、国費を削減して何とかやってもらうしかないというわけだ。一方でMMTはこの前提を否定し、むしろ必要な事業に財政出動をして経済活動を活発化させるべきという考え方である。1つの意見として耳を傾けたい。(O)



下水道企業連合会(仮称)の設立  下水道情報 第1896号(令和元年7月2日発行)
◇民間企業有志による「新法人の設立」に向けた動きが加速している。これまで事務方を務めた下水道機構から民間企業6社(日水コン、NJS、管清工業、メタウォーター、月島テクノメンテ、機動建設工業)に引き継がれ、今秋にも発起人会が開催される見込み。管路関連企業や団体を束ねて、司令塔を創ろうとした出発点から、業種を問わず下水道関連企業や団体が集まり、民主体の一大勢力を築こうとする方向へ変化した。共通の利益を確保するため、政治家へのロビー活動や一般人へのPR活動を積極的に展開するという。国(国交省)や、下水道協会を核とした地方公共団体の集まりとは別に、民間企業や団体がもう一つの勢力となり、互いにスクラムを組んで下水道事業の発展を促すという試み。予算確保や下水道への理解者を増やすといった共通目標を掲げて、業種を跨いで連携しようという行動は素直に評価できる。新法人の発足時に、どれだけの企業が加わるのか、注目される。しかし、この話を最初に聞いた時、疑問に思ったのは下水道協会の中にある多くの賛助会員(民間企業)の存在。それとの兼合い、役割分担が今一つ分かりにくい。下水道協会が自治体を束ね、民間企業が新法人に集結するといった形は取れないものか。新しい時代の到来を機に、未来志向の転換の時期が訪れていると思える。(S)



プラごみを「宝の山」にできるか  下水道情報 第1895号(令和元年6月18日発行)
◇世界的に大きな波紋を投げかけている「プラスチックごみ」の問題。日本ではこれまで、年間約900万t発生するプラごみの一部を、安価な再生樹脂材料として輸出することで国外に排除してきた。しかし、最大の受入国だった中国が2017年、環境汚染を理由に輸入禁止を通告。その後開拓した輸出先の東南アジア諸国も相次ぎ輸入制限に踏み切ったため、大量のプラごみが現在、国内で行き場を失っている。この状況を受け、産廃と一廃の壁を仕切る環境省が先ごろ、産廃プラを自治体のごみ焼却施設で受け入れるよう通知を出したのは、緊急措置とはいえ非常に驚きの対応である。ただ、ごみ焼却施設は対象物の発熱量に基づき緻密なプラント設計がされているため、いきなり産廃プラを混合しても設備トラブルの要因になりかねない。灰処理・排ガス処理にも問題が出るし、何より地域住民の理解を得ることも困難だろう。それでも、機器の改造等により技術的課題をクリアできれば、プラごみは「宝の山」に変わる。処理委託料を得つつ燃料として安定確保し、より高効率な発電で安価な地産型電力を供給すれば、地域還元も十分に果たすことができる。プラごみの自国内処理体制の構築が急がれる今、焼却施設は地域に不可欠なエネルギー拠点へと進化する絶好のチャンスを迎えている。(Y)



発注者、受注者連携し担い手不足への対応を  下水道情報 第1894号(令和元年6月4日発行)
◇「仕事はあるが、なかなか手を作れない」と話すのは、ある地方の管路更生工事を得意とする建設会社の経営者。地元自治体からはコンスタントに工事発注があるが、人手不足で受注が制限されるのが悩みだ。「我々の仕事はもともと人が嫌がる仕事だが、それでも以前は給与次第で人はきた。今はそれだけではなかなか難しい」と嘆く。世の中全体で働き手の奪い合いをしている中、いわゆる“3K”仕事にはなかなか人が集まらない。自治体にしても担い手不足は看過できない問題だ。発注の平準をはじめ様々な入札不調対策を講じているが、なかなか劇的な改善には至っていない。この状況が続けば目標達成の遅れといった問題が現実的になる。ではどうすべきか。業界が考えているのが機械化による省力化、無人化だ。将来的にはそういう方向に進むとし、目下、各社がさまざまな技術開発を進めている。だがそこまでいくには暫く時間が必要だ。それまではなんとか人手を確保しなければならない。日本の若年層にアピールし、担い手になってもらえれば良いが、それができないなら外国人の本格的な活用も検討すべきとの考え方も広がっている。いずれにしても、担い手問題は下水道事業にとって急速に大きな課題になっている。発注者、受注者が連携して早急に対応していかなければならない。(M)



下水処理場調査で見える動き  下水道情報 第1893号(令和元年5月21日発行)
◇小社では全国の自治体を対象とした「下水処理場調査」を約2年ぶりに実施し、1834処理場の調査結果をまとめた『下水処理場ガイド2019』を3月末に発刊した。そこに掲載した各種取り組みの検討状況などを紹介してみたい。「包括的民間委託」は全体の26.6%にあたる487ヵ所が導入し、279ヵ所が導入検討中。「指定管理者制度」は59ヵ所が導入し、28ヵ所が導入検討中だった。「汚泥のエネルギー利用」に関しては消化ガス発電を59ヵ所が、固形燃料化を43ヵ所が検討している。今回は「広域化・共同化に関する取り組み」と「PPP/PFI手法などの活用」の2項目を新規調査した。「広域化/共同化」を「検討中」とした回答の内訳は、「他処理場への編入」122ヵ所、「他処理場を接続」125ヵ所、「農集排施設を接続」240ヵ所、「汚泥処理の共同化」262ヵ所、「維持管理の共同化」218ヵ所(複数選択可)。「PPP/PFI」を「検討中」とした回答の内訳は、「PFI」71ヵ所、「DBO」55ヵ所、「コンセッション」51ヵ所(同)だった。今回の調査では、前回調査以降に廃止・転用された処理場が10ヵ所程度あったことがわかり、全体計画や事業計画を縮小する回答も目立った。事業を縮小せざるを得ない自治体の事情を背景に、民間活力の活用や施設の統廃合に向けた動きが加速しつつあることが見て取れる。(T)



雨天時浸入水対策の検討が本格化  下水道情報 第1892号(令和元年5月7日発行)
◇国交省が分流式下水道の雨天時浸入水対策について検討委員会を設置し、年内をメドに今後の対策の基本となるガイドラインを策定する。まずは実態把握のため、過去の被害調査への協力や今後問題が発生した場合の報告を自治体に求めている。雨天時浸入水は、不明水の1種で、分流式にもかかわらず降雨時に何らかの原因で下水の流量が増加する現象のこと。その原因としては、老朽化や地震の被災による管路への地下水の浸入、雨水管と汚水管の誤接続などが考えられている。処理場の能力を超過してマンホールから下水が溢れるなどの問題が発生しており、自治体の中には独自に対策の検討を進める動きも見られる(滋賀県、奈良県など)。対策としては大きく2つがある。1つは、浸入の原因を特定し改善する発生源対策。もう1つが浸入を前提として施設で対応する方法だ。現行の計画・設計の考え方では、雨天時浸入水による増量分は見込んでおらず、発生源対策を中心に、あくまで施設の余裕の中で対応することとなっている。しかし近年の降雨の激甚化などの背景から対応が困難になっているケースも想定される。今回、増量分を見込んだ対策についても委員会の検討テーマにあがっており、計画・設計の考え方の見直しにつながるか注目される。(O)



都水道局の人事 監理団体改革や談合問題が影響か  下水道情報 第1891号(平成31年4月23日発行)
◇東京都水道局の監理団体改革や談合問題が、今春の人事異動に少なからず影響を与えたように思う。本年4月1日に水道局の前浄水部長が、下水道局の建設部長に就任した。水道局の浄水部長は技術系の有力なポストとして知られている。また、水道局の技術系部長が下水道局に異動するような人事は前例が殆どないため、談合問題の発生を念頭に置いた厳しい措置だったのではと囁かれている。このほか、3月29日の会見で小池知事は、水道局の監理団体、東京水道サービスの社長として野田数(かずさ)氏を推薦すると述べた。周知のように、野田氏は小池知事が衆議院議員だった頃の秘書で、後に東村山市議、都議会議員になり、都民ファーストの会の代表にもなっている。小池知事が同代表に就いてからは、知事の側近の一人として特別秘書を務めてきた。3月末の人事異動で同秘書を退職し、今度は東京水道サービスの社長として監理団体改革を任されるという。東京水道サービスとPCU(水道料金徴収会社)は、今年度内に統合される予定のため、新しい監理団体の陣頭指揮を執ることになる。都庁内では「側近の優遇、形を変えた天下り人事」との批判も聞かれる。こうした一連の動きは、下水道局にとっても無関心ではいられない。水道局と同時進行で、下水道局の監理団体の経営改革が始まっている。(N)



実行を見据えた計画づくりを  下水道情報 第1890号(平成31年4月9日発行)
◇ごみ焼却施設から排出されるダイオキシン類の削減のため、厚生省(当時)は平成9年、可能な限り焼却能力300t/日以上の全連続式施設を設けられるよう、管内市町村をブロック化した「広域化計画」の策定を都道府県に要請し、わずか1年で全都道府県が計画策定を終えて取り組みを開始した。その結果、設備面の対策工事も奏功し、現在までにダイオキシン類が基準値を超える施設はほぼ一掃。ただし、47都道府県の広域化計画に位置づけられた全315の広域ブロックのうち、計画どおり実施中の箇所は約半分の169ブロック、一部実施中が57ブロックに過ぎず、残る89ブロックは手付かずというのが実状だ(平成28年度時点)。経済的な事業運営や熱回収の高効率化等の観点から、国はさらなる広域化・集約化の推進を促しているが、自治体間の合意形成や新施設予定地選定の難航、災害時を考慮した分散処理の意図的選択などが動きを鈍らせているという。汚水処理分野でも今後、「広域化・共同化計画」の策定作業が本格化する。関係自治体が足並み揃え主体的に取り組める、現実味ある行動計画に仕上げるには、その検討過程において、各事業担当者の現状認識や自治体間の共通理解を深めることが不可欠。その空気を醸成しうる、仕切り役の都道府県が果たす役割は思いのほか大きいと思われる。(Y)



下水熱利用の促進に期待  下水道情報 第1889号(平成31年3月26日発行)
◇長野県は流域下水道管に内在する下水熱の利用促進を図るため、賦存量や存在位置を見える化した「下水熱ポテンシャルマップ」を公表した。県は昨年、省エネ、創エネ対策により流域下水道の全エネルギー消費量の収支ゼロをめざす「ZEROエネルギープラン」を策定。長期目標として、50年後のエネルギー自給率100%、省エネルギー化率40%、温室効果ガス削減率70%を掲げた。この中で、創エネ対策として消化ガス発電、太陽光発電とともに位置づけたのが下水熱利用だ。管内では既に諏訪赤十字病院が利用開始しているが、その動きをさらに拡げていきたい考えだ。今後、流域ごとに検討会を設置し、下水道管理者による利用促進等を検討するとともに、流域下水道管に近接する事業者にも検討を促す。全国を見ても、下水熱利用の取り組みは始まったばかりで導入例も少ないが、法改正により、民間事業者が下水道管理者の許可を得て下水を取水することができるようになったり、下水道管に設置して下水熱を回収する技術が開発されるなど、環境整備は着々と進んでいる。次の展開としては、こうした下水熱の存在や有用性、利用できる環境整備が進んでいることを広く知ってもらう取り組みが必要だ。そのためにもポテンシャルマップの作成が各地に広がることが期待される。(M)



“オールインワン”の「JIS A 5506」  下水道情報 第1888号(平成31年3月12日発行)
◇大雨が降り、下水管路内の水位が急上昇すると、マンホールの内圧が高まる。集中豪雨が頻発する中では、マンホール蓋の飛散防止などのリスクを低減する取り組みが急務だ。昨年12月、下水道用マンホール蓋の規格である「JIS A 5506」が改正された。7回目となる今回の改正では、近年の気候変動などを踏まえ、集中豪雨に対する安全性の確保を主目的に、蓋の種類や性能を見直した。豪雨によるマンホールの内圧上昇に対する安全対策に関しては、日本下水道協会の規格「JSWAS G-4」で規定されており、この内容を反映させたかたちだ。蓋を一定の高さ以下で浮上させ内圧を逃がす「圧力解放耐揚圧性」や、異常内圧で蓋が開放された際に転落を防ぐ「転落防止性」などの性能が追加された。これに加え改正版では、蓋の施工・設置・維持管理に関する要領を「附属書」として示したことも特徴的だ。製品規格であるJISにこうした資料を盛り込むことには議論があったようだが、製品の性能を適切に発揮させ、安全性の長期維持を促すための配慮となっている。ユーザーである自治体の技術力の低下が懸念される中、蓋の選定から管理まで、“オールインワン”のマニュアルのように仕上がった意味は大きい。(T)



ステレオタイプなコンセッション反対意見に疑問  下水道情報 第1887号(平成31年2月26日発行)
◇今号は昨年4月に事業開始した浜松市・西遠処理区のコンセッションについてインタビューを掲載した。コンセッションと言えば、昨年末に成立した改正水道法をめぐる議論に端を発して俄かに風当たりが強くなってきた感がある。下水道に続き、水道事業へのコンセッション導入も検討していた浜松市では、市民に理解が行き届いていないという理由から、水道事業への導入は当面延期する方針を発表した。ただ、一連の議論におけるコンセッションへの反対意見の中には首を傾げたくなるものも多い。例えば「民間に任せて果たして安全な水が供給されるのか」という主張だ。これは、あまりに「民間=悪」というステレオタイプなイメージに引っぱられすぎている。ある人が「民間が製造している飲料水やビールは普段から口にするのに、なぜ水道水だけ怖がるのか疑問」と話していた。もっともだと思う。「なぜコンセッションなのか」という意見も多い。しかし、これも、コンセッションに特有のメリットはあると思う。例えば長期契約や保全管理の内製化によるコスト縮減だ。今号に掲載したインタビューでもそのあたりは詳しく説明してもらった。民間の撤退を危惧する声も聞かれる。これもインタビューで言及されているが、工夫次第で事業撤退を抑制する仕組みが十分機能するのではないか。(O)



コンセッション事業の収益  下水道情報 第1886号(平成31年2月12日発行)
◇“需要創造型”でない上下水道コンセッション事業に、民間企業が参入するメリットは何なのか。空港なら航空機の便数や店舗を増やすなど、企業努力で増収の途が拓ける。道路事業でもサービスエリアの拡充など、同様の効果が期待できる。使用料収入しかない上下水道では、増収策を考えにくい。そんな疑問に対し専門家は、二つ返事で答えてくれた。コンセッションはSPC(特別目的会社)に事業投資してリターンを得るのが主な目的。SPCの経営を好転させるため、運営権者は保有するノウハウやエンジニアリング力をフル活用する。つまり、SPCの経営を向上させて高配当へと導く。そのために運営権者は、自社の職員をSPCに送り込む。この人材派遣も隠れたメリットの一つとなる。SPCの経営が好転し、高い配当が得られるようになれば、今度は無議決権株式の売却といった出口戦略が考えられる。リスクがなくなって、安定した収入が得られるようになると、高い株価でも購入する投資家は見つけられる。このほかにも、運営権者には施設の改築更新などの工事発注権限が与えられる。自社や関連企業に仕事を請負わせることも可能になる。運営権の取得から、人の派遣を含む事業投資によるリターンの回収、経営改善の成果としての出口戦略、関連工事の請負など、複数の収益パターンが見えてきた。(S)



「開かれた施設」への試み  下水道情報 第1885号(平成31年1月29日発行)
◇約1年前、東京都武蔵野市のごみ焼却工場「武蔵野クリーンセンター」を取材で訪れた。閑静な街中に市庁舎と並び建つ同センターは、敷地境界の囲いさえ設けず、煙突がなければ美術館かと見紛う斬新な外観。工場棟は日中、予約なしで自由に出入りでき、回廊状のコースを一周しながら処理の流れを見学できるよう、逆算的に設備機器の配置計画を工夫。構想段階から市民団体も交えて検討を重ね、「見せる施設」「開かれた施設」を徹底追求した革新的な施設である。そして、同センターが現在実施中の遊び心に満ちたイベントが人気を博している。見学エリアからガラス越しにごみピットの様子を見ながら、地ビールやカクテルを味わえる「gomi_pit BAR」の開店だ。2月までの期間限定だが、市内外から予約申込みが多く寄せられ、利用者にも好評という。こんな柔らかい発想力やチャレンジングな気概は、事業分野は違えど大いに評価し、学び取りたい。下水処理場の広大な敷地の一角に、近隣住民が散歩中に立ち寄れるカフェやドッグランを設けたり、夏場は特設のビアガーデンで、幻想的にライトアップされた消化槽や焼却炉を眺めつつジョッキを傾けるのも悪くない。安全面に十分配慮すれば、処理場を都会のオアシスに変えられる。〈工場萌え〉ブームの今、話題づくりにも十分な試みだろう。(Y)



財政負担や運営形態の国民的議論を  下水道情報 第1883号(平成30年12月18日発行)
◇今年を振り返って、下水道界で大きな話題になったことと言えば、一つは財政審の建議から端を発した財政負担論、もう一つはコンセッションを含む運営形態の議論ではないか。いずれも、下水道界の枠を超えて議論され、国民の関心が高まったことが一つの大きな意義だったと思う。財政負担論は、東京都議会の意見書提出から始まり、大都市に波及した。各都市の首長や議会を巻き込み、下水道の「広域的な公共性」をはじめとする役割、それゆえの国費投入の必要性等が確認、アピールされた。一方、運営形態の議論も水道法改正に絡んでマスコミにたびたび取り上げられた。はじめから反対ありきの悲観論や不安を煽るような論調が目立ったのは残念だったが、それでも上下水道そのものに国民が関心を寄せるきっかけになったのは良かった。今後各地で水道、下水道のコンセッション等が導入されるたびにまた耳目を集めることになるだろう。下水道界にとっていま大切なのは、下水道の役割、特徴、どういう危機に直面しているか等を国民に正しく理解してもらい、これらからの時代にふさわしい財政負担や運営形態の考え方をオープンに議論し、国民的な同意を得ることだ。その意味で国民の関心が高いいま、そうした議論を大きく展開するチャンスを迎えているとも言えるのではないか。(M)



コンセッション方式の「必然性」  下水道情報 第1882号(平成30年12月4日発行)
◇水道法改正案が11月22日、参議院で審議入りした。コンセッション方式の導入を可能にする同法案については“水道民営化”といった表現を使い、海外での再公営化の事例などとともに多くのメディアが取り上げている。“民営化”ではないという誤解もあるが、「民から官に戻す」流れが世界にあるのは事実だ。PFI発祥の地のイギリスでは財務大臣が10月、PFIとPF2(PFIの改良方式)を今後の新規事業に適用しないと表明しており、こうした現状は真摯に受け止める必要がある。水道コンセッションの報道や議論を見ていると、料金値上げや企業の撤退、災害対応の不備など、「反対派」の懸念ははっきりしている。対する「推進派」(あるいは国)は、リスクへの一定の対応策を示してはいるものの、今ひとつメリットを表現できていない。もちろん長期委託によるコスト縮減や民間の技術力による事業の改善などがあるのだが、「通常の民間委託とどう違うのか」といった問いに明確に答えるには至っていないように映る。コンセッション方式を経営改善策の「選択肢」のひとつと位置付ける一方で、本当に困窮している中小の自治体には不向きだという点を、矛盾に感じる人もいるはずだ。コンセッション方式である「必然性」は、導入を考えるにあたり、最も根本的で重要なポイントになるだろう。(T)



省エネ性能指標  下水道情報 第1881号(平成30年11月20日発行)
◇国交省は、機械設備の省エネ効果を評価する新たな「性能指標」を検討している。もともと同省が下水処理場で省エネ・創エネ技術の導入を促すため始めた施策で、26年度に第1弾として「消化槽」「消化ガス発電」「消化ガス精製」「消化槽を加温する場合のヒートポンプ」の各技術、29年度に第2弾として「焼却炉」が設定された。今回、検討を始めたのは、まだ性能指標が設定されていない主ポンプ、反応槽設備(攪拌機)、脱水設備、濃縮設備などだ。指標が設定された設備は、新設・改築に対する国庫補助を受ける場合、その指標を満たすことが条件になる。例えば焼却炉であれば「廃熱回収率40%以上かつ消費電力量削減率20%以上」と設定されている。国庫補助の要件に絡むこともあり、指標の設定はなかなか容易ではないと想像される。確かに特定の技術を優遇して他を切り捨てるような高すぎる水準は好ましくないだろう。しかし一方であまりにも当たり前の指標であれば省エネ技術の導入を促すという本来の趣旨から遠くなるし、企業の技術開発を促すインセンティブという効果を考えると、ある程度のレベルを設定すべきとの見方もできる。業界や関係団体の声も聞きながら、落としどころを慎重に探ってもらいたい。(O)



健全なエネルギーミックスを  下水道情報 第1880号(平成30年11月6日発行)
◇地震・津波被害で深刻な放射能汚染を招いた東京電力福島第一原発では現在、多くの関係者の手により、苛酷な環境下での廃炉作業が続けられている。その状況を視察するため、ある学術団体と連携して近く現地に出向く予定だが、こうした懸命の取り組みの一方、各地で停止中だった原発の運転再開に向けた動きは着々と進んでいる。原発再稼動には感情論も含め賛否あろうが、安全性の問題とは別に、最近新たに浮上した懸念は、供給力が不安定な再生可能エネルギー(自然変動電源)の立場をいよいよ圧迫し始めたことだ。玄海・川内両原発で計4基が動き出した九州電力エリアでは10月、全国初の本格的な出力抑制が一部の太陽光発電事業者に指示され、その後も複数回繰り返された。同様の措置が今後、全国で常態化してくれば、FITに後押しされた導入拡大の機運にも水を差すこと必至である。再エネを最大限活かすために、原発・火発のできる限りの稼動抑制、地域間連系線のフル活用・能力増強など、改善策を講じる余地はまだ多く残されている。九州では後手に回ったが、再エネを確実に受け容れる環境づくりは本来、原発再稼動へのプロセスと同時並行的に実現されるべきだ。原発ありきの安直な再エネ排除がまかり通らないよう、前向きな対応を期待する。(Y)



藤本道生氏(元和気町長)に上海市栄誉市民の称号  下水道情報 第1879号(平成30年10月23日発行)
◇日中友好に多大な貢献を果たしたとして、上海市は岡山県和気町の元町長、藤本道夫氏に栄誉市民の称号を授与した。日本人の上海市栄誉市民は、これまで6人で、7人目となる。藤本氏は和気町長だった1992年に、上海市の嘉定県と友好交流関係を結び、1997年には友好締結5周年の記念事業として藤の苗120本を持ち込み、嘉定城南の古城河付近に植樹した。それが基になり、現在では敷地約1万㎡の「嘉定紫藤園」がつくられている。上海市民の藤の名所となり、多くの観光客を集める。植樹の後も、藤本氏は年に何回か紫藤園を訪れ、栽培を指導してきた。上海市には100回くらい足を運んだという。和気町には全国津々浦々から多種多様な藤を集めた藤棚公園があり、花の咲く季節には西日本を中心に何十万人もの観賞客が訪れる。和気町で培った藤の栽培技術を上海市の嘉定県に伝えて、日中友好の架け橋にしてきた。同氏は日本下水道協会の名誉会員でもある。和気町の下水道整備にいち早く取り組み、他の町村に先駆けて100%普及を成し遂げた。また、町村下水道推進協議会の会長職を長く務めた。中国を訪問すると、見知らぬ人から声をかけられることが多くなったと語り、上海は私の第二の故郷と公言する。日中友好に努めた功績を称え、地元の新聞はいつも「嘉定紫藤園の父」と紹介している。(S)



新企画加えた「更生工法に関する調査レポート」  下水道情報 第1878号(平成30年10月9日発行)
◇地方公共団体における更生工事の実績や主な工法の採用、今後の事業見通し等の最新動向をまとめた「下水道事業における管きょ更生工法に関する実態調査レポート 2018年度版」を9月28日に発刊した。今回は新企画として、昨年(公社)日本下水道協会から発刊された更生工法の「ガイドライン」で、施工管理の観点から「主任技術者、監理技術者」および「資格制度の活用」に関する方向性が示されたことを踏まえ、同項に関する各自治体の対応や今後の方針等も調査した。それによると、主任技術者・監理技術者に関する規定を「適用している」は26%、「今後適用予定」は13%、「検討中」が44%であった。「更生工事発注時に検討」という回答が多かったことから規定を適用する自治体は今後徐々に増加すると考えられるが、一方で規定の厳格な適用による応札率の減少や、地元企業への影響を不安視する自治体も少なくないことが見えてきた。更生工法は、採用する自治体が年々増加し、施工延長も右肩上がりだが、今回調査した施工管理をはじめ、設計、コストなどまだ課題も多い。一層安心して活用できる技術となるよう発注者、受注者、関係者が一体となって課題解消に取り組んでいかなければならない。引き続き動向を注視し、順次情報提供していきたい。(M)



納得のグランプリ  下水道情報 第1877号(平成30年9月25日発行)
◇災害時、「トイレの確保」は最も重要なことの一つだ。断水して汚物でトイレが溢れれば感染症の温床になり、トイレを控えることで健康被害につながることもある。そうした中、下水道に直結できるマンホールトイレは水洗トイレに近い環境を迅速に構築でき、東日本大震災や熊本地震でも活躍した。平成30年度「循環のみち下水道賞」のグランプリは、マンホールトイレの普及・啓発活動を進める岐阜県恵那市に贈られた。市では避難所に指定した小学校へのマンホールトイレの整備を進めていたが、その認知度の向上が課題に。そこで着目したのが、市内の「日本大正村」で毎年開かれるクロスカントリー大会だった。トイレが不足していたこの大会でランナーに利用してもらえれば、周知につなげられる。合わせて実施するアンケート調査で利用体験の結果を検証し、翌年の大会で改善を図るなど、PDCAによるブラッシュアップも続けている。さらに市は、マンホールトイレの設置から使用までを市民に学んでもらうため、防災学習会や防災訓練での設置体験会も開き、災害への備えに余念がない。恵那市の事例は、一見すると地味に映る施策かもしれない。だが、豪雨や地震といった災害が多発している今、その地道な取り組みの価値は大きい。納得のグランプリだった。(T)



国交省がフランスを視察  下水道情報 第1876号(平成30年9月11日発行)
◇国交省下水道部が今年6月に行ったフランス視察が話題になっている。昨年来の財政審の議論でも引き合いに出されたフランスの財政制度やPPPの調査が目的だ。下水道協会誌8月号で調査レポートが掲載されているほか、調査団を率いた加藤裕之・前下水道事業課長(現・日本下水道新技術機構下水道新技術研究所所長)が9月3日に下水道施設業協会主催のセミナーで、4日に下水道協会主催の説明会でそれぞれ成果を報告。13日に開催される新技術機構の技術サロンでも講演が予定されている。視察の成果は非常に興味深い。財政制度については、流域単位に設置された水管理庁による下水道への補助制度が確立しており、日本と同様、新設だけでなく、改築事業も補助対象になっていること、水道と比べて、公共用水域保全の役割を担う下水道に多くの補助金が配分されていること等を確認した。事業運営に係る費用を使用料だけで賄っているという認識は正しくないと言える。一方でPPPに関しては、広域化の法的義務化や、官に寄り添ってサポートする「Espelia社」というコンサル会社の存在、経営・サービスに関する指標「KPI」の活用など、日本も参考になるような、いくつかの発見があったという。視察の成果については本紙でも追って詳報したいと考えている。(O)



清掃工場が避難所になった  下水道情報 第1875号(平成30年8月28日発行)
◇西日本の広い範囲に甚大な被害をもたらした今年7月の西日本豪雨。中でも、堤防の決壊で大半が水没した倉敷市真備町地区の凄惨さは、全国ニュースでも大々的に報じられた。同地区内の小高い山の中腹に清掃工場・吉備路クリーンセンターが建つ。低地部が浸水した7月7日、多数詰め掛けた避難者に対し、同センターでは建屋内を可能な限り開放し、自主避難所を開設する決断を下した。現在、膨大な量の災害廃棄物の処理でフル稼動しつつも、いまだ自主避難所として、8月23日時点で25世帯・56名の住民を受け入れている。近年、清掃工場は防災拠点施設としての位置づけで注目されるが、学校の体育館や公民館にはない入浴施設・シャワー、快適な空調、洗濯機、非常用発電機、貯水槽、多数の電源コンセントなどが備わり、こうしたユーティリティの供給面でも、避難所としての適性が非常に高いことが今回のケースでも確認された。あとは、住民の日常を守りつつ避難所を運営する上で、強い責任感とリーダーシップ、高度な行政手腕を持った人材が施設内に必要となる(これが最大の課題だろうが)。吉備路クリーンセンターでの避難所開設を主導した、ある行政マン(真備町地区の被災住民)のレポートを小社『環境施設』9月号に掲載した。関心をお持ちの向きはぜひご一読いただきたい。(Y)



第三種郵便物等の法人向け集荷サービスの廃止  下水道情報 第1873号(平成30年7月31日発行)
◇日本郵便は郵便物の法人向け集荷サービスを6月末で廃止した。郵便物の集荷は、大量の郵便物をポストや郵便局に運び込むのが困難な法人を対象に、郵政民営化前から無料サービスとして続けられてきた。深刻な人手不足やコスト削減を理由に、「お中元」配送が佳境になる7月前に取りやめを決めている。中でも、低価格料金が設定されている「第三種郵便物」の集荷サービスは、優先度の高い廃止対象のようで、同郵便を日常的に、大量に郵送している通信社や出版社は、対応に苦慮している。低価格の第三種郵便物制度は、明治時代に始まった。「国民の文化向上に資する」、「政治、経済、文化、その他の公共的な事項を報道する」定期刊行物の郵送料を安くし、「社会・文化の発展に役立てる」ことを目的に制度化され、今日に至っている。認可の取得には、「一定数以上の部数を、号を追って定期的に発行し、総部数の80%以上が有償で、あまねく(不特定多数に)販売する」といった厳格な規定が付けられている。法人向けの集荷サービスの廃止は、第三種郵便物の設立主旨に触れるものではないが、公共的な報道を側面支援する姿勢が薄れてきているように思える。また、新聞のような紙媒体が報道の中心であった時代が終焉を迎えて、電子メディアに全面移行する過渡期の象徴なのかもしれない。(S)



下水道展 ’18北九州を見に行こう  下水道情報 第1872号(平成30年7月17日発行)
◇下水道展 ’18北九州が7月24~27日、西日本総合展示場で開催される。出展規模は301社・団体/865小間。来場者数は4万人と見込まれる。今年は同市の下水道事業100周年という記念の年だ。1960年代、工場や住宅からの排水等で水質汚染が進み、「死の海」と言われた洞海湾や紫川が下水道整備により水環境が飛躍的に改善し、今では市民の憩いの場として利用されるまでになった。また、近年は下水道の海外展開にも積極的に取り組んでいる。こうした下水道の先進地で下水道展が開催されることは意義深い。さて、下水道展の魅力はなんと言っても、下水道に関する各分野の最先端技術や機器、研究成果に関する情報が一度にまとめて得られることだ。出展各社の担当者に話を聞けば、技術開発の裏側から最新動向まで、普段は聞けない話を聞くこともできる。自治体の職員等関係者の方もぜひ会場に足を運び、直接担当者から情報収集、情報交換をされることをお勧めしたい。本誌では今年も例年同様、この下水道展を特集した臨時増刊を発行し、会期前に全国の下水道事業者に寄贈するとともに、会期中、会場で無料配布する。出展企業・団体と展示内容、併催行事、本誌が注目する技術・製品等の情報を満載した完全保存版だ。ぜひ、見学のご参考にしていただければありがたい。(M)



JSの基礎・固有調査研究  下水道情報 第1871号(平成30年7月3日発行)
◇日本下水道事業団(JS)が今年度から実施する「基礎・固有調査研究」。独自にテーマを設定し、自己財源で取り組む同研究の詳細が明らかになってきた。「基礎調査研究」では、他分野で開発が進んでいる先端技術を下水道事業に適用させ、将来的には民間企業との応用研究や、国・自治体との実証研究などにつなげることをめざす。一方、「固有調査研究」では対象を「コア技術」と「標準化技術」に分ける。「コア技術」の研究では、すでに普及している汎用性が高い技術を社会情勢の変化に応じて進化させ、改築更新などの最適化を支援する。「標準化技術」の研究では、JSが共同研究などで開発・実用化した技術のフォローアップを行い、仕様化・標準化を進める考えだ。研究に必要となる施設や設備は、技術開発実験センター(栃木県真岡市)に整備する。計画では、次世代水処理技術やAIを活用した管理の効率化・自動化技術の研究用パイロットプラント(基礎研究)、汚泥利活用の研究で使用する汚泥肥料分析装置や回分式嫌気性消化実験装置(コア技術)、コンクリート腐食促進装置(標準化技術)などが挙げられている。JSの独自研究は、補助金が廃止された平成26年度以降、久しぶりの取り組みだ。下水道界の技術開発を先導することに加え、主体的かつ中長期的な視点で取り組めることから、JS内部の人材育成などでのメリットも期待される。(T)



カヌー・スラローム会場  下水道情報 第1870号(平成30年6月19日発行)
◇2年後の開催に向け、準備が着々と進む東京五輪。先日はマラソンコースが決まったことも話題になった。東京都が新たに整備している競技場は水泳会場など10ヵ所あるが、中でも関連工事の入札で水処理業界の注目を集めたのがカヌー・スラローム会場だ。コース上に立てられたポールを通過する技術と、スタートからゴールまでにかかった所要時間の両方を競う競技で、前回のリオデジャネイロ大会で羽根田卓也選手が日本人初のメダルとなる銅メダルを獲得した競技としても知られる。会場は、全長約200m、幅約10mの競技コースやウォーミングアップコース等から成る周回状のプールで、水の流れをつくるための水中ポンプや、適切な水質を維持するためのろ過施設を設置しなければならない。関連工事は細かく分けて発注され、水処理業界からも多くの企業が入札に参加した。入札の結果、ポンプ設備は鶴見製作所、ろ過設備はメタウォーター、電気設備は安川電機がそれぞれ受注し、2019年5月末の施設完成をめざし工事が進められている。会場に近接する葛西臨海公園では江戸川区が見学コーナーを設けており、工事の様子を一望できる。向かいにある葛西水再生センターの「さわやか煙突」が視界に入るのも下水道関係者には一興だ。(O)



常時浸入水(不明水)への対応  下水道情報 第1869号(平成30年6月5日発行)
◇昨年4月、朝日新聞が仙台市の「秘密の管」として、下水管に流入する不明水を排除するために、下水道台帳にも載せていない「緊急避難管」を111ヵ所設置している、という記事を掲載した。先日は、佐賀県江北町で集中豪雨の影響から下水管に不明水が溢れ、汚水が流れなくなったという記事を日経新聞が報じている。不明水の存在は下水道関係者なら誰でも承知しているが、なぜかこれまで問題視されてこなかった。下水管の老朽化や誤接続、人孔部からの浸入など、原因は多岐に亘る。汚水管に大量の不明水が流れ込み、処理場設備に機能障害が発生したという報告もある。このほか、東日本大震災後の東北では、大地震の影響から雨天時に不明水が多く流入するため、地域の下水道関係者が集まり、溢水対策連絡会議を設置している。こうした背景を踏まえ、国は今年度より不明水対策に取り組むため、大手コンサルの日水コンとNJSの2社に依頼し、本格調査を開始すると聞く。不明水の浸入が避けられない、或いは一定量は認めざるを得ないということになれば、それに応じた施設能力の確保が必要になる。また汚水管に雨水等が流入するのなら、分流、合流という概念も見直されるかもしれない。下水道事業の根幹にかかわる問題が顕在化してくる。(S)



部分最適・全体最適  下水道情報 第1868号(平成30年5月22日発行)
◇廃棄物分野の人材育成を行う研修機関「フォーラム環境塾」では、毎年度末の卒塾式と合わせて、グループレポート発表会を開く。民間企業から参加した多くの塾生が6つの班に分かれ、班ごとに独自のテーマで調査・議論しながら数ヵ月かけて作成したレポートの内容とプレゼン技術を競う、1年の研修活動を締め括る催しだ。今年3月の発表会で最優秀賞に選ばれたのは、ごみ分野と下水道分野の連携による発電事業を提唱したレポート。従来のごみ焼却発電に、下水汚泥を補助的に加えることで、ごみ処理施設の発電電力を最大化する方策を、複数ケースの経済比較や技術・制度面の課題等とともに示した。さらに、発電した電気は自治体が小売電気事業者として地域に還元し、住民サービスの向上、地域内の経済循環、エネルギーの地産地消などを促す、地域貢献型の事業モデルに仕上げた点も興味深い。ごみ、下水、エネルギーなど、それぞれ専門が異なる企業からの塾生たちの集合体だからこそ作れた、説得力豊かな成果だ。事業分野の枠を越えて手を組むことで、最大の社会的便益が得られるなら、どちらが主役でも脇役でも関係ない。ごく当然のことなのだが、日ごろ各事業分野の領域内だけで〈部分最適〉を追及していると、つい見失いがちな大局観である。(Y)



更生工事の『配置予定技術者』等に関するアンケート  下水道情報 第1867号(平成30年5月8日発行)
◇弊社ではほぼ毎年、全国自治体における管きょ更生工法の施工実績や今後の見通し等を調査している。今回は例年の調査に加え、「更生工事における『配置予定技術者』および『資格制度』の活用に関するアンケート」を追加実施することにし、このほど調査票を発送した。このアンケートは、(公社)日本下水道協会より昨年発刊された「管きょ更生工法における設計・施工管理ガイドライン 2017年版」で、配置技術者についての規定が追加されたことに伴うもの。ガイドラインでは、更生工事の品質管理を確実に行うためには工事現場に更生工事の施工管理方法を理解している主任技術者、監理技術者を配置することが必要であることから、更生工事が主体の工事における主任技術者、監理技術者に求められる知識や能力を明確化するとともに、資格制度の活用を求めた。しかし、本件については各自治体が地域経済や産業育成、その他諸事情を踏まえ各々対応してきた経緯があり、ガイドラインでは方向性は示されたが、具体的な実施方法等は各自治体の判断、裁量に委ねられている。そこで、全国自治体の取り組み状況や今後の方針を調査し、関係者の今後の取り組みの参考となるような情報提供をしたいと考えている。この場を借りて自治体関係者の調査への協力をお願いしたい。(M)



JSの技術開発が持つ意味  下水道情報 第1866号(平成30年4月24日発行)
◇30年度のB-DASHプロジェクトの概要が明らかになった。ICTやAIを活用した効率化、資源の利活用などをテーマに、実規模実証7件、FS調査2件が実施される。29年度までに17件のプロジェクトに関わり、B-DASHで大きな存在感を示しているのがJSだ。30年度の採択案件でも3件で共同研究体の一角を担い、下水道の技術開発を先導する。JSはその一方で、独自にテーマを設定した「基礎・固有調査研究」を今年度から実施する。今年1月、同研究に関する中期計画(H29~33)を策定し、5年間で5億円程度を投じる考えだ。JSは従来、同様の調査研究を実施していたが、補助金が廃止された26年度以降はストップしていた。今回は自ら財源を確保し、真岡市の実験センターでの施設整備も計画するなど力を入れる。近年のJSの事業で大きなウエイトを占めてきた東日本大震災の復旧・復興支援は、組織を挙げた取り組みにより32年度末ごろに一定のメドが立つ。本紙の新春企画でJSの辻原理事長は「その先を見据えた仕事を今から仕掛けていかなければならない」と語った。“その先”の事業をどのように展開すればよいのか―基礎・固有調査研究の再開は、そうした危機感から実現したものともとれる。新たな事業の種を蒔く期間として、これから数年間のJSの技術開発が持つ意味は大きい。(T)



ゼネコンら建設業者の活躍に期待  下水道情報 第1865号(平成30年4月10日発行)
◇東日本大震災から7年が経過したが、地盤沈下した地域の排水施設など、被災により新たに必要となった施設を整備する「復興事業」は、まだ道半ばだ。今号の特集でも触れたように、復興事業を実施する27市町村のうち、16市町が30年度以降も事業を継続する。中でも、最大の事業規模を誇っている石巻市は、これからが本番と言ってもよいだろう。地盤沈下に伴う浸水対策として、排水ポンプ場11ヵ所、雨水幹線10本等を整備するもので、事業を全面的に支援する日本下水道事業団(JS)との協定総額は1460億円(うち復興事業1370億円)にのぼる。土建工事は29年度までに発注を終えているものが多いが、契約金額が200億円を超えた「石巻中央排水ポンプ場復興建設その2」を筆頭に、10億円超の案件が続々と出ている。32年度末までの事業完了を目標に、大規模な工事が複数の場所で同時に進行することになり、関係業者、特にゼネコンをはじめとした建設業者の活躍が大いに期待されるところである。建設の時代から管理運営の時代に移って建設業者の活躍の場は少なくなった感もあるが、例えば処理施設の躯体更新など、これから需要が高まりそうな仕事もある。復興事業での活躍が、ゼネコンら建設業者が今一度全国の下水道事業に目を向けるきっかけになると面白い。(O)



潜在成長力を引き出した「関空・伊丹」コンセッション  下水道情報 第1864号(平成30年3月27日発行)
◇1兆2000億円の有利子負債を抱えて、空港利用客の伸び悩みなど、“袋小路”状態だった関西国際空港と、発着枠の制限から航空系の収入増が期待しにくい大阪国際空港(伊丹)を一つにまとめ、民間に運営管理を任せる方向へと切り替えた「関空・伊丹」コンセッションは、前代未聞のチャレンジだったと言える。負債の償還を念頭に置くため、運営権対価は総額約2兆2000億円に達し、事業期間も44年と長期に亘った。このため、関心を示した企業グループが9あったものの、最終的には1グループしか応募しなかった。運営権を取得したのは、周知のとおり、ORIX-VINCI Airports Consortium。オリックスが仏の空港運営会社とタッグを組んで参入したもの。運営会社が真っ先に手がけたのはLCC(格安航空機)の積極的な誘致と、京都、奈良など観光地のPR。また、航空系と非航空系に分けて管理されていた空港経営を一元化した。LCCの増便は中国や台湾、韓国など、アジア諸国からの渡航客の増加に結びつき、2つの空港の統合管理は利用客の利便性を高め、新たな収入源の創出につながっている。このほか、関西系の大手企業が支援に乗り出し、約30もの企業グループがコンソーシアムの構成員に名を連ねた。経営の民営化により、空港の潜在的な成長力が引き出された象徴的な事例となった。(S)



100年がかりのターミナルづくり  下水道情報 第1863号(平成30年3月13日発行)
◇横浜市に住んで35年。通勤通学から、飲食・買物など日常の用足しまで、生活の端々で横浜駅を利用してきた。ここはJRなど鉄道6社が乗り入れ、1日226万人が乗降する巨大ターミナルであり、国際観光都市の表玄関でもある。しかし、自分の記憶の中では、大規模な工事が常にどこかで行われている印象が強い。それもそのはず、調べてみると、今の場所に建った1928年以来一度も完成をみていないらしく、「日本のサグラダ・ファミリア」と揶揄する声も聞く。新路線参入のたびに拡張が図られ、各社間を繋ぐ連絡通路も迷路の如く張り巡らされる。施工中は駅構内に無粋な仮囲いが立ち、狭まった通路に人がひしめいたり、歩き慣れたルートがある日突然塞がれたり。不便さ解消のための工事が、利用者に別の不便を強いつつ脈々と続く…。こんなジレンマを払拭すべく、横浜市と関係企業は、県や国交省の協力も得て、駅や周辺街区の最終完成形の早期実現をめざす大プロジェクト「エキサイトよこはま22」を展開している。本紙でも報じてきた、西口駅ビルの地下貯留施設、幹線・ポンプ場整備等の雨水対策強化も、これと連動した施策だ。市民・利用者の一人として、2030年目標のプロジェクト完遂を待ち遠しく思う。ちなみに、サグラダ・ファミリアの完成予定は4年早い2026年。(Y)



コンセッションセミナーに高い関心  下水道情報 第1862号(平成30年2月27日発行)
◇「コンセッション事業推進セミナー」がこのほど開催され、国内上下水道で初めてコンセッション方式が導入される浜松市公共下水道終末処理場(西遠処理区)運営事業の運営権者である浜松ウォーターシンフォニー㈱の山崎敬文代表取締役社長が講演を行った。会場の三田共用会議所1階講堂は聴講者で埋まり、関心の高さがうかがわれた。山崎氏はコンセッション方式による官民連携のメリットを「民間の効率化ノウハウの提供」「地域経済活性化」「経営ガバナンス強化」とし、メリットを発揮するためには「性能発注」「自治体の明確な戦略・目標設定」「事業規模の確保」、「長期的な契約」が必要との考えを示した。運営の効率化については、運営権者の代表企業であるヴェオリア・ジャパンが属するヴェオリアグループが世界中で運営している約3300ヵ所の下水処理場のパフォーマンスを重要業績評価指標で比較し、成績が優れている処理場の運営方法を全体で共有するとともに、各現場においても従業員のマルチスキル化やITツールの活用により生産性を向上させている事例を紹介した。約20分という短い時間だったが、下水道事業の課題や今後の事業運営の視点、コンセッションがもたらす効果等が簡潔、明快に示された印象深い講演だった。(M)



オムツ受け入れの検討、ニーズや事業性に重きを  下水道情報 第1861号(平成30年2月13日発行)
◇子供のオムツを、衣類と一緒に洗濯してしまったことがある。オムツは破れ、膨張した吸水材のポリマーで排水管が閉塞した。子供を持つ家庭であればよくある失敗だが、取り除くのには難儀した。そんな経験がある身からすると、国交省が「下水道への紙オムツ受入実現に向けた検討会」を設置したことには驚きがあった。ディスポーザーを活用してオムツを直接下水道に流せるよう、5年程度をかけてガイドラインの作成をめざすという。使用したオムツの保管や処理は子育てや介護での負担の一つだ。家庭系可燃ごみ排出量の6~7%をオムツが占めるとの推計もあり、廃棄物処理という観点でも小さくない負荷がかかっている。しかし、受け入れに当たってはディスポーザーに加え宅内配管の設置も必要になり、メーカー側でのオムツの改良が求められる可能性もある。処理系統への影響、不適切な使用への対応も重要な検討項目で、実現へのハードルは高い。オムツの受け入れは、下水道事業としてできる子育て・介護支援であることは間違いない。ただ、かけるコストや労力を社会全体の視点で考えた場合に、それを実現することが果たして適当なのかどうか、精査が必要だ。技術的な可否を見極めることも大事だが、検討会では何よりも、ユーザーのニーズや事業性に重きを置いた議論を望みたい。(T)



広がるか、ソフト面の広域連携  下水道情報 第1860号(平成30年1月30日発行)
◇国交、農水、環境、総務の関係4省が34年度までに全都道府県での策定をめざしている広域化・共同化計画。このほど正式要請がなされ、いよいよ各都道府県で計画策定に向けた検討が始まる。同計画には、市町村の行政界の枠を超えた大胆な広域連携を進める狙いがある。注目は、維持管理の共同発注や事務の共同化、複数施設の集中管理・遠隔制御といった、これまであまり事例がないソフト面の取り組みがどこまで広がるかだ。施設の統廃合や汚泥の共同処理といったハード面の取り組みはこれまでも行われてきた。しかし、これらを実現するには様々な条件がある。例えば統廃合は、処理場が点在するなど物理的に困難な地域も存在する。そのため、手をこまねいていた自治体もあるかもしれないが、今やそれでは済まない状況に陥っているところも少なくないだろう。では、ソフト的な広域策が簡単に進む話かというと、そんなこともない。広域化にあたっては自治体や施設ごとに異なる仕事のやり方を1つに統一する必要が生ずるが、その調整は大変だ。各自が従来の仕事のやり方を変えずに可能な仕組みも含め、今後の検討課題だろう。何ができて何ができないのか。大胆なアイデアを期待するとともに、計画が絵に描いた餅にならないよう、地に足をつけた検討を望みたい。(O)



住宅設備でも、管更生工法が普及  下水道情報 第1858号(平成29年12月19日発行)
◇下水道管の更生工法が全国に普及しているが、住宅やマンションなどの住宅設備でも、給水管や排水管の補修に更生工法が広く採用されている。給水管の更生工法は普及し始めて、すでに35年の歴史がある。一歩遅れて18年くらい前から、排水管の更生工法も使われ始めた。住宅設備の診断を専門にしている業界関係者によると、排水管の更生工法は現在、16工法あり、それぞれに特徴がある。コンクリート構造物は80年の耐久性があると言われるが、これに対して配管は50年もたないとされてきた。特に昭和の時代の配管は、取付け部に鋳鉄管が使用され、その部分の劣化から漏水等の原因になるケースがあった。樹脂系の管が登場してからは、劣化の心配がなくなり、100年住宅も可能になったと言う。超高層マンションなどは、居住者が多く権利関係も複雑なため、長期間居住というコンセプトのもとに建てられているようだ。一般の中古住宅の場合、数十年経過すると給水管や排水管の更新・更生が必要になる。管を取り替えた方がいいのは分かっていても、コストがかかり、部屋の中まで手をつけざるを得ないケースもあって、更生工法が好まれている。だが、下水道管とは異なり、住宅配管の更生工法は、今は15年くらいの延命措置でしかない。また2回の更生はできても、これまで3回の実績はない。(S)



PFI下水道への個人的期待  下水道情報 第1857号(平成29年12月5日発行)
◇平成11年のPFI法制定以来、さまざまな公共施設整備において、民間の資金力や技術力、経営ノウハウを活かすPFI的手法の採用が定着してきた。特に公営住宅、公園・運動場、学校、図書館、公民館など、いわゆるハコモノ施設の分野で導入例が多い。公共事業では、廃棄物処理施設整備がかなり馴染みやすいようで、DBOやPFI(BTO)での発注実績は、埋立処分場やリサイクル施設も含めすでに100件以上。中でも焼却施設の新設事業は近年、DBOでの発注が過半数を占めるまでになった。国交省の調べ(28年4月現在)によると、下水道分野で過去にPFI的手法を用いた事業というと、DBOが23件、PFIが11件ほどで、ほとんどが既存の処理場に付随した、汚泥の燃料化・エネルギー回収などの副次的事業である。しかし今年10月には、純然たる施設丸ごとの新規整備・運営事業も初めて動き出した(宇部市玉川ポンプ場DBO)。「10年概成」との大目標を真に受けるなら、我が国の下水道の新設事業も残り時間はわずか。これから駆け込みで事業化されるであろう数少ない小規模下水道計画の中から、管渠・処理場の設計施工から長期運営まで一括りにしたPFI事業でも、最後の最後にどこかの町で浮上してくれば面白いのだがと、淡い期待を抱いている。(Y)



SM通信簿  下水道情報 第1856号(平成29年11月21日発行)
◇国交省が全国データベース上で公表している「SM通信簿」。自治体のストックマネジメント(=SM)の取り組み状況を数値化したもので、各都市の進捗状況がひと目でわかる。都道府県別で見ると、最も進んでいるのは、市町村への計画策定支援を積極的に行っている福島県。全団体の平均点は95.5点に達している。続いて宮城、山形、岩手など東北6県が上位を占めている。一方、富山、鳥取、香川、大分、沖縄各県はまだ0.0点で、今後の巻き返しに期待と言ったところか。さて、国がこうした情報を公表するのは、自治体が自らの評価、立ち位置を認識し、取り組みを推進する材料として活かしてもらいたいとのねらいがある。SMの取り組みは自治体間の差が大きい。老朽化問題を他人事のように捉え、管路の維持管理などほとんど何も行っていない自治体も少なくない。しかし、下水道関係者がよく言うように「下水道の整備完了はゴールではなくスタート」だ。自治体には様々な制約や置かれた状況の中で、下水道を適正に稼動させ、適正に管理し、良好な状態で後世に引き継いでいく使命がある。そして、自治体がこの使命をきちんと果たすよう、国民が関心を持ってその取り組みをチェックし、評価できるような仕掛けが必要だ。その意味で通信簿は興味深い。(M)



国土交通省「政策ベンチャー2030」  下水道情報 第1855号(平成29年11月7日発行)
◇先月26日、国交省で「政策ベンチャー2030」が発足した。2030年に同省の中核を担う若手職員が主導し、幅広い議論を通じて政策提言を行う“省内ベンチャー”という位置づけだ。メンバーは本省職員から公募され、25~42歳の34人(男性28人、女性6人)が選ばれた。平均年齢は34.7歳。現在の課題への対応策ではなく、未来像から逆算した具体策を提示することをねらいとしている。今後、地方支分部局等からのメンバーも100人ほど加えて、外部の有識者などと意見交換を重ね、議論のプロセスのオープン化も図るという。来年1月までに政策ニーズをテーマごとに整理し、6月頃に提言を行う予定だ。霞が関の若手職員からの提言というと、経産省の「次官・若手プロジェクト」が今年5月にまとめた『不安な個人、立ちすくむ国家』が記憶に新しい。大胆な視点と刺激的な書きぶりが“役所らしくない”と話題になり、そのレポートは公表後1ヵ月で100万ダウンロードを記録、賛否を呼んだ。経産省の取り組みは、個人のライフスタイルや価値観、国家のシステムのあり方に踏み込んだ内容で、いわばソフト面の提言だったが、他方、インフラというハードを抱える国交省からは、また違ったビジョンが示されるだろう。部局間の縦割りや前例にとらわれない、大胆な提言が飛び出すことを期待したい。(T)



焼却炉の更新に向けて  下水道情報 第1854号(平成29年10月24日発行)
◇下水処理場を構成する様々な設備の中でも、とりわけ事業費が大きくなる傾向にあるのが汚泥焼却炉だ。施設規模にもよるが、新たな炉を建設する場合は設備工事だけでも数十億円のオーダーになることが多い。施設完成後も長期間にわたって保守点検などの付随する仕事が発生するため、企業からすると安定的な利益の確保が見込める仕事とも言えるだろう。焼却炉の標準耐用年数は10年だが、計画的な点検や部分的な補修等により長寿命化が図られる上、予備機がある場合はフル稼働させる必要もなく、実際に10年で更新時期を迎えることはまずない。老朽化の進行には様々な要因が考えられ、一概に言えないが、実態に即した更新時期の目安は供用開始から20~30年くらいか。今号でも報じたように、焼却炉の建設が盛んだったのは平成6~14年頃。となると、これから数年間で本格的な更新需要が出てくるとの見方もできる。国交省が先ごろ設定した焼却炉の性能指標。従来技術の単純な更新ではなく、省エネ等の性能が高い最新技術の導入を促す仕掛けだ。これに創エネの観点から固形燃料化やバイナリー発電等への転換、民活拡大の観点からPPP/PFI的事業スキームの導入といった視点も加わる。技術的な研鑽も含めて総合力が問われる時代となりそうだ。(O)



公共事業の効率的な執行を阻む「3つの壁」  下水道情報 第1853号(平成29年10月10日発行)
◇下水道に限らず公共事業の効率的な執行を阻む「3つの壁」があると言う。一つは国の予算が単年度主義を原則としているため、予算が4月に成立してもすぐに執行できず、6月頃になってようやく本格化する。また、年度末は予算消化に向けた事業が過度に集中する。これは効率的な執行を阻害する要因になっている。もう一つは行政区域の壁。市町村や都道府県の境界をまたぐ事業は、なかなか認められない。処理場の近くに人家があっても、行政区が別の場合は取り込みにくい。立地条件が良くても、隣の自治体の仕事を安直にできない。最後に、監督官庁が異なるケースも同様の問題が生じる。汚泥とごみを一緒に処理するには、煩雑な手続きが必要になる。下水汚泥と浄化槽汚泥の混合処理も、やれば効率的と分かっていても行政が異なるため、クリアしなければならない問題が発生する。最近、公共事業の運営管理を民に大胆に開放しようとの風潮がでてきている。これは従来、障壁とされてきた問題を、解消してしまう可能性を秘めている。複数年の運営管理を任されれば、単年度の予算に縛られない。広域的な管理を民が請け負えば、行政区域をまたぐ業務も可能になる。縦割り行政に阻まれていた統合処理も、民の裁量が活かされるようになると、コストを配慮した施策が優先されることになる。(S)



村の再出発のために  下水道情報 第1852号(平成29年9月26日発行)
◇7月、福島県飯舘村で昨年1月から稼動中の蕨平地区仮設焼却施設を視察した。ここは、同村内で出る除染廃棄物や片付けごみを中心に、周辺自治体の汚泥や農林業系廃棄物なども受け入れて減容化処理している国直轄のプラント。福島市の下水汚泥もここに運ばれている。処理能力は日量240トンで、今のところ平成32年秋までかけ、全32万トンの焼却処理にあたる計画だ。多様な種類・性状のごみを適切に完全燃焼するため、得意分野が異なる2種の焼却炉(回転ストーカ式、流動床式)を使い分けるなど、安定稼動に向けた運営事業者のひときわの努力が、その話しぶりから強く伝わってきた。視察を終えて村内に出ると、除染廃棄物を詰めたフレコンバッグがまだ至る場所に山積みされている。同村は今年3月31日、6年間に及んだ避難指示が解除されたが、住民の帰村の足取りはかなり重いようだ。市街地や住宅周辺、農地など生活エリアの除染作業は概成したとはいえ、原発事故の象徴のような異物がいつまでも目の前に残っていては、幼い子どもを持つ世帯などは特に、二の足を踏んで当然だろう。それら除染物の処理を一手に引き受けるのが前出の仮設焼却施設。村が本当の再スタートを切るためにも、安定処理の継続、さらには加速化を心から期待したい。(Y)



議論深めより良い技術指針等の確立を  下水道情報 第1851号(平成29年9月12日発行)
◇「管きょ更生工法における設計・施工管理ガイドライン」が7月下旬に発刊された。旧ガイドライン(平成23年12月発刊)で残された「耐薬品性試験の代案」「耐震性能の検証」など12の課題の検討結果および新たに提起された「管きょ更生工事における資格制度の活用」「既設管の鉄筋耐力評価手法」等への対応方針を盛り込み、全面的な改定を行った。更生工法は種類が多く特性・特徴が多種多様なため、統一見解を示すことが難しい面があるが、その中で主要課題について解決策等を示すことができたのは大きな前進だ。その結果、旧ガイドラインに付されていた「(案)」の文字がとれたのだろう。しかし、「長期的な品質確保」「取付管への適用」「竣工時検査技術・体制の向上」「資格制度の活用」など、まだ課題は多く引き続き検討が必要だ。更生工法は管路の老朽化対策に不可欠な技術になったが、更なる普及のためには発注者が安心して活用できるよう、品質向上の取り組みは欠かせない。同時に、膨大な管路ストックを効率的に改築更新するためには低価格化も重要だ。その両立をめざし、今後も議論を深め、より良い技術指針等が確立されていくことを期待したい。(M)



絶好の見せ場  下水道情報 第1850号(平成29年8月29日発行)
◇「下水道展 ’17東京」には、主催の下水道協会が目標としていた「4万人以上」を軽々と超える5万5792人が来場した。前回(名古屋)から実数がカウントされるようになった来場者数は、地方と東京で1回ずつ開催されたことで、今後の基準ができたと言える。一般(学生・KIDS含む)の来場は前回の3603人から大きく増え、5705人。終始賑わっていたパブリックゾーンの存在感は、年々大きくなっている。展示会場では、とりわけマンホールふたの展示ブースが一般の方から熱い視線を注がれ、メディアへの露出も多い著名な「マンホーラー」の姿もお見かけした。「インターンシップ&キャリアセミナー」には、想定の200人を上回る約350人の学生が参加。企業の説明を受けるだけでなく、展示会場でじかに業界の雰囲気や仕事のイメージもつかめる、好企画だった。下水道展に対する一般の方からの注目度は、主催者・運営会社の尽力で、回を重ねるごとに高まっている。またこれには、GKPをはじめ下水道界が推進してきた、ここ数年の広報活動も大きな影響を与えているはずだ。最近はマンホールカードのブームも手伝って、下水道へのハードルがさらに下がっていると感じるが、こうした流れを一過性のものにせず、人材の確保や業界の活性化、下水道事業への理解にうまく昇華させたいところ。下水道の絶好の見せ場である下水道展は、その意味でも大きな役割を担っている。(T)



筑紫次郎と不明水対策  下水道情報 第1848号(平成29年8月1日発行)
◇坂東太郎、筑紫次郎、四国三郎。それぞれ利根川、筑後川、吉野川の異名だ。洪水や水害が多発する国内三大“暴れ川”をこう呼ぶという。先日、河川行政の経験もある某氏から教えてもらい初めて知ったが、河川の世界では常識らしい。その“暴れ川”の本領をまざまざと思い知らされた。九州北部の豪雨被害。1時間に100mmを超す記録的な降雨により、福岡県や大分県にまたがる筑後川の上流部を中心に、河川の決壊や土砂災害が相次ぎ、多くの人命や家屋が失われた。もはや常套句になった「雨の降り方が変わった」を改めて痛感した。頻発する大雨は下水道行政にも大きな影響を与えている。国は法改正等によりハード・ソフトの両面から様々な施策を打ち出し、内水被害の備えを強化した。さらに、雨関係の残された課題とも言える分流式下水道の雨天時越流水問題、いわゆる不明水対策にも今年度から本腰を入れる方針という。不明水問題は以前から存在していたが、施設の老朽化の進行や雨の降り方の変化により、その深刻度は増しているとの見方もある。原因箇所を特定する調査手法の確立など、技術開発も含めた不明水を“防ぐ”対策はもちろんだが、不明水による流入量の増加をあらかじめ見込んだ施設設計など、不明水を“受容する”対策も一考すべきだろう。(O)



フランス人は草花の散水に雨水を使う  下水道情報 第1847号(平成29年7月18日発行)
◇友人の家にフランス人の夫婦が1週間くらい滞在したとき、庭の草花に散水しているのを見て、水道水を使うのかと驚いていたと聞く。フランスでは雨水を貯めて散水するのが普通のようで、水道料金が高いのかもしれないが、それ以上に消毒薬の混入した水道水より雨水の方が草花や樹木の生育に適しているという考えがあるようだ。自然界に生息する植物は元来、雨水を吸収することによって生き延びてきた。自然のサイクルに背かず、それを壊さないような行動が、環境を守る第一歩なのかもしれない。10年くらい前に、台湾のベンチャー企業を訪ねたことがある。高速道路や鉄道軌道の法面(盛土してつくる人工的な斜面)に、根付きのよい植物を植えて、斜面をグリップする工法を提案していた。法面の保護法としてはコンクリートを貼るのが一般的だが、植物を植えた方が外観もよく、崩れにくいと主張していた。台湾政府の関係者は、何度も実験を繰り返して、その主張に間違いはないと採用を決めている。先日の下水道協会の特別講演で、三菱総研の小宮山宏理事長は、伐採した後にちゃんと植樹をしておけば、地震が起きても山は崩れない、大雨でも土石流の流出を防げると話していた。台湾企業の話と通じるものがあり、興味深く聴かせていただいた。(S)



清掃事業の新たな展開のために  下水道情報 第1846号(平成29年7月4日発行)
◇小社の廃棄物専門誌の編集に携わる中で、海外の先進的な廃棄物処理の情報に触れる機会も多い。特に欧州では、自治体は民間事業者にチッピングフィーを支払ってごみの収集から各種プラントの整備・運営、最終処分までを包括的に委ね、事業者は自由度の高い事業環境下で、収集の広域化、徹底的な分別・再資源化、発電等によるエネルギー回収等に取り組むことにより、高収益のビジネスとして成功させているケースが目立つ。かたや日本では、一般廃棄物の収集運搬・中間処理等は廃棄物処理法・地方自治法において「市町村固有の自治事務」であり、「直営方式が原則」とされている。PFI方式でのごみ焼却施設の建設・運営事業も徐々に事例は増えているが、これはあくまで焼却施設というパーツの民営化に過ぎず、清掃事業全般の運営を民間に託す前出の欧州モデルには遠く及ばない。我が国でも下水道分野などで導入が始まったコンセッション方式は、独立採算が前提の公営企業などの事業に適用されるものであり、清掃事業に丸ごと当てはめることはできない。しかし、一般会計で賄う不採算事業であっても、民間の力を活かして効率化を追求する姿勢は当然求められるし、それを可能とする制度面の改革も真剣に論じられる時期を迎えているように感じる。(Y)



施工実績が500km台に、新体制の事業展開にも注目  下水道情報 第1845号(平成29年6月20日発行)
◇(一社)日本管路更生工法品質確保協会が第9回定時総会を開催。平成20年から会長を務めた前田正博氏が退任し、小川健一東京都下水道サービス㈱代表取締役社長が新理事長に選任された。また、総会で2016年度の管路更生の施工延長が520kmとなったことが明らかにされた。前田氏は「第1回総会時の施工延長は499km。『翌年は500kmを超える』と宣言したがなかなか突破できなかった。2016年度は400km台を大きく超え、やっと管路更生事業が本格化したという手応えを感じている」と述べた。一方、小川新会長は、「管路更生の需要はこれから一層増大し、品質確保の重要性も高まる。今夏には更生工法の設計施工管理ガイドラインが発刊される。協会としてはその確実な執行、効果的な運用に十分貢献していきたい。そのために「管路更生管理技士」制度の運用をはじめ、品質確保の取り組みを充実させていきたい」と抱負を述べた。ガイドラインなどの基準や制度作りへの協力、資格試験制度の運用、日大との連携による“管路更生大学”の開講など、事業の発展に向けた活動を着々と進めてきた同協会。今後は公益法人化や品質保証体制の確立にも注力するという。新体制での事業展開にも注目が集まる。(M)



30回目を迎える下水道展  下水道情報 第1844号(平成29年6月6日発行)
◇8月1~4日に東京ビッグサイトで開催される「下水道展」。30回目を迎える今回は356社・団体が出展を予定し、2015年の東京開催(331社・団体)を上回る数となっている。併催企画には「ストックマネジメント時代の管路管理」「下水道経営を考えるシンポジウム'17」「浸水対策に関するシンポジウム」など、下水道事業のトレンドをおさえた多様なイベントが用意された。なかでも目玉は特別講演。ベストセラーとなった『クラウドの衝撃』『ビッグデータの衝撃』などの著者で、野村総合研究所上級研究員の城田真琴氏が、「第4次産業革命のトレンド」をテーマに講演する。学生を対象とした「水ビジネス業界 インターンシップ&キャリアセミナー」は新企画だ。学研アソシエの協力を得て下水道協会が主催する合同企業展で、国交省やJS、企業など32社・団体が出展する。200人程度の学生の参加が見込まれており、下水道展に「リクルーティングの場」という新たな役割を加えられるか、注目される。また、18社・団体が参加する出展者プレゼンテーションで、はじめて海外企業が発表することも記しておきたい。なお、前回開催から導入されたバーコードによる来場者数のカウントは今回も実施される。賛否あったものの、実数が把握できることは意義があるだろう。ちなみに前回の来場者数は3万5393人。協会は今回の目標として、「4万人以上」を掲げている。(T)



増大する改築更新費と求められる対応  下水道情報 第1843号(平成29年5月23日発行)
◇財務省の財政制度等審議会財政制度分科会が10日に開かれ、下水道の今後増大する改築更新費への対応が議題の1つとして取り上げられた。国交省の将来推計によると、下水道の改築更新費は2013年度の6千億円から、10年後(2023年度)には8千億円、20年後(2033年度)には1兆円の大台に乗る。こうした状況から同分科会は、下水道事業について、原則として使用料で必要な経費を賄う「受益者負担の原則の徹底」をめざすべきとし、その一環で国費での支援も徹底した重点化を検討すべきと指摘している。既に国交省も打てる手は打っている。下水協と連携して今年3月に下水道使用料算定のガイドラインを改定。将来の改築更新費の増大分を賄うための費用として「資産維持費」を使用料に算入できるよう環境を整えた。これを踏まえ、各自治体で資産維持費の導入も含めた適切な使用料算定が進むことが期待される。なお、今回の分科会開催を受け、下水道の国庫補助率の引き下げについて検討が始まったと一部新聞が報じたが、そのような事実は確認できていない。実際、当日の説明資料にもそうした記述は見られない。そもそも公共事業の国庫補助率に関しては、平成4年に、それまでたびたび変動していた補助率を体系化・簡素化する目的から、下水道を含む補助事業は1/2を基本として恒久化することが閣議了解されている点も抑えておきたい。(O)



下水道管路調査用ドローンの試作1号機を見学  下水道情報 第1842号(平成29年5月9日発行)
◇幕張メッセで開催された「国際ドローン展」の自立制御システム研究所(ACSL)のブースに、下水道管路調査用ドローンの試作1号機が展示されていた。ドローンらしくない姿に目が留まるのか、見物客の人垣ができていた。口径400mm対応にしては大きめの機体に思えたが、手に取ってみると、片手で持ち歩けるくらいの重さしかない。機体の下部に浮上用の小さなプロペラが4枚、機体後部には前進させるためのプロペラが1枚ついている。説明者によると、下水管内を毎秒3mの速度で飛行する、機体を軽量化するためバッテリーを小さくしているので、3分くらいしか飛べない。秒速3mで3分飛べれば、マンホール間の距離なら十分な飛行距離という計算になる。また下水管内は暗いため、機体の前面にテープ状のLEDを装着し、撮影用の広角カメラは市販品(go pro hero5 session)を採用している。専用カメラの開発も課題とし、400mm対応は2018年に実用化、その頃に形態のまったく異なる200mm対応のプロトタイプも公開するという。47万kmある日本の下水道管の約80%は200~250mmのため、開発の目標を小口径管に置いている。注目したいのは、空を飛ばすドローンに比べて規制は緩く、操縦が平易なこと。地下空間を一定の速度で飛行させるため、特殊な操縦テクニックを必要としないようだ。(S)



G-NDBポータルサイトからの発信  下水道情報 第1841号(平成29年4月25日発行)
◇国交省と下水協が共同で運営している「下水道全国データベース」(G-NDB)の拡張版が今月1日より本格運用をスタートした。当初は自治体向けに限定し、国の調書等に係るデータの収集、各種統計情報やアセットマネジメントの支援情報の提供などの用途で、28年度から利用されてきたが、さらに内容を充実させた上でこのたび民間事業者等にも開放。利用登録なしでも統計データの一部を閲覧できるほか、会員登録(有償)すれば、ほぼすべての詳細データの閲覧・入手が可能になる。さて、今回のサービス開始にあたりネット上に新設されたポータルサイト(https://portal.g-ndb.jp/portal/)を訪ねてもらうと、モニタ画面の下部に、本紙読者なら見慣れた「下水道情報」のロゴが目に留まるはず。このバナーをクリックすれば、本紙上で過去に掲載した多くのオリジナルデータをPDFで閲覧できるようになっている。少しでも多くの人がG-NDBに関心を寄せ、頻繁に訪ねてもらう「仕掛け」の1つになれば、との狙いで実現した相互協力の試みだ。取材記者の視点も交え柔らかく噛み砕いた記事情報には、無機質で客観的な統計情報では得られない、一味違った利用価値があることを、本紙読者以外のG-NDBユーザに向け、このサイトの片隅からアピールしていきたいと思う。(Y)



都の入札契約制度改革案  下水道情報 第1840号(平成29年4月11日発行)
◇東京都の内部統制プロジェクトチーム/特別顧問・財務局は、第5回都政改革本部会議で特別顧問から提案された「今後の改革の方向性」を踏まえ、29年度から実施する入札契約制度改革の方針を明らかにした。①予定価格事前公表の見直し(事前公表から事後公表へ)、② JV 結成義務の撤廃、③1者入札の中止、④低入札価格調査制度の適用拡大(最低制限価格制度の見直し)を財務局は6月をめどに、他局は10月をめどに試行する。下水道など公営企業部局については、各局がそれぞれ知事部局案を踏まえ、実施内容等を検討し、公表するようだ。今回の入札契約制度改革は、落札率の高止まりの抑制や談合の疑念の払拭が目的。確かに豊洲市場建設工事で見られたような「1者入札、99.9%落札」はインパクトが大きく、放置できないのはわかる。しかし、これを入札契約制度だけの問題と考えたり、都の工事全体の問題と考えたりすると対応を誤るのではないか。「落札率の低下」は都民にわかりやすい指標だが、それに拘りすぎると、工事品質の確保、産業育成、入札不調や低入札調査の増加に伴うコスト増、政策目標の未達成など様々な負の影響を招きかねない。冷静な判断のもとバランスのとれた対応をとってもらいたい。(M)



国内初の下水道コンセッション  下水道情報 第1839号(平成29年3月28日発行)
◇昨年11月の本紙調査によると、下水処理場における包括的民間委託の導入箇所は417ヵ所。全国の処理場の5分の1程度に導入され、かなり普及が進んだ印象がある。包括委託が拡がり始めていた平成18年、埼玉県の流域2処理場と広島市の1処理場から同業務を請け負ったのが、ヴェオリア・ウォーター(当時)のJVだった。当時国内の下水道で実績のなかった同社の受注は、業界の話題をさらった。そのヴェオリア(現ヴェオリア・ジャパン)が、再び下水道界にインパクトを与えている。浜松市での国内初の下水道コンセッションで、同社を代表企業とするグループが優先交渉権者に決まった。事業者の選定で同グループは、コンセッションを含む3300ヵ所以上の下水処理場運営実績を持つヴェオリアのノウハウや、官・民・地元のパートナーシップ構築、ICT活用などをアピール。世界レベルの実績に基づく処理場パフォーマンスの相対的な評価と改善や、運転維持管理支援ツールの導入などを掲げ、市特産のうなぎにちなんだ「養鰻パイロット事業」も提案した。老朽化施設の増大と自治体予算の縮減から民間委託の拡大が当然の流れになる中、浜松市の事業は下水道コンセッションの今後を占う上でのモデルケースとなるだろう。それと同時に、この分野で豊富な実績を持つヴェオリアが、どのように国内市場を開拓していくかにも注目されるところだ。(T)



あるドキュメンタリー  下水道情報 第1838号(平成29年3月14日発行)
◇先日放送されたNHKのアーカイブス番組「戒厳指令“交信ヲ傍受セヨ~”~二・二六事件秘録~」を何気なく眺めていたら、面白く、思わず見入ってしまった。1936年に起こった陸軍青年将校のクーデター未遂事件で、当時、反乱軍が立てこもった首相官邸や料亭の電話を政府側が傍受した音源が残っており、それをNHKが復元・再生し、存命の関係者の証言と交えて紹介した記録映像番組だ。当事者の生の声が残っていたことにまず驚くが、加えて事件の関係者に取材ができることも少しショックだった。放送は1979年なので別におかしくはないのだが、今ではもう関係者は生きていないか、たとえ存命でもまともに話を聞くのは難しいだろう。報道の価値とはこういうものか、と感じ入った。ドキュメンタリーの構成・編集にも昨今にない気骨のようなものを受けた。証言者は音源の声の主の家族が中心だが、最後に声の主として唯一、反乱軍側の軍曹の現在の姿が映し出される。他の証言者はインタビュー形式であるのに、元軍曹だけはスナックでカラオケを歌う姿や浜辺で孫と遊ぶ様子が流れ、ナレーションのみの説明で終わる。つまり現在の話し声は一切流れない(歌声は流れるが)。そこに制作者の意図と演出の妙を感じた。過去にすがるのはよくないが、学ぶものも多いという当たり前のことを思った日曜日の午後だった。(O)



「復元」と「復原」  下水道情報 第1837号(平成29年2月28日発行)
◇「復元」と「復原」という文字を正確に使い分けている人は少ないと思われる。一般的には、新材を用いて再建するのが「復元」、改造された部分を創建時の状態に戻すのが「復原」とされている。文化財の修復工事では、歴史的に価値のある建物を原形に近い形に戻したいという思いから、創建時の姿を蘇らせるために、当初から使われていた材料や建築方式を活かして、老朽化して使えなくなった部分だけを取り替える「復原」工事が広く採用されている。こうした手法には、批判の声もあると聞いた。大昔に使用されていた材料や技術を活かして「復原」する場合、どうしても耐震性や耐火性などに問題が生じることが多い。現在の建築基準法や消防法の精神にそぐわないケースも出てくる。安心・安全な施設を提供するといった観点からすれば、最新の材料や技術を使って「復元」した方が、周辺住民や観光客の安全性の確保や危険回避につながる。また、もう一つの問題は過去の材料を活かして「復原」しようとした場合、イニシャルコストが割高になり、維持管理費も増加するといった傾向になる。最後は、歴史的な建物を後世に伝えることに重きを置くのか、コストや安全性を優先させるのか、といった保存する側の価値観の問題になってくる。(S)



MBTシステム普及のカギ  下水道情報 第1836号(平成29年2月14日発行)
◇中・大規模の下水処理場で汚泥消化ガスによる発電事業が急増しつつあるが、都市ごみ処理の分野でも、焼却とメタン発酵を組み合わせたハイブリッド型の施設が少しずつだが誕生している。すでにヨーロッパで普及しているMBT(機械的・生物的処理)システムである。まず、収集した可燃性の一般ごみを、厨芥類、木質、紙類などのメタン発酵が可能な「発酵適物」と、プラ類や布など発酵が難しい「発酵不適物(燃焼適物)」に機械的に選別。その後、前者はメタン発酵設備でバイオガスを生成し、後者は焼却設備で燃焼して発電、あるいはRDF化してボイラ燃焼・熱利用する。焼却量を減らして炉の負荷を軽減する一方で、物質・エネルギーの回収量の最大化、埋立依存度の最小化が図れる、理想的なごみ処理プロセスだ。…と言葉で言うのは簡単だが、ごちゃ混ぜの一般ごみを機械選別して、下水汚泥のような均質・高純度の発酵原料を得るのは容易ではない。磁力、風力、振動、粒径など、さまざまな手段を用いて選別精度の底上げが図られているが、焼却技術やメタン発酵技術の成熟度に比べれば、今後の進歩の伸びしろはまだまだ大きい。小規模なごみ処理施設が散在する我が国にMBTが根付くか否かを左右する、キーテクノロジーと目されている。(Y)



ストマネ契機に積極的な情報公開に期待  下水道情報 第1835号(平成29年1月31日発行)
◇下水道事業を安定的に持続させるため、ストックマネジメント(ストマネ)によるライフサイクルコストの削減や事業の平準化が不可欠とされる。平成27年5月の下水道法改正以降、「下水道事業のストックマネジメント実施に関するガイドライン」の発刊、下水道ストックマネジメント支援制度の創設、今般の「下水道管路施設ストックマネジメントの手引き」の発刊など、自治体に対する財政面、技術面での支援体制が着実に整いつつある。自治体においても、福島県いわき市が全国で初めて計画を策定。今後も県主導で計画策定の取り組みが進む福島県をはじめ、全国の市町村で策定箇所が増えてくる見通しだ。さて、ストマネの実行にあたり、自治体には積極的な情報公開を期待したい。ストマネの導入で施設の管理や改築等の事業が適正、合理的に行われ、それにより道路陥没件数の減少やコスト削減など事業効果が現れる。これらの情報をわかりやすく適時に公開し、事業に対する住民の理解を深めるとともに、必要な予算の獲得に繋げてほしい。また、中長期的な事業量の見通しや必要な技術等の情報を発信し、民間企業の人材確保や技術開発への投資を誘発することも下水道事業の安定的な持続にとって非常に重要だ。こうした面での自治体の取り組みも注視していきたい。(M)



インフラメンテナンス国民会議が設立  下水道情報 第1833号(平成28年12月20日発行)
◇11月28日、国土交通省で「インフラメンテナンス国民会議」の設立総会が開催された。インフラの老朽化が急速に進む中、異業種の企業間連携や技術の融合により、新たな取り組みでメンテナンスを推進させ、インフラを管理する自治体の支援を強化することなどが設立の目的だ。企業95、行政73、団体27、個人4の計199者が参画し、会長に経営共創基盤の冨山和彦氏代表取締役CEO、副会長に政策研究大学院大学の家田仁教授が就いた。「革新的技術」「自治体支援」「技術者育成」など、テーマに応じたフォーラムを開設し、フォーラムでは、たとえば自治体が抱える課題とそれを解決できる技術をマッチングさせたり、「オープンイノベーション」の手法で企業の技術開発の新たな方向性を議論したりする。また、メンテナンスの理念を国民に普及させ、その機運を高めるため、優れた取り組みや技術開発を表彰する「インフラメンテナンス大賞」も設けた。第1回の公募が行われており、来年3月に受賞者が決まる予定だ。国土交通省は、同省が所管するインフラの維持管理・更新費について、2013年度の3.6兆円から、20年後の2033年度には4.6~5.5兆円に増大すると推計している。効率的・効果的なメンテナンスを行うためにも、国民会議で自治体や企業などが活発な情報交換を行い、イノベーションが生み出されることを期待したい。(T)



博多駅前道路陥没をみて思う  下水道情報 第1832号(平成28年12月6日発行)
◇今年も様々なニュースがあったが、先ごろ博多駅前で起こった道路陥没はとりわけ衝撃を受けた。地下鉄の延伸工事が原因のようだが、地中に集積する都市インフラの危うさ、脆弱さを見せつけられた思いだ。今回ほど大規模なものは稀だが、老朽化した下水管きょが原因と考えられる道路陥没はこれまでもたびたび発生しており、毎年約4000件近くが報告されているという。増大する老朽管をいかに効率的に点検・調査し、改築更新していくか。この社会的重要課題に対し、しばしば人やカネの制約が指摘されるが、技術的な制約も無視できない。違う言い方をすれば、人やカネの制約がある中、それらを補う革新的な技術の登場に期待せざるを得ない。例えば点検・調査技術だ。国交省によると、一年間で点検されている管きょは延長ベースで全体の1.8%にとどまる。このペースだと標準耐用年数50年の施設を耐用年数期間内に1回点検できるか否かの計算となる。これでは適切な点検が行われているとは言いがたい。国のB-DASHでは、地中レーダを使った空洞調査技術や、ドローンによるスクリーニング調査技術について実証実験・性能確認を実施中だ。コストを抑えつつ、点検量を飛躍的に増加させる技術の実用化が待たれる。(O)



カープ選手とのコラボPR  下水道情報 第1830号(平成28年11月8日発行)
◇私事で恐縮だが、子供の時分から広島東洋カープの熱烈なファンとして応援を続けている。ご承知のとおり今年は、日本シリーズ制覇こそ逸したものの、25年ぶりのリーグ優勝を飾り、久しぶりにシーズンの最後まで高揚感を満喫させてもらえた。このカープに「下水流 昂」(しもずる・こう)という選手がいる。入団4年目、走攻守が揃った売り出し中の外野手だ。広島市下水道局が今年8月、同選手と球団の協力を得て、浸水対策事業のPRポスターを作製した。A1サイズ用紙の上半分にはマツダスタジアムのグランドに立つ下水流選手、下半分には同球場の地下に建設された雨水貯留施設の写真を背景に、それぞれ「広島(カープ)の外野は下水流(しもずる)が守る」「広島の浸水は下水道が守る」というコピーが大きく書かれている。同局では、下水流選手の入団当時からその名前の字面に着目し、コラボレートの機会を狙っていたとのこと。これまでに約100枚刷られたポスターは、球場や市役所の各庁舎、下水道工事の現場などに掲示。公共広報物のため、要望はとても多いが一般には配布していないという。それゆえ、東京で見かけることもないだろうと諦めていたが、つい先日、国交省下水道部の部長室で、壁に貼られた現物に思いがけず遭遇。カープをめぐる小さな幸運に、また少し心を弾ませた。(Y)



人工知能の進化  下水道情報 第1829号(平成28年10月25日発行)
◇先日、将棋のタイトル戦の挑戦者に決まっていた棋士が、対局中に将棋ソフトを不正使用したとの疑いで今後一定期間、出場停止処分を受けた。将棋界ではすでに人工知能(AI)がトップ棋士並みの棋力を獲得しており、将棋連盟は不正行為が行われる恐れがあるとして対局中のスマートフォンなどの電子機器の使用禁止を決めた。囲碁界では今年3月、グーグル・ディープマインド社が開発したAI「アルファ碁」が世界トップ級の棋士を相手に5番勝負で4勝し大きな話題になった。その後、多くのプロがアルファ碁の打ち方を研究し、実戦で用いるようになっている。囲碁・将棋のプロ棋士を尊敬し、特に囲碁でAIが人間に追いつくのはだいぶ先のことと考えていた者としては、AIの急速な進化に、驚きとともに「もう追いつかれたのか」という脱力感を覚えてしまう。そのAIの開発競争で日本はトップを走るアメリカに大きく遅れており、資金力などでその差は開くばかりと言われている。日本でもあと10~20年もすれば様々な職業がAIでできるようになるとされているが、近年の進化のスピードからすると、そうなる日はもっと早く来るかもしれない。その技術はアメリカ製ばかりになってしまうのか。技術立国を標榜する日本だが、今後どうなってしまうのか危機感を覚える。(M)



受講生7万人を突破したJS研修  下水道情報 第1828号(平成28年10月11日発行)
◇今年7月、日本下水道事業団(JS)が実施している下水道技術研修の累計受講生数が7万人を突破した。昭和48年2月に建設大学校(当時)を借りて第1回の研修が実施されてから、44年目での達成。下水道事業を「技術者の育成」という側面からサポートし続けてきた。受講生数の過去最高は25年度で、埼玉県戸田市の研修センターと地方での研修を合わせて2878人。研修開始当時の参加資格は「高校卒業程度の学力を有する地方公共団体の男子職員」だったが、近年は女性職員の受講も増え、27年度は全体の1割を占めている。一方、26年度には研修事業に対する国・地方公共団体からの補助金が全廃され、厳しい状況に置かれた。平均で2.3倍の値上げとなった受講料がネックとなり、受講生数は前年度の64%にまで減少。しかし、各都道府県市町村振興協会に対してJS研修受講への助成を働きかけたことが実を結び、14県で助成対象に。受講生数も持ち直してきている。近年では管更生や包括委託、アセットマネ・ストックマネなど、時代の要請に沿ったカリキュラム設定が図られ、民間向けのコースも拡充されている。地方公共団体の技術職員が減少し、技術の継承が難しくなる反面、老朽化対策や経営の健全化など、課題は複雑化・多様化している中、JS研修が担う役割は大きい。(T)



アセットマネジメントとは  下水道情報 第1827号(平成28年9月27日発行)
◇アセットマネジメントとは何か。必要性は認識しているものの、概念的で、言葉で説明するのは容易でないイメージがある。訳せば「資産管理」なので、人や施設、お金、情報などの資産を一体的に管理する方法、これが一般的な解釈か。10人に聞けば10種類の答えが返ってくる、と言う人もいるし、管理者の立場だと理解しやすい、という話も聞いた。PDCAサイクルそのものと説明する人もいるし、あくまで手法に過ぎず、目的は事業やサービスを維持・向上させること、と言う人もいる。このほど先進的な取り組みを進める横浜市と川崎市を続けて取材し、その結果、やはり具体的な説明は難しいと実感したが、分かったこともあった。それは、危機感を持つことが導入の第一歩であるということだ。今後の下水道事業に対する危機感が、では何をすべきかと組織全体で考えることにつながる。やり方は組織で異なるだろうが、課題を整理し、その対策を考えることから始める。まずはやってみる。当然のことかもしれないが、これが大切だと改めて思った。法改正による新事業計画制度も同じ原理で動いている。計画そのものよりも、計画をつくる過程の議論に重きが置かれている。「事業計画の策定=アセットマネジメントの導入」とまでは言わずとも、この制度が上手くまわり出せば、冒頭の問いも少しは答え易くなるかもしれない。(O)



下水道管に起因する道路陥没と空洞調査  下水道情報 第1826号(平成28年9月13日発行)
◇下水道管の老朽化などが原因の道路陥没が、年間3000件以上も報告されている。国交省の下水道セーフティーネットでも道路陥没事故を取り上げているが、自治体への配慮からか固有名詞は公表していない。しかし、深刻な道路陥没はニュースとして採り上げられる。名古屋市では本年6月に西区天神町で複数回の道路陥没が発生し、追い討ちをかけるように7月には名古屋駅から1キロくらい離れた場所で陥没事故が起きた。下水道管の破損が原因と報道されている。この事故の後、名古屋ポートメッセで下水道展‘16が開催された。そこで下水道事業団はB-DASHで扱っている空洞調査用レーダを展示した。船橋市で実証試験を続けている川崎地質のレーダで、地下3メートル以上の調査が可能という。それを聞きつけた名古屋市の丹羽上下水道局長は、実物を見るためJSブースに足を運んだと聞く。その後の市の対応は素早く、8月から9月にかけて下水道布設路線道路下の空洞調査を3件、入札にかけている。これまでは緑政土木局が主に行ってきたものだが、下水道管の破損が原因とされる道路陥没のため、上下水道局が直に空洞調査に乗り出したことは特筆される。また、下水道展に出展した新技術が、実際に起きている社会問題を解決する上でのヒントを提供するという好ましい事例にもなった。(S)



清掃工場のトリジェネが始動  下水道情報 第1825号(平成28年8月30日発行)
◇本紙でも既報のとおり、佐賀市は27年度から、下水処理場の汚泥消化ガスからCO2を分離回収し、微細藻類の培養に利用するための実証調査をJSや民間企業と共同で実施している(B-DASHプロジェクト)。また、同市の「バイオマス産業都市構想」(26年11月認定)では、構想の中核的プロジェクトに「清掃工場二酸化炭素分離回収事業」を掲げ、ごみ焼却時の排ガスからCO2を回収し、同じく微細藻類の培養や、農業用ハウスなどに供給する計画を描いている。この清掃工場内に建設が進められていたCO2分離回収設備が今月、いよいよ本稼動を開始した。火力発電所では導入実績があるが、清掃工場で商用利用されるプラントとしては世界初という。CO2と言えば、温室効果ガスの代名詞として「悪玉」に見られがちだが、これを効率良く回収し、工業・農業向けの有用資源として活かす取り組みは、すでに実用レベルで拡がり始めている。全国各地で24時間絶え間なくごみを燃やし続けるごみ処理施設は、いわばCO2の巨大生産拠点。これを有価物に再生し提供するとともに、地域産業の振興や温暖化対策にも貢献できれば、まさに一石二鳥・三鳥である。世界でもいち早く佐賀市で動き出した、ごみ処理分野の「トリジェネレーション」、今後の推移をしっかりと見守りたい。(Y)



“下水道情報の電子メディアサービス”「KTJ-NET」をスタート  下水道情報 第1823号(平成28年8月2日発行)
◇公共投資ジャーナル社は「KTJ-NET」(‘KTJ’は弊社名の略称)と銘打ち、下水道に特化した入札情報配信サービスを開始します。8~9月を試験運用期間とし、10月1日より本格運用します。地方公共団体や日本下水道事業団等がインターネット上で公表する入札公告・入札結果情報を独自の方法で収集し、Webサイト「KTJ-NET」で提供するものです。長年「下水道情報」の発行に携わってきたスタッフが、膨大な公表情報の中から下水道工事や設計業務等の入札情報を抽出して提供するため、ユーザーは必要な情報に素早くアクセスできます。また、下水道に特化することで、従来の入札情報配信サービスにはない低価格(下水道情報購読者は特別価格5000円/月、一般価格7500円/月)を実現しました。下水道専門紙ならではの情報の質、精度と低価格が特長と自負しています。さらに、収集した情報を活用し、様々な切り口での分析レポートの提供など、コンテンツの充実も図っていきます。今後ご利用者様のニーズに合わせてサービス内容を充実させ、“下水道入札情報配信サービスの決定版”にしたいと考えています。9月末までの試験運用期間中はどなたでも無料でお試しいただけるので、ぜひ一度お使いいただき、ご意見、ご感想をお寄せ下さい。(M)



下水道展開催を前に  下水道情報 第1822号(平成28年7月19日発行)
◇7月26~29日、ポートメッセなごやで開催される下水道展。近年の傾向としてみられるのが併催イベントの充実だが、今回も「下水道経営を考えるシンポジウム」や「下水道管路内流量・水質調査マニュアル(案)説明会」、パネルディスカッション「改正下水道法に示された点検等のあり方と実務」、「下水道分野におけるコンセッションを含むPPP/PFIについての説明会」など、時流をとらえた新たな行事・企画が用意されている。最大の併催行事「下水道研究発表会」の口頭発表数が、過去最多の359編であることも特筆すべきだろう。一方、広報・運営面で今回から始まる試みもある。すでに周知されているように、ガイドブックはウェブ版が導入され、サイトでは出展概要が画像や映像とともにみられるようになった。下水道協会によると、7日までにあったアクセス数は約5万2000件。サイトの掲載内容は3年程度閲覧できるようにし、過去の履歴としても活用してもらう考えだ。また、バーコード付きの来場者バッチを導入し、来場者数の内訳をより正確に把握できるようにするほか、26~28日には名古屋駅の中央コンコースに下水道展のサテライトブースを設け、PRを展開する。一部では“マンネリ化”がささやかれる下水道展だが、新たな企画や試みに目を向けながら、真夏の祭典を楽しんでみたい。(T)



技術の継承と補完  下水道情報 第1821号(平成28年7月5日発行)
◇少子高齢化は社会のあらゆる方面に影響をおよぼしているが、下水道事業も例外ではない。培ってきた技術やノウハウをいかに次の世代に継承するか。官も民も抱える大きな課題だ。この問題に対しては既に国や自治体や企業が様々なレベルで策を講じ、取り組みを進めている。大阪市が全額出資して設立した株式会社「クリアウォーターOSAKA」では職員の転籍等で技術者を確保し、成果に応じた給与制度の導入なども考えているが、こうした取り組みも技術継承や人材育成の一環と言えるだろう。しかし組織によっては、技術継承をしようにも継承すべき相手がいないケースも見受けられる。人口減少や経営難といった理由から職員数が削られている中小規模の地方公共団体がまさにそうで、こうした組織に技術継承の必要性を説くのは的が外れている。もちろん事業主体として最低限の、例えば政策立案などの能力やノウハウは維持しなければならないが、こと“技術”に関しては“継承”がマストとも言えまい。代わりにそうした組織では、民間や他の自治体や下水道事業団などの技術力を保持した組織に不足を補ってもらう“技術補完”が求められている。クリアウォーターOSAKAは市域外業務の獲得を事業の柱として位置づけているが、そこには技術継承が難しい事業主体への“技術補完”の意味合いもある。同社には技術の継承と補完の両面から注目してみたい。(O)



中本至さんの思い出  下水道情報 第1820号(平成28年6月21日発行)
◇中本至さんの追悼集を出そうという企画が持ち上がっていると聞き、懐かしい昔の出来事を思い出した。会社が表参道駅近くにあった頃、傍まで来たからと中本さんが立ち寄ってくれたことがあった。編集部員が集まると、みんなで俳句をつくろうと言い出した。まず俳号を決めなきゃと、真っ先に君の故郷は何処かと聞いてきた。両親が台湾からの引揚者なので故郷は特にない、生まれたのは愛媛県と答える。どんな土地かとさらに訊ねてくるので、そこはみかん農家だったので、みかん畑が広がる丘の上に家があって、遠くに海が見えていたと続ける。じゃ、君の俳号は「修海」と即座に決めた。編集部員それぞれにもユニークな俳号をつけ、次に俳句をつくるようにと促す。季語(題)は「年の瀬」と「おでん鍋」だった。悪戦苦闘しながらも、某君が「年の瀬に一期一会を振り返る」と綴った。中本さんは暫く考えて、「振り返る」は弱い、もっと強い言葉が欲しいと訂正する。結局、「年の瀬に一期一会を噛みしめる」になった。また、当時の編集主幹が「こんにゃくの湯気にくつろぐおでん鍋」と書いて渡した。それを眺めて、「これは秀逸、君には俳句の才がある」と初めて褒めた。なぜか私の句には触れなかった。才能がないのを気遣ってくれたのだと思う。(S)



霊山プロジェクト  下水道情報 第1819号(平成28年6月7日発行)
◇小社が刊行する廃棄物関連の専門誌『環境施設』の編集長を一昨年まで務めていた篠田淳司氏(故人)は晩年、「再生可能エネルギー推進協会」というNPO法人の事務局長も兼務し、協会活動の牽引役を担っていた。とりわけ氏が全力を傾注していたのが、東日本大震災の直後から福島県伊達市(旧霊山町)で展開してきた「霊山プロジェクト」。野池達也・東北大名誉教授ら多くの有識者も巻き込み、地域の方々と密接に連携して、有機性廃棄物によるメタン発酵や水田の除染などを行っていた状況は、ご本人からも時折、ぼんやりと伝え聞いていた。昨年5月に急逝した篠田氏の一周忌と時期を合わせ、同NPOが開いた会合「故篠田淳司さんの霊山への思いをつなぐ会」に招かれて、5月20・21日の両日、この霊山地区に初めて足を運んだ。現地では今も住民の方の主導により、改善を重ねたプラントで実験が続けられているほか、廃食用油からのBDF製造、地元食材のブランド化など、地域の協働の中から自然と新たな動きも生まれている。震災からの自立的復興を願って、篠田氏が小さな集落に蒔いた種が芽吹き、伸びやかに育ちつつある様を目の当たりにすることができた。「人はいつか消えて無くなる。手に入れたものは全て失い、与えたものだけが残る」という言葉を思い出した。(Y)



中里卓治氏の講演を聴いて  下水道情報 第1818号(平成28年5月24日発行)
◇中里卓治氏が下水道専門誌記者を集め、「下水道の価値」と題する講演会を開いた。氏は東京都のOBで、約40年間下水道一筋で歩んだ技術者。様々な経験から得た知見やノウハウを継承するため、執筆活動や講演活動を積極的に行っている。講演活動は自治体職員や大学生向けに、「下水処理場の危機管理」「プレゼンテーション」など様々なテーマで行っており、過去4年間の実績は66回、受講者数は4000人に上る。今回の講演では、「マイナスをゼロに戻すインフラ」「不特定の排水を受け入れ、品質管理が困難」といった下水道の特異性に着目し、マイナスがゼロになるまでは人々は関心を持つが、ゼロになれば関心は薄れてしまう。人々の関心を集めるためには新たな価値を作りつづけていく必要がある、と指摘。その上で、自動車の価値創造の変遷や、下水熱利用、下水汚泥から金産出、紙製下水管の使用等の事例を挙げ、価値創造に必要な視点や下水道の潜在的な魅力を示してくれた。単なる知識の伝達ではなく、聞き手に考えさせるように内容や進行が工夫されており、身近な出来事や既知の事柄でも、背景や理由を掘り下げたり、他と比較したりしたりすることで気づかされるものがあるものだと感じた。(M)



下水道の裾野広げるB-DASH  下水道情報 第1817号(平成28年5月10日発行)
◇先月5日、B-DASHプロジェクト(下水道革新的技術実証事業)の平成28年度実証技術と実施者が公表された。国交省は今年度、実規模レベルで実証を行う2テーマに加え、「予備調査」として実施する3テーマを設定。前者は「中小規模処理場を対象とした下水汚泥の有効利用技術」(2件)「ダウンサイジング可能な水処理技術」(同)、後者は「下水熱を利用した車道融雪技術」(3件)「災害時に適した処理・消毒技術」(1件)「消化工程なしで下水道資源から水素を製造する技術」(4件)で、計12件の技術が選定された。実施者の顔ぶれを眺めてみると、下水道に深く携わるプラントメーカーや電機メーカー、コンサルなどのほか、電力会社、農業公社、素材メーカー、製紙関連会社、高専・大学、研究機関など、その多様さが印象的だ。B-DASHプロジェクトは、新技術の研究開発を推進することに加え、その先進さゆえに、下水道にあまり馴染みのなかった企業などとの関わりを持つきっかけともなり、下水道の裾野を広げる役割をも果たしていると言えよう。とはいえ、国費100%の事業であるため、国民から向けられる目が厳しいのも事実。下水道の新たな可能性とともに、その実効性にも期待しながら、各プロジェクトの進展に注目したい。(T)



電子媒体の可能性  下水道情報 第1816号(平成28年4月26日発行)
◇インターネットやスマートフォンの普及により、“紙媒体から電子媒体へ”という世の中の流れが加速しているように感じる。それでも紙媒体に特有の価値や魅力を認めるという意見もあるだろうが、最早そうした声も陳腐に思える程、電子媒体の勢いは強く、需要も大きい。名古屋で開催される今年の下水道展。新たな試みとして、各企業の出展内容を紹介する「ガイドブック」を電子版に移行し、開催の3ヵ月前からWebで見られるようにする(5月2日から公開予定)。従来の冊子も引き続き作成し、来場者全員に配布するが、掲載内容は出展者の基本情報とQRコードにとどめ、スマートフォン等のカメラ付き端末から詳細情報が書かれた電子版のページへ誘導する仕組みだ。電子版にすることで、来場者が知りたい情報の検索が容易になるほか、最新情報の随時更新や、写真・動画の閲覧も可能になる。来場者の閲覧回数など未知な部分もあるが、時代の流れに沿った試みだと素直に評価したい。また、近年は経費削減等の事情で自治体職員が会場に足を運びづらくなっている背景もある。電子版の情報を充実させることで、会場に行かずとも下水道展を疑似体験できるような、“バーチャル下水道展”とでも言うような、下水道展そのもののあり方を変えるような仕組みに繋がる可能性もあるのでは、と夢想してみる。(O)



もう一つの「下水道史」  下水道情報 第1815号(平成28年4月12日発行)
◇下水協が先に発行した「続・日本下水道史(行財政編、技術編」を手にしたとき、これを制作するために費やされた多くの時間や関係者の苦労が手に取るように理解できた。昭和50年度から平成24年度に至る行財政の歩みや技術開発の推移が、時には重厚なタッチで、時には軽い足取りで闊歩するように綴られている。走馬灯のように過ぎ去った歴史の断片を、それに携わった人たちの知恵や工夫、苦悩さえもが伺われるような筆致で、丁寧に語られている。JS談合問題など、負の歴史についても避けることなく、事実を淡々と記しているところは好感が持てる。あえて言わせていただくと、これは行政の歴史。下水道事業を一方で支える民の歴史に目を向けると、初期は下水道を早期に普及させるため予算が年々増加し、これに伴い事業量が増え続けた。急増する需要に応じるため、民は生産設備を増強し、人員を増やし、技術開発にも投資した。ところが平成10年頃を境に風向きが急に変わる。一気に需要が減り始め、坂道を転げ落ちるように、事業量が縮小し続ける。15年くらいの間に市場規模が1/2以下にまで減少してしまう。そうした環境の激変は、民に過酷な変革を強いることにも繋がるため、「天国と地獄」を同時に経験した時代だったと思われる。(S)



呉越同舟の人材育成システム  下水道情報 第1814号(平成28年3月29日発行)
◇「フォーラム環境塾」という組織がある。廃棄物処理分野で活躍する主要な装置メーカーをはじめ、周辺設備機器、材料、コンサルなど多数の関連企業が協力し合い、各企業が派遣した1~数名の若手・中堅社員が同じ教室に集い、プロ技術者としての研鑽を積む教育システムだ。各塾生は本来の自社業務もこなす傍らで、錚々たる講師陣の毎月の講義や施設見学、泊りがけの合宿、論文の作成など、実にハードな1年間のカリキュラムを消化。この結果、自身の専門性を磨くと同時に、競合他社や異業種間での交流・人脈形成により、業界全般を広く熟知したV字型エリートが養成される。平成13年の開塾以来、送り出した塾生は約470名。初期のOBの多くは今や、各企業の上層部で重要決定権を握る要職に就き、自らが巣立った学び舎の運営を支援するとともに、自社の有望な社員の派遣を後押しするという安定した好循環が生まれている。コンプライアンス重視の今般、同業の社員同士がこれほど公然と集まれる場も珍しいが、だからこそ各社が、その存在の有用性や業界全体への貢献度をいかに高く評価しているかが判る。下水道界には自治体若手職員向けに「下水道場」があるが、この民間企業バージョンを立ち上げてみるのも面白いのではないだろうか。(Y)



基準達成型審査証明  下水道情報 第1813号(平成28年3月15日発行)
◇日本下水道新技術機構葉27年度、建設技術審査証明事業で50技術に審査証明書を交付した。管路更生工法は多くの工法が取得しているが、27年度も新たに3工法が取得し、取得済み工法は66となった。一方、審査証明事業では本年度、新たな審査方法として「基準達成型」が創設され、更生工法が取り扱い技術となったが、その第一号がパルテム・フローリング工法となった。審査証明は元来、依頼者が開発した技術について、依頼者が掲げた開発目標等を満たしているかを審査するが、基準達成型は下水道機構が審査基準(評価項目、要求性能)を示し、それを満たしているかどうかを審査する。更生工法の分野では、「JIS  A 7511」、「管きょ更生工法における設計・施工管理ガイドライン(案)」、「新たな耐薬品性試験(案)」と、評価基準の整備が進んでおり、これらの基準に則って審査証明を取得できるようにした。これにより、各工法を同一基準で比較することができるようになり、工法選定時の利便性の向上や、企業の技術力向上等の効果が見込まれる。現状、多くの自治体において、更生工法の採用を検討する際、最も重要な判断材料となっているのが審査証明の有無であり、今後も、自治体、企業双方にとって利用しやすい仕組みづくりが期待される。(M)



スマート下水道元年  下水道情報 第1812号(平成28年3月1日発行)
◇およそ5年前に「21世紀の水インフラ戦略」を上梓した日本下水道事業団(JS)の谷戸善彦理事長。同書では、「全体最適、持続可能、高効率性」といった特徴を持った下水道システムを「スマート下水道」と定義づけ、その実現に向けた「20の提言」を行った。たとえば、「管路や処理プラントの施工・維持管理でロボット化を推進」「資源・エネルギー活用や下水熱利用等に関して、民間による事業提案・事業実施を行う制度を創設」「下水道施設を総点検し、その結果をデータベース化」「ITを活用した遠隔操作による管理の省力化」。その後の国の施策と結びついているものが、いくつもあることに驚く。JSでも近年、スマート下水道に関する動きが活発だ。工事情報共有システム「JS-INSPIRE」や3次元CADを活用した下水道CIM。さらに先月には、センサー技術による処理・制御の効率化などに向け、「下水道IoT」の導入に関する共同研究者の公募も行われた。1月に開かれた施設協の新春賀詞交歓会で「出版当時、スマート下水道という言葉を使っている人はいなかった」と話した谷戸理事長。数年前から温めてきた様々な考えが、ここへ来てかたちになろうとしている。法改正一色だった昨年から次のステップへ。氏の言う「スマート下水道元年」になるかどうか、先導するJSの取り組みに注目したい。(T)



電力自由化と下水道  下水道情報 第1811号(平成28年2月16日発行)
◇4月から電力小売りの全面自由化が始まる。これまで東京電力など10の電力会社に限定されていた一般家庭等への電力供給事業に、登録を受けた企業が自由に参画できるようになる。年が明けて俄かにテレビコマーシャルでも各社のPR合戦が始まった。電力料金が下がりそうな会社へ契約変更すべきか検討している人もおられよう。ただ、電力自由化の狙いは市場競争によるサービス向上だけではない。東日本大震災に伴う原発事故とその後の電力危機、あるいはCOP21で採択されたパリ協定などで高まる再生可能エネルギーへの期待。この受け皿としての側面もある。個人が電力会社を自由に選択できることは、個人がその電気が何から作られているかを選べることに他ならない。環境への意識が高い個人や企業から今まで以上に再エネ由来の電力を求める声が大きくなるかもしれない。こうした動きが下水道の資源・エネ利用を後押ししてくれると面白いのだが。一方、従来の持ち場で競争力が激しくなる危機感からか、電力会社の異分野参入も目を引く。下水道でもそうだ。例えば需要確保が鍵の下水熱利用において、充実した顧客情報に強みのある電力会社と下水道企業がタッグを組むケースも見られる。新事業拡大への援軍と捉えるべきだろう。電力自由化の余波がこんな思わぬところにも届いている。(O)



「コンセッションとは何か?」の連載について  下水道情報 第1810号(平成28年2月2日発行)
◇本号より「コンセッションとか何か?-水ビジネスの現場から-」を、月1回のペースで約1年間に亘って連載する予定。執筆者は丸紅に在籍中、丸紅フランス、ビベンディ(当時)に約3年間出向し、民営化ビジネスの現場を見てこられた山崎敬文氏。現在はヴェオリアグループに移り、同グループの中核・ヴェオリア・ジャパンの副社長を務める。フランスにおける民営化の歴史や経緯、民営事業の実態を熟知している数少ない日本人といえる。周知のように、国は成長戦略の重点分野として、H26年度以降3ヵ年の間に、空港や道路、水道、下水道に究極の民営化ともいわれるコンセッション契約を導入する方針。公共が独占してきた事業に、民間の施設運営権を認めることで、企業に新たなビジネスチャンスを与えて、成長戦略の柱の一つにしようとしている。下水道は6ヵ所のコンセッション契約という目標が立てられているが、現在のところ浜松市の案件くらいしか見えてきていない。先に内閣府は国交省の下水道担当者を招き、早期に取り組むよう促したという話も聞かれる。近い将来、第2、第3の案件が登場してくるものと思われ、そうした背景からも、今回の山崎氏の連載は時宜を得たもので、民営化導入への道標になればと期待している。(S)



都市インフラのポテンシャル  下水道情報 第1809号(平成28年1月19日発行)
◇昨年の11月下旬、横浜市主催の市民向け健康イベントに参加した。緑豊かな郊外の丘陵地を1日かけて散策し、その途中にある浄水場と下水処理場にも寄り道して見学するというユニークな企画だ。参加者一行がまず立ち寄ったのは、国内6番目の能力(全体計画100万9200m3/d)を誇る小雀浄水場。水需要が急拡大した高度成長期に建設され、一時はフル稼動で市内広範に給水していたが、近年の節水型機器の普及や節水意識の浸透などにより、今では半分程度の運転(1日50万m3強)で済むというから驚きだ。また、水道の使用量が減れば当然、下水道への流入も減り、次に訪れた西部水再生センターも処理水量は頭打ちらしい。全体計画5系列・15万0700m3/dのうち、現在は3系列・9万5400m3/dが稼動し、将来の拡張用地も確保済みだが、すでに処理区内の人口普及率はほぼ100%だ。行政人口が増え続けている巨大都市・横浜でさえ、上下水道施設にこれほど余裕が生じつつあるのだから、人口減に喘ぐ地方中小都市では尚のことだろう。一度整備した施設を休止し現状維持するにも、費用も手間も必要だ。それならば、都市に眠るこの貴重なポテンシャルを有効に活かし、何か画期的な施策、新たな公共サービスを見い出せないか。真剣に検討すべき時期に来ていると痛感した。(Y)



自治体の主体的な行動を期待  下水道情報 第1807号(平成27年12月22日発行)
◇改正下水道法の施行により、維持修繕基準の創設、新たな事業計画の運用、執行体制の支援策の拡充等が行われた。財政支援策も、施設ごと、設備ごとの支援が可能だった従来の長寿命化支援から、下水道システム全体の維持管理・改築等の最適化を支援する「下水道ストックマネジメント支援」に切り替わる。本来、多額の費用をかけて作った市民共有の財産である下水道をより良い状態で次世代に引き継ぐために、どのような維持管理、改築更新をしていくのか、市民に対して説明し取り組んでいくことは、下水道管理者として極めて大事なことなのだが、全国的に見れば十分に行われているとは言いがたい状況にある。こうした中、自治体が現状と課題を認識し、ギャップを埋めるためにどうすべきかという戦略を自ら考えてもらう仕掛けを、財政、執行体制両面の支援策とともに提示した一連の措置は的を射た取り組みと考える。改正法の施行を受け、関連団体や民間企業など補完者側も着々と支援体制整備を進めている。あとは肝心の自治体だ。まだ目立ったリアクションが少ないのが気になるところだが、今後どのような態度で臨んでいくのか、どのような支援が必要なのか等、積極的に情報発信し、主体的に行動していくことを期待したい。(M)



水位観測主義  下水道情報 第1806号(平成27年12月8日発行)
◇下水道における浸水対策のあり方が変わろうとしている。国交省下水道部の加藤流域管理官が中心となって提唱する「水位観測主義」。管内水位を測りシミュレーションを行うことにより、浸水被害を軽減しようとするものだ。水防法の改正では、内水で大きな被害が生じる恐れのある下水道施設を「水位周知下水道」に指定し、内水氾濫危険水位を定める制度が創設された。「水位周知下水道」は地下街を含む区域が主な対象となり、危険水位に達した場合は防災部局などを通じて市民に伝えなければならない。また、下水道浸水被害軽減総合事業を活用する際には、今年度から管内水位に関する観測情報の蓄積状況と今後の観測計画の策定が求められるようになった。国交省は自治体の水位観測を後押しするため、水位計の適切な設置場所や設置手順などをマニュアル化する考えで、北海道苫小牧市ら3市と水位観測の実施手法に関する調査も進めている。かつて画一的なハード整備による「雨水排除」を目的としていた下水道の浸水対策は、地区と期間を限定した整備、ソフトや自助の促進などによる「雨水管理」へと考え方を変え、近年は既存施設を最大限使う「ストック活用」の視点も加わった。水位観測主義は、ストック活用を側面から支えるものとして、大きな役割を担うことになるだろう。(T)



“建設”一辺倒から“管理運営”含む計画へ  下水道情報 第1805号(平成27年11月24日発行)
◇改正下水道法のあえて目玉と呼ばせてもらう、維持修繕基準が11月19日に施行された。なぜ目玉か。同基準の創設に伴い今後3年以内に事業計画の見直しが求められる、すなわち、全ての下水道事業主体に関係があるからだ。見直しのポイントは、同基準に基づき、腐食の恐れのある管きょの点検の方法・頻度の記載が義務化される点が1つだが、もう1つ、新たに「施設の設置および機能の維持に関する中長期的な方針」の記載を求める点に注目したい。従前の事業計画は、大掴みに表すと“建設”の計画だった。しかし、下水道普及率の全国平均が80%に到達しようとしている今、“建設”の要素だけでは時代にそぐわない。そこで新たな事業計画では“管理運営”への意識づけを重要視する。改築事業の見通しだけでなく、それを判断する際のルールや、そのために必要な点検・調査のやり方などを自ら考えてもらうことで、事業全体を俯瞰した最適な“管理運営”に繋げていきたい意図がある。今後は、この思いを受けて地方公共団体がいかに計画の中身を充実させていくかに焦点が移る。当然ながら策定する側の負担もある。それに対し国は、策定にあたって地方公共団体が参照できるガイドラインを用意した。さらに、来年度予算の概算要求等を通じて財政面を含めた支援の拡充も検討している。(O)



改築事業を「見える化」、民の協力を求め老朽化対策  下水道情報 第1804号(平成27年11月10日発行)
◇札幌市が先に公表した「下水道改築基本方針」は、改築事業についての市の考え方や進め方、事業量、事業費などを明確に表わしており、請負う企業側にとって有難い情報提供となっている。例えば管の改築を見てみると、向こう10年間に毎年度210kmの管内調査を実施し、改築工事は段階的に増加させて、5年後には年間30kmとする。それ以降は、毎年度60 kmの改築をコンスタントに実施し、その事業費は現試算で年間90億円になるとしている。第三者には分かりにくい改築事業を「見える化」するとともに、一方で事業量の平準化を図っている。これは請負う企業側にとって、将来の仕事の見通しにつながり、技術開発意欲を生む要因になる。このほか市は、「周辺環境への影響の少ない管更生工法が主流になる」として、関連業界の意見を聞くアンケート調査を実施した。これは発注者として、膨らむ管更生の事業量に業界が対応できない可能性もあるとの懸念から、工事参加業者の拡大をめざして、参入意欲の有無や参入障壁、改善して欲しい発注形態などについて意見聴取したもの。新設と異なり不透明感のある改築事業の情報を開示し、民間側の協力を求めながら老朽化対策に取り組む姿勢は、他都市の参考にもなる。(S)



3・11と2人の官僚  下水道情報 第1803号(平成27年10月27日発行)
◇先日、元環境事務次官・南川秀樹氏の講演を取材し、その内容を講演録として仕上げる機会を得た。あらゆる要職を歴任する中、時には上部との衝突も厭わず突っ走り、環境行政の進展に多大な足跡を残したスーパー官僚。次官就任直後の3・11では、災害廃棄物処理の重要性に着目、「一人でもやる」と決心して特措法の迅速な制定を陣頭指揮したことで知られる。だが、実際に面と向かいお話をすると、実に気安く穏やかな人当たりで、威圧的な印象は欠片もない。大組織の頂点に立てる人物とは、大抵このように、平素は周囲を自然と惹きつける柔和さを纏い、ここぞの勝負所では自らの信念を強硬に貫き、硬軟両様を巧みにスイッチできる人だろう。20数年前、建設省道路局の道路経済調査室という、道路行政を司る中枢部門に取材で出入りしていた。対応窓口の補佐は、不案内な新米記者を、多忙の中でも常に笑顔で迎え、懇切丁寧なレクチャーをいただき、心底ありがたく感じたものだ。のちに報道でお名前を見かけたのは3・11の直後。東北地整の局長として国交相に直談判して全権を委ねられ、あの有名な「くしの歯作戦」を立案・決行、太平洋沿岸部への自衛隊輸送路を啓開した徳山日出男さんだ。7月末、いよいよ国土交通事務次官に就かれた。穏和なお顔立ちは昔のままである。(Y)



皇太子ご夫妻が下水道の最新技術をご視察  下水道情報 第1802号(平成27年10月13日発行)
◇皇太子ご夫妻はこのほど、東京都の芝浦水再生センターをご訪問され、上部に建設された商業ビル「品川シーズンテラス」や、ビル館内の冷暖房を賄う下水処理水利用熱供給システム、管路更生(製管)工法のデモ施工、下水汚泥から水素を製造する技術や燃料電池車など、下水道の先端技術を視察された。皇太子さまは水問題の研究をライフワークとされ、雅子さまも地球環境にご関心が高いとのこと。石原下水道局長らの説明を熱心にお聞きになり、時々ご質問されるなど、下水道にもご関心をお持ちのご様子。離れていたため直にお聞きすることはできなかったが、「下水管の中で作業をするのは大変ですね」「特に雨の日は気を使いますね」などと感想を述べられたという。当日の取材は写真撮影時の立ち位置や撮影時間、フラッシュの使用禁止など厳しいルールの下で行われ、一般紙誌等の皇室担当者と違ってそうした取材に不慣れな記者には戸惑いもあったが、「めったにないチャンス」と必死にシャッターを切った。しかし、気負いや緊張のせいで手ブレがひどい写真が予想以上に多かった。なお、ご視察は当初は皇太子さまおひとりの予定だったが、直前に雅子さまの同行が決まったとのこと。ご夫妻を写真に収めることができたのは幸運だったことを後から知った。(M)



統合災害情報システム「DiMAPS」  下水道情報 第1801号(平成27年9月29日発行)
◇国土交通省は9月1日、統合災害情報システム、「DiMAPS」(Integrated Disaster Information Mapping System)の運用を開始した。「道路」「河川」「港湾」「下水」など、各分野における施設の被災状況をWEB上の地図で一括管理・公開するもので、日本IBMの支援を受けて構築した。今月発生した台風18・17号による被害状況(第22報、21日現在)を見ると、「下水道処理施設」(ポンプ場・処理場)は8件、「管渠マンホール」は11件が表示される。例えば宮城県大崎市の古川師山下水浄化センターでは一部冠水(沈殿池、汚泥棟)があり、JSの支援で機能回復したことが記されるなど、対応状況の概要までわかる。災害発生時には迅速な情報の収集とその共有が不可欠になるが、収集フォーマットの統一化やアウトプットの手法は難しい課題とされてきた。DiMAPSは、分野横断的に集めた情報をビジュアル化することに成功したという点で画期的。災害の全体像の把握や多角的な分析、関係者の意思決定を効果的に支援するシステムになっている。また、被災状況だけでなく、土砂災害危険箇所や浸水想定区域などの「ハザード情報」を表示することも可能。災害対応に加え、減災・防災のプラットフォームとしても広く活用されることが期待される。(T)



広がりつつある管きょ下水熱利用  下水道情報 第1800号(平成27年9月15日発行)
◇管きょを流れる下水は、外気の温度に比べ、夏は冷たく、冬は暖かい。この温度差エネルギーを有効活用する取り組みが広がりつつある。これまでも実証レベルでは仙台市等で事例があったが、本格的な事業はなかった。その第1弾になりそうなのが、愛知県豊田市で進められている市街地再開発に伴う下水熱プロジェクト。管更生と一体的に熱交換器を布設し、回収した熱を高齢者施設への給湯に利用する。まちづくりと連携した下水熱利用のモデルケースにもなりうる。一方、長野県小諸市では、先般の法改正で可能となった民間主体のプロジェクトが実施される予定。こちらも管きょ熱利用の新たなスキームとして注目度は高い。さらに、これは実証段階だが、滋賀県が流域管きょを対象とした下水熱利用について民間企業3社と共同研究に取り組むことを発表した。こうした種々の動きがある中、国交省でも支援策を用意する。来年度予算概算要求では管きょ熱利用を想定し、民活イノベ推進事業の要件拡充を要望した。また今年度からは、案件形成を進める鍵となる需要側と供給側のマッチング支援として、アドバイザー派遣制度をスタート。小諸市や滋賀県など18件の個別案件が対象だが、即刻事業化が期待できるものも少なくないそうだ。(O)



卓越した技術を後世に残すためにも市場の開拓  下水道情報 第1799号(平成27年9月1日発行)
◇推進工法をインドネシアやベトナムなど東アジアの途上国に技術供与するという試みが具体化しているが、その反面、同工法の国内市場は長期に亘って冷え込み、先細り傾向に歯止めのかからない状況が続いている。最盛期は年間1300km近く発注されていたのが、最近では300数十kmにまで減少している。国交省の「主要資材・機器および工法別発注実績」を見ても、平成25年度の推進工法の発注延長は372.6kmと、ピーク時の30%以下になっている。こうした市場の急速な縮小傾向は、そのまま技術レベルの低下につながってしまう。戦後60年くらいの間に、世界でも類を見ないスピードで卓越した穴掘り技術に成長した同工法を、後世への技術遺産として残すためにも、新たな市場の開拓が求められる。発展途上国だけでなく何処の国にも売り込める技術とするために、さらなる国の支援を期待したい。日本には推進工法だけでなく、世界に誇れるシールド工法もある。また、最近では多様な管更正工法技術も登場している。そうした関連メニューを揃えて海外進出を促すような戦略も一考に値する。この他、下水管光ファイバーや下水熱回収などの最新技術を含めて提供するなど、付加価値をつける工夫も考えられよう。(S)



変われるか焼却大国  下水道情報 第1797号(平成27年8月4日発行)
◇環境省の調査(平成25年度)によると、我が国では年間4487万tの一般廃棄物が排出され、この3/4にあたる3373万tが各自治体・組合等のごみ焼却場で燃やされている。全国にある焼却場の数は約1500。意外に知られていないが、この小さな国は、地球上の焼却場の2/3が集まる世界一のごみ焼却大国だ。分別収集・再資源化や排出抑制の取り組みの浸透により、長らくごみ排出量、焼却量とも減少傾向にはあるが、「ごみは燃やすもの」の基本姿勢は不変。大半が水分である生ごみまで一緒に燃やす大胆さには、欧米からの視察者は目を丸くするという。ただし最近は、家庭ごみの3~4割を占めるこの生ごみの扱い方に、畜産や下水道分野で先行しているメタン発酵・ガス発電という新たな選択肢が生まれつつある。バイオマス活用の機運拡大やFITの施行にも押され、焼却一辺倒の施策を推し進めてきた国(環境省)も徐々に軌道修正。まだ数えるほどだが、山口県や新潟県、兵庫県などで、ガス化設備を併設したユニークなごみ処理施設が動き始めた。下水道界でここ数年、汚泥のエネルギー利用が急速に浸透したように、ごみ処理の世界でも「全量焼却」から「選別焼却+バイオガス化」へと一気にシフトしようとする静かな胎動が感じられる。(Y)



大都市や流域下水道が中心の改築・更新需要  下水道情報 第1796号(平成27年7月21日発行)
◇国交省が今春、発表した「下水道工事主要資材・機器・工法調書」によると、H25年度の下水道工事総発注額(1兆1324億円)の半分以上を指定都市(4329億円)と都道府県の流域(1532億円)が占めている。下水道の事業主体は全国に1500近くあるが、21の指定都市と流域下水道を実施している42の都道府県だけで、全体の51.6%を発注していることになる。機械・電気設備をみると、そのシェアはさらに高くなる。機械設備のH25年度発注額は1703億3440万円だが、このうち指定都市が710億6510万円(41.7%)、流域下水道が428億8120万円(25.2%)と、併せて66.9%になる。電気設備はそれ以上で、全発注額1583億9970万円のうち、指定都市が657億9850万円(41.5%)、流域下水道が483億2930万円(30.5%)と、実に全体の72%に達している。下水道整備が一巡して、改築・更新の時代を迎えているが、改築・更新需要は早い時期から下水道に着手している大都市や、一歩遅れて全国に普及した流域下水道が中心になっている。暫くはこうした傾向が続くと見られ、大手の設備メーカーなどは営業のターゲットを絞り込む傾向にある。中小都市の下水道は、管理を含む案件にしか手を出さないといった声も聞かれるようになった。(S)



収入構造の検討とJSの存在意義  下水道情報 第1795号(平成27年7月7日発行)
◇日本下水道事業団(JS)の平成26年度決算では、1億7600万円の経常損失が計上された。24年度の5700万円、25年度の6億1100万円に続き3期連続の赤字決算。26年度の受託建設事業の実施額は、計画額1662億円に対して1441億円だった。工事のうち初回公告で落札決定に至らない案件が全体の35%を占め、不調・不落に伴う事業の先送りなどが影響している。公共事業の動向と足並みを揃え、JSの受託事業費は減少傾向にある。ピークに達した11年度の3539億円に比べ、近年は4割程度の水準。さらに、受託のメインが新設・大規模案件から再構築・小規模案件にシフトし、手間はかかるが実入りは少ないという状況も。26年度からは国と地方が半分ずつ拠出していた補助金もゼロになった。こうした中でJSは、先月17日に「受託業務の持続性確保のための検討委」を立ち上げた。管理諸費のあり方も含め、収入構造の改革に向けた検討が1年がかりで行われる。管理諸費の体系を見直すことになれば、ユーザーである公共団体の抵抗も予想され、厳しい折衝になるだろう。5月に成立・公布された改正JS法では支援機能の充実が位置付けられたが、公共団体はJSの存在意義をどう捉えるか。検討を進める上でのひとつのカギになるのではないだろうか。(T)



下水処理水でフルーツ栽培  下水道情報 第1794号(平成27年6月23日発行)
◇下水道とマンゴー。この一見無縁の2つの名詞が結びつく。27年度のB-DASHプロジェクト。沖縄県糸満市、京都大学、西原環境、東京設計事務所で構成した共同研究体が、下水処理水の革新的な再生処理システムを実証する。ポイントは、製造した再生水の用途。せせらぎ用水にまわすだけでなく、農家に無償で提供し、野菜や果物の栽培に利用する。沖縄県は台風の通過などで雨の多い印象がある。しかし実際は、降水量の多い北部に対し南部では水の供給量が逼迫しているという。そのため糸満市では地下ダムを建設するなどし、農業用水の確保を図っているが、十分ではない。水資源が豊富な北部地域から引いてくる考え方もあるものの、水路の建設などでコストがかかる。そこで注目されたのが地元の下水処理場で製造する再生水だ。従来から下水処理水を農業利用する取り組みは各地で行われてきた。しかし収穫後に一加工ある稲作などの利用が主で、人間の口に直接触れる野菜やフルーツなどの栽培に使われる例はなかった。実証ではUF膜と紫外線消毒の組み合わせにより、人体に影響のあるウイルス等を確実に滅し、安全な再生水を供給する。極端な話が、下水由来の再生水でつくったマンゴーを、一度も水洗いせずとも食べられるわけである。(O)



東京都の「設備再構築基本計画」  下水道情報 第1793号(平成27年6月9日発行)
◇本号巻頭に掲載した東京都下水道局黒住流域下水道本部長のインタビューで話題に上がった「設備再構築基本計画」。設備のアセットマネジメントの考え方が示された、いわばバイブルのような冊子だ。特徴は、①主要13設備の経済的耐用年数や補修時期を定め、各工事の実施時期を明確化、②これまでの点検結果に基づく維持管理から実績の分析結果を基にした時間管理を主とした維持管理への転換、③補修の集中実施や計画的な大規模補修の実施によるライフサイクルコスト(LCC)の縮減、④「基本タイムスケジュール」として、設備のアセットマネジメントの「見える化」を実現、など。計画策定にあたっては、これまでの点検や補修、改良、再構築などの膨大な維持管理実績の分析を行ったというから驚く。一方、その分析にあたっては、従来から運用している運転管理や保全管理等の情報システムが、それぞれ機能的に連携できておらず、情報共有ができないなどの課題があることが判明。そこで現在、既存システムを統合しアセットマネジメントの効率化に対応する「下水道設備保全管理システム(仮称)」の構築を進めている。今後、実際に運用したデータを新たなデータベースに蓄積し、更にLCCを最小化する「設備再構築基本計画」に見直していく方針だ。(M)



電力の新たな地産地消  下水道情報 第1792号(平成27年5月26日発行)
◇横浜市のごみ焼却施設の1つ・金沢工場で、焼却余熱で発電した電力の一部を、「自己託送制度」を活用して近くの市関連施設に供給する取り組みが始まった。国が進める電力制度改革の一環として昨年できた新制度だが、「自治体ではおそらく全国初の導入」と市担当者。具体的には、需要家の自家発電設備で作った電力を、一般電気事業者(東京電力)が保有する送配電網を経由して、別の場所にある当該需要家自身の施設に供給する方法であり、「再生エネの地産地消」の新たな形態と言える(ただし、実際は数字上の相殺でしかないのだが)。託送先や時期・電力量などを事前に概定して、東電と託送契約を有償で結ぶ必要があるが、市は今回、手始めとして金沢区総合庁舎(30kW、冷房時)を夏季、新交通・シーサイドライン(400kW、凍結対策時)を冬季の託送対象に選定。電力需要をピークカットして従来の買電契約の基本料金を下げられるため、この2施設だけでも年間数百万円を削減できそうだという。発電事業を手がける下水処理場も各所で見られる時代となった。再生電力をすべて優遇FIT価格で売り捌くのも良いが、あえて一部は自己施設で利用し、住民の目に見える経済効果や地域貢献度もPRできる横浜方式の採用も、大いに検討の価値があろう。(Y)



入札不調問題、本質的な対策を  下水道情報 第1791号(平成27年5月12日発行)
◇東京都下水道局の26年度発注工事における入札不調は全体で16.2%(25年度13.8%)、土木工事は21.8%(同18.4%)と増加した。特に都心部で行われる管きょ再構築工事の不調率が高い。近年、労務単価の見直し、都心区割増、工事発注時期の平準化など様々な対策を実施しているが、不調率の改善には結びついていない。これは都や下水道事業に限らず、全国の公共事業の問題となっている。一方、国交省によると、全国の建設業における技能労働者数は平成9年の455万人をピークとして22年に331万人にまで減少、その後増加に転じて26年は341万人となったが、ピーク時からは25%減少している。10年度頃から続いた公共事業の抑制により、建設業界は疲弊し就業者は減少した。震災復興やオリンピックなどによる仕事量の急増に対し担い手が不足していることが入札不調の根本原因であり、ミスマッチが続く限り改善は難しいだろう。担い手を増やすには建設業界の魅力を高めなければならない。そのために最も大事なことは将来安定した仕事量が見込めることだ。現在の特需後に反動減が待っていると考えられるうちは業界の人材確保は難しい。中長期的な、財政計画を伴う建設投資計画や維持管理計画など、将来の見通しを提示することを発注者全体で考えるべきではないか。(M)



下水道事故防止、一歩踏み込んだ対策を  下水道情報 第1790号(平成27年4月28日発行)
◇国交省下水道部は、自治体の下水道施設で事故が発生した場合、原因分析と再発防止策を含め、速やかに報告することを求めている。報告された内容は「事故データベース」に整理され、同省ホームページ内の「下水道セーフティネット」で閲覧できる。例えば、平成26年度に報告された工事中の事故は91件。5人が亡くなり、67人が重傷、26人が軽傷を負った。事故の類型をみると、「はさまれ・巻き込まれ」が最も多く31件、「墜落・転落」が28件と次ぐ。事故を防ぐためには、まず過去の事例を知ることが重要だ。その意味でこのデータベースは、一定の役割を果たしていると言える。しかし一方では、同じような事故が繰り返し起きているという事実もある。今月17日には、死亡事故が相次いで発生した。茨城県取手市で、下水道管の埋設作業中に周囲の土砂などが崩れ、作業員1人が生き埋めになった。東京都港区の芝浦水再生センターでは、蓋の点検作業中に作業員1人が反応槽に転落した。両者は極めて痛ましいものだが、「また起きてしまった」という感は拭えない。収集した膨大なデータから効果的な再発防止策を導き出す、あるいは事故が起きにくい施設設計である「安全設計」の手法を取り入れるなど、一歩踏み込んだ対策が必要ではないか。(T)



水素に見る下水道のミライ  下水道情報 第1789号(平成27年4月14日発行)
◇好評を博した「Pen+(ペン・プラス)」の第2弾が発刊され、話題を呼んでいる。今回のテーマは下水道の“ミライ”。下水道の持つポテンシャルに焦点を当てた内容となっており、その代表的な例として下水汚泥の水素利用が取り上げられている。水素と言えば、トヨタ自動車が昨年末に発売し、本田技研工業も今年度中に発売予定のFCV(燃料電池自動車)が思い浮かぶ。水素と空気中の酸素との化学反応を利用して電気をつくる燃料電池。これを搭載したFCVは、電力の製造過程に石油等の化石燃料を使わないため「究極のエコカー」とも呼ばれる。FCVの普及には燃料となる水素の製造・供給拠点が各地に必要だが、その役割を担える施設として下水処理場に注目が集まっている。既に福岡市の中部水処理センターでは国交省の実証事業を通じて水素ステーションが建設され、3月末に稼動を開始した。ここでは消化ガスから水素を取り出す技術が採用されているが、脱水汚泥から直接水素を製造する方法についても東北大学等で研究が進められており、これが実用化されれば消化槽を持たない処理場も水素製造拠点としてのポテンシャルを有することとなる。水素が下水道の“ミライ”にどう関わってくるか、今後も各地の事業化の動きなどを追っていきたい。そう言えばトヨタが発売したFCVの名前も“MIRAI(ミライ)”だった。(O)



FIT活用の消化ガス発電は収益を生む  下水道情報 第1788号(平成27年3月31日発行)
◇3月15日に松山市中央浄化センターの「消化ガス発電設備」が完成した。FITを適用して1月から売電を始める。売電収入は年間1億円を優に超え、約8700万円の売却益を見込んでいる。国内ではすでに30ヵ所以上の下水処理場で固定価格買取制度を活用したバイオマス発電事業が具体化している(本紙No.1779参照)。全国には消化槽を有する処理場が300以上あり、まだ1割程度の普及に過ぎない。周知のとおり、ガス化(下水汚泥)バイオマスの買取価格は39円/1kWh(税抜)、期間20年と優遇された制度になっている。大手プラントメーカーの某有識者によると、現行の制度が続くかぎり、消化槽を持つ処理場なら何処でやっても収益が見込める、なぜ手を上げないのか不思議だと語る。他のバイオマス発電の場合、資源(家畜糞尿や木材など)の確保から収集の方法、バイオガスや熱を発生させる装置(ボイラー等)を決め、発電設備を設置することになる。下水処理場では資源(汚泥)は自動的に集まり、大掛かりなガス発生装置も簡略化できる。極端な言い方をすれば、発電設備を設置するだけで売電が可能になるという。太陽光発電や小水力発電と組み合わせる自治体もあり、更新・維持管理費の軽減策の一つとして検討してみる価値はありそうだ。(S)



生まれ変わる芝浦水再生センター  下水道情報 第1787号(平成27年3月17日発行)
◇国内有数の歴史を持つ芝浦水再生センターが最先端の環境配慮型施設として生まれ変わる。敷地内にこの4月、民間事業者による業務商業系ビルが開業するのだ。地上32階建て、延床面積は20万㎡と、都庁第一庁舎とほぼ同規模。地下には合流改善のための雨天時貯留池、隣接する水処理施設上部には人工地盤を築造し、大規模な公園を創出する。同センターは1931年の運転開始から84年が経過しており、今後老朽化した施設の再構築を段階的に実施していく。一方、同センターが位置する地区は環境モデル都市の中核を担う拠点と位置づけられている。こうした中、第一期再構築事業として雨天時貯留池の建設に合わせ、合築の手法で上部に業務商業系ビルを築造したもの。上部ビルは都が一部を区分所有し、それを上部利用者にマスターリースして賃貸借料を得る仕組みだ。実は1990年に都がまとめた『下水道―21世紀都市東京を創る』という書籍にセンター内にビルを建てるという夢が描がれていた。当時は単なる夢にすぎなかったが、立体都市計画制度の創設や土地や空間の民間事業者への貸付に関する規制緩和といった外部環境の変化も重なり、25年経って現実のものとなったという。一度訪問すれば従来の「下水処理場」のイメージとかけ離れた空間に驚くだろう。(M)



ほどほどの水処理  下水道情報 第1786号(平成27年3月3日発行)
◇広島県屈指の養殖ノリの産地、福山市の沿岸部では近年、ノリが赤味を帯びる「色落ち」現象が発生。ノリの生育に欠かせない海水中の栄養塩の不足が主因とされ、漁業関係者の要望も受けて、市はこのほど市内に3ヵ所ある下水処理場・し尿処理施設で、放流水質を意図的に引き下げる「脱力運転」の試行を始めた。過去に兵庫県(加古川流域)などで実施例があり相応の効果も見られたというが、県内では初の試みだ。市唯一の下水処理場、松永浄化センター(標準活性汚泥法)では、最近の平均放流水質が全リン0.5㎎/l、全窒素23.9㎎/lと、通常はかなり高級な処理が行われているが、今後(当面は3月末までの期間限定)は反応槽の曝気量を下げて微生物の活動を抑え、規制値(全リン8㎎/l以下、全窒素60㎎/l以下)の範囲内で水質を落として放流。市の水産担当部局が海域の水質やノリの生育の変化を検証する。ただ、市上下水道局の担当者は「全力投球の運転方法はわかるが、ほどほどに処理する力加減は見当がつかない」。COD値やBOD値への影響も未知数のため注意が必要とのことで、今のところは処理状態が十分安定した日しか「脱力運転」の実施は難しいという。かつて富栄養化による赤潮被害に悩まされた瀬戸内海の街で、今度は貧栄養化の解消に向けた取り組みが手探りで進められる。(Y)



3D技術の活用、下水道でも検討始まる  下水道情報 第1784号(平成27年2月3日発行)
◇様々な分野で活用されている3D(3次元)技術。身近なところでは映画やテレビ、3Dスキャナーやプリンターの普及も進む。民間の製造業や建築業などでは、設計や施工で当たり前のようにとりいれられている。それらに比べ、公共事業での活用は後れを取っているが、具体的な取り組みがみられはじめた。国土交通省は、建設事業に3Dモデルを活用するCIM(コンストラクション・インフォメーション・モデリング)を平成24年度から直轄事業で試行。その動きは下水道分野にも波及し、昨年末にはJSの旗振りでCIM導入に向けた検討が開始された。JSは共同研究者を募集し、ゼネコン、プラントメーカー、コンサルの計11社を選定。26~27年度の2ヵ年をかけて、準備を進める。CIMで活用する3Dモデルには、材料・部材の仕様やコストなどの「属性情報」も盛り込めるため、積算などの業務の効率化が期待される。数多くの設備が複雑に配置された処理場などを抱える下水道事業では、導入効果も大きいのではないだろうか。小紙の新春インタビューでJSの谷戸理事長は、「数年後には、JS工事の大部分の発注にとりいれられるようになっていたい」と意欲を示した。下水道事業全体への普及に向け、JSの取り組みが先導的なものになるか、今後に注目したい。(T)



人口減少社会  下水道情報 第1783号(平成27年1月20日発行)
◇減り続ける日本の人口。このままでは近い将来、約半分の自治体が消滅する――。こう警鐘を鳴らすのが増田寛也編著『地方消滅』(中公新書)だ。人口推移の将来予測にもとづき、今後30年間で若年女性(20~39歳)が5割以下に減少する896市町村を消滅可能性都市として挙げた。同書では日本における人口減少の原因を東京への一極集中にあると認識。東京への人口流出を防ぐ“最後の踏ん張り所”として、広域ブロック単位の「地方中核都市」の重要性を主張する。ここに資源や政策を集中的に投入し、地方から大都市へ向かう人の流れを変えようというのである。一方、山下祐介著『地方消滅の罠』(ちくま新書)は、この構想に異議を唱える。中核都市構想では結局、地方に準東京をつくるだけで、人口減少の根本的な解決にはならないと指摘。それよりも「地方中核都市から、さらに地方の中小都市へ、そしてさらには農村漁村へと押し戻すことが本来あるべき方策」だとし、都市も地方も否定しない“多様性の共生”を提唱する。両書は考え方やアプローチの仕方こそ違うが、現状のいびつな人口分布に抱く問題意識は共通したものだ。人口減少社会に対応した地方自治のあり方や住民としての姿勢を見つめなおす上でも示唆は多い。(O)



話すより文字で語りかける若者  下水道情報 第1781号(平成26年12月23日発行)
◇上下水道を学ぶ東大都市工の学生、18名と話す機会があった。最近の若者を知る絶好のチャンスと、会う前から興味は尽きなかった。結果は“おとなしい、自分の意見を言わない”、といった印象だった。その後、感想文を読ませてもらうと、意外にも率直な意見が綴られていた。例を挙げれば、東日本大震災について、「大きな災害が起こり、多くの物やサービスが壊れたとき、何から順に手を付け始めるのかという指針は見たことがない。自分が知らないだけなのか、そういう設定は意味をなさないのか」「下水道の歴史に興味を持っていて、導入時の決定やその理由を見ていると面白い。その時代の決定が、遠い将来を左右するものだと思い、決定する側は今だけでなく、将来的にも便益をもたらす判断を下さなければならない」「授業で洪水を扱ってきたが、より外的な津波や高潮による海水被害にも目を向けたい」。このほか、「上下水の授業で、新設ではなく改修の時期という言葉をよく耳にする。上下水が一斉に整備されたことを考えると、改修の必要が一気に押し寄せるのは当然。上下水にかかわった何十年前と今とでは、持つべき姿勢が異なっているものか」等。情報機器の発達により、話すより文字で語りかける若者が増えているのだろうか。(S)



種を蒔き続けること  下水道情報 第1780号(平成26年12月9日発行)
◇中央高速・笹子トンネルの天井崩落事故から丸2年が経過した。この重大事故は、高度成長時代に集中的に整備された社会インフラの脆さを強く印象づけるとともに、「新規建設よりもまず、既存施設の適正な更新・管理を」と、公共事業のベクトルを内向きに転換させる契機にもなった。多くの市町村では今、「人口は減り続け、景気の見通しも暗い。管理運営だけ粛々とやろうよ」という重苦しい空気の中、老朽化した橋やトンネル、ハコモノなどの更新に必要な予算や技術者の工面に追われている。その一方で近年は、平成バブル期ごろに萌芽し、膨大な時間と費用が注がれてきた大型プロジェクトが次々と結実。3年前の九州新幹線に続き、来年春に北陸新幹線、27年度中には北海道新幹線の開業を控える。道路関係でも第2東名をはじめ、東京近辺では圏央道や外環道のほか、個人的には最先端の土木技術が結集した首都高速・中央環状線の全線開通が実に楽しみである。これらが完成・供用開始に至るたびに、閉塞感が漂う世の中に少し光が射し込み、街は少し暮らしやすく変わる。もちろん更新事業は最重要だし、無駄な投資の抑制は大前提だが。それでもなお、10年・20年後に開花し「社会の栄養分」となる種をこつこつ蒔き続けるひたむきさは必要だと信じる。(Y)



技術開発で事業推進する東京  下水道情報 第1779号(平成26年11月25日発行)
◇下水道事業が直面する課題、将来の課題を見据えた技術開発に取り組む東京都。「技術開発が事業を発展させる鍵」と松田局長が述べるように(本号「インタビュー」参照)、高度化、多様化する課題に対応するには新技術の開発・導入は欠かせない。最重点施策である管路の再構築や耐震対策の進展はSPR工法やフロートレス工法等の技術抜きでは語れないほどだ。そして今年は、一つの処理槽で窒素・りんの除去を行い、従来の高度処理法と比べ電力使用量が2割以上少ない「新たな高度処理技術」や、管路内作業の安全対策として、マンホールを塞がずに送風できる換気装置「ホールエアストリーマ」等を開発。27年度は新たな高度処理を浅川水再生センターに、また従来の沈殿処理と比較して汚濁物を2倍程度多く除去することが可能な合流改善技術「高速ろ過」を芝浦、砂町水再生センターに導入するための工事に着手する。一方で現在、浸水対策で今後建設が予定されている50m程度の深さのポンプ所に対応する「高揚程・大口径ポンプ技術」、超低含水率型脱水機とエネルギー自立型焼却炉を組み合わせた「第三世代型焼却システム」の開発・導入に向けた取り組みも進む。技術開発を見ていると下水道の未来の姿が見えてくるようでもある。(M)



コンセッション方式、下水道に適したあり方で  下水道情報 第1778号(平成26年11月11日発行)
◇平成23年5月のPFI法改正で認められた「コンセッション方式」。公共施設の運営権を民間企業が購入し、料金収入等で事業運営を実施していく仕組みだ。公共側としては運営権の対価を債務返済に充てられ、財政負担なしで事業運営を継続することができる。民間側としては収益拡大が図れ、運営権を担保にした資金調達も可能になるというメリットがある。アベノミクス第三の矢に位置付けられる「日本再興戦略」ではその導入が促進され、平成28年度末までの目標として下水道、上水道、空港でそれぞれ6件、道路で1件の案件形成が掲げられた。下水道では、浜松市が先行して導入に向けた検討を推進。大阪市や大津市、本号で取り上げた習志野市なども可能性を探る。ただ、資産・財務状況を明らかにする公営企業会計の導入が進んでいないことや、災害時対応の必要性などを踏まえると、下水道事業をまるごと委託してしまうのはリスクが大きい。現実的には事業を切り出すような形態が妥当だと考えられ、その場合も明確なリスク分担が不可欠。履行管理体制についても熟慮が必要だろう。厳しい財政事情を抱える下水道事業では、運営手法の効率化に目を奪われてしまいがちだ。しかし、「事業主体」である公共の役割が空洞化したり、市民不在の取り組みになることは、避けなければならない。(T)



海外展開で大きな成果  下水道情報 第1777号(平成26年10月28日発行)
◇下水道分野における海外展開で待望の成果だ。マレーシア・ランガット地区の下水道整備プロジェクト。住友商事・現地企業JVの受注が固まった。対象施設は処理場1ヵ所、ポンプ場10ヵ所、管きょ約100km。設計、建設から維持管理(2年間)までの下水道システムを一括で請け負う。金額にして約500億円の大型案件である。受注にあたっては、東京都下水道局と東京都下水道サービス(TGS)が技術面で強力にバックアップ。平成22年の現地調査から、足かけ5年で受注に漕ぎつけた。採用された省スペース型の水処理技術「深槽式反応槽」も都の技術だ。国交省を中心に国も全面的に支援した。現地セミナーや研修生の受け入れに限らない。今回のプロジェクトの発注者は地方自治体ではなく、国。その点からも政府間協議やトップセールスの効果は少なくない。国、自治体、民間が相互に連携し、それぞれの役割をこなした。さらなる躍進が期待される下水道分野の海外展開。今回は1つのモデルケースとなったのではないか。事業はこれからが本番。日本の技術が必要とされる場面も多いだろう。価格やリスク面の課題もあるだろうが、ぜひ日本企業には積極的に参画してもらいたい。続く第2、第3弾の案件獲得へ。その布石として、現地に高い技術力をアピールするよい機会では。(O)



下水道事業団の全契約実績をデータベース化  下水道情報 第1776号(平成26年10月14日発行)
◇自社商品のPRになってしまうが、10月に「JS契約情報データベース」を発売する。JSは昭和47年11月、下水道事業センターとして産声を上げ、同50年8月に日本下水道事業団に改組、その後約40年間に亘って下水道の根幹施設建設に従事してきた。今年40周年を迎えることになったが、小社もJSとともに歩み、発足時から契約情報をもれなく報じてきた。今回リリースするデータベースは、昭和50年度から平成25年度に至る39年間分の契約実績を自在に検索できる(グラフ化も可能)システムとして集大成したもので、契約件数は延べ4万4500件、契約総額は7兆円余りに達する。設計や工事(土木建築、機械設備<ポンプ、送風機、水処理、汚泥処理、焼却・溶融>、電気設備)の年度別契約状況はもとより、各企業の受注高推移や受注地域の都道府県分布など、多様なグラフ表示も可能。JSの受託箇所は昭和62年に奈良県(吉野川流域)を加え、全国(47都道府県)に及んでいる。日本の下水道整備が思いのほか短期間に進捗した主な要因として、JSが技術力の乏しい地方都市をサポートし、処理場等を次々に受託施工してきた成果が挙げられる。下水道整備の推進にJSが果たした役割の一端が垣間見えるデータベースになっている。(S)



土砂災害特区  下水道情報 第1775号(平成26年9月30日発行)
◇広島市の大規模土砂災害から1ヵ月以上が経過したが、ライフラインの復旧が遅れ、依然多くの住民が避難所生活を強いられている。被災した同市安佐北区や安佐南区は1970年代初めに編入された旧郡部の山間地で、交通網の整備や政令都市への移行を機に宅地化が急進展。中には危険を承知で乱開発された住宅地もあるかもしれない。また、一帯は花崗岩が風化したマサ土と言う脆弱な土質が支配的で、長い年月を経る中でさらに風化が進み、今がちょうど耐性が限界に達した時期だと仮定すれば、今後はより少ない雨量でも、純粋な自然現象としての崩落を容易に繰り返すことになろう。しかし、こんな「明白な危険が想定される箇所」でも、一般的に行政は、土地利用を制限し、資産価値も減じる「土砂災害警戒区域」の指定にはきわめて慎重だ。住民側の猛反発も必至である。だが、指定区域内の土地を所有者が防災や環境保全に資する公共用地として提供した場合、代替地の利用に特典(容積率緩和、用途指定変更など)を付与できれば、多くの難問を解決でき、経済の活性化にも繋がるはず。地質学が専門の中川要之助・環境計画センター副会長が、こうした特例制度の創設を求める緊急提言「土砂災害特区の勧め」を発信している。行政側としても、俎上に載せるに値する、示唆に富んだ見解である。(Y)



「業種新設」の議論、自治体の積極的な関与を  下水道情報 第1774号(平成26年9月16日発行)
◇国交省で管路更生工事の最重要課題である「業種新設に関する検討」がスタートした。今後工事量の増大が見込まれ、技術力の確保による品質確保の重要性が高まっている管路更生工事の業種区分や技術者確保のあり方、品質確保に向けた制度改善のあり方等について検討する。メンバーは同省下水道部、同建設業課、東京都、大阪市、日本下水道管路管理業協会、日本管路更生工法品質確保協会の6者。施工現場で最終製品化する管路更生工事は、材料の品質管理と現場の施工管理とともに技術力のある施工業者を選定することが重要だ。しかし現状、多くの自治体においては地元企業優先の発注方式が採られ、技術力が適切に評価される仕組みにはなっていない。技術者数が少なく管更生工事の経験も少ない中小都市ほどその傾向は強い。その結果、工事品質の低下や一括丸投げに繋がっていると指摘されている。管路更生工事の品質向上、これに携わる企業の技術力の向上、経営の安定化、業界の技術者確保などさまざまな課題を解消するためにどういう制度、仕組みが望ましいか。業界や大都市だけでなく、下水道事業を運営するすべての自治体に関わるテーマだ。多くの自治体の積極的な関与や意見表明により活発な議論が展開されることを期待したい。(M)



技術からソリューションへ  下水道情報 第1773号(平成26年9月2日発行)
◇8万5720人を集めた今年の下水道展。ブースを訪ね歩くなか、ひとつ気付いたことがある。「トレンドがつかみにくい」のである。とりわけそれは下水処理設備のゾーンで顕著だった。以前は一通り回れば、売れている技術や求められている技術について、おおよその傾向を把握できた。各ブースには目玉があり、それらを見ていけばよかったからだ。一方、いまは複数の製品・技術を網羅的に見せる展示が目立ち、見る側としてはいささか焦点を絞りづらいところがある。そうした背景には、下水道技術が高水準に達したため企業間での差別化が難しくなり、手数の多さで勝負しているということがあるだろうし、企業の体力低下に伴い目玉となりうる新技術の開発に手が回らないという事情もありそうだ。しかし何より大きいのは、企業はもはや単体の技術開発ではなく、「ソリューション」の提供に力を入れているからだろう。ソリューションとは「課題の解決方法」だが、解決のためには複数の技術を組み合わせたり、EPCとO&Mを一体的に実施したりする必要が出てくる。下水道展では、自治体での技術の適用事例も多く紹介されていた。多様なメニューとそれらをアレンジする力、あるいは案件を形成する営業・企画力。そうしたものが、これからの下水道企業に求められてくるのではないだろうか。(T)



暑い季節がよく似合う  下水道情報 第1771号(平成26年8月5日発行)
◇サッカーW杯はドイツの優勝で幕を閉じた。大会を通じて緊迫した見応えのあるゲームが多かったように思うが、開催国ブラジルの猛暑に参ってしまい、本来の力が出せなかったチームや選手もいるのではないか。事実、昼間の試合は観ているこちらの喉さえ渇くような厳しい環境下で行われているものもあった。次回のロシア大会はまだ良いものの、その次のカタール開催では今回以上に高温多湿の悪条件が待っていそうだ。エアコン完備のドーム型スタジアムをつくるとの話もあるが、個人的には開催時期を冬にずらすのが最も現実的な気もするのだが。さて、「暑さ」と言えば日本も一年で一番暑い季節がやってきた。毎年この時期に合わせたかのように行われるのが下水道展だ。今年は8年ぶりに大阪が開催地となった。初日のオープニングセレモニー。場所が屋外だったのも手伝い、着ていたシャツが汗でびっしょりになった。あまりの不快さに「なぜ下水道展は冬にやらないのだろう」と的外れな疑問を持った。しかし、それもすぐに吹き飛んだ。出展者や発表者の熱のこもった説明と、それを受け止める来場者の熱心な姿勢。人いきれで蒸し返すような会場にいると、やっぱり下水道展は暑い季節がよく似合う気がした。もしかするとW杯も、冬だとあの熱狂が半減するのかもしれない。(O)



大手プラントメーカーの営業戦略に変化  下水道情報 第1770号(平成26年7月22日発行)
◇下水道整備が一巡した昨今、大手メーカーの営業戦略にも変化が表れている。海外展開の強化や政令市など大都市営業に専念する企業等。それとは別に、メンテやサービスを含めた受注をめざす企業が増えている。代表格は水ingで、建設から管理・運営までのメニューを備える総合水会社として一括で請負える受注を理想とする。下水道もトータルでサポートし、自治体経営の健全化に貢献できる仕事の獲得が狙い。ヴェオリアグループとなった西原環境は、EPCとメンテナンスの割合を将来、50:50にする目標。建設のコンセプトを活かして管理にあたり、メンテを考慮した施設建設を図る。つまり「メーカー機能を備えた管理・運営会社」という将来像。月島機械や三機工業もLCB(ライフ・サイクル・ビジネス)やLCE(E:エンジニアリング)を成長戦略と位置づけ、前者はPPPが広がる中、事業運営のマネッジメント・ノウハウこそ設備メーカーに求められるスキルと主張する。後者もメンテを扱う子会社と一体的に取り組む必要性を説く。メタウォーターや日立製作所も同様、サービスやメンテを切り離した国内営業は得策ではないとの認識。メタは早くからクラウドを手がけ、PFIやPPPに参入し、特に地方都市は管理・運営を含めた受注を念頭に置く。(S)



汚水整備の総合誌として  下水道情報 第1769号(平成26年7月8日発行)
◇お気づきのとおり本誌「下水道情報」は今号、誌面体裁を大胆に見直した。昭和51年の創刊以来、意匠や判型の変更などのマイナーチェンジは重ねてきたが、今回は見た目だけでなく取材・編集方針も刷新、これまで姉妹紙「集落排水情報」で取り扱っていた各種集落排水整備や浄化槽整備なども新たに守備範囲に加えて、初のフルモデルチェンジ断行となった。前号に掲載した社告でも触れたが、下水道事業や集落排水事業の中心はすでに新規建設から維持管理・改築更新へと移り、両者の一体的な運営や施設の統廃合などの動きも活発化している。整備・管理主体である自治体も、それを支える民間企業も、今後の事業の姿を探る上で、もはや両者を切り離しては考えられない時勢となった。むしろ、両者を隔てる壁を積極的に排除して緊密な連携を図ることでこそ、経済性・効率性の最大化が可能となる。これは、小社の報道体制も同様だ。下水道専門紙と集落排水専門紙の埒内で個々の動きを報じていては、遠からず、もっと大切なものを取りこぼすようになるだろう。今回の誌面刷新を「汚水整備全般をカバーする総合情報誌」への第一歩と位置づけ、シナジーを最大限発揮し、より高い視点から新時代の潮流を捉えるよう努めたい。(Y)



「エネルギースマートマネジメント」に注目  下水道情報 第1768号(平成26年6月24日発行)
◇舛添知事のもと、「再生可能エネルギーの拡大」を重点施策として推進する東京都。その一環としてこのほど、下水道局は下水道事業におけるエネルギー基本計画「スマートプラン2014」を策定した。太陽光発電、小水力発電、バイナリー発電、エネルギー自立型の焼却システムの開発・導入等に取り組み、36年度までに総エネルギーのうち再生可能エネルギーと省エネルギーの割合を20%以上にすることを目指す。また、この中で、「エネルギースマートマネジメント」という新施策にもトライする。従来は水処理施設や汚泥処理施設など施設毎の省エネを追求してきたのに対し、水処理と汚泥処理における電力、薬品、燃料使用量の全体バランスを総合的に判断し、水再生センターにおける施設全体でのエネルギーの最適化を目指す。例えば、汚泥中のエネルギーを増加させることで汚泥処理施設での補助燃料を削減させたり、水処理のエネルギー使用量が増えても、汚泥発生量を削減して施設全体でエネルギーが削減できるような運転の工夫や技術開発を推進する。これまでにない新しい発想の取り組みで、どのような成果がでるのか今後の動向を注視していきたい。(M)



アイスピグ工法、普及に向け歩み進める  下水道情報 第1767号(平成26年6月10日発行)
◇下水管路の洗浄工法には、薬品洗浄や高圧洗浄、ポリウレタンを使うピグ洗浄などがある。それぞれに特長があり、現場条件に応じて使い分けられているが、除去した汚れを排出する機能については課題が残されている。東亜グラウト工業が3年ほど前に海外から技術導入した「アイスピグ管内洗浄工法」は、特殊アイスシャーベットを水流と水圧で押し流すことで管内をくまなく洗浄、氷で抱え込んだ汚れを管外に排出し、回収することができる。あらゆる管路の形状に追従するため、伏越管の洗浄にも効果的だ。同工法の施工現場は、氷の品質を維持するため、シャーベットをつくる「製氷機」から150km圏内か4時間以内に到着できる範囲内でなければならない。このため、全国各ブロックに「地域協会」を設立し、それぞれが独自に製氷機を保有することになる。地域協会はこれまでに神奈川、関東、中部の3団体が立ち上がり、先月には大阪の藤野興業が製氷機を導入、近畿協会の発足をめざしている。同工法は圧送管を対象としているが、自然流下の下水管路に適用させる手法も開発中。施工実績は20件ほどまで積み重なり、普及に向けた歩みが着実に進められている。(T)



日本一有名な下水処理場は…  下水道情報 第1766号(平成26年5月27日発行)
◇日本一有名な下水処理場はどこか。様々な意見があるのは承知の上で、個人的には神戸市の東灘処理場を挙げたい。以前から一度は行ってみたいと思っていたが、先日幸運にも訪問する機会を得た。施設に入ってひときわ目を引くのが卵形の巨大な消化タンクだ。このタンク内で生成された消化ガスを有効利用する事業が、東灘の知名度アップに貢献している。ガスの有効利用と言えば下水道では発電が頭に浮かぶ。ただ東灘では近接するごみ焼却場から安価な電力の供給を受けられるため、発電に取り組む必要性は高くなかった。そこで考えられたのが、精製した消化ガスを天然ガス自動車の燃料や都市ガスとして利用する事業だ。この全国で初めての取り組みを見ようと、毎年多くの見学者が国内外から訪れるという。最近では国交省のB-DASHプロジェクトの実施フィールドとしても有名だ。4年目を迎えたB-DASHだが、複数のプロジェクトを展開している処理場は今のところ東灘だけ。実証テーマは「他バイオマスとの混合消化」と「リン回収」。いずれも汚泥の有効活用という理念は同じだ。そう考えると、知名度もさることながら、下水道の資源循環に対する意識の高さも日本トップクラスと言えそうだ。(O)



し尿処理施設・汚泥再生処理センター  下水道情報 第1765号(平成26年5月13日発行)
◇最盛期には全国に約1400のし尿処理施設があったが、下水道の普及とともに年々減少し、平成24年度現在、988施設となっている。今後も減少傾向は続くと思われるが、一方で昭和30年代から建設が始まっていることから、60年もの歳月を経て本格的な更新の時期を迎えようとしている。周知のとおり、平成10年度に従来型のし尿処理施設は補助対象外となり、し尿処理施設と資源化設備を組み合わせる「汚泥再生処理センター」が補助対象となった。し尿や浄化槽汚泥だけでなく、生ごみ等の有機性廃棄物を受入れて、メタン発酵や堆肥化など資源回収する施設に衣替えしたもの。その後、一部軌道修正して、生ごみのほかに下水汚泥や集排汚泥の受入れも可能とし、資源化設備としてリン回収や炭化、助燃剤化なども加えた。新しい技術やアイデアを積極的に取り入れる姿勢を示し、処理方式も基本となる高負荷脱窒素処理方式に精密ろ過膜(MF膜)や限外ろ過膜(UF膜)で固液分離する技術をいち早く導入するなど、時代の要請に柔軟に対応している。斜陽とはいえ1000近くあるし尿処理施設を今後、どのようにリニューアルし、資源循環機能を持たせるのか、廃棄物行政の一つのテーマになる。(S)



特効薬と副作用  下水道情報 第1764号(平成26年4月29日発行)
◇某市の上下水道部局が、従来は直営で行っていたメーター設置、料金徴収、窓口対応など一連の業務について5年間の民間委託契約を結び、4月からサービスを始めた。請け負ったSPCは社員約20名の小所帯だが、市の試算では5年で5.8億円もの経費を削減できるというから、民活導入の効果が存分に発揮されたクリーンヒットと言える。このように、民間のノウハウを活用して施設整備や運営管理の負担軽減を図る動きは下水道分野でも着実に浸透し、実際、随所で大きな成果を得ている。ただ、冒頭の例を引き合いに出して恐縮だが、民間なら年間1億円以上安くできるという、その元々のやり方に果たして改善の余地はなかったのかと、単純な疑問も湧く。手早いコスト改善の特効薬として、短絡的に包括委託に飛び付くのではなく、まずは業務全般を誰より熟知する市職員自らが内情を省みて、是正に向けた取り組みに粉骨砕身しただろうか。こうした事前の内部努力を惜しんではいけない。費やした苦労は、民間の仕事ぶりを厳しく監視・指導する立場に移っても、そこで必要なスキルや資質として活かされる。役所機構・職員の職能の空洞化という、致命的な副作用を回避するために不可欠な通過儀礼のようなものである。(Y)



自治体の技術者確保・育成に期待  下水道情報 第1763号(平成26年4月15日発行)
◇管路更生の品質確保の課題のひとつとして、発注者の技術者不足や知識不足があると言われる。既設管の状態や施工条件等を考慮した工法選定をはじめ、施工管理、竣工検査等が適正でないという指摘だ。本来、発注行為は専門知識を有する自治体が市民に代わって行うもので、技術の採用にあたっては都市、下水道、技術の特性を熟知する者が経済性や維持管理性等様々な要素を踏まえ総合的に判断することが期待される。そして何より合理的な採用理由の説明が求められる。逆に合理的な理由があれば最安値でなくても構わない。むしろ価格にとらわれない最適な調達ができるかどうかで自治体の真価が試されるのではないか。さて、国での議論の通り、自治体の技術者不足対策として今後、関係機関等による支援体制が整備されていく見通しだ。これは技術力格差の是正、均質のサービス提供等の観点から必要だろう。一方、自治体からすると委託は、特性を踏まえた調達や技術の蓄積・継承など、真価の根幹部分を手放すことにもなる。長期的にその損失の大きさはどれくらいか。自治体にはそういうところにも目を向け、安易な委託に走らず、技術者の確保・育成を真剣に考えてほしいと期待する。(M)



企業を追う  下水道情報 第1762号(平成26年4月1日発行)
◇国交省は平成26年度予算の内示を行い、新設した「民間活力イノベーション推進下水道事業」に7億2000円を配分した。静岡市と北九州市の汚泥燃料化事業が対象だ。この制度は、通常の下水道事業と民間事業(資源・エネルギー等を活用)を一体的に行うPPP/PFIやDBO案件を支援するもので、今回は対象にならなかったが民間事業に対する直接補助も可能。国が下水道事業における民間活力の活用を重視する表れとして、創設された制度とも言える。小社はこれまで、主に地方自治体に焦点を絞って取材活動を行ってきた。予算や発注情報、プロジェクト情報の把握に努め、下水処理場などにおける各種動向調査にも合わせて力を入れてきた。しかし近年は自治体の技術力・体力が低下し、ある面では民間企業が事業を主導するようなことが増えており、民の動きに一層注目する必要を感じている。民間企業はいまの下水道事業をどう捉え、今後どういうアクションをとろうとしているのか。今号から「連載・企業を追う」をはじめる。下水道分野におけるリーディングカンパニーの「いま売れているもの」「これから売りたいもの」、問題意識や今後の事業方針などを伝えていきたいと思う。(T)



分かりやすく伝える  下水道情報 第1761号(平成26年3月18日発行)
◇分かりやすく伝える。言葉でも文章でもこれが難しい。永遠の主題とさえ言える。つい専門用語の多用や、それっぽい横文字に頼ってしまう。だからと言って、相手の理解力を低く見積もり、平易な言葉ばかり選んだり、どうせ無駄だと説明を省くのもよくない。あくまで誠実に時間をかけて行うべきだが、言葉でも文章でも長すぎるのは分かりにくい。少し見方を変えてみる。難しければ違う方法をとればどうか。言葉や文章よりも、図表や写真の方が頭にすんなり入ってくる場合がある。いわんや動画においてをや、だ。今後の下水道事業。国も自治体も厳しい財政状況が続く。予算確保のためには、市民への説明が大きな鍵になる。下水道がどれだけ重要なインフラか。これを分かりやすく市民に伝えなければならない。金沢市企業局が製作した下水道PR動画。25年度の循環のみち下水道賞とGKP広報大賞を受賞した。トイレの女神が女子高生に、下水道の有難さや大切さを説くという内容。啓発ビデオにありがちな説教臭さが微塵もない。作り手が楽しんでいるのが伝わってくる。父と娘の微妙な親子関係が良い方向へ向かうラストもよい。分かりやすく伝える工夫が随所に散りばめられている。(O)



知恵とアイデアで難題を解決  下水道情報 第1760号(平成26年3月4日発行)
◇知恵とアイデアで難題は解決できる、と説く方がいた。上下水道運営の民営化が議論されている。運営ノウハウを持つ自治体職員が定年退職したとき、その後に民間で活躍できる仕組みをつくれば、役所は安心して任せられる。民間は低コストでノウハウを吸収できる。官から民への事業継承が上手くいく一つのやり方という。最近は少子高齢化や人口減少の問題など、自治体経営を悩ませる材料に事欠かない。高齢化により医療費負担が増え、人口減少は上下水道収入の減少をもたらす。こんな時こそ、アイデアを出そうと唱える。例えば、インフルエンザが流行し、ノロウイルスの感染者が増加している。水道水は塩素消毒しているため、手をよく洗えば、病原菌の拡散を防げる。子供やお年寄りに手の洗い方を指導し、行政として「よく手を洗おう」と啓蒙・宣伝する。多くの人が丁寧に手を洗うことを習慣化してくれれば、インフルエンザやノロウイルスの感染者を大幅に減らすことができる。それは自治体の医療費負担を軽減させる。また、手を何度も洗うだけで、水道使用量を思いのほか増やすと試算してくれた。当然、水道収入の増加につながり、下水道収入も増やしてくれる。(S)



三省寄れば  下水道情報 第1759号(平成26年2月18日発行)
◇汚水整備関連3省(国交・環境・農水)が昨年2月から共同で作成作業を行ってきた「都道府県構想策定マニュアル」が完成し、1月末に公表された。「三人寄れば文殊の知恵」との諺には「どんな凡人でも、三人が協力すれば良い知恵が出るものだ」と、かなり皮肉めいた含みもあるようで、決して適切な例えではないと承知の上だが、3省が手持ちの情報や知見を存分に持ち寄り、相互理解を深め、譲歩し合った大人の態度に徹したことで、活用に値する指南書として「文殊の知恵」が具現化できたと評価している。政治主導の「汚水処理あり方検討会」の指示のもとで仕上げた成果品に、「今後10年で概成」と数値目標を明記し、それをオーソライズできた意義もきわめて大きい。また、平成10~12年に初めて3省共同で、たった1枚の表(統一的な経済比較の考え方)を作るため、侃々諤々と約2年を費やしたことを思えば、1年でマニュアル完成という今回のスピード感は隔世の感がある。今月初めに催された下水道職員駅伝大会では、3省混成の「都道府県構想マニュアル事務局」チームが初出場、注目を集めた。汚水整備概成までの今後10年と言わず、維持管理段階に移行後も、3省が手を携えての快走を応援したい。(Y)



老朽化問題のPRと予算確保を  下水道情報 第1758号(平成26年2月4日発行)
◇国交省によると、布設後50年以上経過した下水道管路延長は約1万kmで全体の2%に上り、10年後には3万km(同7%)に急増する。一方、主な対策として活用されている管路更生の1年間の施工延長は約500kmと対策の遅れは顕著だ。事業者からすれば、新規建設は使用料収入の増加や新たな行政サービスのPRといった目に見える効果があるが、改築更新にはそういう効果があまりない。そのため、財政が厳しい中で老朽化対策は後回しにされやすい。また、これまではインフラの老朽化問題に対する社会的な理解や注目度が低かったため、対策の遅れが問題視されることもあまりなかった。しかし、東日本大震災や笹子トンネル事故などでそうした風潮は変わり、老朽化の実態やそれに起因する経済的損失の大きさが広く理解されるようになってきている。こうした中、新年度予算では50年以上経過管の点検調査や改築を交付対象に加える「下水道老朽管の緊急改築推進事業」の期間が延伸され、人口要件が廃止される。機動的な支援措置の拡充に対する関係者の評価は高い。大きなチャンスを迎えた今、事業者にはぜひ、積極的な老朽化問題のPRと予算確保、事業執行を期待したい。(M)



緊張感が必要だ  下水道情報 第1757号(平成26年1月21日発行)
◇国交省の資料によると、右肩上がりだった下水道職員数は平成9年度の約4万7000人をピークに下降線をたどり、23年度には約1万1000人にまで減少した。1都市あたりの職員数は政令市(都区部除く)が412.9人、30万人以上の都市が83.8人なのに対し、1万人以上5万人未満は6人、1万人未満は2.6人。財政状況のひっ迫を背景に職員の削減は続き、特に小規模自治体の技術力低下が懸念される。こうしたことから注目されているのが民間活力の活用だ。下水道でもPPP/PFIが推進され、コンセッション方式が検討されるなど、具体的な施策が動き始めている。公の不足は民が補う。一見すると歓迎すべき状況に思えるが、一方で警鐘を鳴らす人もいる。「このままでは自治体と民間の間に緊張感がなくなってしまう」とはある関係者の弁。「技術力がないと自治体は民間に任せておけば良い、となる。対して民間も気持ちが緩んでしまう。それで責任ある事業運営ができるのか」。小紙の新春企画で石川忠男氏も「本当に必要な人材だけは残してほしい」と強調した。下水道事業を継続していくには、今後さらに民間の力が求められる。ただ、その中で自治体がどう技術力を確保していくかについても、議論が必要だ。(T)



オリンピックと未普及解消  下水道情報 第1755号(平成25年12月24日発行)
◇2013年の象徴的な出来事として、2020年の東京オリンピック開催が決定したことを挙げる人は多いだろう。国民の多くは歓喜し、前回の東京開催時に訪れた好景気の再来を期待している。しかし中には少数だが、これを格段喜ばない人もいる。理由は様々あるが、1つは恩恵を受けるのは東京を中心とした都心部だけで、地方には何の益も無いというものだ。この認識の正否はとりあえず置くとして、少なくともその感情は理解できる。閑話休題。視点を下水道界に移す。先ごろ国交、農水、環境の3省は、今後10年で汚水処理施設整備の概成をめざすといった方針を打ち出した。現状88.1%の汚水処理人口普及率を早期に100%まで引き上げるため、国が財政的にも技術的にも支援していくと宣言したのだ。対象となる11.9%の未普及地域はほとんどが地方だ。こうした地域における未普及解消事業のスピードアップは多少なりとも地域経済の活性化に一役買う。五輪と比べると規模が違い過ぎるが、地方にとってはある意味チャンスと言えるかもしれない。こうして考えると、東京五輪が決まった年に、未普及解消に関する大きな方向性が決まったのは、何となく不思議な巡り合わせの気がしなくもない。(O)



下水道オープンコンペ  下水道情報 第1754号(平成25年12月10日発行)
◇下水道人ゴルフ仲間のリーダー的な存在だった松井大悟氏(元国交省下水道部長)が、公職を辞して来春、郷里の福岡県へ帰ると聞き、去る10月17日に「松井さんを囲むゴルフコンペ」が埼玉県・大宮カントリークラブで催された。国交省OBの京才俊則氏や東京都OBの鈴木宏氏が実行委員を務めたことで、国交省や東京都のゴルフ愛好者はもとより、松井氏と親交のある地方自治体や民間企業の方々、そして下水道マスコミの社長らなど、総勢48名が駆けつける大コンペとなった。通常はハンディキャップを付けて順位を競うのだが、当日はハンデなし、ノータッチ、オーケーもなしというプロのトーナメントのような厳しいルールで挙行された。因みに、優勝したのは埼玉県OBの田山和夫氏、77歳。同氏の優勝スコアが77だったことから、エージシュート達成という快挙に、試合後の懇親会は大いに盛り上がった。下水道界のスポーツイベントとしては、毎年2月に行われる「下水道駅伝」が有名だが、今回の「松井コンペ」を衣替えして、関係者なら誰でも参加できる「下水道オープンコンペ」とする構想が持ち上がっている。第二の下水道人親睦イベントが誕生するかもしれない。(S)



減設のススメ  下水道情報 第1753号(平成25年11月26日発行)
◇先ごろ発表された24年度末の下水道処理人口普及率は全国平均76.3%(福島除く)となり、前年度末の75.8%(岩手・福島除く)から0.5ポイント向上。近年の伸び幅の鈍化は否めないが、一見、着実に歩を進めているかのように映る。しかし、市町村単位でデータを検証すると意外な傾向が明らかに。今回の調査結果では、1412の市町村(都区部含む)が下水道処理人口を有しているが、その1/4・369市町村は前年度に比べ処理人口が減少。また、261市町村では普及率が前年度を下回る「退行現象」が生じているのだ。これら261市町村には、過疎化が著しい町村部に限らず、県庁所在地も含め91の市も名を連ねる。ドーナツ化・スプロール化など要因はさまざま考えられるが、自治体の規模を問わずこれだけ多くの市町村で、下水道施設の空洞化がじわり進行している。同じ状況が続けば、過大な能力の処理場が過大な動力を消費し続けることになるだろう。使用料収入も目減りする中、最も有効なコスト縮減策は、いち早く過不足のない処理スペックに最適化すること。設備機器の段階的な小型化など、流入水量の漸減に合わせて既存施設を円滑にスケールダウンしていく術も、今後の事業運営に求められる手腕と言えそうだ。(Y)



下水道技術実習センターに注目  下水道情報 第1752号(平成25年11月12日発行)
◇東京都砂町水再生センター内にオープンした「下水道技術実習センター」を見学。“日本初の下水道技術専門の大型実習施設”という触れ込み通りの施設の充実ぶりに驚かされた。東京ドームのフィールドとほぼ同じ広さの敷地に、屋外12、実習棟内20、計32の実習施設が整備され、土木、機械、電気、水質管理など様々な分野の技術を、実際の施設や再現モデルを使って体感しながら習得できる。例えば、水深や流速を変えて管路内歩行の困難さを体験できる施設や、マンホールから下水道管までを再現し、入坑時の安全な作業方法を習得できる施設などは、規模が大きく構造もユニークで、研修施設としてだけでなく、「地中にあって見えない下水道を見える化した施設」としても一見の価値があると感じた。同局ではこの施設を局の職員をはじめ、他の地方公共団体や民間事業者などへも利用を促し、下水道界全体の人材育成に活用したい、としている。ベテラン職員の大量退職に伴う技術の継承や人材の育成は下水道界全体の課題となっている。そうした中、この実習センターでどのような研修が行なわれ、どういう成果を上げるのか、大いに注目されるところだ。(M)



下水熱利用 魅力的な市場になるか  下水道情報 第1751号(平成25年10月29日発行)
◇平均で5度程度ある外気と下水との温度差を利用して熱を回収する「下水熱利用」。そのポテンシャルは、1500万世帯の年間冷暖房熱源に相当すると言われる。国内の事例は今のところ数件に留まっているが、昨年8月に成立した「都市の低炭素化の促進に関する法律」により民間事業者が下水熱利用を実施できるようになるなど、その機運は高まりを見せている。国交省は昨年度に下水熱利用推進協議会を設立。今年度はプロジェクト構想の構築やポテンシャルマップの策定についてモデル事業・都市の支援を進めており、年度末にはシンポジウムも開催する。下水熱利用に特徴的なのは、多くのステークホルダーがいることだ。協議会のメンバーを見ても自治体や下水道関連団体にエネルギー、不動産、建築、空調などの業界団体も加わる多様な顔ぶれで、それを如実に表している。協議会の最大の目的は、熱利用推進に向けた施策についてコンセンサスを形成すること。そのためには、ポテンシャルを明確に提示し、助成制度なども含めた支援体制を整備する必要があり、国の舵取りに寄せられる期待は大きい。民間事業者は下水熱利用が魅力的な市場になりうるか、シビアな目で見極めようとしている。(T)



ISO55000シリーズ  下水道情報 第1750号(平成25年10月15日発行)
◇インフラ全般のアセットマネジメント(AM)に関する国際規格、ISO55000シリーズが年内にも発行される見通しだ。同規格は2009年の英国からの提案を発端に、日本からも専門家が参加し、新規格の原案作成に取り組んできた。そもそもAMのISO化は、上下水道サービスを対象とする「ISO/TC224」で検討を始めるなど、下水道での議論が先行していた。こうした経緯もあり国交省では他のインフラに先駆け、下水道分野を対象とした国内での「試行認証」と、適用のためのガイドラインづくりに着手。新規格に対する国内の受け入れ体制を整えている。下水道ではAMと聞くと「あくまで主体は自治体」との印象を抱いてしまう。しかし新規格では、適用範囲は自治体だけでなく、民間企業も含むことが想定されている。新規格が世界的なスタンダードとなった場合、国際入札においてISO55000の取得が参加資格の条件ともなりうるわけだ。海外に新しい市場を求める企業とっては、うかうかしていられない状況である。一方、自治体から見ると、新規格ほどAM導入を進める上で効率的なテキストは他にないという。ISO55000の発行が、自治体が自らの事業運営を見つめ直すきっかけや手段になれば面白い。(O)



福島の汚染水処理対応に疑問の声  下水道情報 第1749号(平成25年10月1日発行)
◇著名な水の専門家が、福島第一原発の汚染水処理への対応に疑問の声を投げかけた。1~4号機を取り囲むように凍土遮水壁を造り、周辺の地面を凍結させることによって地下水の浸入を防ぐ計画が進められている。この凍結土工法は大手ゼネコンの提案が基になっている。地下に水脈があるところで、凍土遮水壁を建設すると、堰き止められないところに水みちができて、地下水が暴れ出すのでは、という懸念だ。これにより、汚染がかえって拡散してしまう可能性もある、と警鐘を鳴らす。凍結土工法は長期間連続して使用された経験がなく、1.4kmに及ぶ境界線を長期に亘って地中深くまで凍結し続けることが可能なのかという疑問もある。それに大量の電力を絶えず供給する必要があり、そのコストは莫大なものになる。原発施設は最近では、強固な岩盤の上に設置されるのが一般的になっている。福島第一原発の場合、地下に水脈の走る河岸段丘の上に建設されている。地層はシルト岩(遮水層)と、それを覆う砂礫(含水層)からなる。このため、地下水の浸入や上昇は日常的に起きる。また、汚染水処理対策に水の専門家が加わっていないことも問題だという。汚染水を処理する専用施設を建設し、今の技術では処理できない汚染水や汚染物は、大深度地下に巨大な貯留槽を設けて放射性物質が無害化するまで保存するしかない、と語っていた。(S)



おもてなし  下水道情報 第1748号(平成25年9月17日発行)
◇2020年夏季オリンピック・パラリンピックの東京開催が決定した。未曾有の国難・東日本大震災からの復興も依然ままならない国にお祭り騒ぎに興じる資格などあるのか、という内外からの意見も確かに正論だが、ひとたび決まった以上、ぜひとも国を挙げて成功に導きたい。もちろん、この先7年間の準備段階で生まれる特需も、景気回復の強固な下支えとして存分に活かしたい。取り組むべき施策やその優先順位はきわめて明確だ。原発事故の収束と放射能への対応は何より最重要だが、国や東京都などによるハード事業では、総額4500億円超の競技施設・選手村の整備をはじめ、幹線道路や鉄道路線の充実・新規建設、空港機能の強化、首都高速に代表される既存インフラの大規模更新などが次々リストアップされる。下水道分野に限ると、耐震化・老朽化対策、浸水対策事業などの加速化だけでなく、カヌーやボートなど水上競技の舞台となる東京湾内のさらなる水質改善にも期待したい。世界中が動向を見守る中で、これら多くの課題を着実にクリアし、その過程や出来栄えをアピールしていくこともまた、「世界で最も安心・安全な都市での開催」を公約した我が国が提供してあげられる、とても温かい「おもてなし」である。(Y)



下水道経営と管路更生  下水道情報 第1747号(平成25年9月3日発行)
◇先の下水道展で、下水道管路の更生・修繕技術施工展の併催として「経営の視点から見た都市インフラ老朽化戦略」と題するセミナーが開催され、東京都、名古屋市、大阪市、国交省の幹部によるパネルディスカッションが行われた。全国で最も早く下水道に取り組んだ3都市には老朽管が多く、今後も加速度的に増加していく。財源確保や職員の減少等の課題がある中でこの問題にどう取り組むかがテーマだ。これに対しパネラーが事業運営方針や更生工法への期待を表明。「再構築のスピードを従来の約2倍に」「幹線の再構築を進めるため、下水を流しながら施工できる工法の開発を期待。管路寿命を80年まで延命化させる。そのために部分補修工法も」(東京都)、「改築更新期に合わせ、下水道システムを経済性・効率性等の観点から見直す」「更生工法は施工費が布設替えと同等以下であることが重要。道路陥没は取付管部分が多く対応工法の開発を」(名古屋市)、「民間企業にも参画してもらい維持管理のための新組織をつくる」「どこでも使える更生工法の開発を」(大阪市)など、示唆に富み、大きなビジネスチャンスを予感させる内容だった。(M)



下水道ナショナルデータベース  下水道情報 第1745号(平成25年8月6日発行)
◇国交省下水道部が昨年度に設置した「下水道におけるICT活用に関する検討会」。ICT活用のビジョンを示し、具体的な行動計画をつくることを目的としている。昨年度はニーズ(下水道事業の課題)とシーズ(ICT)を整理し、下水道のどういった局面でどの技術を使えば良いのか、マッチングのイメージを提示。今年度はさらに一歩踏み出そうと、「下水道ナショナルデータベース」(G-NDB)の検討に乗り出した。全国の下水道施設に関する情報を一元的に集約・管理し、自治体におけるアセットマネジメントやベンチマーキング手法の導入促進、災害時の被害状況調査・復旧活動に活用したい考えだ。データベースの構築にあたってカギになるのは自治体の協力だろう。自治体にとってのメリットを明確化し、データ提供の作業を日常業務に落とし込んでもらわなければならない。また、データをオープンにする範囲やセキュリティの問題も重要な検討項目。データベースは絶えず更新していくことで価値が生まれるため、継続できる管理方法や管理主体の体制についても確立していく必要がある。クリアすべき課題は多いが、国の新しい試み。今後も検討の行方を追っていきたい。(T)



技術の水平展開へ、B-DASHの次なる一手  下水道情報 第1744号(平成25年7月23日発行)
◇23年度からスタートしたB-DASHプロジェクト。初年度から約2年かけて実証実験を進めてきた2技術(システム)のガイドラインがこのほど出来上がり、その内容に関する説明会が下水道展・東京に併せて開催される。ところで、そもそも同プロジェクトの狙いは、技術開発というより、その開発した技術の実用化と全国的な水平展開にこそある。さらにその先には海外市場への売り込みも視野に入っている。国土交通省はこれまでの反省も踏まえ、「ガイドラインだけで終わらせない」をスローガンにB-DASHを始めた。ガイドラインが完成した今、同省は水平展開に向けて次なる一手を打とうとしている。今年度、海外を含めた複数の処理場で、実証を終えたB-DASH技術の導入調査に取り組むという。水平展開と言っても全ての処理場に新技術が適しているわけではない。規模や周囲の環境等の条件によって向き不向きがあるだろう。そこで条件の異なる5ヵ所程度の処理場を対象に、新技術と既存技術の比較検討などを行い、B-DASH技術の導入が適した処理場のパターン(型)を洗い出そうというのだ。自治体もこうした資料があった方が導入を検討し易いだろう。調査対象に海外の処理場を想定しているのも、先を見据える気概が感じられて頼もしい。(O)



日本人の知らない中国の現実  下水道情報 第1743号(平成25年7月9日発行)
◇日本レジン製品協会が定時総会時に催す記念講演は、著名な作家などによる興味深いテーマを取り上げるため、毎年多くの聴講者を集める。今年は「日本人の知らない中国の現実」という題で、中国の社会問題に詳しいジャーナリスト、富坂聰氏が招かれた。中国では日本円で1箱5000円のタバコが売られている。1カートン、5万円。誰も吸う人のいないタバコだが、買い手も売り手もいて、街なかで流通している。これは知る人ぞ知る、賄賂タバコ。労働者の平均賃金が3万円くらいなのに、超高級マンションが飛ぶように売れる。完売すると、近隣の店が立ち退きを始める。居住する人がいないため、商売が成り立たないからだ。地方都市の副局長クラスが数十の高級マンションを所有していた。公務員の収入では買えないはずなのに、現実は異なる。年収の何十倍もの副収入(賄賂)が入ってくる。こうした官僚や公務員の腐敗の現実は先々、共産党政権の基盤を危うくすると、中国の最高指導層は本気で摘発に乗り出した。賄賂が発覚すれば、即座に処分する。これまでにない徹底ぶりで、お金を持っている官僚や公務員、国営企業の幹部らを震え上がらせているという。汚職を摘発する陰の力になっているのはインターネットの口コミ情報。告発された被告が嘘をつけば、即座にその反証となる証拠写真などがネット上に公表されるというから驚きだ。(S)



創電型下水処理システム、実現へ一歩  下水道情報 第1742号(平成25年6月25日発行)
◇下水処理場が発電所に。と言っても、汚泥消化によるガス発電や、処理場空間を活用した太陽光・風力発電のことではない。発電菌(電流発生菌)という特殊な微生物の代謝能力を利用し、下水中の汚濁分(有機物)を酸化分解する過程で電気エネルギーを取り出す「微生物燃料電池」の開発が注目を集めている。発電菌の存在は以前から知られ、その特徴を活かした水処理プロセスも模索されてきたが、従来の活性汚泥法に比べ処理性能が極端に劣る点が大きな難点だった。だが、東京薬科大・渡邉一哉教授が率いるNEDOの共同研究チームは今回、燃料電池の構造に改良を施すことにより、ラボスケールの実験装置で従来法と同等の有機物処理速度を達成し、実用レベルの処理能力を実現できたと発表。今後も検証規模の大型化や低コスト化など、システム技術の確立に向けた取り組みを展開するという。多くの生物にとって、有機物はエネルギーの塊であり生命活動の源。それを取り除くために、さらにエネルギーを使い曝気処理するのが現行の水処理法だが、微生物燃料電池法では曝気が不要であるばかりか、発電菌が作ってくれた電気まで利用できる。自然の摂理にも適った創電型システム、全力で応援したい革新的技術だ。(Y)



管更生施工延長が増加  下水道情報 第1741号(平成25年6月11日発行)
◇(一社)日本管路更生工法品質確保協会はこのほど、第5回定時総会を開催し、2012年度の全国の管更生施工延長が456.9kmと対前年度比11%増となったことを明らかにした。単年度施工延長は2008年度に499kmを記録して以来漸減傾向にあったが、久しぶりに増加に転じたことは関係者の間で明るい話題になった。また、25年度下水道事業関係予算でも老朽化対策や防災が重点化され、更なる需要増に対する期待感も高まっている。総会・懇親会で登壇した前田正博会長は、こうした状況を踏まえ、「国民の信頼に応えるため、最重要課題である品質確保に向け、建設業法業種認定や資格制度の創設など、技術力を有する企業が責任を持って施工する体制の確立に注力したい」と述べた。更生工法に対する追い風と言えば、本紙がこのほど全国の自治体に対して実施した調査結果からも読み取ることができる。長寿命化計画の策定箇所が増加し、更生工法が事業計画に位置づけられるといった動きが全国的に広まっているからだ。同調査結果については、本紙や「下水道事業における管きょ更生工法に関する実態調査レポート」(7月に発刊予定)として詳報したい。(M)



新しくなった下水道展のWebサイト  下水道情報 第1740号(平成25年5月28日発行)
◇「下水道展'13東京」が7月30日から8月2日までの4日間、東京ビッグサイトで開催される。パブリックを除いた出展予定者は今のところ313社・団体。景気回復への期待感もあってか、前回の東京開催を上回る勢いだ。近年は出展者、来場者ともに漸減傾向にあったため、主催する下水道協会の担当者の表情は明るい。「申し込みがあった小間数が当初の想定より多く、パブリックゾーンを一部削って対応しています」とも。海外企業3社、非会員企業26社が出展予定というのも特徴的だ。また、今回の下水道展では運営会社が変わった。企画コンペが行われ、当初から担当してきた業者ではなく、㈱日経ピーアールが受託している。エコプロダクツなどを手掛ける同社は、Webを活用した来場プロモーションを得意としており、下水道展のサイトも刷新。出展者との打ち合わせを予約できる「オンラインマッチングシステム」が導入されるほか、「オンラインガイド」では出展者の展示概要が閲覧可能に。当日スムーズに入場できるよう、来場事前登録も受け付ける。いずれも運用されるのは5月27日から。足を運ぶ方にも迷っている方にも、ぜひサイトをチェックすることをお勧めしたい。(T)



FIT1年目  下水道情報 第1739号(平成25年5月14日発行)
◇再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT)がスタートしてから、もうすぐ1年が経とうとしている。数種の再生可能エネルギーの中でも特に関心を集め、実際に設備の導入も盛んに行われているのが、買取価格が高めに設定された太陽光発電。一方で他の再生可能エネルギーは、太陽光に比べると今ひとつといった感が拭えない。下水道事業でもそれは当てはまる。期待された消化ガス発電も、24年度中に経済産業省から設備認定を受けたのは全国で3件に過ぎず、FIT活用の動きは思ったより乏しい印象。消化槽等の付随設備が設備認定の範囲に含まれ、売電量が減少し採算が見込めないなど、FITの制度上の課題によって思うように事業化が進まないケースもあるようだ。しかしながら、FITはまだ始まったばかり、という見方もできる。本紙が行った調査によると、全国約40ヵ所の処理場でFITを活用した消化ガス発電を検討していることが分かった(24年度末時点)。検討と言っても段階は様々で、すぐさま事業に結びつくものばかりではないが、FITに対する潜在的な期待感は高そうだ。実際、既に設備認定を終えた3件以外にも、認定に向けた調整を着々と進めている自治体もあるという。2年目を迎えるFIT。引き続きその動向を注視したい。(O)



海外支援のあり方や戦略  下水道情報 第1738号(平成25年4月30日発行)
◇台湾を訪問する機会があり、高雄市を拠点にしている推進工事会社の某社長にお会いした。驚いたのは彼が乗ってきた車で、BMW7シリーズ(740i)、本体価格は日本円で1000万円を超える超高級車だった。2005年10月に台湾側の要請に応じて「台湾推進工法調査団」を結成し、現地視察を行ったことがある。当時の台湾下水道普及率は10数パーセント、台北市だけが普及していて、その他の都市は途についたばかりだった。第二の都市、高雄市の下水道整備がようやく本格化の兆しを見せていた。台湾の場合、道路事業が悪いことから、開削工法による管布設を認めずに推進工法で施工する方針を決めていた。先の調査団が最後に訪れた高雄市政府の事業計画書を拝見したとき、推進工事量の多さに驚かされたのを覚えている。あれから7年半の歳月が経ち、計画に基づく推進工事が高雄市を中心に実施されてきたものと思われる。短期間に急成長する推進工事会社が誕生しているのも頷ける。調査団が訪れて以降、日本の推進関連企業は台湾の技術支援にあたってきた。しかし、日本の企業で大きな利益を得たという話は聞かれない。海外支援のあり方や戦略を見直す必要がありそうだ。(S)



ネーミングライツ  下水道情報 第1737号(平成25年4月16日発行)
◇広島県福山市が3年前から建設工事を進めてきた汚泥再生処理センター(し尿処理施設)が先ごろ完成し、今月1日に稼動開始した。施設名は「アタカ箕沖Aqua」。実に斬新なこの名称、ご想像のとおり、施工を請け負ったプラントメーカーの社名を冠したものだ。野球場やサッカー場などのスポーツ施設、文化施設を中心に近年定着してきた広告形態「ネーミングライツ」が、し尿処理施設に導入された全国第1号として注目されている。同センターの場合、年額30万円の5年契約。社名の認知度アップ、地域貢献という企業姿勢のアピールといった波及効果を考えれば、十分に元が取れる出費だろう。自治体側としても、運営費の一部を捻出できる上、現場で管理運営にあたる企業関係者のモチベーション向上にも期待できる。100%公費で整備した公共施設を特定企業の宣伝材料として小銭を稼ぐことに批判的見方もあるが、その一方で、最近はハコモノ以外にも、バス停や駅、公衆トイレ、公園、歩道橋、道路、橋梁、トンネル、ダムに至るまで、その導入範囲が急ピッチで拡大中。全国約2200の下水処理場の名称リストに企業名やブランド名が散見されるようになる日も意外と近いのかも。(Y)



管きょ更生の実績と需要を探る  下水道情報 第1736号(平成25年4月2日発行)
◇管きょの老朽化対策、耐震対策を行う上で無くてはならない技術として定着した管路更生技術。長寿命化や地震対策関連の支援制度の充実や、「管きょ更生工法における設計・施工管理ガイドライン(案)」の発刊など、事業を円滑・適正に施行するための環境整備が進められており、今後更なる普及拡大も見込まれる。なお、2月末には日本下水道協会に委員会が設置され、先のガイドライン(案)で‘今後の課題’とされた諸課題の解消に向けた調査・検討もスタートした。ところで、本誌では毎年、全国の自治体を対象に、管きょ更生工法の施工実績や事業見通しを探る「下水道事業における管きょ更生工法に関する実態調査」を行っており、このほど本年の調査を開始した。折りしも、自治体における長寿命化計画の策定作業が進展し、一方で緊急経済対策に伴う補正予算や25年度予算ではインフラの老朽化対策や防災対策が重点化されている。こうした中で自治体がどのようなスタンスで管きょ更生に取り組むのか、また需要はどうなるのかが大いに注目される。実態調査を通じてこうした自治体の考え方や最新動向を具に捉え、報じたいと思う。(M)



地方で進む汚水処理施設の統廃合構想  下水道情報 第1735号(平成25年3月19日発行)
◇弊社では目下、「下水処理場調査」のとりまとめが佳境を迎えている。おおむね3年に1度実施しているこの調査は、計画概要からはじまり長寿命化計画など各種施策の計画・実施状況、設計・施工・運転管理業者、設備の詳細データなどについて、地方自治体の担当者にご回答をお願いするもの。調査結果は、処理場の外観写真や平面図とともに「下水処理場ガイド」に掲載する。時流に沿った調査にするため質問項目は毎回見直し、今回は新たに「下水汚泥のエネルギー利用」「再生可能エネルギー固定価格買取制度の利用」「地震・津波対策の検討・実施状況」を追加した。また、機械設備に関する更新工事の実施履歴についても可能な限りご記入いただいている。さて、集計作業を進める中で目を引いたのが「処理場の統廃合構想」に関する回答だ。今回掲載予定の約1800処理場のうち、1割以上が「あり」と答えており、これは前回調査の倍に迫る数。単独公共を流域に編入、集排施設やし尿処理場との統合など、様々なパターンがある。社会情勢を踏まえた汚水処理施設のあり方に関しては国においても検討が進められているが、すでに地方は思いのほか動き出している、そんな印象を受けた。(T)



老朽管の点検・調査  下水道情報 第1734号(平成25年3月5日発行)
◇先ごろ成立した24年度補正予算と25年度予算を併せた、いわゆる15ヵ月予算では、インフラの老朽化問題に対する施策が目を引く。下水道事業では、人口20万人以上の都市を対象に、布設から50年を経過した管きょが新たに国庫補助の対象に追加された。約44万kmと言われる管きょの整備総延長のうち、現在50年を経過しているものは約1万km。これが10年後には3万km、20年後には10万kmと右肩上がりの急激な増加が見込まれている。先々のことを考えれば楽観視できないし、手を打つなら今のうちに、といった考えには同感だ。今回の措置は、補正と来年度予算のみの時限的なものだが、改築更新に加えて管きょの点検・調査も国庫補助を受けられる点が特徴。陥没事故等を未然に防ぐ第1段階として、老朽管の点検・調査は有効な手段と言えるだろう。管きょの調査と言えば、来年度、B-DASHプロジェクトで「管きょマネジメントシステム」の実証事業が行われる。詳細な調査の前に実施箇所のスクリーニング(絞込み)調査を行い、長大な範囲におよぶ老朽管調査の効率化をめざすといったもの。このほど事業提案の公募も開始した。成果によっては管きょ点検・調査のさらなる拡がりが期待できそうだ。(O)



「グーグル下水道マップ」に期待  下水道情報 第1733号(平成25年2月19日発行)
◇東京大学の佐藤弘泰准教授が作成している「グーグル下水道マップ」を一見させていただいた。日本中に点在する下水処理場をグーグル機能を使って瞬時に閲覧することができる。上空からの映像だけでなく、処理場の名称や規模(処理人口、現有処理能力)も記載されている。防災対策としての活用を第一に考えられているようだが、他にもどのような情報を載せるかによって、多様な使いみちが考えられる。防災面を挙げれば、災害に遭遇した時など、当該処理場だけでなく、周辺処理場の被災状況も合わせて目視でき、復旧のための資機材をどこから調達するか、被災していない近隣処理場からの一時的な物資の融通など、一刻を争うような緊急時の羅針盤の役割を果たしてくれる。グーグルアースの機能をフルに活用すれば、周辺道路網の被災状況も同時に確認できるため、必要物資を搬入するための適切なルート選定なども可能になる。個々の処理場施工業者や維持管理業者の情報を入れておけば、早期復旧を図るための手順が速やかに決められる。災害のない通常時でも、広域的な施設管理方法や効率的な更新計画の立案など、地図上の現有施設を眺めながら、周辺の関連施設配置やその距離なども念頭に置いて、実践的なプランを策定する上で大いに役立つ。知恵を絞れば、これまでにない便利なツールになる可能性を秘めている。(S)



20年でできること  下水道情報 第1732号(平成25年2月5日発行)
◇老朽化が進む首都高速道路の大規模更新・修繕の費用が最大で約9100億円に達するとの試算を、先ごろ有識者委員会がまとめた。新聞やテレビの報道では、この数字の大きさがことさら強調された感もあるが、一部供用から50年、過酷な利用に耐えてきた首都圏の大動脈を再構築する対価としては決して過大な額でもない。バブル景気に沸いた時代、例えば瀬戸大橋に1.13兆円、東京湾横断道路には1.44兆円の建設費が注がれ、10年足らずで完成したことを思えば、費用や工期、技術面でも比較的たやすい要求だろう。まして既存機能の安定維持と安全・安心の確保は最優先。むしろ、本当にその程度の金で可能なら、新規路線の整備や2050年無料化を棚上げし、国が肩代わりしてでも、即刻着手してほしい。道路や橋梁、上下水道、ハコモノ等の社会インフラの「2030年危機説」が囁かれている。バブル崩壊以降の「失われた20年」を経て、公共事業にとってはこれからが「試練の20年」、待ったなしの迅速な事業展開が必須となる。戦後わずか20年で、焦土から復興し、高速道や新幹線を開通させ、五輪開催まで果たしたのも我が国。その経験・底力と機敏な対応力があれば、この先の20年も、越えられないハードルはないはず。(Y)



老朽化対策の着実な実行を  下水道情報 第1731号(平成25年1月22日発行)
◇昨年末の中央自動車道・笹子トンネル天井崩落事故は痛ましい事故ではあったが、社会インフラの老朽化問題の深刻さを世の中に認識させる出来事だった。これをきっかけにテレビなどマスコミは連日のようにインフラの老朽化問題を取り上げ、「大事故が起こる前に対策を急げ」と煽るようになった。公共事業を批判する一方で老朽化対策を急げ、とは支離滅裂な感じがするが、それはともかく、インフラの安全性に国民の注目が集まるというこれまでにない状況が起きている。新政権も国土強靭化、復興・防災などのキーワードで公共事業・老朽化対策に注力する方針を打ち出している。下水道関係者にとっては、安全・安心な下水道インフラの構築をPRする大きなチャンスが到来している。下水道はこの間、地方公共団体において長寿命化計画の策定が進み、施設の劣化状況の把握や長寿命化対策の工程表が全国規模で整いつつある。他のインフラと比べても、効率的な老朽化対策を実行に移す準備が最も整っているのではないだろうか。2013年はこれを着実に実行に移し、軌道に乗せることが期待される1年だ。本誌もそうした動きを迅速、的確に掴み、報じていきたい。(M)



第一歩踏み出したGKPの「連携」  下水道情報 第1729号(平成24年12月25日発行)
◇下水道のPRは難しい。多くが地下に埋設されて見えづらい上に、あって当たり前のものとされているからだ。“標準装備”の良さを訴え、使い方の注意を喚起しても、なかなか利用者には響かない。それでも近年、自治体などは施設を積極的に公開したり、メディアを使ったキャンペーンを行ったりし、随分と下水道のプレゼンスを向上させたように思う。6日、GKP主催のイベント「下水道いりぐちNight」に足を運んだ。下水道の利用者とキッチン・バスのそれは重なる。そこでGKPは、住宅関連設備メーカーらで構成されるキッチン・バス工業会とともに情報発信などを進めていこうと、講演や意見交換の場を設けた。印象的だったのは工業会副会長・星田慎太郎氏の「川下の下水道ではなく、川上のキッチン・バスの側から発信するほうが、利用者に届きやすいPRもある」という言葉。例えば「下水道に油を流さないで」というメッセージはむしろ、入り口であるキッチンの側から伝えたほうが効果的かもしれない。正面切ってのお願いではなく、他の業界からのアプローチを結果的に下水道につなげる。第一歩を踏み出したGKPと工業会の連携に、新しいかたちのPRが生まれる可能性を感じた。(T)



選挙前に思う  下水道情報 第1728号(平成24年12月11日発行)
◇約3年ぶりの衆議院議員総選挙が迫ってきた。若い世代の政治離れが言われて久しいが、これが本当に現在の若者に限った話なのか、それとも昔から若者は政治に関心が薄かったのか、私には知る術がない。ただ、今の若者が政治にさして興味を抱いていないという意見は当たっている気がする。私の狭い交友関係の中では、政治に関心があると思われる同世代の知人はわずかだし、この時期におよんで選挙などどこ吹く風といった友人さえいる。と、偉そうに批評してみたものの、では私自身が選挙や政治に対し果たして真摯に向き合っているのかと自問してみると、全くそうではないことに気付き愕然とする。人前では「何々党は主張が一貫していないから駄目だ」とか「何々党の旧態依然とした考えは受けいれられない」などと一丁前に批評家ぶっても、情けないことに、心の底では、どの党が政権をとっても自分には関係ない、どうせ一緒だという虚無感が横たわっている。こうした若者も最近は多いのではないかと勝手に想像するのだが、この原因を、先行きの見えない時代の閉塞感などという安易な言葉で片付けてよいのだろうか。今回の選挙では、奇しくも原発や増税など日常生活と密接にかかわる問題も争点になっている。私も含め、若い世代が政治について真摯に向き合えるよい機会だと考えたい。(O)



摩訶不思議な国、China  下水道情報 第1727号(平成24年11月27日発行)
◇中国の水ビジネス情報(Intelligence from China)を配信している手前、中国情勢の変化は気になる。11月14日に第18回党大会が閉幕し、新たに習近平体制がスタートした。胡錦濤前総書記は、温家宝前総理とともにリベラル派として知られ、親日的な指導者でもあった。後任の習氏については、いま一つ正確な情報が伝わってこない。周知のように、彼は革命時代の幹部師弟が集まる太子党出身、父親は鄧小平時代のチャイナナインの一人で、正義感が強く、胡燿邦を支持するリベラル派であったと聞く。習総書記がリベラルか否かはともかく、世界最大の市場に育った中国経済の発展に急ブレーキをかけるような施策だけは勘弁願いたい。因みに、最近失脚した重慶市のトップ、薄熙来は鄧小平時代のナンバー2、薄一波の息子。当然ながら太子党の一員だった。紅衛兵あがりの野心家で、“毛沢東になりたがった男”と、揶揄されている。殺人罪で起訴された薄氏の妻、谷開来は中国のジャクリーンとあだ名がつくほどの美人でやり手の弁護士。彼女に殺害された実業家ヘイウッド氏は、英国MI6との関係が取りざたされている。摩訶不思議な国、中国の真相はいつも闇の中。だからこそ、興味は尽きない。(S)



次の道筋を照らすセミナー  下水道情報 第1726号(平成24年11月13日発行)
◇11月初旬、日本下水道協会主催「下水汚泥の有効利用に関するセミナー」の取材で広島市を訪れた。地方自治体の関係者を中心に、全国から参集した100名超の参加者が会場を埋める中、国や関係団体、研究機関等の講師による講演や総合討論などが行われたほか、先駆的な取り組みを展開中の市内施設の視察もあり、実に内容の濃い2日間であった。今年で第25回目となるこの催しだが、今回の中心的な話題はやはり、メタン発酵によるガス発電や炭化燃料化といったエネルギー利用。震災後の省エネ・創エネ意識の高まりやFITの施行などを背景に、バイオマス資源の利活用は太陽光、風力に次ぐ「第3の柱」として注目されている。また、下水汚泥のエネルギー転換は現在進行形で発展めまぐるしい技術分野だけに、最先端の知見を吸収しようと耳をそばだてる参加者の真摯さが印象に残る。「下水汚泥は資源」、かつては空々しくさえ響いたその言葉が近年、急速に現実味を帯びて関係者の意識に根付きつつある。では次に、自分たちの下水道施設でその資源を最大限活用するには…。それぞれが今後歩むべき道筋を懸命に模索し始めた自治体担当者に対し、このセミナーは多くの貴重なヒントを投げかけているように映った。(Y)



浄化センターでのメガソーラー事業計画相次ぐ  下水道情報 第1725号(平成24年10月30日発行)
◇浄化センターにおけるメガソーラー事業の計画立案が相次いでいる。先月の大阪府に続き、今月に入り山形県、島根県が計画を公表した。これらは再生可能エネルギー固定価格買取制度の運用開始に伴う動きで、再生可能エネルギーの導入促進と地域活性化を図る狙いがあるが、下水道事業者にとっても未利用地を活用して収入が得られるのなら大きなメリットになる。山形、島根両県は土地を事業者に有償貸付して賃料収入を得る。一方、大阪府は自ら発電・売電事業者となり、メガソーラーシステムを民間企業にリースする。地価が高い府では、基準に則って土地の賃料を設定すると高くなってしまうため、採算性を考えてこの方式をとったようだが、これによりシステムを災害時のバックアップ電源として利用できるメリットも生まれたという。いずれにせよ、こうした未利用地の利用法は理想的とは言えないかもしれないが、当面利用する見込みのない土地を放置しておくくらいなら、効果的に活用して経費を削減するほうが利用者の理解を得られるのではないだろうか。未利用地を有する浄化センターは多いと聞く。こうした利用法は一考の価値がありそうだ。(M)



国交省の役割  下水道情報 第1724号(平成24年10月16日発行)
◇国交省は近年、下水道に関連する委員会や検討会を数多く設置している。今年度開かれたものだけを取り上げてみても、「地震・津波対策」「地下街ゲリラ豪雨対策」「水環境マネジメント」「下水熱利用」「ベンチマーキング手法」と多岐にわたる。少し毛色の違うところでは「下水道広報プラットホーム(GKP)」や「下水道場」。近く、ICTの活用に関する研究会も設置される予定だ。これらの底に流れる共通のテーマとしては、岡久下水道部長が掲げる「下水道の成熟化」があるだろう。下水道普及率は平成23年度末で75.8%に達した。地域間格差は依然として大きく、未普及解消はもちろん進めていかなければならない。しかし、下水道事業の大きなベクトルが、施設の高度化や適正な維持管理、あるいは広報・広聴活動に向いていることは否めない。そうした中、国交省は地方自治体の下水道事業に対し、どうアプローチしていくのか。補助金から交付金への移行が進み、その役割は以前とは変わりつつある。一括交付金の適用範囲がさらに拡大すればなおのこと。多種多様な検討会を見ていると、国交省が自身のこれからのあり方を模索しているようにも感じられる。(T)



汚泥燃焼発電  下水道情報 第1723号(平成24年10月2日発行)
◇国土交通省は来年度、下水道革新的技術実証事業(B-DASHプロジェクト)で“汚泥燃焼発電”の技術実証を行う。先の25年度概算要求で所要経費を要望した。汚泥燃焼発電は、汚泥を低含水率化し、焼却炉内で自然燃焼させ、その際に生じる蒸気で電力を起こすというもの。ポイントは、下水汚泥の焼却において重油などの補助燃料が不要な点だ。この技術は、かつては汚泥の含水率の高さがネックで処理場への導入は難しいと考えられていたが、近年の脱水機や発電機の高性能化により、可能性が見直され、最近では技術開発の動きも出てきている。同省によると、技術の導入が想定できる全国約90ヵ所の処理場(焼却能力が約20万トン/日以上)が全て汚泥燃焼発電を採用した場合、エネルギーの削減効果は約19億kWhで、これは60万世帯の電力消費量に相当するという。汚泥由来のメタンガスを利用する“消化ガス発電”については、既にB-DASHで高効率化に向けた実証が進められているところだが、当然、処理場内に消化槽がなければならない。汚泥燃焼発電は焼却炉さえあれば採用できる技術なので、オプションが増えるという意味で、自治体には今回の技術実証は朗報と言えるのでは。電力供給の先行きが不安な中、新技術の登場は大いに歓迎したい。(O)



サイバー攻撃への対応  下水道情報 第1722号(平成24年9月18日発行)
◇オバマ大統領の命令でアメリカがイランのウラン濃縮施設にサイバー攻撃をしかけていたという報道には衝撃を受けた。また、東日本大震災復興予算の中で、サイバー攻撃に対応する防御事業が一般公募され、選ばれた事業者に約20億円もの予算が充てられている。下水道は保護の対象になっていないらしいが、国の安全を揺るがす11事業が選ばれ、その防御システムを検討していくという。確かに、金融システムや電力施設などがサイバー攻撃に晒されて機能不全になってしまうと、東日本大震災と同レベルの国難を引き起こすことは容易に想像できる。以前からアメリカなどに設けられている「セキュリティテストベッド」の日本版を被災地(多賀城拠点)につくり、シミュレーション実験を繰り返す計画が始まっている。米では赤、青、白の3グループに分かれ、赤がサイバー攻撃をしかけ、青が防御する。防御には仕掛ける側の2倍の人数が必要という。白は第三者的な立場から、その攻防を評価・検証する役割を担う。スマートグリッドやスマートシティなど、今後広く普及すれば、セキュリティーが担保されていないと、一転して最悪の事態になりかねない。そうした面からも、対応が急がれる。(S)



事業間連携、新たな角度から  下水道情報 第1721号(平成24年9月4日発行)
◇本紙1719号で下水道・集排施設の統廃合事例を紹介したところ、複数の方面から関心を寄せる声が届いた。まだ箇所数は少ないものの、施設の老朽化対策、維持管理の合理化策として、こうした裏技的手法が採られつつある実態は、行政関係者の間でも意外と詳しく知られていないようだ。莫大な数の集排施設が耐用年数に近づきつつあること、地域人口の減少や産業の低迷で施設に余力が生じていること、各事業の進捗拡大により整備済み区域が近接してきたことなども総合的に勘案すれば、事業種別や所管省庁の相違など関係なく、複数の処理区を最適規模に再編整理することは、きわめて現実的・合理的な判断であるし、遠からず多くの自治体が、否応なくこの方策を選ばざるを得ない時代を迎えるだろう。しかし、いざ実行に移すとなると、現時点ではまだ、いわゆる縦割りの壁は大きい。上部機関との協議・調整という根競べ、明快な手引書もない中での煩雑な事務手続き、時には補助金返還の要求…。数々の困難に屈しない、自治体の意欲や根気が計画実現のカギを握っているうちは、飛躍的な普及や定着は期待できない。関係省が連携をさらに強め、自治体側の視点に立った事業環境の整備・改善を急ぐ必要がある。(Y)



情報発信も積極的な北九州市  下水道情報 第1719号(平成24年8月7日発行)
◇先月末、下水道展 神戸が7万7000人超の来場者を集め成功裏に終了した。メインテーマの「水ビジネスの国際展開」にふさわしく、国際会議やイベントが開催されたほか、海外を意識した展示が随所に見られ、外国人の来場者も多かったようだ。会場を歩いて目に留まったのは、海外展開の先進都市で情報発信も積極的な北九州市上下水道局のブース。海外事業の陣頭指揮を執る田中文彦・理事が自らブースに立ち、同局の取り組みを熱心に説明していたのが印象に残った。近況を尋ねると、「海外水ビジネス推進協議会」を通じて友好都市である中国・大連市との間で進めている商談の話や、ベトナム(ハイフォン市)やカンボジアに対する技術者育成支援や水道漏水防止システム構築等の技術支援の話など、色々と教えていただいた。さらに今年度、海外事業部を設置し、総勢20名の専門部隊で水道・下水道連携のもと、海外展開を一層推進することになったという。先端技術の開発や情報発信の拠点となるウォータープラザの開設・運営や、WES Hubの構成都市認定など、体制の整備も着実に進んでいるとのこと。今後も同市の動向から目が離せないと感じた。(M)



管路維持管理の包括的民間委託  下水道情報 第1718号(平成24年7月24日発行)
◇下水管路の延長は平成12~21年度の10年間で約26%増加し、21年度末に43万㎞に達した。老朽化も進行し、管齢30年以上の管路は8万㎞に上る。だが、一方で自治体の管路維持管理費は横ばいが続く。技術職員も減少しており、維持管理の効率化が急務だ。こうした背景をもとに国は今、管路施設の維持管理における包括的民間委託の導入を後押ししている。4月には管路包括委託の考え方などを示した報告書をまとめた。7~8月の約1ヵ月間に全国9ヵ所で報告書の説明会を開催し、神戸市では下水道展に合わせて行うという力の入れようだ。ただ、管路包括委託は事例が少なく、現在導入しているのは東京都青梅市と鳥取市のみ。国は今後、モデル事業の実施を検討しており、随時委託と比較した場合のメリット・デメリットの分析やノウハウの蓄積が待たれる。なお、昨年国が実施したアンケート調査で、管路包括委託の導入を検討中または手引き等があれば検討したいと答えた自治体は約200ヵ所。さらにこれらの自治体に検討の動機を聞くと、「維持管理職員の不足」という回答が8割を占めた。人手不足が深刻化する自治体の実情が透けて見えるとともに、確かなニーズがありそうだ。(T)



「毎年300地区」という第2波  下水道情報 第1717号(平成24年7月10日発行)
◇近年は新規着手地区数もめっきり減少し、本格的な維持管理時代に移った感のある農業集落排水事業。現在、約5200地区が全国で供用しているが、しかし、これらを粛々と管理運営していれば済む状況は、そう長く続きそうもない。平成3~12年度ごろを中心に、総合経済対策やUR対策などの猛烈な追い風を受けて、整備に取りかかった約3000施設が、今後10年の間に、大規模更新の目安「設置後20年」の一線を超えるとの試算がある。つまり、現在動いている施設の機能を適正に維持するために、この先10年間、市町村は厳しい財政事情に喘ぎながら、年平均300地区で更新事業に否応なく取り組むことが求められるのだ。集排事業の第2のピークがすぐそこに押し迫っている。これほど急拡大・急降下の歴史を辿った公共事業は他に例を見ないだけに、目前にそそり立つハードルをどうクリアするか大いに注目したい。ストマネ技法の周知、低コスト技術の開発、複数処理区の統廃合、改築に合わせた施設の高機能化、財政措置の強化…、国は具体的な支援策・解決策を数々取り揃え、万全の備えで臨むことで、この難局を、集排事業の世界に再び活況を呼び戻すチャンスに変えることができるはずである。(Y)



台湾“下水道国際シンポジウム”開催  下水道情報 第1716号(平成24年6月26日発行)
◇本年11月、台湾(台北市)で「汚水下水道建設国際研討会“International Sewerage Construction Conference 2012 ”」が開催される。台湾政府(内政部営建署)が主催し、国内の下水道専門家だけでなく、アメリカ、ドイツ、シンガポール、そして日本の下水道専門家を招く。メインテーマは“resource reuse and maintenance management”で、先進国のこれまでの経験や現在の取り組みについて語っていただき、台湾の担当者と意見交換する。台湾の下水道普及率はまだ30%弱と低いが、将来を見通して処理水の再利用や汚泥の資源化などをテーマに設定し、一方で施設が出来上がった後の管理・運営手法を先進諸国と議論しようとの姿勢には驚かされる。日本の下水道普及率が30%以下だった頃、こうしたテーマで先進国から学ぼうという試みはなかったように思う。それも台湾政府がスポンサーとなって内外の専門家を招聘し、その費用をすべて負担する一大イベントである。国際討論会のため会議で使用する言語は基本的に英語で統一、講演で使うパワーポイント等もすべて英文で作成するよう求めている。日本が下水道分野の国際展開を進めていく上で、参考になる一つの事例と言えよう。(S)



ベトナムの道路事情  下水道情報 第1715号(平成24年6月12日発行)
◇日本推進技術協会のベトナム調査団に同行した。現地でまず驚いたのが、道路を間断なく行き交う無数のオートバイだ。ベトナムでは、地下鉄は未整備、自動車も国民の大半にはまだ高価な製品であるため、オートバイが最もポピュラーな交通手段となっている。このオートバイを中心とした道路交通量の凄まじさは、歩行者、特に不慣れな旅行者からすると厄介で、私も道路を横断する際、幾度もひやりとする場面があった。なんせ人が道を横切っても、オートバイも車もやや速度を緩めるだけで、律儀に停止する事など殆どないからだ。今回、私は身をもって現地の交通ラッシュを体感したが、実は推進工法がベトナムで需要があると言われる最大の理由がこの特殊な道路事情にある。道路下の管きょ布設が開削で行われると、ハノイやホーチミンなどの大都市では、工事に伴う交通規制で渋滞を引き起こし、市民の生活に大きな支障をきたしてしまう。しかし推進工法であれば、規制ポイントは最低で発進および到達立坑の2ヵ所で済み、渋滞リスクは圧倒的に低くなる。今回現地で行った技術セミナーでもこの点は繰り返し強調され、参加者も強く納得している様子だった。ベトナムには推進工法が適している、これが「自明の理」となる日も近そうだ。(O)



更生工法の課題解消を期待  下水道情報 第1714号(平成24年5月29日発行)
◇「地方公共団体の管きょ更生工事実績と事業見通し」を調査し、その結果を連載している。管きょの老朽化対策や耐震化が重要課題になる中、非開削でこれらへの対応ができる更生工法に対する注目は高まっており、長寿命化対策や地震対策など国の支援制度の充実もあって、採用する都市は増加している。一方、自治体の評価を見ると、価格の低廉化、品質の確保・向上、積算基準の充実など課題は多く、その対応が求められていることが伺える。これに関しては昨年末、下水協から「管きょ更生工法における設計・施工管理ガイドライン(案)」が発刊され、特に品質確保の面で大きな一歩を踏み出した。ただ、これまでの検討でもなお十分な知見が得られていないとして、耐薬品性試験方法、出来形や材料の検査方法をはじめ、品質や価格に関わる多くの重要事項が「今後の課題」として残された。また、二層構造管や更生工法の取付管への適用については、今回の検討では当初から対象外だったが、発注者、民間を問わずこれらの検討を求める声は少なくない。将来的な需要増が見込まれる更生工法だけに、今後も残る課題の着実な解消を期待したい。(M)



復旧・復興支援の一方で  下水道情報 第1713号(平成24年5月15日発行)
◇JS の平成23 年度契約実績を本紙独自に集計した。設計と工事を合わせた1230 億円は前年度に比べ1.5%の増額。うち東日本大震災の復旧案件の契約額が314 億円で、全体の1/4 を占める結果となった。所管別の契約額を見ると、東日本本部と西日本本部の比率はおよそ7対3。震災の影響で東に案件が偏ったことも顕著だった。復旧支援は24~25年度がピーク。「東高西低」の傾向はしばらく続くものとみられる。今年3月に公表されたJS の第4次中期経営計画では、計画期間5ヵ年(H24~28)の建設工事費は7370 億円と想定された。24 年度の事業費1630 億円を考慮し、残り4年間を単純に割ると1年あたり1435億円。復旧案件が少なくなる中期計画の後半では、事業費が大きく落ち込む可能性もある。こうした中、JS は受託メニューの拡大に努めており、根幹的な管きょの再構築を支援対象に含めるほか、維持管理業務については今年度新たに泉大津市から受託した。地震・津波対策の設計基準を内部で整備し、公共団体に対策を積極的に提案する考えもある。復旧・復興支援に注力する一方で、新たなニーズを掘り起こす取り組みも進められている.。(T)



管路管理の転換期  下水道情報 第1712号(平成24年5月1日発行)
◇処理場の維持管理においてコスト縮減などの効果が表れている包括的民間委託だが、管路では性能発注が難しいというネックもあり、導入事例が殆どない状況だ。とはいえ需要がないわけではない。国交省が昨年実施したアンケートでは、職員不足などの理由で、全国200以上の自治体から導入を検討してみたいという回答があった。こういった状況を受けて同省は、管路管理に関する報告書を取りまとめ、包括委託の第1段階として、巡視・点検や調査などの業務を一括で発注する「複数業務のパッケージ化」を提唱している。管路管理で想定しづらい「性能発注」がひとまず保留された形となり、しばらくは「複数業務発注」と「複数年度発注」を組み合せた手法が、管路の包括委託として認識されることになる。今後は、既にパッケージ発注を行っている青梅市や鳥取市の導入効果が注目されるとともに、両市に続く自治体の事例も待たれるところだ。また報告書では、今後の検討課題として、通常は別々に発注される改築工事と維持管理業務のパッケージ化を挙げている。国もガイドライン作成に向けて八王子市などでモデル事業を行う方針。どうやら、これから数年は管路管理の転換期になりそうな気配だ。(O)



価値ある情報を、求められる場所に  下水道情報 第1711号(平成24年4月17日発行)
◇農業集落排水関係の技術開発を手がける地域環境資源センター(JARUS)が、全国の土地連などと連携し、新たな連絡組織の設立準備を急いでいる。名称は「(仮称)集排施設に係る新技術普及研究会」。JARUSが近年、特に既設施設の改築更新を重視して開発してきた数々の新技術に関する情報を、市町村担当者レベルにまで広く浸透させる一方で、意見交換を行い現場の課題・要望を汲み上げるなど、双方向の情報伝達・共有の仕組みを構築しようとの狙いだ。これまで集排事業に着手済みの市町村は、大部分が施設建設を終えて維持管理段階に移っているため、国や県、関係機関との関わりはおのずと希薄になっている。従来型補助事業の廃止、地方の自由度の高い交付金制度への移行もその傾向に拍車を掛け、最新の情報を最も必要とする立場の市町村ほど、情報発信源から最も遠い場所で孤立しつつある。今回の研究会設立は、そんな非合理な現状に危機感を抱いたJARUSの率先したアクションである。集落排水に限らず、公共インフラ全般について、効率的な維持更新が求められる時代を迎えた。地方分権・地方移管の推進とともに脆弱化した「有益な情報を的確に送り届ける力」を、国は再び取り戻さなくてはならない。(Y)



1年後の被災地を訪ねて  下水道情報 第1710号(平成24年4月3日発行)
◇悪夢のような3月11日の大震災から1年が経ったが、最大の被災地となった石巻市(死者・行方不明者約3700人)を訪ねる機会があった。旧北上川が石巻湾へと流れ込む沿岸地域一帯が凄まじい津波に襲われた。河口周辺を見渡せる小高い丘の上から見下ろすと、川の右岸側を津波が直撃していることが一目で分かる。人家はほとんど消失していて、すでにガレキも片付けられていることから、そこは広大なさら地になっていた。海岸線から数キロ離れた山の麓に、海に向かって建てられている小学校がある。ここで多くの子供たちの命が失われた。津波が来たとき、運悪く校舎の裏手から火災が発生し、子供らは火と濁流に挟まれる形になったという。また、川の左岸側に眼を向けると、右岸に比べて被害が小さいように見えた。その辺りは津波が川を遡るようにして押し寄せたと聞く。街並みはそのまま残っているが、カメラのレンズを拡大してみると、“恐ろしい光景”が広がっていた。ビルや家屋は外壁だけ残り、窓ガラスはなく、室内は空洞になっている。さながら建物のスケルトンが林立しているような風景だ。近いうちにまた、ここに来ようと決めて、やけに波の静かな海原を眺めていた。(S)



下水道という除染システム  下水道情報 第1709号(平成24年3月20日発行)
◇東日本大震災から1年が経った。が、1年というひとつの区切りを過ぎたことで、逆に人々の意識が加速度的に離れていく懸念もある。放射能汚泥の問題で全国をまわり講演を行っている関係者からは、「関心を持って聞いてくれるのは良くて静岡まで。それより西は反応が薄い」という話も聞いた。行き場を失った数万トンの汚泥が仮置きされたままになっているのに、である。放射能汚泥対策で国は、複数の調査を実施している。本号で報じたように調査受託者のひとつであるJSは、汚泥中の放射性セシウムの濃度を下げる実証実験を福島県の県中浄化センターで実施し、福島市では堀河町終末処理場で放射能汚泥を減容化させるための仮設乾燥施設の設計に着手した。下水汚泥などから放射性物質が検出され始めた頃、下水道はまるで悪者であるかのように報じられてしまった。しかしそれは、下水道が都市の雨水や汚れを排除し集約している証左でもある。言ってみれば、下水道は都市の「除染システム」のひとつ。セシウムの回収や減容化の効果が認められれば、放射能汚泥問題そのものの解決につながるだけでなく、下水道の機能に対する認識を深めてもらうきっかけにもなり得るはずだ。(T)



民間委託と直営  下水道情報 第1708号(平成24年3月6日発行)
◇総務省の調査によると、「今後、社会資本の維持管理・更新需要の増大が懸念される施設」として、道路や公立学校施設とともに下水道を挙げた自治体が多く、その対応方策として民間活力の活用や、特に下水道については包括的民間委託が有効との回答が多かったという。本誌ではこのほど、下水処理場の維持管理委託や包括的民間委託に対する考え方を調査したが、この調査でも多くの自治体がコスト縮減等の観点から包括的民間委託に期待していることがわかった。ただ同時に、下水道の歴史が浅かったり、下水道の組織が小さい自治体ほど民間活力の活用を望む傾向があることも見えてきた。翻って大都市や下水道の歴史が長い中核都市には直営の処理場も多く、今後も直営を続ける方針の自治体も少なくない。それは、雨水排除を行っているため民間委託に適さないというケースもあるが、何より人的資源も技術力も備わっていることが大きな理由だ。そしてこれらの自治体は自前の技術力の維持・向上、その継承こそが今後の事業展開にとって重要との認識が強い。自治体の置かれている状況によってニーズや考え方が全く異なることに改めて気づかされる調査だった。(M)



復旧と復興  下水道情報 第1707号(平成24年2月21日発行)
◇東日本大震災から1年が経とうとしている。被災地では復興事業の本格化が待ち望まれているが、その第一歩となるのが今月10日の復興庁の発足だろう。復興庁が担う重要な役割の一つに、3次補正で1.5兆円を計上した復興交付金の配分が挙げられる。復興交付金は交付対象に下水道も含まれるが、その名称のとおり、復興に関連した事業に限って配分されるのが原則。しばしば「復旧・復興」とひとくくりにされることの多い両事業だが、復旧の方は交付金の対象にならない。公共土木施設でいうと、復旧は地震や津波で損壊した施設を震災前の状態に戻す作業のことをさす。必要な費用として災害復旧事業費が別枠で用意されており、国が実施する災害査定に基づき随時配分が行われる仕組みとなっている。一方の復興は、既存の施設がメインというよりも、今回の震災で必要性を痛感、あるいは再認識した施設・事業に対して行う意味合いが強い。再度災害防止の観点がより濃く反映される事業と言ってもよいかもしれない。と言葉で説明してみても、復旧と復興の線引きは感覚的に難しい部分もある。下水道では、地盤沈下した地域の浸水対策として、ポンプ場や貯留池を新たに整備する事業などが復興交付金を活用した代表的な事例となるようだ。(O)



台湾からベトナムへ 推進の海外展開  下水道情報 第1706号(平成24年2月7日発行)
◇日本の推進技術はレベルの高さから、海外でも注目を集めている。最初の本格的な移転先となったのは台湾で、すでに5つの企業グループが市場に参入している。これを後押しするため、日台双方の官と民が協力して、年に一度、「技術交流会議」を開催することになった。台湾側は国(栄建署)をはじめ地方政府や地元の企業、日本側は非開削技術協会や推進技術協会、推進にかかわる民間企業等が参加する。海外工事では想定外の予期せぬトラブルが発生するケースが多い。そうした時でも、率直に意見交換できる場が設けられたことで、国内企業の進出意欲は高まる。こうした経験を踏まえて、推進技術のベトナムへの移転、海外展開が始まろうとしている。交通事情の極端な悪さから、開削工法を採用できない地域も多く、日本の推進技術導入への期待は大きい。本年3月にベトナムの中核的な都市の下水道実務担当者を招き、日本の現状を視察してもらうプランが進行している。台湾に比べて土質が極めて良く、また政府開発援助や円借款、民間資金の導入等も考えられることから、官側の支援さえあれば、日本企業は積極的に参入すると思われる。台湾での成功事例をベースに、ベトナム国の主要都市で日本の推進技術が十二分に活用される日も近い。(S)



先駆者たちの焦燥  下水道情報 第1705号(平成24年1月24日発行)
◇バイオマスや風力による発電事業に取り組む地方自治体などでつくる「再生可能エネルギー推進団体連絡協議会」が17日、永田町の衆院議員会館で共同声明を発表した。再生可能エネルギー特措法による発電電力の固定価格買取制度の対象に、既存の発電施設も加えるよう求める内容だ。同特措法は新たに稼動する発電施設への適用が前提とされているが、新設施設への厚遇と引き換えに既存施設が蔑ろにされれば、事業継続が難しくなるため供給力は徐々に縮小し、当然、事業拡大のための新規投資も見込めなくなる。制度環境も不十分な時代に、進取の精神で発電事業を立ち上げ、行政・住民の協力と努力に支えられつつ、実績を積み上げてきた先駆者たちの訴えは非常に切実であり、実に的を射た正論である。彼らが辿った試行錯誤の歴史や社会的貢献に敬意を払い、既存事業の安定的な継続のための措置が十分講じられなければ、「再エネの飛躍的拡大」を本旨とする特措法の実効性は損なわれる。声明発表の会場には国政関係者も訪れ、自公の国会議員が賛同のエールを寄せたが、民主党の議員は不在。依然として不明瞭な政府与党の姿勢も、発電事業者の焦りや苛立ちをますます増幅している感がある。(Y)



下水道維持管理を支える企業  下水道情報 第1703号(平成23年12月27日発行)
◇下水道事業の重点が建設から管理運営へ、量の拡大から質の向上へと移行していくなか、維持管理に携わる企業の役割は今後、より大きなものになっていくと考えられる。しかしその一方、維持管理分野に特化した名鑑などの書籍は見当たらず、活躍している企業を幅広く把握するのは難しい状況だった。そのため弊社では現在、国土交通省と維持管理関連3団体(日本下水道管路管理業協会、日本下水道処理施設管理業協会、下水道メンテナンス協同組合)の協力を得ながら、下水道の維持管理を支える企業の基礎情報などを網羅した『下水道維持管理業名鑑』の編集作業を進めている。同書では企業情報に加え、130字程度の会社PR欄も設けた。寄せられたPR文を見ると、豊富な実績や機材、いつでもすぐに現場に駆けつける体制、包括委託を見据えた企画提案力などをアピールするものが多い一方、比較的小規模な会社の中には、「3Kや5Kとも言われる業種だが、社員はものともせずに溌剌と働いている」という率直で力強い声を寄せるところもあった。地場の建設業者が多くを占める、地域密着の傾向が強い維持管理業界。今回の仕事は、その一端に触れられる貴重な機会になった。(H)



下水道の執行体制を考える  下水道情報 第1702号(平成23年12月13日発行)
◇下水道普及率の向上に伴う建設事業の減少や経費削減の要請等を背景に、多くの自治体が下水道に関する組織を縮小している。その結果当然のことながら、執行体制が脆弱化している、という指摘を聞くようになった。これは先の大震災の教訓としても語られている。震災の甚大さから考えれば復旧活動において大都市や民間企業の支援に負うところが大きかったのは止むを得ないとしても、下水道BCPの観点から自治体の執行体制は不十分なのではないかという指摘だ。他方、ある水処理関連会社の営業担当者に聞いた話では、包括的民間委託を導入している自治体では特に、運転管理は民間事業者に任せっぱなしで、職員が施設のことをあまり把握していないことが珍しくないという。これで果たして機器の購入や業者選定に際して最良の選択ができるのかという疑問も起こる。「公が果たすべき役割は何か、そのための必要な執行体制はどうあるべきかという視点での議論がもっと必要」との識者の主張があるが、これに大いに共感を覚える。自治体にとって組織の合理化・効率化、コスト削減は大きい課題だが、まず縮小ありきで本来の役割が果たせなくなってしまっては本末転倒だ。(M)



下水道BCPの重要性  下水道情報 第1701号(平成23年11月29日発行)
◇国交省が設置した下水道地震・津波対策技術検討委では、下水道施設の復旧のあり方が検討され、8月に「第3次提言」が行われた。提言は復旧という建設段階を前提としているためハード対策が中心。他方、10月に開かれた同委の第4回会合では、ソフト対策である「下水道BCP」のあり方が俎上に載せられている。BCP(事業継続計画)は、被災を前提に施設の機能維持を図る対応策を検討しておくもの。今回被災した下水道施設を対象に同委が実施した調査では、BCPを策定していた割合は処理場22%、ポンプ場8%、管きょ9%という結果だった。自治体によっては地域防災計画に下水道施設を適用している場合もあるが、調査では、BCP策定済みの自治体は緊急点検や調査を未策定自治体よりも早く着手できたケースが多いことも明らかとなり、その有効性が示されている。また、国の下水道BCP策定マニュアル(H21公表)では津波による被害や広域的・長期的な被害を考慮していないため、同委ではこれらを踏まえたマニュアル改訂の方向性も提示。ハード面で自然災害を防ぐことには限界があり、それは今回の震災で強く実感されたところ。ソフト面でカバーしていく重要性が増している。(T)



東京の復興計画  下水道情報 第1700号(平成23年11月15日発行)
◇東京は、関東大震災と東京大空襲という2度の大きな被災を経て今日に至っている。終戦から既に65年以上が経過しており、被災後のまちがどう復興していったか、その様子を想像するのは難しい。しかし当然だが、東京にも復興へ向かって新しいまちづくりを模索した歴史がある。東京で立案された復興プランについては、越沢明氏が著した『東京の都市計画』(岩波新書)に詳しい。氏によると、2度の復興事業は予算の圧縮などで計画の変更を余儀なくされた部分もあり、それが現在残る都市問題の背景になっているという。例えば、今も東京には、防災上危険な地域が広範に存在している。これらの地域では、復興の際に思い切った区画整理が実施されなかった。そのため、狭隘な路地と、密集した木造家屋がそのままの姿で残された。氏は、これらの地域が醸す下町らしい風情を評価する向きもあるが、と前置きした上で、そこに住む人々が現状の住環境を本当に望んでいるかどうかは疑問だ、と書いている。東日本大震災の発生により人々の防災意識は高まった。今後は、被災地ではもちろん、全国的にも都市計画が見直されていくだろう。かつて頓挫した東京の復興計画を、再検討するのは今かもしれない。(O)



FITの中のバイオマス発電  下水道情報 第1699号(平成23年11月1日発行)
◇個人や事業者が再生可能エネルギーで発電した電力を、電力会社が一定価格で買い取る「全量固定価格買取制度(FIT)」が来年7月にスタートする。エネルギー源ごとの買取価格など制度の詳細は、これから第三者機関での審議を経て決まるが、FITの成否を握るカギとして注目されるところだ。特に、下水汚泥などバイオマスの発電利用がこの波に乗ってどこまで飛躍できるかは、今後の詳細制度設計に大いに左右される。バイオマスによる発電コストは原料やプロセスごとのバラつきが大きいが、仮に買取価格20円/kWhでは大部分が不採算のため、反応は限定的との見方が強い。また、太陽光や風力などと異なり、原料調達時に他の産業や地域社会と競合が生じたり、既存用途から発電用途に切り換えるとエネルギー収支やGHG収支が逆に悪化する場合もある。その一方、雇用創出や地域産業振興、廃棄物量削減といった、バイオマス事業特有の外部経済効果も見落とせない。再エネの異端・バイオマスをFITの枠組みに正しく根付かせるには、個々の発電事業者や設備ごとに、その取り組みの社会的価値や健全性も総合的に評価した上で買取の適否を見極める、高度できめ細かな認証システムを用意することが最重要だ。(Y)



災害など緊急時に専用回線が必要  下水道情報 第1698号(平成23年10月18日発行)
◇日本下水道光ファイバー技術協会は今夏に事務所を移転し、8月8日から下水道協会と同じ千代田区内神田2-10-2にある“内神田すいすいビル”4階で業務を開始している。新しい事務所のお披露目を兼ねて8月26日、下水道専門誌記者が昼食会に招かれ、同時に昨今の下水道情勢について率直に語り合う意見交換会が催された。同協会の前田正博会長の発案ということだったが、残念ながら当日、前田会長は急な所用のため出席できず、代わりに上ノ土俊専務理事、伊東三夫常務理事、石川洋見事務局長など協会幹部が同席した。時節柄、東日本大震災が話題になり、震災後に現地を訪れた記者の話などに皆が聞き入った。そんな中、協会側からソフトプランを推進している東京都は、3月11日の震災時に下水道光ファイバー回線が有効に機能したことから、下水道分野だけでなく港湾など他分野でもその活用を図るため、今年度より調査を開始するというニュースが提供された。震災当日は携帯電話がまったく使えなくなり、通常の電話回線も大混雑で繋がりにくい状況が続いた。災害時の情報伝達の方法が改めて問い直されるきっかけとなった。NTTなどの民間回線に100%依存するのではなく、大災害など緊急時には専用回線の必要性が叫ばれている。(S)



品質確保のための手間   下水道情報 第1697号(平成23年10月4日発行)
◇地方自治体の入札結果を調べていると、入札の意義を改めて考えさせられる案件を見つける。その一つが、入札に参加した企業すべてが最低制限価格で応札し、くじ引きで落札者を決定するケース。最近もある自治体の公表資料で見つけた。その案件は予定価格が18億円強の雨水幹線工事だった。入札に参加したのは29の3社JV。これらの応札額は事前公表された予定価格のちょうど70%、最低制限価格で揃っていた。予定価格の事前公表については、各方面でデメリットが指摘されており、国も自治体に対して事後公表にするよう求めている。しかし、予定価格の漏洩といった不正行為から職員を守るなどの理由から、事後公表を躊躇する自治体も多い。こうした案件を見ると、予定価格を事後公表にする代わりに、一定の能力のある企業ならどこが積算しても、高い精度で予定価格を弾き出せる設計図書を示すことができないか、とよく考える。そうすれば、腕のある企業なら予定価格を聞き出すという愚かな行為に走ることもないと思うのだが。確かに、事前公表は不正の防止に有効かも知れない。しかし、入札の意味や品質確保を考えた場合、設計図書の明確化にもっと手間をかけるべきではないだろうか。(H)



更生工法のデモ施工  下水道情報 第1696号(平成23年9月20日発行)
◇東京都下水道局と日本管路更生工法品質確保協会(品確協)が共催した更生工法のデモ施工会=「取付管口穿孔研修会」を取材した。更生工法8協会・13チームが現地に更生管と機材を持ち込み、実際に取付管口を穿孔する様子が都職員や報道関係者に公開された。都からは約80名の職員が参加するなど関心の高さが伺われた。取付管口の穿孔は更生工事の品質を左右する重要な要素だが、出来形は作業者の技術熟練度に依存している。その結果、モニタリング調査でも開孔形状や寸法の異常、取付管口の破損といった不良事例が少なからず報告されている。官民ともに危機感を持っていて、こうした研修会等を通じて技術力向上に努めているという。当日は作業者がテレビカメラの映像をモニターで見ながら、穿孔機を巧みに操作する様子等を間近に見ることができた。作業のスピードも仕上がりも申し分ないように見えたが、実際の施工現場は難易度が高いのでその分差し引いてみる必要があるという関係者も。一方で穿孔基準づくりや熟練作業者の確保とともに、安定・高品質な施工ができるような各種機材の開発・改良を官民連携の下で行う必要があると感じた。(M)



新政府に望むこと  下水道情報 第1695号(平成23年9月6日発行)
◇5名の候補者が名乗りをあげた民主党代表選。決選投票までもつれたが、最終的には野田佳彦氏が新代表に選ばれ、そして翌日の国会で第95代内閣総理大臣に指名された。巷間では、野田氏ほど、就任後にやるべき事がはっきりしている首相も珍しいと言われている。やるべき事とは、言うまでもなく、震災復興に充てる3次補正予算の編成や、原発事故の収束を含めた震災対応だ。新政府は、交代したての頃は特に、前政権からの政策転換など「変化」を期待される宿命にある。しかし震災対応が充分だとは言えない今、国民が政府に求めるものは「変化」より着実な「前進」だろう。前政権が積み上げてきたものをひっくり返すような暴挙はないと思うが、新政府に変わった途端、被災地への支援や原発事故対応が滞るなどといった事態は避けなければならない。このほか新政府に期待する点として、来年度予算案を挙げたいが、今年は概算要求の作業が1ヵ月遅れている状況だ。異例の展開に配慮するため、財務省は概算要求基準の前に、各府省の要求枠や作業手順など暫定的な大枠を示した。正式な概算要求基準は9月中旬にも決定されるもよう。新総理が打ち出す来年度予算の方針に注目したい。(O)



JSの真価が問われる時   下水道情報 第1693号(平成23年8月9日発行)
◇日本下水道事業団(JS)では1日付で役員が大幅に代わった。副理事長に前・水管理・国土保全局次長の山本徳治氏が、事業統括担当理事に前・下水道部長の松井正樹氏が、いずれも出向するかたちで就任。また、公募していた役員ポストについては、理事長の選考結果の公表は見送られたものの、経営企画担当理事に民間出身の豊島誠氏を選任したことが明らかにされた。今年度はJSの中期経営計画である「第3次中期計画」の最終年度。次期計画を練る重要な年であり、東日本大震災の復旧・復興に向けた対応も迫られる中、新しい布陣で臨むことになる。震災への対応でJSは、2日までに39ヵ所(施設)で復旧支援を行っており、今月下旬からは脱水汚泥中の放射能を測定する業務も開始する。高濃度の放射性物質が検出され、汚泥や焼却灰が行き場を失っている問題に対しては、その処理・処分方法についての検討も進めているという。今まで経験したことのない大地震と大津波、そして原発事故の特異な影響に自治体や国は苦慮している。今こそ下水道の技術者集団であるJSの力を最大限に発揮する時であり、また、それと同時にJSの真価が問われる時、と言えるのではないだろうか。(T)



日本列島が地震の活動期に  下水道情報 第1692号(平成23年7月26日発行)
◇危機管理教育研究所代表の国崎信江氏は、東北地方太平洋沖地震の1ヵ月前、大船渡市での講演会でスマトラ沖津波の凄まじい映像を見せながら、宮城県沖で巨大地震が発生する確率は99%と訴えていた。女史によると、今回の大震災は予測のM8を上回りM9だったのに加え、津波も想定外の規模だった。また、震源域が広大で、400km離れた千葉・浦安市などで深刻な液状化を発生させている。海溝型・長周期震動というのが特徴だが、地震の規模が大きく、震源域が広かったことによって、日本列島は地盤が緩み、地震の活動期に入った。関東大震災も双子地震(一つの地震が他の地震を誘発する)だったが、懸念されるのは、東海沖、東南海、南海、日向灘など3連動4連動の大地震を誘発する可能性が高まったこと。日本は今後100年くらい、大地震の起きやすい状況になった。仮に平日、東京湾直下型の大地震が発生したら、避難民は最大約700万人、帰宅困難者も約650万人と推定されている。これは東京マラソンの道路状態と同じ。大群衆が無秩序な状態で、一つの目的に向かって動き出す。これまで経験したことのない「人が人の命を脅かす」最悪の事態さえ予測される、と警鐘を鳴らしていた。(S)



調査用紙から窺える気概  下水道情報 第1691号(平成23年7月12日発行)
◇本紙では前号から2回にわたり、焼却・溶融等施設の実態調査を報じた。今回の調査では施設の稼動状況のほか、事業主体の汚泥処理方針や資源化方策なども調査項目に追加。事業主体の多くが、当面は現行の取り組みの継続を基本としているものの、大都市を中心に、多様な最終処分形態の確保に努力していることが窺えた。大都市は処理水量も多く、これに伴い汚泥も大量に発生する。最終処分を、例えばセメント原料化に絞った場合、セメント会社に引き取りを拒否されたら、たちまち事業が滞ってしまう。また、近年は最終処分場の余剰能力が減少してきており、いつまでも埋立処分に頼ることも難しい。このようなリスク回避の面に加え、温暖化対策や資源循環型社会の形成など社会的要請も高まる一方であり、最終処分形態の多様化は、今後も重要な課題になると言える。もちろん、財政状況が厳しい昨今、燃料化など新事業の立ち上げはそう簡単にいかない。しかし、回答の中には、新たな取り組みを断念したものの、過去の試行錯誤を詳しく綴り、困難な中でも何らかの策を見つけ出そうとする気概を感じさせるものもあった。下水道担当者の矜持のようなものが窺えた、心に残る調査だった。(H)



汚染汚泥問題が示唆するもの   下水道情報 第1690号(平成23年6月28日発行)
◇下水汚泥の放射能汚染問題が深刻化の一途を辿っている。循環利用の道も半ば閉ざされる中、現場でぎりぎりの対応に追われる事業主体をはじめ、下水道界全体で知恵を絞り、2次被害の防止に向けた対策に注力するとともに、1日も早い原発事故の収束を願うしかない。ただ、下水道関係者ではなく、一人の国民・生活者として認識しておくべき点は、この汚染汚泥問題は1つの象徴的事象、小さなサインに過ぎないということだ。地表に降り落ちた放射性物質が流入する先は下水管だけではない。雨が降れば同様に、水道水源にも農業用水路にも流れ込み蓄積している。もっとマクロに見れば、水路・中小河川から大河川を経て海へ流れ、多くは河口付近に堆積する。たとえば、広大な集水域の東京湾で今後、どれほど甚大なダメージが表面化するか、素人にも簡単に想像がつく。だが、新聞やテレビは、下水汚泥の汚染ぶりだけを表層的に報じて完結。森の中の1本の木の異変から容易に類推できる他の木の危機、森全体の危機に言及しようとはしない。こんな不可解な報道スタンスから、下水道を汚れ役に仕立てて関心を集めることで、更なる不都合を包み隠そうと目論む「誰か」の意図的操作を勘繰ってしまうのは考え過ぎだろうか。(Y)



南蒲生浄化センターの復旧で   下水道情報 第1688号(平成23年5月31日発行)
◇さきの大地震で壊滅的な被害を受けた南蒲生浄化センター。100万人都市仙台市の7割以上の汚水を処理する根幹的下水道施設だが、従来の処理機能は失われ、沈殿・消毒の簡易処理が行われている。現在の放流水質は水質汚濁防止法の基準であるBOD120mg/l前後。応急復旧が進むにつれ水質は改善される見込みだが、本格的な復旧には3年程度はかかるとみられ、放流先への影響も懸念される。南蒲生では多くの設備が破壊され、特別高圧鉄塔も倒壊、敷地一帯の地盤が約60cm沈下していることも判明している。再度災害を防ぐためには地震と津波に強い処理場にするべきだが、処理能力39万8900m3/dという大規模施設の膨大な復旧費用をどう賄うか。「現状復旧」の縛りがある災害復旧事業の査定でどこまで認められるかは南蒲生再建の方向性を左右する重要な要素となってくるだろう。「地震・津波対策検討委員会」での議論にも注目したい。委員会では復旧・復興の考え方や今後の下水道施設のあり方が打ち出される予定で、災害査定に与える影響も大きい。制度が復旧の妨げにならないよう、的確な提言がなされることが望まれる。(T)



下水汚泥から放射性物質  下水道情報 第1687号(平成23年5月17日発行)
◇福島、茨城、栃木など各県内の下水処理場で、下水汚泥から高濃度の放射性セシウムやヨウ素が検出されたとの報道が連日なされている。地表に落ちた放射性物質は雨水等とともにいずれ下水処理場に流入するので、下水汚泥から高濃度の放射性物質が検出されるだろうということは関係者の間で以前から囁かれていた。ただ自治体においては、放射性物質を含む下水汚泥の取扱いに関する基準がなかったため、その測定をすべきかどうか、あるいは測定してもどう対処すべきか判断できずにいたとも聞く。今後、基準値を上回る放射性物質を含む下水汚泥がどのくらい発生するのか予測できないが、最終的には埋立処分するしかないだろうから、保管場所や処分地の確保、またリサイクルの制限といった問題に直面することになる。こうした中、首相は先日、今後のエネルギー政策について、バイオマスなどの再生可能エネルギーを原子力、化石燃料と並ぶ基幹エネルギーの一つにすると明言した。下水汚泥の利用が一層進むような具体的な政策を期待したいところだが、その前に現下の利用の阻害要因となっている放射性物質の漏洩を早急に無くすよう全力を挙げてもらいたい。(M)



困難待ちうける復興財源の確保  下水道情報 第1686号(平成23年5月3日発行)
◇被災地の復旧事業に充てられる第1次補正予算案の概要が明らかになった。国費の総額は4兆円を超え、これは阪神・淡路大震災時の約4倍になる。主な事業は、がれきの撤去や仮設住宅の建設、下水道を含む公共土木施設の復旧など。今回の補正は被災住民にとって急を要する事業が中心で、本格的な復興へ向けた事業は第2次以降に持ち越されたと言えよう。その復興予算を編成するにあたり、大きなネックとなっているのが財源の確保である。今後はさらなる歳出の見直しに加え、国債発行も視野に入れているが、それだけでは厳しいという見方が強い。そこで検討されているのが、復興税の導入だ。中でも消費税率のアップは、所得税や法人税のそれに比べ、効率的に財源を調達できる方法だという。3年間限定で8%に引き上げるなどの案もあるが、消費税が3%増えるだけでも、普段から消費に控えめな私のような人間からすると、購買意欲の低下がますます昂進する気がしてならない。私に共感を覚える人がなるべく少数であることを望みながらも、増税が引き起こす景気の停滞をつい心配してしまうのである。被災地の早期復興のためにも、財源確保の議論は慎重にしてもらいたい。(O)



広がる非開削技術のアジア交流  下水道情報 第1685号(平成23年4月19日発行)
◇JSTT(日本非開削工法協会)は4月中旬、中国(武漢市)へ技術交流調査団を派遣した。中国にはこれまで国内を統括する非開削工法協会がなく、地域ごとの活動に止まっていた。2010年に中国を代表する同協会が発足したことから、非開削技術に関して日中の技術交流を深めるため、日常的に交流会を催すことを双方が合意し、その第一弾として中国に派遣したもの。本年秋には中国から日本へ調査団を送ることも決まっている。ISTTはグローバルな組織だが、アジア地域ではこれまで、日本とオーストラリア、台湾、香港しか加盟していなかった。昨年、シンガポールと中国、トルコの加入が決まり、ようやくアジア地区のネットワークが構築された。今後は韓国やインド、マレーシアの加盟が予定され、アジアを代表する国々が一同に顔を揃えることになる。アジアの発展途上国では、上下水道をはじめとする地下パイプラインの整備はこれからが本番であり、特に中国やインドの非開削市場は巨大なものになると予測されている。こうした背景から、アジア諸国を支援する優れた非開削技術の提供が求められており、技術的先進国である日本やシンガポールは、積極的に同分野で国際貢献を果たす意向。(S)



再考を迫られる処理場のあり方  下水道情報 第1684号(平成23年4月5日発行)
◇東北地方太平洋沖地震の被災地では現在、全国の地方自治体等から駆けつけた支援隊の助けを借りながら、下水道などインフラ施設の被害状況調査が進められている。全貌はまだ明らかになっていないが、宮城県の被害はとりわけ甚大のようで、県の発表による概算被害総額(仙台市を除く)は3月30日の午前9時半現在で4155億9400万円。うち下水道は、インフラの中で最大の2113億9000万円に達しており、概算被害総額の約半分を占めている。先の地震では激しい揺れに加え、巨大な津波も発生。下水処理場が水没して設備が使い物にならなくなった箇所も少なくない。他のインフラに比べて設備の占める割合が大きいという下水道の特性が、被害額を押し上げる要因の一つになったと言えそうだ。処理場は効率性の観点から、流域や行政域の下流部に整備されるケースがほとんどで、河口付近や海岸近くに立地している処理場も多い。一方、海洋国で地震大国でもある日本は、常に津波のリスクにさらされており、水没の被害に見舞われる可能性がある処理場も決して少なくないはず。今回の地震は、人命の安全策とともに、処理場のあり方そのものの再考を迫るものとなった。(H)



東北関東大震災  下水道情報 第1683号(平成23年3月22日発行)
◇3月11日午後、未曾有の激震が東日本地域を襲った。報道映像が映し出したのは、穏やかな町並みを大津波と大火が容赦なく呑み込む阿鼻叫喚の地獄絵。太平洋沿岸の多くの町が、大都市も小さな漁村も、泥と瓦礫の中に跡形なく消えた。小石を積み上げるように、地道に整備に取り組んできた下水道施設も、関係者の積年の思いや努力も、一瞬にして無に帰してしまった。日ごろ下水道に関わる報道に従事する中で、その意義・重要性を認識してきたつもりの記者も、あまりに呆気ないその結末には、空虚感・無力感とともに「これじゃ下水道どころでは…」と思考停止に陥ってしまう。だが考えてみると、ニュースで専ら伝えられる壊滅地域の背後では、その何倍もの町や集落が、日常生活を辛うじて維持しつつ下水道の早期復旧を待っているはず。また、被災者が身を寄せ合う避難所では、水・食料などとともに、快適なトイレ環境が切望されている。沈んだ気持ちを奮い立たせ、下水道界一丸となって、それぞれが全力を注ごう。瓦礫の山から人を助け出すことはできないが、我々に今できることが確かにある。この場を借りて、被災地域の方々に心よりお見舞い申し上げるとともに、一日も早い復興を切に祈る。(Y)



加速しそうなICTの活用  下水道情報 第1682号(平成23年3月8日発行)
◇ITに代わり、ICT(Information and Communication Technology=情報通信技術)という言葉を良く耳にするようになった。使われ方はほぼ同じものの、「Communication」が加わったことで、情報の「共有」という側面が強調されているようにも思える。 ICTはいまや社会のあらゆる場面で不可欠になっているが、スマートグリッドやITS(高度道路高速システム)に代表されるような、「インフラシステムの効率化」に向けた活用が注目されている。下水道の分野も例外ではない。国交省下水道部は、ICTを活用したゲリラ豪雨対策システムの検討会を立ち上げたほか、日本IBMが設置した勉強会に加わり、ICTを使った効率的な下水道の管理・運営手法を検討している。国内の下水道行政を効率化することにより、財政の悪化や職員の減少という、地方自治体が抱える課題の解決を図ることはもちろん、そのノウハウを海外展開における日本のツールにしたいという考えも同部にはあるようだ。建設から改築更新、維持管理の時代に入ったと言われて久しいが、下水道の「スマート化」とも言えそうな、管理・運営の 高度化が求められている。ICTの活用は今後さらに加速していきそうだ。(T)



いよいよ大詰め  下水道情報 第1681号(平成23年2月22日発行)
◇経過措置の期間を経て、来年度から本格的な運用が始まる社会資本整備総合交付金。その交付を受けるために必要な社会資本総合整備計画の提出の動きが大詰めを迎えている。本号で報じたように、策定方法は都道府県ごとに異なるが、おおよそ以下の三つのパターンに分けることができそうだ。一つ目は都道府県と市町村が共同で策定する場合。二つ目は都道府県・市町村が個別に策定するケース。三つ目は前の2パターンのミックスで、共同計画と単独計画が混在する場合。こうしたパターンを基に、エリア分割や汚水・雨水別など独自の方法によって策定した都道府県も散見された。ある都道府県の関係者によると、最善の策定方法を探るため、事前に管下市町村へアンケートを実施したそうで、新制度への移行に伴う現場の苦心の様子が窺える。今回は各都道府県の計画数も調査した。今のところ8府県の計画数が明らかになっていないが、これらの下水道事業の実施主体がすべて計画を策定すると仮定した場合、全体の計画数は750弱に達すると考えられる。未策定の政令市も今月末にはまとめる考えであり、3月上旬にも大半の計画が出揃うはず。今後ますます目が離せない。(O)



更生工法の採用状況と課題  下水道情報 第1680号(平成23年2月8日発行)
◇管きょ更生工法の施工実績や事業見通し等を把握するため、地方公共団体への調査を行い、本号にその一部を掲載した。各団体からの回答を整理、集計してみると、更生工事延長は年々伸びているが、一部の大都市の実績がその大半を占めていること、関東、近畿、中部・北信越地方の施工延長が伸びていること、大都市以外の都市では、民間開発団地等の老朽管対策を先行しているケースもよくあるなど、特徴や傾向が見えてくる。また、今回の調査に回答を頂いた192団体だけでも、管齢50年を超える管きょは7300km、40年超は約2万kmに上るが、更生工事の実績は310km程度(21年度)に止まる。これから急増する老朽管対策を円滑に進めるには、財源の確保や執行体制の充実など課題は多そうだ。一方、更生工法に対する評価や期待を記していただいたが、開削に比べてコストが安い、車両交通等への影響が少ないなど優位性を評価する意見がある一方、積算体系・歩掛や工法選定基準の整備・充実、施工技術の向上等を求める意見もあった。更生工法は発展途上の技術であり、これらの課題を解消することでさらに普及していくものと思われる。(M)



“水マネジメント”の推進へ、一翼を担う   下水道情報 第1679号(平成23年1月25日発行)
◇23年度予算政府案で国交省が組織要求していた河川局、都市・地域整備局下水道部、土地・水資源局水資源部を統合する「水管理・防災局」(仮称)の設置が認められ、省内の水関連部局の一元化が実現した。これにより災害対応では、河川の治水事業と下水道の内水対策がこれまで以上に連携できるようになり、また水行政という面からも、水量・水質両方を睨んだ流域対応や水資源開発など、同一のテーマとして解決していくことが可能になった。下水道事業はこれまで都市政策のセクションに属し、都市部の環境インフラを構築するという目標に向かって邁進してきた。国レベルからすると、その目標は到達地点に近づいたとも言え、今後は“水マネジメント”という枠組みの中で、新たな役割を担うことが求められている。水環境や公衆衛生をより良く保つという下水道本来の使命に変わりはないものの、水を媒介とする資源・エネルギーの回収や、その循環利用といった最近の政策課題からすると、水マネジメントを推進するうえで下水道の役割が高まり、水行政を総合的に推し進めるための一翼を担う時期にきている。新たに設置される「水管理・防災局」というマンモス組織に属しても、下水道で培った多様な技術やノウハウが遺憾なく発揮されることを期待したい。(S)



下水道の海外展開、さらなる飛躍を   下水道情報 第1678号(平成22年12月28日発行)
◇国土交通省の池口副大臣とベトナム建設省のクアン副大臣との間で、ベトナムの下水道整備に対する日本の協力を約束する覚書が締結された。本号でも報じたように、国交省は今年1月に同国の建設大臣らを招き、日本の優れた下水道技術・ノウハウを紹介するなど、数々の取り組みを進めてきた。今回の覚書の締結は、こうした努力が結実したものと言える。今年は、政府の新成長戦略にパッケージ型インフラ整備の海外展開が柱の1つに据えられたのをはじめ、地方公共団体や下水道関連団体においても、日本企業の海外進出を支援する取り組みが活発化。いくつかの団体は、参入をめざす対象国に派遣団を送り、現地ニーズなどの情報収集、日本の水関連技術の売り込み、協力関係の構築などに努めている。また企業側でも、国内企業同士で、あるいは自治体と手を結ぶもの、アジア諸国などの現地企業と業務提携するもの、円高を背景に海外の水事業会社を買収するものなど、海外展開に向けた動きが目立つ1年だった。下水道分野における国際協力活動推進会議の設置から2年半が経過し、いよいよ本格化しつつある下水道事業の海外展開。来年はさらなる飛躍が期待される。(H)



逆風の中の決断   下水道情報 第1677号(平成22年12月14日発行)
◇農水省所管の農業集落排水事業やバイオマス利活用事業に係る技術的支援を専門的に行っている社団法人地域資源循環技術センターが来年4月、同じ農水省認可の社団法人農村環境整備センターと合併することが決まった。業務内容は異なるものの、ともに農村部を活動のフィールドとしてきた両団体。双方の技術・ノウハウを持ち寄ることで、より視野を拡げて地域振興の総合的戦略を組み立てられる体制が整うだけでなく、地球温暖化対策や農林水産業の6次産業化など、社会的要請が高い新分野の仕事にも前向きに取り組みたいと、その相乗効果や意気込みをアピールする。公益法人制度の完全移行期限も3年後に迫り、合併後は息つく間もなく、積極的な業務展開で運営面の足腰を鍛え、揺るぎない信頼と存在価値を築き上げることが求められるだろう。集落排水事業の大幅減少、バイオマスに対する厳格な「仕分け」ぶりなど、内部努力の範囲を超えた逆風に曝される中で、ドラスティックな打開策を模索してきたであろう同センターにとって、今回の決断は否応無しの選択であったのかもしれない。しかし、のちに振り返り「ベストパートナーとの良縁であった」と周囲から評される再出発となるよう期待したい。(Y)



FLUSH TRACKER   下水道情報 第1676号(平成22年11月30日発行)
◇「排せつ物の行方を見せてくれる」と、ネット上でひそかな話題になっているサイトがある。トイレや公衆衛生の問題を啓発するNPOの世界トイレ機構が洗剤メーカーのドメスト社と開設した「FLUSH TRACKER」がそれだ。郵便番号を入力すると、Googleマップ上で排せつ物の流れを表す青いラインが伸びはじめ、どのような道筋を辿るのかを見ることができる。流れる速度、進んだ距離まで表示される細かさだ。イギリス、アイルランド、南アフリカ、ポーランドの4か国にしか対応していないのが残念だが、日本からも、例えばアメリカのホワイトハウスで用を足した場合はどうなるかといったシミュレーションを見ることができる。もちろんドメスト社のプロモーションも兼ねたこのサイトは、物珍しさもあり一般のウケも良さそうで、世間の話題に上れば、「トイレのタブーをなくしたい」と考える同機構の思惑にも一致する。これを見た時、「地下の地図を描けば、下水道がどれだけ張り巡らされているかがわかるよ」と、以前ある人に言われたことを思い出した。排せつ物が辿る道筋は下水管網そのもの。「見える化」に苦慮している下水道関係者にとっても参考になるサイトだと思った。(T)



汚泥脱水機の動向   下水道情報 第1675号(平成22年11月16日発行)
◇本号に全国下水処理場における汚泥脱水機の設置状況を掲載した。本紙が把握している約2500台の汚泥脱水機の機種別割合や設置年代等を集計したもので、ベルトプレスと遠心の2機種で全体の約70%を占めていることや、近年、ベルトプレスに代わりスクリュープレス、多重円板型スクリュープレスがシェアを伸ばしていることなどを紹介した。本文では触れなかったが、試みに大都市分を集計してみると、設置台数は合計約300台で、ベルトプレスと遠心のシェアが約80%に拡大。最も設置台数が多い東京都区部には110台の汚泥脱水機があり(休止中を含む台数。現在稼働中は55台とのこと)、ベルトプレスと遠心で100%となっている。しかし、都や大都市のベルトプレスは設置年代が古いものも多く、近年はやはり遠心やスクリュープレスその他の機種が多く導入されているようだ。汚泥脱水機の技術も時代とともに進化しており、コスト性や維持管理性の向上、低騒音・低振動化、省エネ・地球温暖化対策に寄与する低動力・低含水率化もさらに進んでいると聞く。今後どのようなトレンドになるのか、引き続き注目していきたい。(M)



新ネーミングへの挑戦   下水道情報 第1674号(平成22年11月2日発行)
◇荏原エンジニアリングサービスが来年度から社名を「水ing」(スイング)へと変更する。新社名には“エバラ”と“ウォーター”の文字は使用しないという不文律があったようで、結果的に漢字の“水”と英語の“ing”を組み合わせた、あまり例を見ない面白いネーミングが採用された。日本国内と海外展開の両方面を視野に入れた同社の意欲的な姿勢が新社名には表れている。いくぶん状況は異なるが、新しいネーミングと言われて思い出すのは、現在建設真っ最中の新東京タワー。新名称の決定には、まず公募から6つの候補に絞ったあと再び一般投票を行い、そこで最も投票を集めたものを新名称に選ぶという流れがあった。個人的には候補の一つ「ゆめみやぐら」を、東京の下町にそびえたつ楼閣にはぴったりだと勝手に絶賛していたのだが、結局のところ「東京スカイツリー」という何とも無難な名称に落ち着くことに。今となってみれば、きっと新タワーも「ゆめみやぐら」では荷が重かっただろうなと次第に思えてきたものの、当時は本家の「東京タワー」からさほど変化がないように思え、少し物足りなさも感じていた。それに比べると、「水ing」への改称は小気味よいほど大胆だ。(O)



“官民連携”唱える、東洋大中北教授   下水道情報 第1673号(平成22年10月19日発行)
◇NHKのラジオ放送「ビジネス展望」で東洋大学大学院教授、中北徹氏が語った「インフラ事業の競争力を高めるために」が話題になっている。外務省や旧通産省に10年近く在籍し、その間ケンブリッジ大学の大学院で経済学を学んだ気鋭の学者。自身の“民営化”と研究者に転出し、“官にあっては民を思い、民にあっては官を思う”を信条にしている。放送では水道事業をテーマに、英仏が20~30年前に臨時立法をつくって実現した中小事業体を統合して広域化する必要性、広域的な水道事業の運営を任せられるチャンピオン企業の育成等を訴えた。また、自治体の財政難からインフラ更新への公的資金投入には限度があるとし、民間にある闊達な余裕資金を公的分野に投資させる方法を提唱する。日本にはインフラファンドといった金融商品が育っていないため、郵貯や年金資金の活用がテーマになる。そうしたダイナミックな発想転換がないと、膨大なインフラ更新ニーズを満たせないと主張する。水道事業の海外展開についても、撤退のリスクや出口政策まで考えて進出するよう求め、海外の水メジャーを例に、現地企業と競争しながら一方では合併等を繰り返し、万が一の時の“事業継承先”を育成している。そうした、したたかさもビジネスには大事と指摘した。(S)



当事者不在   下水道情報 第1672号(平成22年10月5日発行)
◇今年6月に行われた行政事業レビューでの結果を受け、内閣府は来年度予算概算要求で「地域再生基盤強化交付金」の計上を見送った。つまり、地域再生法が施行された平成17年度以来、公共下水道・集落排水・浄化槽の連携的整備を強力に支えてきた汚水処理施設整備交付金の予算制度が、今年度限りで廃止されることが事実上決定したのである。この唐突な幕引きには、各事業を所管する関係省の担当官でさえ「こちらには直前まで何の連絡もなく…」と戸惑い顔。理不尽な公共事業予算の削減、と全国知事会など地方団体も反発を強める。ましてや、来年度以降も同交付金の活用を見込んでいた数多くの市町村にとっては寝耳に水の緊急事態。国のお墨付きを得て屋根に上ったら、いきなり国に梯子を外された格好だ。要求見送りについて内閣府は、「今後の一括交付金化の議論に委ねる」との姿勢を示すが、一括交付金制度の具体像がまるで見えないこの時期に、早計に過ぎる対応ではないか。汚水整備交付金を補填する何らかの代替措置が講じられると信じたいが、汚水整備の当事者である市町村さえ蚊帳の外に置いた今回の勇み足は、中央行政に対する地方自治体の不信・不満を煽ったようで、その代償は小さくない。(Y)



政策コンテスト   下水道情報 第1671号(平成22年9月21日発行)
◇国交省は23年度予算概算要求で、社会資本整備総合交付金に2兆2000億円を要望した。前年度予算と同額の要求だが、うち2374億円は特別枠での要求であり、配分額は今後の政策コンテストの結果次第となる。この政策コンテスト。各省庁が、特別枠での要望施策を公開の場で説明した上で、外部の意見なども踏まえつつ優先順位を設定、総理大臣が配分額を決めるという。特別枠で要求した予算が、政府外の、国民の信任を得ていない者によって左右される可能性もあるのだ。ちなみに22年度の公共事業費は、同省分が4兆8585億円(21年度比15%減)、他省庁分も含めた総額は5兆7731億円(同18%減)で、21年度から1兆2970億円を削減。民主党の政権公約である「公共事業費を4年間で1.3兆円削減」を初年度で達成している。概算要求基準では、こうした努力を十分勘案するとしているが、仮にコンテストで優先順位が低くなった場合、どう判断するのか。「いや。これは必要な予算」とするなら、そもそもコンテストを行う意味がない。逆に、結果に従うのなら、予算編成における政治家の主体性が問われかねない。予算編成の場の公開に異論はないが、政策コンテストの意義には疑問が残る。(H)



“おらが村の構想”集大成  下水道情報 第1670号(平成22年9月7日発行)
◇先月、長野県の新たな都道府県構想「水循環・資源循環のみち2010」が公表された。県内の全市町村と流域の各事業者が独自の構想を策定し、それを県が取りまとめるという手法がとられているが、生活排水対策の中長期ビジョンを県と市町村が一体となって策定したのは全国初だという。同県は北海道に次ぐ77の市町村を有し、村の数35は全国最多。中小規模の処理施設を多数抱える一方、汚水処理人口普及率は94.5%に達し、建設から管理経営に軸足を移している。構想では「施設の統廃合」が大きな柱となり、各市町村の方針がタイムスケジュールとともに示された。策定には20~22年度の3年をかけたが、県はこの間、市町村向けの構想作成相談会などを開催し、農集排施設の統合マニュアルも作成。市町村に“おらが村の構想”をつくってもらうことにより、管理経営の時代への備えを可能な限り具体化することを試みている。都道府県構想は、国が早急な点検・見直しを促進しており、現在も31道府県が見直し中。構想の内容もさることながら、地道な取り組みを重ねた長野県の策定過程には、他県の参考となるところが多いはずだ。(T)



センシング・制御技術の活用   下水道情報 第1668号(平成22年8月10日発行)
◇先日の下水道展では省エネや地球温暖化対策を謳う技術が数多く展示された。汚泥焼却分野で注目したのは「多層燃焼流動炉」(メタウォーター)と「過給式流動炉」(三機工業、月島機械)。多層燃焼流動炉は、空気供給量をコントロールして炉内に、N2O生成抑制ゾーン、N2O分解促進ゾーン、未燃ガス完全燃焼ゾーンの3層を形成。炉内の温度や空気量、燃料使用量を監視・制御することでN2O抑制と低燃費・安定運転を実現する。過給式流動炉は気泡流動炉に過給機を組み合わせた技術。炉内を圧力状態にして高温領域を形成しN2Oを抑制する。その際、燃焼排ガスエネルギーで過給機を駆動させ、圧縮空気を流動空気として利用する。流動ブロワ等が不要になり消費電力を大幅削減できるほか、低負荷運転時でも圧力を調整することで燃費悪化を防ぐ。2つの技術はともに定評ある気泡流動炉の改良技術であるほか、炉内の温度や圧力を制御し最適化することでN2O抑制や省エネ効果を高めているという特徴も。冷蔵庫やエアコンなど家電分野と同様、下水処理分野でもセンシング・制御技術を活用した省エネ製品がトレンドになってきていると感じた。(M)



松山市のマイクロ水力発電   下水道情報 第1667号(平成22年7月27日発行)
◇毎年必ずと言ってよいほど耳にするのが、「異常気象」というフレーズ。今年も梅雨前線の影響だけとは思えぬような大雨が、西日本をはじめとした列島各地に連日襲い掛かっている。近年「異常気象」と地球温暖化の関係性が指摘され、それを防ぐべく我々は努力を開始した。過剰な環境配慮を疑問視する声も少なくないが、現状に手をこまねいているのが最良の策だとも思えない。エコの積み重ねが生む効果はなかなか見えにくいとはいえ、遠からず事態が好転するのを信じたいものである。そうした中、愛媛県松山市は今年度、マイクロ水力発電施設の整備を計画している。浄化センターで生じた下水処理水を用い、放流する際の落差によって発電させるもの。生じた電力は浄化センター内で利用され、維持管理における電力量縮減が見込めるという。発電量が施設全体の0.7%程度といえども、CO2の排出削減には少なからず一役買うことができるはず。そもそも下水道事業は、環境保全事業であるにも関わらず、水・汚泥処理で温暖化を促進させている面もある。高温焼却設備の整備等とともに、今回のマイクロ水力発電のような、新エネルギーへの取り組み拡大にも期待したい。(O)



赤レンガ・チャレンジ事業   下水道情報 第1666号(平成22年7月13日発行)
◇北海道庁はかねてより“赤レンガ・チャレンジ事業”と銘打って、特別な予算措置を伴わずに、道が保有している「資源」や「機能」を有効活用することによって、道内の政策的課題の解決や道民サービスの向上に結びつける施策を推進している。都市環境部下水道グループでは、今年度より新たに“道版の汚水処理共同化普及啓発プロジェクト”を同チャレンジ事業の新規施策として立ち上げた。地方自治体の汚水処理施設の共同化に関する事例等をまとめて、道内市町村向けのセミナーを開催していくという。北海道版MICSとも呼ばれている古くなったし尿処理施設をスクラップして下水処理場で処理する仕組みや、農集排や漁集排と下水道施設との効率的な共同化、くみ取りし尿の扱いなど、全道的な視野に立って、汚水処理の効率的な管理手法を大胆に提案していく考え。「時間の許す限り、何処の市町村にも出かけていき、効率的な汚水処理の共同化について働きかけたい」と意欲的に語る。政権交代の影響なのか、汚水処理行政の統合、一元化が進みそうな気配が窺える。事業主体である県や市町村にとって、維持管理費が安く、しかも管理運営のしやすい方法が求められている。道のチャレンジ事業は、今後の汚水処理行政を展望する上で参考になる。(S)



汚泥燃料化の広がりに期待  下水道情報 第1665号(平成22年6月29日発行)
◇本紙では現在、『下水道プロジェクト要覧 平成22年度版』の発行に向け、都道府県や政令市の下水道担当部局を訪ね、今年度の事業計画などを取材している。この時期の全国取材は本紙の恒例行事と言えるもので、担当者の対応も温かく、感謝の念に堪えない。事業計画の取材を一通り終えると、地域の課題や今後の取り組みなどが話題になるが、とりわけ今後の話になると、次年度以降の事業費をどれだけ確保できるのか不透明なこともあり、トーンダウンする担当者も少なくない。ただそうした状況でも、新たな事業展開に向けた準備は着実に進められているようだ。特に汚泥燃料化は、汚泥の発生量や、処理場と汚泥燃料の引き受け先との距離などが一定の条件の下にある自治体にとって一考に値するテーマ。筆者が取材した中でも、本号巻頭で紹介した静岡市だけでなく、数箇所の自治体が、まだ公表できる段階ではないとしながらも、内部で真剣な議論を進めている。政府が18日に閣議決定した新成長戦略では、再生可能エネルギーの普及拡大などが明記され、これが追い風になることも期待される。本紙では今後も、こうした自治体の取り組みに注目し、動きを報じていく考えだ。(H)



生まれる余力をどう活かすか   下水道情報 第1664号(平成22年6月15日発行)
◇下水道や集落排水、浄化槽などによる「汚水処理人口普及率」は19年度末現在で83.7%だが、ある関係者の試算によると、2035年推計人口を分母とした普及率は96.1%に達し、14道府県では100%を超過、つまり将来人口に対し施設の整備量がすでに過剰な状態にあるという。将来着実に処理人口が増加し続けることを前提に計画・整備されてきた下水道施設。しかし、我が国人口が本格的な減少傾向に転じつつある今、施策のあり方の根本を見直す時に来ている。人口減少という大きな流れは動かせないが、その過程で生じてくる既存の下水道資源の「無駄・過剰」を「余裕・余力」と前向きに捉え、そこにできる限りの付加価値を生み出すことが、新たに行政に求められる手腕だ。例えば数年後、水処理施設4系列のうち3系列で足りるまで流入水量が減った時、余分の1系列をどう活かすのが最も有効か。受入槽に改造してMICSの拠点とする、汚泥の消化によるエネルギー回収を始める、処理区を統合して水量を維持する…。今のうちから技術面・制度面で多くの議論がなされ、取り組みの選択肢を取り揃えておくべきだろう。せっかく生まれてくる余力、みすみす無駄にする手はない。(Y)



下水道協会の改革   下水道情報 第1663号(平成22年6月1日発行)
◇日本下水道協会は今年1月、「協会改革プロジェクトチーム」を内部に設置した。先月に各地で開催された地方支部総会ではチームの活動状況が報告され、公益社団法人に移行する方針が明確化。また、平成22年度の予算に有形資産の取得費を計上し、協会の「事業振興基金」を充て自社ビルを購入する案も提示された。同基金は昭和56年に自前の事務所を所有する目的で設置。利子および剰余金の積み立てなどにより、現在の財産額は32億円に達している。ビルの賃貸収益等を会費軽減につなげる考えで、支部総会では正会員および賛助会員の会費を10%減額する方針も伝えられた。会費値下げはいわば先行還元で、改革で得られる成果を先に形にして示した格好だ。協会が設立されたのは昭和39年。下水道事業の黎明期には予算確保の要望活動で大きな存在感を発揮し、調査研究、検査事業、下水道展の開催と、活動内容は年々多様化しているが、近年は会員であることのメリットを感じにくいという声も出ている。地方分権化の推進、予算制度の見直しなど周辺環境が変化していることに加え、下水道事業が成熟期にある中、組織のあり方をどのように見直していくか。協会改革の動向に注目したい。(T)



東京都の契約適正化に向けた取り組み   下水道情報 第1662号(平成22年5月22日発行)
◇低価格入札による工事品質の低下を防止するため、公共工事契約において総合評価方式や低入札価格調査等の取り組みが進んでいる。一方で、この間に一部で試行された入札予定価格の事前公表は、かえって適正な競争を妨げる原因になるとの弊害が指摘され、国や地方で取りやめる動きが広がっている。こうした中、東京都は特別重点調査等の運用により引き続き低入対策に注力していくものの、事前公表は継続する方針を示している。都は入契制度については都庁全体で足並みを揃えて実施しているが、下水道局は工事特性を踏まえ、昨秋からWTO適用工事を対象に新たな取り扱いを始めた。大型工事は工期が長期に亘るため、財源確保の問題から前工事と後工事に分割し、前工事は入札、後工事は随契となるケースがあるが、この場合、前工事で低入が発生し、後工事で契約率が高止まりしてしまう傾向があった。その対策として低入で落札したケースでは、後工事の積算において前工事の落札率を掛けて算定した価格を用いることにしたのだ。21年度はこの運用対象になったものが3件あったとのこと。後工事の落札率の高止まり対策として効果を発揮しているようだ。(M)



予測しがたい人事異動の幕開け   下水道情報 第1661号(平成22年5月4日発行)
◇下水道事業団の理事(技術開発担当)公募で、最終的に前技術開発部長の村上孝雄氏が選ばれ、新しい理事に就任した。大きな変化を期待した人の中には、拍子抜けの人選だったと陰口をたたく人もいたようだが、中央省庁に占められてきた理事以上のポストを、初めてJSプロパーが獲得したことは、画期的な出来事との見方もできよう。選考過程を聞いてみると、12名が応募し、書類選考で4名に絞られ、面接によって2名が残った。その後、評議員会にかけられ1名に絞り込まれて、国土交通大臣の認可を得たという。事業団理事に限らず、下水道関連団体の役員が、こうした選考方法で選ばれることになると、これまで恒例化していた“人事異動の暗黙のルール”が基本的に見直されることになる。例えば、事業団理事の任期は2年で、2期務めるのが恒例だった。これからは1期が終われば、次は公募で就任しない限り、退任ということになってしまう。天下りや渡りを厳しく制限しようとしている現政権の基本姿勢からすれば、従前の人事慣例は根本から見直される公算が大きい。こうした見方をすると、これまで下水道関連団体の中核的なポストに就いていた国交省下水道部のOBの方々は、今後どこに行くことになるのか。何とも予測しがたい人事異動の幕開けである。(S)



必要な予算の確保に向け、さらなるPRを   下水道情報 第1660号(平成22年4月20日発行)
◇本紙集計によると、国交省の22年度下水道予算の当初配分額は国費5398億2670万円で、前年度当初額に対し14.7%の減少。一方、内閣府の汚水交付金(下水道分)は同193億1750万円が配分され、下水道予算の当初配分総額は同5591億4420万円となった。今年度予算の公共事業費は前年度に対し全体で18.3%、国交省所管分は同15.2%の減少。下げ幅を見る限りでは善戦と言えなくもないが、その印象をかき消すほどの大幅減だ。下水道は、日常生活などへの貢献度、重要度が高い一方で、他のインフラに比べて住民の目に触れにくく、PRには不利と言われる。この住民に意識されづらいという特性は、今後の予算確保の上で大きなハンデになる。「地味な施設よりも、よく目にする施設の整備を優先した方が実績をアピールできる。次期選挙にも有利に働く」と考える首長が現れても不思議はない。新設された社会資本整備総合交付金は、社会資本総合整備計画の構成事業の間で国費を自由に流用できるが、下水道と一緒に水の安全・安心基盤整備分野に入った、治水や海岸整備へ予算が流れる可能性がないとも言い切れない。これが杞憂に終るのを望むが、下水道のPRに今以上の努力が求められるのは確かだ。(H)



命を守る公共事業予算に   下水道情報 第1659号(平成22年4月6日発行)
◇3月上旬、毎日新聞朝刊で『公共事業はどこへ』と題した全7回の連載記事が掲載された。目を通された方も多いだろうから詳しくは触れないが、前政権下で肥大し歪曲された旧来型公共事業の病理、近年の長期に及ぶ予算縮減が招いた歪み、新政権の過激な方針転換の弊害など、今般の公共事業を取り巻く情勢や課題を、6人の記者がさまざまな角度から浮き彫りした、示唆に富む特集だ。この記事の特に良い着眼は、社会インフラの更新・維持修繕がないがしろにされた危機的な現状を、連載の終盤2回を割いて厳しく指摘している点である。平成22年度予算が3月24日に成立した。政権は「コンクリートから人へ」と誇らしげだが、18%削り込んだ公共事業に関しては、単に新設を減らしてパイを圧縮することばかりに腐心し、「人へ」の理念が大きく欠けている感は否めない。「命を守る予算」と謳うならば、インフラのなおざりな維持修繕が国民の生命を脅かしている現実にもっと目を向けるべきだろう。橋も道路も空港も、新しく造らないことで死ぬ人はいないが、下水道でさえ老朽化が進み事故が起きれば容易に人を傷付ける。時代の要請に応じた早急なパラダイム転換が公共事業に求められている。(Y)



消化ガスの有効利用  下水道情報 第1658号(平成22年3月23日発行)
◇大阪ガスは今月、都市ガス用原料としてのバイオガス購入単価を、4月1日から当面5年間は現行の2倍にすると発表した。同社は消化ガスを都市ガス並みの水準に精製し、直接ガス導管に注入する実証事業を神戸市で神鋼環境ソリューションとともに実施。また、大阪市が有効利用方法を検討するにあたり募集した技術提案でも、同社の技術が優秀提案として選定されている。単価引き上げは、エネルギー供給事業者に非化石エネルギー源の利用を促す「エネルギー供給構造高度化法」が昨年8月に施行されたことへの対応でもあるが、消化ガス有効利用の促進に向け、ひとつの弾みとなるか注目される。一方、有効利用方法としてはガス発電に対しても関心が高まっている。一時期はシロキサンの問題などで敬遠されていたが、除去技術の進展、地球温暖化防止の機運の高まりなどにより、再び下水道事業者の目が向けられているようだ。本紙が最近報じたところでも、新潟市が来年度に着工、山形県、千葉市が設備導入に向けて動いている。消化ガスを燃焼処分している処理場は多いが、裏を返せば未利用エネルギーが多く残されているということ。今後の利用拡大に期待したい。(T)



未着手都市の動向   下水道情報 第1657号(平成22年3月9日発行)
◇国交省の公表資料によると、全国の市町村数は21年度当初時点で1778(20年度当初1789)で、下水道事業に着手しているのは1480(20年度1482)に上る。未着手都市は298(20年度307)だが、このうち下水道の整備予定のない市町村が201(20年度206)あり、これを除いた着手率は94%(20年度93%)となる。下水道の整備予定があって未着手の都市数は97(20年度101)で、一般市が20、町村が77となっている。着手率が低い県は高知県57%、千葉県69%、鹿児島県73%、和歌山県76%、沖縄県76%など。九州・沖縄には未着手都市が33あり、他地域に比べ多い。近年、これら未着手都市の早期着手を期待したいところだが、総じて動きは鈍く、今のところ22年度の新規着手都市があるのかも定かではない。さて、こうした中で21年度、30以上の県において都道府県構想の見直しが進められている。少子高齢化といった社会情勢の変化や補助金の見直しの議論等もあり、より経済的で現実的な整備計画への変更志向が強くなると思われるが、未着手都市の動向にどう影響するのか注目したい。(M)



入札結果をインターネットで公表   下水道情報 第1656号(平成22年2月23日発行)
◇本紙は昨年の後半、単独公共下水道を実施している自治体を対象に、下水道工事の入札結果の公表について、全国規模の実態調査を行った。調査表の回収は延べ701に達し、このうち680自治体が丁寧に返答してくれた。それらを集計してみると、下水道関連工事について、入札結果を公表していると答えたのは全体の92%にあたる628、非公表との回答は7%の45であった(不明7)。また、公表形態については、インターネットを通じて行うのと閲覧簿による公表が多く、前者は387(62%)、後者は328(52%)だった。インターネットと閲覧簿の両方で公表している自治体も、全体の23%(142)を占めていた。その他の方法で公表しているというのも74あり、全体の12%に達した。具体的には、市の広報誌に掲載する、庁舎の掲示板に張り出す、というのがほとんどで、中には入札結果の公表を求められれば、情報公開ルールに従って対応するという回答もあった。公表の期間については、期限を設けているところと期限なしが概ね半々で、前者は302、後者は285、その他(不明)が41だった。下水道工事に限らず公共工事の入札結果は、最近では公表するがあたり前になっており、インターネットを通じて行う形態が一般的になりつつある、という調査結果だった。(S)



海外展開のさらなる支援に期待   下水道情報 第1655号(平成22年2月9日発行)
◇国交省の招聘で、ベトナムのグエン・ホン・クアン建設大臣らが訪日した。同国の下水道分野の課題解決のため、日本との協力関係強化を図るのが目的で、滞在中は前原国交相との会談はじめ、東京都と神戸市の下水道施設を視察されるなど精力的に職務をこなされた。クアン大臣に随行した、ベトナム建設省高官、ホーチミン市とハノイ市の下水道担当幹部らは、同省とGCUS共催による下水道セミナーにも出席。日本企業の下水道技術の説明に聞き入り、高い関心を寄せていたという。また、学術面の取り組みで京都大学のベトナムの研究拠点が紹介された際は、ホーチミン市の幹部が下水道技術者の育成目標を伝え、「我々の市に京都大学の研究拠点がない。拠点を置く意向はあるか。あるなら大いに協力したい」と、ラブコールを送る場面も見られた。海外の高官を招き、下水道に絞った技術PRの場を設けたのは今回が初めてだが、GCUS関係者らは十分な手応えを感じていたようだ。前原大臣が建設専門紙の新春インタビューで述べたとおり、年明け以降、下水道関連企業の海外展開に向けた、国挙げての支援が本格化している。国内の下水道事業が縮小傾向にあるだけに、さらなる一手に期待したい。(H)



「レベル2」の先へ導く力   下水道情報 第1654号(平成22年1月26日発行)
◇全国の下水処理場の維持管理体制に関する連載企画を前回発行号より開始した。それによると、包括的民間委託を導入済みの処理場は、現時点で本紙が把握するだけでも約260ヵ所。19年度版・下水道統計では128ヵ所ほどだったが、短期間で2倍以上に増えた計算だ。実際どの程度のコスト縮減効果が得られているのか、残念ながら具体的数値を持ち合わせないが、わずかでも運転管理の合理化に期待を寄せる自治体がいかに多いか、この急増ぶりからも窺い知れる。上記260ヵ所のうち約200ヵ所はまだ「レベル2」の委託だが、今後、条件さえ整えば、合理化の余地がより大きい「レベル3」へと一気にシフトしていくだろう。また、某シンクタンクが先日公表したレポートでは、さらに踏み込んで、下水道事業再生のためには上下水道の枠、市町村の枠を超えた多施設・広域的オペレーションの実現が必須と提言している。ただ、こうしたマクロな方向へと導くには、熟達したノウハウを持つ民間企業の牽引力が不可欠だ。本号で報じた日立プラントのような先駆的メーカー、あるいは既存のメンテ会社などが、新しい下水道施設運営のあり方を自治体に積極的に提唱し、実現してくれる時を待ちたい。(Y)



30年後に咲く花   下水道情報 第1653号(平成22年1月12日発行)
◇書店に行くと、「○○力」「△△の仕事術」といった、いわゆるスキル本が目立つ。先行きが見えない中、少しでも確かなものを掴みたいという世相を反映しているようにも思える。かく言う記者もその類の書籍を購入、内容に膝を打ち、実践を試みたことも一度や二度ではない。結果、役立ったことは少なくないが、方法論や効率化ばかりに目が行っているのではないかと自省の念に駆られることもある。その点、世の技術者・研究者は、遠く先を見ながら日々の職務に当たっている人が多いのではないだろうか。事業仕分けで各種研究予算が「縮減」と判断され、研究者らが猛反発したのは記憶に新しいが、一朝一夕には成就しないのが研究開発だ。例えば長野県・豊田終末処理場での金の回収。同処理場の焼却灰に金が含まれていることは昭和62年に土木研究所が突き止めている。採算が合わず事業化とはならなかったが、それから約20年後、金の回収は脚光を浴びた。土研で調査の中心にいた村上孝雄氏は奇しくも現在、回収事業に関わるJSの技術開発部長である。とかく目先の結果ばかりにとらわれがちだが、一方では20年、30年後に咲く花の種を蒔くことも必要ではないかと思う。(T)



下水道と合併浄化槽   下水道情報 第1652号(平成21年12月15日発行)
◇下水道と合併浄化槽の比較は従来から色々な場面で行われてきたが、相変わらず一般には、下水道は高い=悪、合併浄化槽は安い=善、という極端な考え方が根強い。これは先日の事業仕分けを見ても明らかだ。確かに建設費だけを比べれば、人口密度が低い地域で合併浄化槽が有利なケースはある。しかし、せっかく設置しても適切な管理がなされなければ期待する効果は得られないのであって、基本的に個人財産である合併浄化槽には常にこの問題がつきまとう。近年、市町村設置型という選択肢もできたが、それでも個人の敷地内における公的施設の管理が果たして常にうまくいくものなのか疑問は残る。また、下水道の役割や機能にも着目する必要がある。下水道は各家庭だけでなく事業所や工場等の排水も受け入れる。公的管理のもとで適切な管理が担保される。浸水防除の役割もある。汚泥も処理する。さらに、処理水や汚泥等の資源利用もしやすい。こうした根本的な違いを無視した、単純な経済性比較の偏重が良い結果につながるとは到底思えない。下水道関係者の間にはこれまで、判っている人は判っている、というような安心感があったかも知れないが、そう悠長に構えていられる時代ではなくなった。(M)



上下水道事業の一元管理   下水道情報 第1651号(平成21年12月1日発行)
◇最近、ある全国調査で地方公共団体の下水道関係部局とコンタクトをとる機会があった。意外だったのは、地方の下水道組織が水道部局と一体になっているケースが極めて多いという実態だ。政令市でも名古屋市や京都市のように上下水道局に一元化したケースはあるが、こうした傾向は一般都市でも加速度的に増加している。水道部下水道課、建設部上下水道課、上下水道部下水道課、建設水道課上下水道係、建設課上下水道係、水道課上下水道班といった組織が至るところに見受けられる。都市整備部や環境部の中に下水道課を設置するとか、従来型の土木部下水道課もまだ多くあるが、すでに少数派になっている。水道と下水道を一体的に管理・運営していくのが効率的といった考えが、地方自治体に定着してきているのではなかろうか。先だっての行政刷新会議の「事業仕分け」で、下水道事業の財源委譲や事業そのものを自治体の判断に任せる方向が示された。今後、紆余曲折もあろうが、民主党議員の大半が「地方分権」支持者であることから、地方が中心になる新しい下水道推進体制が構築され、地方自治体の自由な裁量に委ねられる方向に動き出す気配。そうした際、上下水道事業の一元管理が当たり前の時代になってくるようにも思われる。(S)



事業仕分けを傍聴して   下水道情報 第1650号(平成21年11月17日発行)
◇行政刷新会議の事業仕分けが始まった。下水道も対象となり、審議の結果は「財源を地方に移した上で、自治体の判断に任せるべき」というもの。ただ、閣僚の中には事業仕分けに批判的な向きもあり、この結果が次年度予算に反映されるかは不透明と言える。議論を傍聴した際に抱いた疑問を伝えたい。それはある評価者の次の発言。「下水道事業団法を実際に拝見したが、そこには設計から実施まですべて委託しなければならないとなっている」。この発言は後で自ら訂正されたし、評価者の一発言をことさらに取り上げ、あげつらうのはおとな気なくもある。議論の本質ではないとの声も聞こえてきそうだ。だが、耳にした直後は正直暗澹たる気持ちになった。事業の行方が、一部とは言えこうした評価者によるたった1時間の議論で決まるのか、と。事業に国が関与すべきか、自治体に任すべきか。下水道か、浄化槽か。より安いコストで本来の目的が達成されるならどちらでもよい。ただ、どんな結論に至るにしても、評価者は議論の対象を理解し、正確な事実関係に基づいて疑問を投げかけるのが筋ではないか。予算査定が公開されると期待し会場に足を運んだが、後味の悪さが残る取材となった。(H)



選択と集中   下水道情報 第1649号(平成21年11月3日発行)
◇「コンクリートから人へ」との財政方針を唱える新政権が誕生。今後の長期にわたる公共事業のシュリンクが懸念される中、下水道も例に漏れず、来年度予算は現段階で11%の減額要求を余儀なくされている。今回の要求について国交省は、安全・環境対策を優先する一方、未普及解消対策の予算を抑制したというが、この先も続くと見られるマイナス局面で適切に事業を繰り広げるには、さらに徹底した国や地方自治体の「選択と集中」、つまり、効率よく投資効果が得られる領域を見極め、そこへ限られた資源を集中的に投下する強い姿勢が求められるだろう。例えば、人口減少傾向の自治体では、郊外疎住地域の未普及解消は他の汚水処理施設に委ね、下水道では市街化区域ないしDID地区に限定して早期完成をめざすなど、コンパクトな都市づくりとリンクした大胆な転換を図るのもいい。国としても、こうした事業主体の意欲を汲み取るとともに、接続率の向上や適正料金の徴収に努める自治体に最優先で補助金を配分するなど、健全な事業運営を誘導する策も積極的に講じてほしい。公共事業のあり方が広く問われる今を、下水道事業が全方位投下(バラマキ)型事業から真っ先に脱却する好機と捉えたい。(Y)



コンポスト化事業のポテンシャル   下水道情報 第1648号(平成21年10月20日発行)
◇下水汚泥コンポストは、平成12年の肥料取締法の改正により、特殊肥料から普通肥料として分類されることとなった。肥料登録、品質表示が課せられており、含有を許される有害成分の最大量も規定されている。カリの含有量は少ないものの、窒素とリンは豊富。速効性の有機質肥料としてユーザーの評判は高い。下水汚泥の有効利用方法というと、ここ数年は燃料化やリン回収などが注目されるようになった。資源・エネルギー問題が深刻し、こうした取り組みが求められるのは自然な流れではあるが、事業の実施には多額の施設整備費が必要であり、財政事情が逼迫する自治体にとってハードルは高い。これを考えると、コストが抑えられ、なおかつリンの回収・再利用にもつながるコンポスト化は有効利用方法として優れていることに気付く。「下水汚泥」ということで心理的抵抗感を強く持たれたり、重金属の含有を懸念されたりすることが多く、それはコンポスト化事業のネックともなっているが、肥料としての品質は確か。国が食料自給率向上に力を入れ、農業がブームと呼べるほど注目されている今は、下水汚泥コンポストの良さを理解してもらい、利用を促進させる良い時機ではないだろうか。(T)



下水道統計から見えてくるもの   下水道情報 第1647号(平成21年10月6日発行)
◇「下水道統計 平成19年度版」((社)日本下水道協会)がこのほど発行された。それによると、19年度の下水道建設費は2兆492億円で対前年度比8%減となった。建設費の施設別内訳(公共、特環の合計)は、管きょ+ポンプ場が1兆4300億円、処理場が3632億円で、建設費の約80%が管きょ+ポンプ場に投じられた。管きょ総延長は前年度から約9400km増加し41万7200kmとなった。一方、管理費は、維持管理費が8771億円で対前年度比0.3%増。これに起債償還費2兆7530億円を加えた管理費の合計は3兆6302億円であった。財源は使用料収入が1兆4085億円で対前年度比1.9%増。市町村一般会計の繰入金は1兆5825億円で57億円減であった。起債元利償還費を含めた汚水に係る下水道管理費に対する使用料収入の割合は65%であった。過去の統計データを計算するとその割合は徐々に高まってきていることが分かるが、それでもまだ1/3を一般会計繰入金他に依存しているのが現状だ。下水道統計は下水道の姿を知ることができる貴重なデータ。角度を変えて見ることで見えてくることもあって面白い。(M)



太陽熱発電  下水道情報 第1646号(平成21年9月22日発行)
◇民主党は先の衆院選の政権公約で、温室効果ガス排出量を2020年までに1990年比で25%削減する目標を掲げた。目標数値に対しては賛否両論あるものの、排出削減に向けた努力の必要性に異を唱える者は少なく、新エネルギー活用の重要性が今後、さらに増していくのは間違いないと言えそうだ。新エネルギーの中でも、最近海外で脚光を浴びているのが太陽熱。日本では太陽光の影に隠れた存在だが、資源エネルギー庁によると、太陽熱利用機器はエネルギー変換効率が高く、新エネルギーの中でも設備費用が比較的安価で費用対効果の面でも有効だそうだ。世界で導入が進められているのは太陽熱発電施設で、欧米はじめ、アラブ首長国連邦、アフリカのサハラ砂漠などでプロジェクトが動き出している。一方、日本でも、過去に太陽熱発電施設の試験運転を行ったことがあったが、この時は日照量の不足により良い成果が得られなかった。ただ、これは20年以上も昔の話。その後の技術進展も踏まえた形で、世界が注目する太陽熱発電の可能性を改めて検討してみるのも面白い。民主党の削減目標は非常に高いハードル。新エネルギーのあらゆる可能性を引き出す努力が求められている。(H)



光ファイバーセンシングの活用   下水道情報 第1645号(平成21年9月8日発行)
◇東京湾を横断するアクアラインには、光ファイバーセンシングを活用した防災システムが備えられている。温度センサーとして火災等を感知し、瞬時にその場所を特定するとともに、どの方向へ車を誘導したら良いのか分かる仕組みになっている。光ファイバーセンサーは、温度や振動、歪みなどを常時監視できる便利な機能を持つ。従来の電気センシング技術では点測定しか出来ないが、光センサーは点に加えて、線或いは面の監視が可能になり、通信線も兼ねる。こうした機能は、アクアラインのような海底トンネルだけでなく、橋梁等の歪みを監視するシステムとして広く採用されている。日本下水道光ファイバー技術協会は、光ファイバーのこうしたセンシング機能を下水道分野でも活かそうと検討を始めた。幹線道路や鉄道路線の下を通る下水道管の破損対策や管渠内の水位を把握する浸水対策、また、地震対策としての活用も考えられる。下水道管内ではメタンなど可燃性ガスへの対応が不可欠であるが、光ファイバーはそうした配慮を必要としない。海底トンネルや橋梁の防災に限らず、原子力発電所の危機管理などへの応用は、一般の方々の理解が得られやすい。下水道施設で誰もが納得してくれるような光ファイバーセンシングの活用法を見つけ出すことが肝要になる。今後の普及拡大を考えた時、関係者の創意工夫や新たな着想に期待したい。(S)



狙われる水源   下水道情報 第1644号(平成21年8月25日発行)
◇少し前に報じられたニュースだが、国内各所で水源地の森林を大規模に買収しようとする中国資本の動きが活発化しているという。深刻な水不足に悩む中国から見れば、豊かな水を湛えた日本の水源地は実に魅力的な商材、まさに「宝の山」に違いない。これまで水源地を守る役割を担ってきた林業の衰退も響き、現在の林地価格は約30年前の水準まで下落しているが、今後の世界的な水不足の進行や「水ビジネス」の過熱化に伴い、その資産価値は急速に高まるはずである。不穏な動きに危機感を強めた林野庁は実態把握のための調査に動いているが、現行の森林法では、民有林は農地と異なり所有者が自由に売買でき、所有権の移転をすぐに把握する手段さえない。バブル崩壊後、我が国は規制緩和を進めグローバルスタンダードを受け入れることで、危機的状況からの脱出を図ってきた。その結果、多くの外国資本が流れ込み、経済環境は良くも悪くも激しく変化している。次に必要なのは、この変化に追い付けなかった法制度の不備を早急に取り繕う作業だ。特に国土管理、水資源管理は国家安全保障の根幹。外資の触手から水源林を守るためにも、ただちに林地の取引規制、監視体制の強化徹底に取り組むことが求められる。(Y)




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